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「小3から「まなびの教室」に通う息子。指示を忘れることが多くて困りそう。」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

Q10. 小3から「まなびの教室」に通う息子。指示を忘れることが多くて困りそう。

■家族構成
相談者:つきのうさぎ(相談したい子の母、50代前半)、長男、次男(相談したい子。11歳)

■ご相談
 うちの息子は、小学校2年生のときに、担任から「授業中にずっと何かをいじっていて他の子どもたちの迷惑になっている、毎日お母さんに来てもらいたい」と言われた。その際にWISC検査を受け、他の能力はほぼ平均的だが、耳から聞いた指示への対応能力が平均よりやや劣ると出た。

 小学3年生のときに、「集団だとうまく意見を言えない、集団での行動についていけないことがある」として、発達上気になる場合に受けられる学校内の「まなびの教室」を勧められ、現在まで週1回通ってる。

 息子は、ぼんやりしているときなど、気がつくとずっと爪をかじっていたり、何かをずっとふりまわしていたりと手を動かしていないと落ち着かないようだ(そのため、爪を切った覚えがないくらい爪はいつも短い。また少しでも爪が伸びたりどこか引っかかりがあると爪切りで切るので、足の指が血だらけになることもある)。

 だんだん高学年になり、そろそろじっとしていられるようにならないと授業が厳しいかも…。また、健康上でも爪噛み、爪切りを使いすぎるのは危険。

 さらに、5分前に言ったことも忘れていることが多い。「まなびの教室」でも、3個以上指示をしてみると、1個忘れていることが多いとのことで、現在は忘れないようすぐメモするなど対策を講じているが、さすがに3~4個は覚えていられないとこの先困りそう…。(ただ、担任からは、テストの成績を見るに知能的には悪くないため、授業などではとりあえず支障がない様子)。

 何分前に出ると間に合う、などの時間感覚、行ったことがあるところにまた行くなどの空間感覚もないようで、余裕があってもいつの間にか時がたって遅刻したり、道に迷ってしまう。これもそろそろ自分で行動しないといけない年齢なので、困りそう…。
 

A. 専門家の回答

家庭と学校両方で、息子さんの特性に応じたサポートを。
 小学校2年生のときに、WISC検査を受けられたとのこと。WISC検査とは、児童用のウェクスラー式知能検査のことです。

・言語理解(言語による理解力と表現力)
・知覚推理(視覚的な情報を把握、推理する力)
・ワーキングメモリー(情報を一時的記憶し操作する能力)
・処理速度(視覚情報を処理する速度)

の4つの能力と知能指数(IQ)を算出する検査です。知的レベルを評価し、どういったことが苦手で、何が得意なのか、発達の凸凹を明らかにして、どのようなサポートが必要なのかを知るために実施されます。

目で見てわかる指示をする
 息子さんの場合、知的能力に問題はないものの、「耳から聞いた指示への対応能力が平均よりやや劣る」という結果だったというわけですね。この結果から、息子さんが「5分前に言ったことを忘れる」「3個以上指示すると1個は忘れる」といったことも、十分説明がつきます。

 つまり、息子さんは言葉で話した指示を記憶し、対応するのが苦手、という特性があるのです。一時的に情報を記憶する能力をワーキングメモリーと言いますが、この働きに問題があると考えられます。

 他は平均的だったとのことですので、まずは指示する際に、視覚的にわかるように行う必要があります。小3から週1回通っている特別支援教室「まなびの教室」で、すぐにメモをとるようにされているのは正解です。指示自体も目で見てわかるように、黒板に書くとか、スケジュール表をわたすなど書いて表したもので伝えると、忘れることもぐんと少なくなるはずです。

 ご家庭でもぜひ、実践してください。例えば、
「今日は学校から帰ったら歯医者さんに行ってね。予約は4時半だから4時には家を出るように。場所は何度も行ってるからわかるでしょ。」

と言葉で指示するのではなく、帰宅してからのタイムスケジュールを紙やホワイトボードに書いておきましょう。4時にアラームをセットしておくというのもいいですね。歯医者さんまでの地図も、手描きするか、HPからプリントアウトするなどして用意しておきます。知的な問題はないのですから、地図を見ながら目的地まで行く、という習慣をつければ失敗は減ります。

学校に任せるだけでなく、ご家庭でのサポートが不可欠
 息子さんの場合、得意不得意の凸凹はあるものの、総じて知的能力が低いわけではないので、このような「目で見てわかる指示」を意識することで、かなり困り感は少なくなるはずです。そのためにも、学校だけでなく、ご家庭でも是非サポートをお願いしたいのです。

 ご相談を読んでいて少し気になったのは、つきのうさぎさんが「高学年になるから〜できないと困るかも」、とおっしゃっていることです。大きくなるからなんとかしないといけない、というものではなく、小さい頃から、適切なサポートを受けていなかったから、何をしたら良いのかわからず、他のお子さんの迷惑になっていたのだと思われます。

 爪噛みについても、みんながやっていることについていけず不安な気持ちでついやってしまっているのかもしれません。気になるようなら、爪に絆創膏を貼るなどして、代わりに、何か筆箱に入る程度の感覚おもちゃ(にぎにぎボールなど)を先生に許可をもらって持たせてもらうと良いと思います。

 息子さんの特性は、放っておいたら「治る」ものではありません。苦手なことを得意なことに置き換えることによって、パニックになるようなことを避け、なんとかスムーズに日常生活を送らせる。そのためにどうしたら良いのか、生活の中でつきのうさぎさんにうまくサポートをしていただきたいのです。

 日々の慌ただしい生活のなかで、そこまでするのは手間ではありますが、それによって息子さんの成功体験も増え、自信につながります。きちんと用事を済ませることができたら、ほめてあげてください。続けるうちに、息子さん自身も、ミスをしないために必要なことを学習し、自分でメモをとったり、地図を用意したりできるようになるでしょう。

成功体験を増やして自信を持たせましょう
 学校でも家でも、不注意が多くて怒られることが多かったであろう息子さん。それはけっして息子さんのせいではありません。周りの大人が発達の特性を正しく理解して支援の手を差し伸べていなかったからです。息子さんはサボっていたわけでも、ふざけていたわけでもありません。ただ、耳で聞いた言葉を脳で処理するのが苦手で、その指示を覚えていられないタイプだっただけです。
つきのうさぎさん、どうか息子さんの苦手なことはサポートし、できるところを積極的に見てあげるようにしてください。思春期へと突入していく今、息子さんにとって、なるべく困ることがないように、お母さんのひとふんばりが求められています。

「うちの子ちょっと変わってる?」子どもの発達お悩み相談室はこちらから

 

 

久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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