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子育て・教育

「幼稚園のお友だちをきらいます。なんて言えば納得してくれるでしょう。」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

Q11. 幼稚園のお友だちをきらいます。なんて言えば納得してくれるでしょう。

■家族構成
相談者:ジュディ(相談したい子の母、30代後半)、夫(30代後半)、長男、次男(相談したい子、5歳)、祖母(ジュディの実母)

■ご相談
 幼稚園年中の夏休み前に、幼稚園から他の子となじめず、行動もゆっくりなので、発達相談を受けたらどうかとの打診があり、その後すぐに自治体の発達相談を受けました。発達相談の幼稚園訪問では、「確かに運動能力等は少し遅れが見られるが、現時点では問題なし」ということで、その後は親子教室などで相談を続けています。しかし冬休み前に幼稚園からまた面談があり、このままだと年長の保育に不安があるとのことで、年長からは療育も取り入れようかと自治体含め相談中です。

 とにかくクラスになじめず、仲良しの友達ができない。クラスメイトの名前も覚えません。年少の時は覚えていたのですが……。そして、1人だけ苦手な子がいるらしく、その子に対する拒否反応がとても強いです。目の前を通っただけで泣いていやがることも少なくありません。子どもから理由を聞くと、一度何かで注意された等の理由で苦手になったようです。幼稚園がきらい、友達がきらいなどと言った時に「自分がそう言われたらいやでしょ? 相手の気持ちも考えなさい」と例え話をして叱ることがあるのですが、そういった時はどのように話せば子どもは納得してくれるのでしょうか?

 また、ふだんはできることでも、少しでも環境や手順が変わると不安になり、やりたがらないことが多々あります。食事も偏食で、野菜はほとんど食べません。匂いなどで食卓に並ぶだけで嫌がるものもあります。

A. 専門家の回答

まずはお子さんの特性をわかってあげましょう。
 この連載で何度かお伝えしていますが、発達の問題は、早期発見・早期療育で、それなりに周りとうまく付き合っていく方法をなるべく早いうちに身につけることが何より大切です。周囲が子どもの発達上の問題に気づかず放置していると、年齢が上がるにつれて、精神的に本人が傷ついたり傷つけたりするケースも増え、気づいた時には、人格形成上、取り返しのつかないことになっている、というパターンが多々あるからです。発達障害そのものよりも、こういった二次的な障害のほうが、実は問題なのです。

 その点、ジュディさんの息子さんの場合、年中の時に発達相談を受けて、その後も相談を続けているとのこと。ジュディさんだけでなく専門家の方々の目があるというのは、とてもいいですね。

「あいさつ」から始めましょう
 さて、ご相談によると、息子さんは自分以外の人への興味が薄い、という特性があるように見受けられます。3、4歳になると特定の友達に興味を示すような行動が見られるようになりますが、それがないということですよね。他の子に関心を持たずに、自分だけの世界で満足してしまう。他の子なんていなくていい、そんなふうに感じているのかもしれません。

 でも、これから先、上の学校に行き、いずれは社会に出て自立して生活していく、ということを考えると、最小限の人との関わりを学ぶ必要があります。少なくとも、何か自分にとっていいことをしてもらったら「ありがとう」とお礼を言う。朝クラスメイトに会えば、「おはよう」とあいさつをする。いけないことをしたら「ごめんなさい」と謝る。そういったことは今の時期から繰り返し教えていきたいものです。

 では、他の子に興味のない息子さんに、どうやってそれを教えるのか。まずは、ジュディさんが、息子さんと一緒に、にっこり笑って「おはよう」とお友達に声をかけてください。落としたものを拾ってもらったら「ありがとう」と相手の目を見て言ってください。もしかすると息子さんは目を見られないかもしれませんが、その場合は、せめて相手の方を見て、まずはあいさつすることから始めましょう。そして、自分の周りには他の子がいて、あいさつをするとあいさつが返ってくる、ということを少しずつ意識させましょう。

「きらい」という気持ちも受け止める。
 「あの子、きらい」と言われたら、どうかその気持ちを否定しないようにしてください。「そんなこと言われた相手の気持ちを考えて」というのは、息子さんにとっては、かなり難しい要求ではないでしょうか。そもそも、クラスメイトの名前を覚えない、つまり他の子への関心がうすいようなのですから、「相手の気持ちになって考える」と言われても、まったく響いてこないでしょう。幼稚園児に大学数学を解いてみて、と言っているようなものです。何かわからないけど、「きらい」と言ったらママに叱られた、というネガティブな記憶が残るだけです。そうすると、もう幼稚園の話はしてくれなくなるかもしれません。

 まずは、「そうか、きらいなのね。教えてくれてありがとう」と息子さんの気持ちを責めずに受け止めてください。自分の気持ちを受け止めてもらった、という経験を増やすことも、自己肯定感を高めるために大切です。そして「でも、それはその子には言わないほうがいいよ。だって言われたら、いやな気持ちになっちゃうからね」と相手の気持ちを想像してみることを教えましょう。

 きらいな子にはあえて近づく必要はありません。「じゃあ、誰だったらいいかな。他におもしろい子はいるかな。」「どんな子なの? その子とお話できるといいね」と幼稚園のお友達の話を、まずはジュディさん自身が楽しそうに聞いてあげてください。ママが楽しそうに聞いてくれると、息子さんもママにお話できるよう、お友達のことをもっと知りたいと思うでしょう。

言われたことをそのまま受け取ってしまうという特性
 気になったのは、一度何かで注意されたせいで苦手になった子が前を通るだけで、泣いていやがる、ということです。5歳くらいになるとなかなかきつい言葉のやり取りが時にはあります。息子さんは言葉の理解はそれなりに高く、言われたことを字義通りにとってしまう、という特性があるのかもしれません。例えば、何かの仕草がおかしくて「変な顔」と言われたとします。そうすると、自分は変な顔なのか、とその時の状況などお構いなしに、そこだけを取り上げて気にしてしまう。そしてそう言った相手をきらいになる。

 そんな時は、状況を聞いて「そうか、それできらいになったんだね。」と受け止めたうえで、「でも○○くんは、こういう気持ちで言ったんだと思うよ。本当に変な顔だと思って言ったんじゃないよ。だからそんなに気にしなくていいんだよ」と根気強く言ってあげましょう。

 もしかすると、息子さん自身も、全く悪気はなく相手のいやがることを言ってしまっているかもしれません。だから相手からも言われてしまう。相手がいやがるような言葉をそのまま口にしてしまう、そして自分が言われた言葉は前後の文脈と関係なく、言葉通り受け取って過剰に気にしてしまう、そんな特性があるかもしれないということをわかってあげてください。

 息子さんが言われていやだと思ったこと、そのことが気になって不安になっていること、どうかそんな感情を受け止めてあげてください。否定せずに話を聞いて、自分の気持ちを伝えてくれたことをほめてあげましょう。

苦手なことはサポートを
 環境の変化に弱かったり、新しいことには不安があってやりたがらない、とのこと。例えば幼稚園の行事など、どうしても避けられないものもあります。あらかじめ段取りを先生に聞いて、家で何度も確認しておく、去年のビデオがあれば見せておく、などジュディさんが先回りしてサポートをしてあげてください。そうすれば、いきなり新しいことをさせられるよりは、ある程度息子さんも心の準備ができ、スムーズに取り組めるはずです。

 社会性に問題が見られるものの、言葉は理解し、自分の気持ちも伝えられているようなので、なるべく息子さんの不安を減らせるように、ジュディさんができることはしてあげてください。

 偏食については、無理矢理食べさせようとせず、食べられるものでなんとか最低限栄養バランスが取れていればいいでしょう。野菜を食べないなら、野菜ジュースで代用するとか、きらいなものは出さないなど。とにかく食事は楽しい、と思わせるのが何より大事です。

 これから小学校に入り、幼稚園より大きな集団での生活が待っています。息子さんの特性を理解して、なるべく前向きなサポートで「いやだな」と思うような場面を作らないこと。最低限、「あいさつ、ごめんなさい、ありがとう」が言えるようにしておくこと。大変だとは思いますが、ぜひ心がけてみてください。

「うちの子ちょっと変わってる?」子どもの発達お悩み相談室はこちらから

 

久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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