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【スペシャル連載】第3回 13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語


6月29日(水)発売の『13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』をためし読み公開!
外国には小さいころから経営の勉強をしている国があり、日本でも起業家(会社をつくる人)の教育を始めている小学校も増えました。
将来の夢を考えるのにも、友だちと仲良くするのにも役立つ「経営」の物語を読んでみよう!

◆これまでのストーリーはこちらから

 ヒロトはその古びた本を引っぱりだしてみた。

 みると、表紙に『みんなの経営の教科書』と印字してある。ところどころ傷んでしまったまま、修理もされていない。かどは丸まってしまっている。

 それにしてもおかしな本だ。図書室に置いてある他のどんな本ともちがう。

 

 タイトルの下のほうに「二年二組 岩本俊宏」と手書きの書きこみがある。それ以外には著者名らしいものがない。

 ひょっとして、手作りの本? だとすると、この「岩本俊宏」がこの本を書いたってこと?

 二年生ということだから、十四歳くらいだろうか。そのくらいの歳で本を書いたのだとすれば、とんでもない天才だ。だんだん気になってきて、本を開いてみると、丸っこい文字で「世の中は経営であふれている」と始まっている。

 その本の目次には「ビジネス」「事業」など、テレビのニュースでしか見たことがない、たくさんの言葉が並ぶ。

 



〈ロースカツとカレーとプラスチック容器をどこかから買ってきて組み合わせる。すると、みんな大好き「ロースカツカレー弁当」のできあがり。このロースカツカレー弁当なら、カツとカレーと容器それぞれの値段の合計よりも高く買ってくれる人が出てくるかもしれない。これもビジネスだ。〉
 

 ……たしかにヒロトもカツカレーが好きだ。

 カツカレーを最初に考えた人は天才だと思う。ヒロトの母が、スーパーのお総菜の安いカツを買ってきてカツカレーにしてくれることがあるが、半額セールのカツが残り物のカレーと合わさるだけで、とんでもない実力を発揮する。

 ページをめくるたび、次から次へとヒロトの知らない言葉が目に飛びこんでくる。

 そのほとんどは聞いたこともない単語だ。

 しかし、それらの単語の解説には、「カツカレー」とか「お小遣い帳」といったように、どれも身近な例が使われている。

 

 しばらくしてヒロトは、さっきからずっと立ったまま『みんなの経営の教科書』を読んでいたことに気がついた。おなじ姿勢のままだったせいで腰が痛くなったからだ。

 ヒロトは八冊のカメラの本と『みんなの経営の教科書』一冊を借りに、アオイが座るカウンターに急いだ。

 その『教科書』を手に取ると、アオイは困った顔をした。

「うーん、ヒロトさあ、この本、ほんとに図書室のやつ?」

「ええっ? これ、さっきそこで見つけたんだけどな。ほら、あそこでさ。ちゃんと棚に入ってたよ」

 ヒロトが図書室のすみを指さした。

「でも、図書室のシールも貼ってないし、バーコードもないよっ。忘れ物ってことはない?」

「それじゃあ、これ、どうしたらいいかな? 借りられない?」

「そうねえ、この岩本って人に聞いてみるとか?」

「うーん、そっかあ、でももう放課後だしなあ……」

「まっ、とりあえず借りちゃって、明日、二年二組の先生に聞いてみたら?」

「……そうだね、わかった。そうするわっ」

 

 ヒロトは九冊の本を抱えて写真部の部室へ向かった。校舎の三階まで階段をひとつ飛ばしにかけあがる。

 部室では、みんながワイワイとおしゃべりしていた。

「おっ、ヒロト、すげーなそれ。カメラの本? たくさんあんじゃん?」

 ユウマだ。坊主頭に半ソデシャツ。腕は真っ黒に日焼けしている。七月になって蒸し暑い日も増えたとはいえ、雨の日などは、まだすずしいこともある時期だ。だが、ユウマは制服を着ていないときは、なんなら冬だって、一年中Tシャツだ。小学校のときなんて、六年間ずっと半ソデ半ズボンで通学していた。

 あるとき、ヒロトがその理由を聞いてみると、

「だって六年間ずっとTシャツで通えば、『アメニモマケズ』とかいって、ニュースになるんだぜっ」

 と、ユウマがうれしそうに答えていたのを覚えている。

 

 ユウマは、ガキ大将的なキャラクターだが、お調子者でもある。小学校の頃は少年野球のピッチャーでもあった。ようするに元気がありあまっているのだ。ヒロトとは小学校から親友だから、ユウマも流れで写真部に入っていた。野球部の監督などは、今でも熱心にユウマを野球部に勧誘しているらしい。

「いやあ、ちょっとね」

 ユウマに答えて、ヒロトは席についた。と同時に、はっ、とした。せっかく最後に見つけたカメラの図鑑を借り忘れてきてしまったのだ。本末転倒といっていい。

 

 しかしすぐに、まあいいか、とヒロトは思い直した。

 図鑑のかわりに『みんなの経営の教科書』がある。この不思議な教科書が。

 そう思って、ヒロトはその教科書の最初のページをめくってみた。そこにはこんなことが書いてある。

〈世の中は経営であふれている。

自分が思いついたことをやってみるにも、経営はかならず必要だ。

それに、経営が上手ければ、お金を稼ぐこともできる。世の中、お金ばかりじゃないけれど、でもお金だって大事だ。お金があればお菓子だってサッカーボールだって最新のゲームだって買うことができる。もちろん、夢とか幸せとか、お金で買えないものだってたくさんあるけれど。〉

 

 うん、お金は大事だ、とヒロトはうなずいた。だって、お金があれば、あの顧問が驚いちゃうくらいカッコイイ自分用の一眼レフカメラだって手に入るかもしれないじゃないか。

 ……『教科書』には、さらにこう書いてある。

 

〈テレビ、ソファー、テーブル、フライパン、電子レンジ、花瓶、お菓子……などなど。これらは何らかの組織会社によって作られたものばかりだ。

 いいかえれば、これらは誰かひとりの天才がたったひとりで作ったものではない。たくさんの人と、たくさんの物、たくさんのお金、たくさんの情報、たくさんの知識が集められてようやくそれぞれの家庭にとどいたものだ。

 そして、それを可能にするのが「経営」だ。

 ビジネスを実現するには「天才」でなくてもいい。大事なのは「経営」だ。〉

 

 ヒロトにはこの「経営」という言葉が気になった。ぼくは天才じゃない、そう、思い出したくもないけれど、ちょっと背伸びして受けた私立中学だってダメだった……。ぼくはテレビを発明できるような天才じゃない。

 ……でも、ビジネスを実現するのに天才じゃなくてもいいってほんと?

 いつもの放課後が、ヒロトには少しだけ違ってみえた。



<第4回へつづく(7月11日公開予定)>

 

書籍紹介



500mlのペットボトルの水が100円なのに、なぜ2Lの水も100円?
物語を通して楽しく学べる「ビジネス」と「生き抜く力」!

(あらすじ)
中学校の図書室に忘れ置かれた不思議な『みんなの経営の教科書』と出会い、
ヒロトは仲間と共に社会の課題に向き合う――。

“人は誰でも自分の人生を経営している。だから、すべての人にとって経営は必要不可欠”
という強い思いから、中学生から社会人までが楽しめる物語形式で書き下ろされた、
これからの時代に必要なビジネス素養が身に付く本。

※本書は前から物語、後ろから“教科書”を読むことができます



著者 岩尾 俊兵

定価
1760円(本体1600円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041125687

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