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医師がこれだけは伝えたい妊娠期の話【『はじめてでもよくわかる 知っておきたい妊娠と出産安心BOOK』】ためし読み

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「妊娠したかもしれない」「どうすればいいんだろう」。

妊娠・出産は人生のなかでも大きな出来事ですが、そのスタートには不安や戸惑いがつきものです。

 はじめてのことだからこそ、何を聞けばいいのかもわからない——そんな方のために、知っておきたい大切な知識を、現役の産婦人科専門医がやさしく、わかりやすくまとめたのがこの『はじめてでもよくわかる 知っておきたい妊娠と出産安心BOOK』です。

妊娠がわかったときにすることから、妊婦健診の流れ、出産の準備や赤ちゃんとの生活まで。
知っておくだけで安心できる情報が、イラストや図解とともにぎゅっと詰まっています。
自分のためにも、大切な赤ちゃんのためにも、まずは「知ること」からはじめてみませんか?

※本連載は『はじめてでもよくわかる 知っておきたい妊娠と出産安心BOOK』から一部抜粋して構成された記事です。


はじめに

 はじめまして。産婦人科専門医の遠藤周一郎と申します。

 本書は、2016年に「きゅー先生」の著者名で刊行した『妊娠・出産を安心して迎えるために 産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』の新装版です。前回掲げたコンセプトは、「とにかくわかりやすく信頼できる妊娠・出産本を!」でした。とりわけ、たとえ時代が変わろうと妊婦さん全員に知っていてほしいこと、そんな本質的・普遍的な情報を本にしようと思いました。基礎の基礎を知っておくことで、なにかトラブルが起こったとしても、かかりつけ医と有意義な話し合いができたり、よりよい関係性が築けると考えたのです。

 おかげさまでそのコンセプトは女性だけではなく、パートナーや親世代にまで支持され、たくさんの方々に前回の本を手に取っていただきました。

 しかし、刊行からおよそ8年も経つと、さすがに取り扱っている情報も古くなってしまいました。そこで今回、それらのデータを一新したのが本書となります。

 この8年、いろいろと変化がありました。私ごととしては、この本を書くきっかけとなったブログは開店休業状態になっていますし(1000本近い過去記事は、まだ全て読めますが……)、2016 年当時の職場は首都圏にある地域周産期母子医療センターで、妊娠22週からの超早産にも対応する日々を送っていましたが、今では地元で個人クリニックを開業し、産科から婦人科まで幅広い疾患を診療する毎日です。

 さらに、当時は全く想像していなかったのですが、2019年に突然、小説家への道を志し、2021年に小学館が主催する文学賞を経て「藤ノ木優」のペンネームでデビューを果たしました。これまでに培ってきた経験を活かした小説を2024年現在までに5作品送り出していまして、今では、完全に二足のわらじを履いています(P162に情報を載せていますので、興味がある方はぜひ手に取ってくださいね!)。

 もちろん、私たちを取り巻く世界も大きく変化しました。

 産婦人科業界にもさまざまな変化の波が押し寄せてきています。ガイドライン改訂、不妊治療の保険適用、自治体でも妊娠・出産を巡るさまざまな取り組みが開始されたり、はたまた医師の働き方改革に振り回されたり、少子化は加速する一方で産院が次々と閉院してしまったり……。

 今回、せっかくの新装の機会をいただいたので、データを新しくするだけではなく、そういった世界情勢の変化について、自身の経験や考え方も踏まえつつ、皆さんに情報をお届けできるようなコンテンツを大幅に増やしました。

 前回の本とコンセプトは同じです。私自身が妊婦健診で実際に妊婦さんから頻繁にいただく質問を中心に題材を集め、誰にでもわかりやすいような解説を心がけました。それぞれのコンテンツは妊娠週数ごとにまとめてありますので、妊娠時期からの逆引きもできます。視覚的にも理解しやすいように、イラストもたくさん掲載しています。さらに、婦人科関連の話題やパートナーさん向けの情報についても、ページが許す限り加えました。

 慌ただしい妊婦健診の診療の中で、医師自身が「もっと詳しく説明したい」「その言葉の本当の意味は……」と内心思っている内容が、たくさん載っています。妊婦さんはもちろん、これから妊娠を考えている女性やパートナー、さらにお子さんの出産にあたり不安を感じている祖父母になられる皆さん、現在、福祉や医療に関わっている方々など、どんな人が手に取っても、有意義でわかりやすい情報だと思います。

 本書が、皆さんの妊娠・出産の不安を少しでも減らすきっかけになればいいなと思います。


産婦人科専門医 遠藤周一郎



いつ・何をやるかがわかる 妊娠〜出産カレンダー

初めての妊娠に不安はつきものですよね。このカレンダーでは、いつ頃どんな検査を受けるか、体の変化はいつ頃から表れるかをカレンダー形式でまとめてみたので、健診の前にチェックしてみてください。



 

 

◆ 超カンタンだけど、妊娠検査薬って使い方あってる?

「生理が来ない、妊娠したかも?」そんな時にまず使うものは、妊娠反応検査薬ですよね。妊娠検査薬の使い方は(ご存じの人も多いと思いますが)非常にシンプルです。尿をキットにつけて、検査確認線が出た状態で妊娠判定線をチェックすればいいだけ。本当にカンタンで、これなら医者いらず(笑)! ただ、検査薬の使い方ではこの2点をどうか覚えておいてください。

1 あまりに早すぎる時期に使わない
2 検査薬が陽性になったら、なるべく早く病院を受診する

 今、販売されている妊娠検査薬は非常に鋭敏な反応で、実は次回生理予定日の約1週間前(妊娠3週)からうっすらと陽性になることも。妊娠を心待ちにしている人はフライングで検査をしてしまいがちですが、いざ病院にかかっても超音波検査で赤ちゃんの袋(胎嚢)が子宮内に見えずに、かえって不安が大きくなったり、赤ちゃんの袋が見えないまま流れてしまう、化学流産になってしまうケースも残念ながら少なくありません。


左のラインは、尿が十分量浸透したことを証明するもので、右のラインが妊娠判定ライン。HCGというホルモンによって判定が決まります。


 さらに、不妊治療を行っている場合などは、排卵誘発剤にHCG(※1)と似たホルモンを使用することが多く、妊娠していないのにキットで陽性が出てしまうことも。妊娠を心待ちにしている人には、もどかしいですが、妊娠反応検査を行う時期は、「生理予定日から1〜2週間後(妊娠5〜6週)」がベストだと覚えておいてください。

 また、「妊娠反応が陽性」が、必ずしも「正常妊娠」とイコールではありません。妊娠反応検査は、あくまで妊娠組織から作られるホルモンをチェックしているだけ。卵管やおなかの中といった、子宮外に妊娠が成立している異所性(子宮外)妊娠(※2)や、子宮内に妊娠していたとしても、胎盤に異常がある胞状奇胎(※3)といった異常妊娠でも、妊娠検査薬は陽性となるんです。

たまに検査薬が陽性であることに安心して、1〜2カ月経ってから病院に来る人もいるのですが、早めに産婦人科で正常妊娠かどうかを確認することが、実はとっても大切なんですよ!


ひと口に「妊娠」といっても異常妊娠(化学流産、流産も含む)というケースも。早めに病院で超音波検査を受けましょう。


 

 遠藤先生の伝えたいこと  



・フライング注意! 妊娠検査薬は、生理予定日1~2週間後に
・検査で陽性が出たら早めに産婦人科へ
 


※1 HCG
ヒト絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピン、妊娠組織である絨毛から作られるホルモンでつわりの犯人でもある。妊娠検査薬に使用される。

※2異所性(子宮外)妊娠
子宮以外の場所に妊娠が成立する病気。卵管妊娠がもっとも多い。妊娠6 ~ 8週くらいに破裂し大出血することもあるので要注意。

※3 胞状奇胎
受精時の卵子と精子の不具合で、胎盤になる部分ががんのような性質を持つ病気。妊娠組織を取り出す処置(子宮内容除去術)が必要。

◆ 妊娠中はなんで葉酸が必要?

 妊娠中に葉酸は必要! とはよく知られている話だと思うのですが、では、なんのために、どの時期に必要なのか、まだまだ周知されていないように感じます。このページでは、そんな葉酸のポイントについて解説します。

 葉酸とはビタミンの一種で、ほうれん草やブロッコリー、アスパラガスなど、緑黄色野菜に多く含まれる栄養素です。その他、いちごやマンゴー、アボカドなどの果実や、肉類にも含有されています。

 葉酸は細胞分裂に重要な役割を担います。人間の体は、たったひとつの細胞である受精卵から細胞分裂を繰り返し、何十兆個もの細胞により構成されます。だからこそ、妊娠中に胎児の体を作るための栄養素として重要なのが葉酸なのです。食事のみで葉酸を十分量摂取できればよいのですが、そもそも日本人の平均葉酸摂取量は推奨量に足りていないうえに、妊娠中は胎児の体を作るために推奨量がさらに増加します。加えて、食事から摂取する葉酸は全てが体内に吸収されるわけでもないので、妊娠中に必要な葉酸を食事だけで補うのはなかなか難しいのが現状……。そこで推奨されるのがサプリメントです。アメリカでは妊娠を希望する女性に、サプリメントで1日400〜800μgの葉酸を補充することを推奨しています。サプリメントは名前のとおり、足りない栄養素を補充するためのものなので、自分の食生活から必要な量を考えましょう。

 さて、妊娠と葉酸摂取について一番重要なのは、実は摂取するタイミングです。葉酸が一番必要になるのは胎児の体が形成される時期(器官形成期)で、妊娠4〜7週が特に重要です。この時期の大きな変化として、神経管の閉鎖というイベントがあります。脳や脊髄のもとになる神経管という構造物が作られ、それが餃子の皮を包むかのように閉じられます。葉酸不足に陥ると、このイベントがうまくいかないために、脊椎の間から神経を包む膜が飛び出てしまう二分脊椎や、脳が形成されない無脳症という異常をきたすことがあるのです。

 しかしこの時期は、「生理が少し遅れたかも……」くらいのタイミングで、妊娠にすら気づいていない人も多いでしょう。となると、葉酸は妊娠前からきちんと摂取したほうがよいということになります。妊娠を希望し始めたら、積極的に葉酸を摂ることを心がけていきましょう。

 また、過去に二分脊椎症の既往がある方や、一部の抗てんかん薬を内服されている方は、葉酸の必要摂取量がさらに増えますので、妊娠を希望する際はかかりつけの医師に必ず相談するようにしてください。

 でも、妊娠中にサプリメントを服用していなかったからといって必ず神経管閉鎖不全が起こるわけではありませんし、この異常はなにも葉酸不足だけが原因で起こるわけでもないことを覚えておいてくださいね。

 遠藤先生の伝えたいこと  



・葉酸は胎児の体を作るのに重要!
・葉酸摂取推奨時期は、妊娠前から適宜サプリメントを併用




◆ つわりがムチャクチャ辛すぎる!

 妊娠初期に待ち受ける体の変化の代表格といえば、つわりです。テレビドラマでお馴染みの、女優さんが「ウッ」となり顔色を変えて洗面所へ走っていく……、いわゆるアレです。主な症状は吐き気で、食事をとるのもままならないケースも多々あります。つわりの原因は、胎盤の一部である絨毛から作られるHCG というホルモンで、このホルモンが吐き気を誘発してしまうのです。

 HCG の値のピークは、妊娠8〜12週で、この時期が一番つわりがツラ~イ時期といえます。HCG は16週くらいから、かなり低い値に落ち着くので、それまで毎日トイレでゲロゲロ吐いていた人でも、徐々に元気になります。

 つわりによって全く食事をとれない状況が続くと、体内の栄養素であるブドウ糖が足りなくなってしまい、肝臓内で脂肪酸からエネルギーを作るようになります。しかし、この方法でエネルギーを作り出す結果、ケトン体(※1)というゴミが作られるのですが、実はこのケトン体がさらに吐き気を誘発させるという悪循環を作り出してしまうのです(妊娠悪阻と診断がつきます)。そのため、体内にブドウ糖を切らさないように心がけることが重要です。人によってつわりの症状はさまざまで、飴玉・ジュース・フルーツ・炭水化物(ご飯やパン)など、口にできるものは異なりますので、食べられるものを食べられるだけ食べるようにしましょう。また、つわり中に注意したいポイントは、

1 ビタミンが不足しやすい
2 脱水により血栓が作られやすい

 という2点。つわりでは糖分とともに、ビタミンも不足しがちです。食事で摂取できればよいですが、無理な時はサプリメントを併用して、ビタミンを切らさないようにしましょう。さらに、脱水により血液がドロドロしてしまい血の塊=血栓ができやすくなってしまいます。これらの血栓が、肺の血管などに詰まると命にかかわる状況になりかねませんので、水分補給をきちんとするようにしましょう。

 つわり中に乱れた食生活になるのはしょうがないのですが、つわりが軽快した後も、食生活がそのままになってしまう人が結構います。つわりが終わったら、きちんと栄養バランスを意識した食事を心がけましょう。


体内の脂肪酸からエネルギーを作ると現れるケトン体。これがさらなる吐き気を呼ぶこと


ポテトやトマトなど、ひとつのものを集中的に食べたくなる場合や、頭痛や特定のニオイがNGになる場合も。つわりの症状と程度は十人十色です。


 遠藤先生の伝えたいこと  



・つわりは妊娠12週くらいから落ち着くのでそれまで辛抱を!

・つわりが終わったら栄養バランスを意識した食生活に


※1 ケトン体
体内のブドウ糖が足りず、肝臓内の脂肪酸からエネルギーを作り出す際に出る燃えカスのようなもの。吐き気を誘因する性質を持っている。ケトン量は尿検査や血液検査でわかる。


大切な妊娠期~産後を、より安全に、より楽しんでほしい

妊娠・出産は、人生のなかでもかけがえのない一大イベントです。
うれしさと同時に、不安や疑問が押し寄せてくるのはごく自然なこと。
「これで合ってるのかな?」「こんなとき、どうしたらいい?」
診察時になかなか聞けない、相談できないこともあるでしょう。

また、妊娠・出産は女性だけが担うものではありません。
パートナーや家族も一緒に知識を持ち、支え合って新たな命を迎える時代です。
はじめての人にも、もう一度の人にも。この一冊が、みなさんにとって安心して出産の日を迎えるための心強い味方になりますように。

【書籍情報】


著者: 遠藤 周一郎

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
A5判
ISBN
9784046069177

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