KADOKAWA Group

News

お知らせ

【レビュー】「あそび絵本」の最前線から見えてくるもの。『ハリーとケントはなぞときポリス』

 今回ご紹介する『ハリーとケントはなぞときポリス』(原裕朗&バースデイ/2020年)ですが、作者の原先生へのインタビュー記事が公開されていますので、未読の方はまずはこちらをお読みください。面白いのでぜひぜひ。
【インタビュー】累計150万部のミリオンセラー作家・原裕朗氏が、新作「ハリーとケント」に込めた思いとは⁉

 本作の内容と創作の経緯については、上記記事で原先生がお話しされていますので、ここではちょっと角度を変えて、本作の立ち位置と、そこから見えてくるものについて書きたいと思います。

 まずは手に取った時の所感から。最初に感じたのは、「キャラクター絵本としての堂々とした佇まい」と、そこから漂う「メジャー感」です。



 これは、狙ってもそうそうに出せるものではないんです。

 続けて、未就学児童をメインターゲットに置いているという点。原先生のベストセラー『冒険!発見!大迷路シリーズ』(2008年~/既16巻/ポプラ社)とは違って、本文がひらがな・カタカナ表記のみで書かれています。



 表紙から感じるメジャー感と、未就学児でも楽しめるような配慮。原先生が満を持して送り出す自信作であることがうかがえます。

 さて、冒頭でも書いたとおり、ここからはちょっと別の視点から、本作が持つ3つの立ち位置について書いていきたいと思います。これらを踏まえますと、本作の本質が見えてきます。

(1)原先生と「バースデイ」という会社



 昭和の最後の頃、『貝獣物語』(1988年/ナムコ(当時))というファミコン用のロールプレイングゲームが発売されました。このゲームは一風変わっていて、ゲームシステムも個性的でしたが、印象深かったのはパッケージがまるでプラモデルの箱のようなつくりになっていて、その中にはカセットと説明書、加えて登場キャラクターのフィギュアと地図、そして、謎の封書が同梱されていたんです(この封書はゲームの中で役割を持つ)。

 僕の弟がこのゲームを買ったんですが、こんなの見たのははじめてだったのでよく覚えています。今振り返ってみると、「作り手の遊び心」を、かなりがんばって形にしたんだろうなあと。メーカーに企画書を通すのが大変だったんじゃなかろうか、と思います。
  で、このゲームソフトを開発したのが「バースデイ」という会社、そう、本作の著者の「原裕朗&バースデイ」のバースデイなんです。原先生は1985年にこの会社を設立し、当初はキャラクターやファンシー雑貨のデザインが生業だったのですが、その後、ゲームやトレーディングカード、アニメ原案も制作するようになり、その後、絵本づくりもそれに加わっていきます。なんともクリエイティブの幅が広い。

 本作はまず、様々なクリエイティブに携わってきた、原先生とバースデイの「最新作」というのが立ち位置です。遊び心が満載です。

(2)「あそび絵本」というジャンルとその歴史

 一般に「絵本」といえば、読み聞かせ等に使われる「物語絵本」をイメージする方が多いかと思います。でも実際には、絵本には多くのジャンルがあり、その表現の豊かさと深さを併せ持つ媒体から、あらゆる対象、テーマ、切り口、表現のものが創作されています。絵本はなんでもできます。
その中に「あそび絵本」というジャンルがあり、本作はここに含まれます。
 で、このジャンルにも歴史があり、ベストセラーとして有名なのが、1987年の『ウォーリーをさがせ!』(マーティン・ハンドフォード/フレーベル館)、1992年の『ミッケ!』(ジーン・マルゾーロ/ウォルター・ウィック/キャロル・D・カーソン/糸井重里/小学館)などで、この頃から、書店の児童書売場で「あそび絵本」の存在感が大きくなっていきます。

 一方、もうひとつの大きな土壌として、学校図書館を利用する生徒たちがいました。図書室の中でも、遊び・ゲーム的要素を含んだこれらの作品は、ひとり読みはもちろん、複数人で読むことができ、一種のコミュニケーションツールとして機能し、人気の高いジャンルになっていきます。

 このように、「あそび絵本」には安定したニーズがあり、そんな中で2000年代に入ってからの大ヒット作が、原先生とバースデイによる『大迷路シリーズ』なのでした。男子も女子も皆、頭をフル回転させて解いていきます。

 以上から、本作はあそび絵本の「最前線」という立ち位置にもなります。
 絵本は自由で、力強い。
 本作にもそれを感じます。

(3)KADOKAWAの児童書・絵本の展開

 本作の発行元のKADOKAWAは、文芸書、文庫だけでなく、あらゆるジャンルの本・雑誌を刊行している総合出版社ですが、児童書・絵本については、実は若い出版社だったりします。

 KADOKAWAが明確に児童の読者の獲得に乗り出したのは2000年に入ってからで、大きなトピックスとしては、2004年の『ケロロ軍曹』(吉崎観音)のヒットと、2009年の「角川つばさ文庫」の創刊があります。特に角川つばさ文庫は、お家芸のライトノベルのメソッドを用いて満を持して放ったレーベルで、創刊以降、書店の児童書売場の文庫棚が、緑色の背表紙で埋められるまでにさほど時間はかかりませんでした。このことは衝撃をもって、児童図書専門出版社に受け取られました。

 以降、KADOKAWAはつばさ文庫以外の児童書・絵本の刊行点数を徐々に増やし、少しずつですが、「KADOKAWAの絵本の色」みたいなものが出てきます。
 ただ、そこに落ち着くことなく、いまなお新しいものに意欲的にチャレンジを続けています。



 本作もそのうちの1つです。
 KADOKAWAにとっての意欲作、これが、本作の三つ目の立ち位置です。



 これらを踏まえて、『ハリーとケントはなぞときポリス』の頁を開いてみますと、迷路、パズル、探し絵、アクションと、細かく作りこまれていて、そこには作家の貫禄すら漂います。

 判型は『大迷路シリーズ』よりもすこし小ぶりのA4変形で、見開きの大きさは確保しつつ読みやすくするという意図が読み取れます。表1には「ハリせんぼんぶちこみますよ!」と意気込む主人公の姿、本文頁でも吹き出しを多用。組版は横書きでコマ割りも多く、その分、見開きが効果的になり、表現としてはベースとなる絵本的要素、そして漫画的要素が併用。これは子どもたちもワクワクするでしょう。



 表見返しと裏見返しにはキャラクター紹介をみっちりと記載。作品の世界観を形成し、原先生の当シリーズへの意気込みも感じます。

 構成は原先生の「最初は簡単、その後難しく」というポリシーに沿っています。保護者の方はまず、頭の柔らかさを確認するためにも、ご自身が読まれ、謎を解かれることをおすすめします。僕はえらい時間がかかった…。

 本作は3つの立ち位置を踏まえた上で、作者がつくりたいものをつくったということが伝わってきます。あらためて、絵本の豊かさを感じることができる一冊なので、みなさんも味わってください。

本の詳細はコチラ!


作・絵:原 裕朗&バースデイ

定価
本体1500円(税別)
発売日
サイズ
A4変形判
ISBN
9784041097960

この記事をシェアする

特集

ページトップへ戻る