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【レビュー】初恋のあの子を守れ!おてんば王女と心優しき少年剣士の痛快な冒険旅物語『キミト宙へ』

 「おおきくなったら、お嫁さんにしてくれる?」「もっともっと強くなって、ぼくが君を守ってあげるよ」。
 目を閉じて、胸の奥にそっと問いかけてみれば、初めて好きになった人とのこんなやりとりが、誰の胸にも眠っているのではないだろうか。どれだけ年齢を重ねても、本当は消えてなくなったりしない。この『キミト宙ヘ』も、そんな初恋の相手と一緒に、広大な世界へと飛び出していく少年少女の物語だ。
 舞台は、「地球から数万光年離れた場所にある」(作者あとがきより)ベオカ星。主人公のポップは、国立の武術養成学校で剣術を学んでいる男の子だ。なかなかのエリートコースを歩んでいるとはいえ、まだ11歳で、修行中の身である。ある日突然、王宮に呼び出された彼は、そこで幼なじみの少女ファミに再会する。なんと、ファミは王国の第3王女だったのだ!
 幼い頃のポップは、ファミと2つの約束を交わしていた。その1つが、将来「ファミのいうことをなんでも聞く」ということ。かつての“せーやくしょ”を目の前に掲げた彼女は、ボディガードとして宇宙旅行に同行するようポップに要求するのだった。
ここで読み手にグッとくるのが、ポップの切ない男心だ。かつての愛らしい姿はすっかり様変わりし、いまや王女としての自覚と気品から、近寄りがたいほどのオーラを放ってみせるファミ。それでも、彼女が発する第一声を聴いたとき、ポップの胸には“ただただ泣き出したくなるほどにあたたかな感覚”が沸き起こる。ふとこぼれた笑顔だけが昔と全く変わらないファミ。そんな彼女が、自分を忘れずに頼ってくれたことがうれしくて、ポップは戸惑いながらもボディガードの申し出を快く受け入れてしまう。うぅ、ポップ、君はなんていいやつなんだ!でも大丈夫なのか……!?
 旅の目的は、帝国のさらなる発展のため、銀河系の未開拓エリアをリサーチすること。二人は最先端技術を搭載した宇宙船に乗り、数千光年もの距離をまたぐ航海に出る。
ある時、エネルギー補給のため途中下車した「ジャイアント星」。そこにはなにやら不穏な空気がただよっていた。どうやら住民たちは、星に伝わる「伝説の大巨人」の亡霊にひどくおびえている様子で……。 
 王家の者をめぐってさまざまな土地を旅するという点では、児童文学の名作『クレヨン王国の十二か月』をほうふつとさせるこの物語。ファミの人物像は、魅力的だったシルバー王妃と比べてもひけをとらないくらいカラフルだ。とても聡明な一方で、制御不能なほどの食いしんぼう。そして、ひとたび標準を合わせたら、そこに向かって猪突猛進、大切なファミを案じるポップはハラハラし通しだ。ジャイアント星のいかがわしい巨人伝説にどんどん首を突っ込んでいく(※そこに隠されたユニークな種明かしにも、ぜひご注目あれ)のだが、果たしてポップはファミを守り切れるのか? 勇気と機知に富んだファミが、バッサバッサと謎を一刀両断する姿は痛快そのもの。もっと続きが読みたくなる魅力が詰まっている。
 宇宙旅行のクルーには、高度な人工知能を組み込んだおもちゃロボットのQ子、絶品のスイーツを作るメイド型アンドロイドのナナ、まだ10歳でありながら超優秀な天才科学者のヤマザキがいて、この宇宙の旅を力強く支えている。同乗者それぞれのキャラクターが、今後の物語をより盛り立ててくれるのだろう。
 さて、幼い二人が交わした“せーやくしょ”のもう一つの約束。それは、べオカ星で成人を意味する13歳になったファミを、「お嫁さんにする」というもの。しかし、こちらの約束についてファミがどう考えているのかは、まだ謎だ。そもそもファミはなぜポップを宇宙の旅に連れ出したのか。2つめの約束についてどう思っているのか。ポップが心身を成長させるにつれ乗り越えなければいけない課題はまだまだ沢山ありそうで、この先も目が離せない。

 

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作:床丸 迷人 絵:へちま

定価
本体660円(税別)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318107

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