団地の前の公園で遊んでいた主人公のタロウ。突然、頭の上に黄色の布が降ってきました。どこかで見たことのある模様です。これは……まさかパンツ?
団地の上の方からは「おーい、こっち こっち!」という、のぶとい声が。
黄色い布を落とした声の主に届けるために、タロウは団地を駆け巡ります。
表紙からも伝わってきますが、絵が緻密で、リアリティーにあふれる絵本です。
作者は『大名行列」(小学館)で小学館児童出版文化賞を受賞した、気鋭の絵本作家・シゲリカツヒコさん。
シゲリさんは子どもの頃、人体図鑑などの図鑑に夢中になっていたとのこと。
なるほど! リアルな絵の描写は、その頃の読書体験がもとになっているのですね。
どこにでもありそうな団地を舞台に繰り広げられる、リアリティーとファンタジーが入り混じったストーリーは、まるで団地全体が異世界の魔法にかかったかのよう。
次々に落とし主のヒントを教えてくれる団地の住人たちの、個性あふれるキャラクターも見どころです。
身近に起こりそうな日常が描かれているので、いつか自分もこんな不思議な世界に迷い込んでしまうのでは……という気持ちになるドキドキ感と、自分が主人公のタロウになって、一緒に冒険をしているようなハラハラ感を味わうことができます。
絵本を触って確認したくなるような描き込みも魅力です。動物たちのふわふわした毛並みや、皮膚のごつごつした質感。ほかにも、おいしそうな匂いがしてきそうなページや、ヒヤッとした涼しさが伝わってくる場面に、さまざまな感覚が刺激されます。
私が運営する絵本カフェで実際にこの絵本を読んでいたお子さんは、読み終えると、「あーちょっと怖かった! でも面白かった!」と言ったあと、「もう一回読む!」と繰り返し読んでいました。
二度目以降は、次に登場する人物を予想して、「次はあれだよね、あれ!」と、お母さんと会話を楽しんでいる姿が印象的でした。
怖いけれど、もう一回みたい。
リアルな絵の表現力と、テンポのよいストーリーが、子どもたちを惹き付けているのでしょうね。
「次はさて、だれのところに行くのかな~」とクイズを出しながら、お子さんと一緒にストーリーを進めていくのも楽しいですね。
ストーリーを楽しんだあとは、細部まで描かれた絵を、じっくり眺めてみてはいかがでしょうか。パンツをよくみてください。隠し絵が描かれていて、次の登場人物のヒントがあるそうです。子どもは絵本の隅々までよく見ていて、新しい発見をするのが大好き。「ほら!ここにも○○がある!」と夢中になることでしょう。
ストーリーの結末は「そうきたかぁ~!!」と、予想を斜めに行く展開。
タロウは迷い込んだ異次元の世界から、現実世界にはたして戻ってこられるのでしょうか……親子でハラハラドキドキしながら楽しんでくださいね。
さあ、絵本の異世界に迷い込む心の準備はできましたか。
ためし読み、本の詳細はコチラ!