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「忘れものやうっかりが多すぎます。何度も注意しているのですが。」子どもの発達お悩み相談室 第13回


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

Q13. 忘れものやうっかりが多すぎます。何度も注意しているのですが。

■家族構成
相談者:ジェイ(相談したい子の母、30代後半)、夫(30代後半)、息子(相談したい子、7歳)

■ご相談
 幼稚園の頃から落ち着きがなく、じっと座っていることが苦手だった息子(ADHDグレーゾーン、ASDも入っていると言われました)ですが、小学校に入ると、忘れ物が多くて先生からもしょっちゅう怒られています。足し算なのに引き算をする、といったうっかりミスもよくあります。

 先日は、お風呂の後、パンツをはいているのに気づかず、もう1枚パンツをはいていました。忘れないように、わざわざ前の日に玄関に置いておいた体操着や絵の具セットを持っていかなかったなんてことは日常茶飯事です。

 うちは夫婦共働きで、親が毎朝登校時にゆっくり確認することも難しく、忘れないように!と何度も注意しているのですが。
好きなことにはすごく熱心で、春休みにおばあちゃんと一緒に大相撲中継を見ているうちに、お相撲さんの名前を全部漢字で書けるようになりました。それはいいのですが、もうちょっと学校や日常生活でのうっかりを減らしてくれればと願っています。

A. 専門家の回答

怒っても治りません。むしろ大切な脳を萎縮させてしまうだけ。
見える化の工夫でなるべく減らしましょう。

興味のあることにはすごい集中力を発揮
 落ち着きがなかったり、不注意が多いというのはADHDの特性としてよくあることです。ただ、うっかりが多いからといって、知的能力が低いというわけではありません。「パンツを2枚はく」というのも、頭の中で何か別のことを考えるのに集中していて、注意が「パンツ」に向いていなかったのでしょう。他にも「お風呂に入る」ことに意識を集中しすぎたために靴下を履いたまま入ろうとするとか、「え!?」と思うようなうっかりをするお子さんがいます。いろんなことにバランスよく注意を向けるのが苦手なのです。

 このようなお子さんは、逆に自分が関心のあるもの、好きなことには時間を忘れてのめり込み、ものすごい「集中力」を発揮します。ピアノの練習に没頭したり、将棋の勉強に取り組んだり。そういう「夢中になれるもの」に出会えるといいと思います。息子さんは7歳で力士の名前を漢字で書けるとは素晴らしいですね! 習っていない漢字を自分で学習して覚えるなんて、特別な才能だと思います。

小学生のうちは親のサポートが大事
 さて、そうはいっても、義務教育である小学校生活を忘れ物が多いという理由で怒られ続けて過ごす、というのは、本人の自己肯定感を下げることになるのでなんとしても避けたいです。怒られるとストレスになり、認知や記憶力を司る脳にある「海馬」を萎縮させるので、ますます覚えられなくなってしまいます。ジェイさんも、「なんで玄関に置いてあるのに忘れるの!?」と思われるでしょうが、そこは、「何か他のことを考えていて、目に入らなかったんだなあ」と理解してください。

 そういう特性なのですから、怒って矯正できることではありません。そして、できるだけ忘れ物を少なくするために、前の日の晩に一緒に持っていくものをチェックするとか、玄関にチェックリストを貼るとか、すぐ見えるように視覚化=見える化しておくとよいでしょう。手首に巻けるリストバンドのようになっているメモ帳や、スマホのメモ機能など、いろいろと工夫の余地はあると思います。

 絶対やらないで頂きたいのは、「忘れ物をして困れば次は忘れないようにするだろう」と放っておくことです。そもそも興味がないから忘れるわけで、本人はそれほど困らないし、きっと次も忘れてしまいます。根気よく、ジェイさんも付き合って一つ一つ用意していくようにしましょう。そして3回のうち1回でもできたら、ほめてあげてください。そうやって小学校高学年までに、それなりに不注意を減らすことが目標です。中学、高校ではなるべく親は手を出さなくて済むように、幼少期、小学校までが大切です。

うっかりさんであることを知っておく
 実は研究データから、ADHDのお子さんで多動は小学校3、4年生くらいになると落ち着いてくることが多いですが、不注意は大人になっても持ち続ける場合が多いことがわかっています。だからといって子どもの不注意を治そうと、怒ってばかりの親御さんをよく見かけますが、怒っても治りません。そういう特性なのです。ですので、なるべく早くに苦手なことに気づき、「手当ての方法」を学ぶことが大切です。

 自らADHDを自認している友人の精神科医は、子どもの頃からうっかりミスばかりしていて、誤字脱字が多かったそうです。だから、大人になってからは、論文など大切な文章を書いたときは、必ず誰かに校正をお願いすることにしている、と言っていました。人にお願いできたり、人から間違いを気軽に教えてもらったりできることは、ある意味大事な処世術の一つです。

 繰り返しになりますが忘れ物やミスが多いことは、能力が低い、ということではありません。精神科医の友人も専門の勉強にはものすごい集中力を発揮して、たくさんの人の心の問題に向き合っています。自分がどういうときに忘れっぽいのか、なにでミスをしがちなのか、ということを子どもの頃になんとなく知っておくこと。そしてその対処法を、何度も繰り返しパターン化して学習をすることで、大きくなってからの、取り返しのつかないミスを防ぐことができるのです。

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久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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