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聞かせて!けいたろう 第3回 夜の路上絵本読み聞かせに集まった、お客さんの話


今回は、けいたろうさんが“聞かせ屋”として活動することになったきっかけや、絵本の読み聞かせを始めたときのことを語ってくれました。いままでどこにも出ていないエピソードもありますよ!

こんにちは。《聞かせ屋。けいたろう》です!
僕は、夜の路上で絵本の読み聞かせを始めた、聞かせ屋です。
そのきっかけは、当時(22歳の頃)通っていた保育者養成短大にありました。毎回、授業の冒頭に絵本を読んでくれる先生がいたのです。それを楽しんでいるクラスメイトを見たときに、「絵本って、大人でも楽しめるのだなぁ」と思ったのです。
高校生時代にストリートミュージシャンだった僕は、当然のように夜の路上に立ちました。ギターを絵本に持ち替えて……と言えば、カッコイイでしょうか(笑)。

でも、読めども読めどもお客さんは集まらず、無観客の読み聞かせが続きました。
読み聞かせ初夜のお客さんは一組だけ。金髪で、長い付けまつ毛の女子高生二人でした。今思えば、彼女達が僕に“聞かせ屋”を始めさせてくれたようなものです。

路上には僕の前に15冊くらい絵本を並べて、読み聞かせをしてほしい本があったらリクエストを受けていました。彼女たちからのリクエストにこたえて手に取った絵本『かわいそうなぞう』。


つちやゆきお 文/たけべもといちろう 絵/金の星社刊


この絵本を読み終えたとき、この二人が涙を流してくれました。

読み聞かせ初夜の事は、音声だけの動画にしてみました。良かったら僕の『声』で聞いてみてください。
臨場感、ありますよ。



それからは週に二度くらい夜の路上に立ち、絵本を読みました。
路上のお客さんって……色々なんですよ。当然ですが。

ご想像通り、酔っ払いのおじさんも来ます(笑)。相手をするのが大変なのです。
酔「お兄ちゃんなにやってんの?ウィッ」
僕「絵本を読んでいるんですよ」
酔「じゃあ、僕にも読んでよ。ウィッ。これ読んで、『かわいそうなぞう』」
僕「(それ、女子高生に読んだ思い出の絵本だけど)……いいですよ」

と、読み始めたのですが、このおじさんが絵本を見ながら途中で泣き出しちゃって(笑)。戦争の話なので悲しいのですが、僕はおじさんの方が気になってしょうがなくて……それでもなんとか読み終えて、こう言ったのです。

「おじさん、終わりましたよ。悲しいお話でしたね」って。そしたらおじさんは鼻水をすすりながら、「スナック行くよりずっと良い!」
って言って、去っていったのですよ。
あれはあれで、忘れられませんね(笑)

夜の21時スタートなのに、通ってくれていた家族もいました。つーくんとあやちゃん一家(仮名)。つーくんが年長であやちゃんが年少だったかな? 帰る頃には22時半頃になりますから、子ども達の翌朝はたいへんだったそうです。とくにあやちゃんは保育園でも眠くなっちゃうらしくて(笑)。
でもママが「私達の帰りも遅いから、この時間が家族の時間なんです」と言ってくれて、すごく嬉しかったですね。あ、思い出したらグッときちゃう。

僕の路上絵本読み聞かせで卒論を書いた大学生もいました。カゲロウ君(仮名)っていう大学生なのですけど、路上での僕の読み聞かせや喋りを録音して、全て文字に起こすんですよ(笑)。お客さんの反応や視線も記録していて、間の取り方まで研究してくるのです。外国の「夜読み(よるよみ)」という風習に似ているとか何とか。今でも記録が残っているんじゃないですかね。東京大学ですよ!

食べ物を買って来て、置いていってくれるお客さんもよくいたのですけど、大抵はパンか果物。お供え物のように、ちょこんとリンゴを置かれるか、「あなた、お腹すいてるんでしょ?」みたいな感じでパンを(笑)。これも、なんだかおもしろいですよね。

路上って独特な雰囲気があって、駆け出しとか下積みとか「そういう感じ」なのです。だから、そこに温情をかける人も通れば、蔑む人も通る。ときに僕らを拾い上げる人も通ります。
例えば、新聞の取材依頼や講演依頼をいただいたり。そういう人にチャンスをもらって路上を卒業して、それで飯を食えるようになっていきます。でも僕は、それでもしばらく続けていました。「けいたろう、あなたはそこが原点なのだから、忘れずに続けなさい」って言ってくれた大人がいたのです。ありがたいですよ、そういう人って。

だから、10年続けました。冬場は休みましたし、終盤は月に一回程度になりましたが。最後の夜は人が集まり過ぎて、おまわりさんが来てしまったんです。でも、おまわりさんも僕の言い回しから最期だと察してくれて、一冊読み終えるまで待ってくれたのですよ。最後に路上の人情と言うか、そういうものを感じましたね。
よく「許可はとらないのか?」って声を頂きますが、基本的には出してもらえません。通行の妨げにならないようにしながら、路上のルールを守って……いるのかどうか分かりませんけど(笑)。そうして、挑戦と研鑽の場として立つのが、路上です。
始まりの場所であり、究極の場所です。
道行く人、自分に興味の無い人を、一瞬で立ち止まらせなきゃならないのですから。

いつか白髪の聞かせ屋になった頃に、もう一度だけそこに立つのもおもしろいんじゃないかと、思っています。

【今月のけいたろう】
絵本の制作を始めています。
僕は絵を描けないので、お話作りです。
絵本の文章作家というお仕事です。
講演会は未だに延期、でも僕は元気!

 

今回ご紹介した絵本


つちやゆきお 文/たけべもといちろう 絵

定価
本体1100円(税別)
発売日
サイズ
B5判
ISBN
9784323002118

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