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【レビュー】周囲の目との付き合い方って? 思春期のあなたへ贈る、いま一番必要な本『未完成コンビ』

未完成。これほど端的に中学生をあらわす言葉は他にない。
体は大人への準備をはじめ、精神は一人の人間として自分を確立しはじめる年頃。大人と子どもが混ざり合うアンバランスなこの時期は、多くの悩みが押し寄せてくるものだ。

本書の主人公は、中学1年のサッカー少年・凌平と、同じくサッカー大好き少女の幼なじみ・絢羽。二人は小学校のサッカークラブで黄金コンビを組んでいたけれど、絢羽が強豪女子サッカー部のある私立中に進学したことをきっかけに道を別つことに。凌平は地元の公立中のサッカー部に入部するものの、本気のプレイができずに不完全燃焼でモヤモヤしたまま。そんなある日、絢羽が私立中をやめて凌平の中学に転入してくる。絢羽が帰ってきた理由はひざのケガのせいらしいが……。
黄金コンビの再会からはじまる男女ダブル主人公の本作を、ただのアオハル小説だと思ったら大きな間違い。章ごとに二人の視点を入れ替えながらそれぞれの悩みやぶつかる壁が明かされていくのだが、その心情描写は時に胸が苦しくなるほど切実だ。絢羽は男女の性差や他人からの評価に苦しみ、凌平は周りの雰囲気に合わせて本気のプレイから逃げてしまう。そんな二人の気持ちに共感する読者も多いはず。
思春期の感受性は瑞々しくも激しく、小さな事に一喜一憂し心をかき乱す毎日を過ごす中で、少しずつ自分らしさを獲得していく。その中でやっかいになるのが周囲からの目だ。これまではさほど気にならなかったはずなのに、自意識の高まりや性の芽生えによって、急にがんじがらめになってしまう。そして、いつのまにか自分の気持ちを見ないフリして、大切なものや好きなものを隠す。
凌平と絢羽もこの悪循環にはまっていて、自分一人では抜け出すことができない。けれど互いの弱さをさらけ出したことをきっかけに、物語はゆっくりと動き出していくのだが、この丁寧な展開も非常にリアルで侮れない。誰にだって起きる、どこにだってある普通の悩みを物語に落としこんだ本作は、未完成なすべての子どもたちへと捧げる「あなたの本」に他ならないからだ。
凌平と絢羽の選択を通して、悩みから逃げることも立ち向かうことも、どちらも正解なのだと自分自身を肯定してくれるメッセージは、思春期の多感な子どもたちに必要なもの。楽しく本を読むだけで、押し付けることなく自分らしく生きていくために必要な自己肯定力を育む読書体験は非常に貴重だ。しかもそれがリアルで自分に近い内容ならなおさらである。角川つばさ文庫では初の著作となる新進気鋭の作家が贈る本作は、今を生きる子どもたちの心にすっと届くよう丁寧に紡がれている。

物語はまだまだ序盤。未完成な二人だからこそ、その将来はあやふやで夢も友情も恋愛もどう転がっていくのかは現実と同様に未知数だ。それぞれの壁にどう対処し、どんな未来を創り上げていくのか、失敗も含めて二人のこれからが楽しみだ。
自粛生活で自分と向き合うことが多かった2020年。その年の終わりに読むぴったりな本作を、冬休みの読書候補に加えてみてはいかがだろうか。

本の詳細はコチラ!


作:舞原 沙音 絵:ふすい

定価
本体660円(税別)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046320308

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