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【レビュー】姉妹って?家族って?ミステリアスで色鮮やかな12歳少女の成長物語

「君たちは四つ子だったんだ!」。
 ひとりぼっちで生きてきた12歳の少女・宮(みや)美(び)三風(みふ)が、そんな衝撃の事実を知るところから物語は始まる。
天涯孤独で施設育ちの彼女は、中学校入学をきっかけに、国の自立支援プロジェクトのミニターに選ばれる。そのプロジェクトとは、別々の場所から集められた孤児数名が、お試しで共同生活に挑戦するというもの。ところが、初めての顔合わせで三風が目にしたのは、“まるで鏡から抜け出たかのように”、自分とまったく同じ顔をした3人の女の子! なんと彼女たち4人は、誕生日もDNA鑑定も完全に一致する姉妹だと判明したという……。
 10代前半といえば、思春期のはじまり。自分の意思に関わらず、心身に著しい変化が生じ、世界が大きく開けていこうとする年頃だ。そんな繊細な時期に、最も身近で、その分複雑な感情を抱きがちなのが、家族の存在ではないだろうか。甘えもいらだちも、当たり前のように全部受け止めてほしくて、そのくせ相手への理想と現実とのギャップを受け入れることはできなくて。「もしも本当のお父さんとお母さんがこの世のどこかにいたら……」なんて妄想がふくらむ時期でもあるだろう。この頃、もし大きな壁に直面するたびに、自分の分身同然の存在が近くにいて、ああでもないこうでもないと言い合いながら、共に立ち向かっていけたらどんなに心強いだろう。
 ある日突然目の前に現れた一花、二鳥、四月という3人の姉妹を得て、三風はドキドキの中学校生活をスタートさせる。しっかり者、ムードメーカー、真面目、人見知りと、タイプが異なる四つ子の暮らしには、くすぐったくなるような幸福感だけはなくて、すれ違いやトラブルも沸き起こる。おまけに、何やら秘密がありそうな姉妹それぞれの生い立ちや、三風の恋の予感、彼女たちを捨てたらしい母親の影など、気になる伏線があちこちに散りばめられており、それらはまだ始まったばかりだ。
 この『四つ子ぐらし』は、名作『若草物語』を代表とする「姉妹もの」少女文学の系統をくんでいるのに加えて、その根底に、「自分の確立」という思春期特有のテーマが流れているように感じられる。孤独と不安を抱えて生きてきた三風は、突如3人の姉妹を得て、どんな風に成長していくのだろうか。鮮やかな層を織りなす少女たちそれぞれの物語を、時に保護者の気持ちで心配に押しつぶされそうになりながら、時に友人の気持ちで寄り添いながら、この先も見守っていきたい。


中村 ユイ
 

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