
不登校のお悩みは千差万別。お子さんと向き合う中で、うまくいかないことも、どうすればいいのかわからなくなることも多いと思います。本連載では、元小学校教師で、無料のオンラインフリースクールの代表として不登校支援に取り組む福田遼さんが、家庭でできる関わり方について、わかりやすくお伝えしていきます。保護者のみなさんからよく寄せられるお悩みをピックアップし、それぞれの困りごとに対する具体的な対応策をご紹介。困ったときにガイドブックを開くような気持ちで、どうぞ気軽にご活用ください。
※本連載は『不登校をチャンスに変える一生モノの自信の育て方』から一部抜粋して構成された記事です。
こんなとき、どうしたらいい?
子どもがゲーム依存・スマホ依存です
A. 没収・禁止は逆効果。「時間」に注目した対応を
ゲームやスマホのデジタル依存は、近年もっとも多く寄せられる悩みごとのひとつです。「依存」とは、それ以外のことが考えられなかったり、食事や睡眠といった日常生活に支障が出るなど、極度に没頭している状態を指します。そこまでではなくとも、「とにかくゲームばっかりしている」「スマホでずっと動画を見ていて、会話もままならないときがある」といった状態のお子さんは、かなりいらっしゃると思います。
僕は基本的に、子どもの自主性を最大限尊重したいと考えています。自分のやりたいことを、自分の力で成し遂げてほしい。無理に「再登校させよう」としないのも、そのためです。
ただし、デジタルデバイスとの付き合い方だけは例外です。子どもの意志を尊重するよりも保護者(大人)がしっかり守ってあげたほうがいいと思っています。なぜなら、デジタル依存のリスクはとても大きいうえ、子どもが自分で抵抗するのは難しいからです。
まず、ゲームやSNSはドーパミンの急激な増加を引き起こします。ドーパミンとは、楽しいときや目標を達成したとき、褒められたときなどに分泌される神経伝達物質のこと。ドーパミンが増大すると、人は興奮状態で意欲的になるのですが、しばらくすると急減してガクッと気分が落ち込みます。そして、興奮を取り戻すために、またゲームがしたくなる。これが、簡単に「依存」にまで陥ってしまうメカニズムです。
そうして、ドーパミンの急激なアップダウンをくり返すことは、最終的に「もうなにもしたくない」という無気力につながってしまいます。
さらに、人間の脳のうち衝動を制御する領域は、だいたい25歳〜30歳くらいで完成すると言われています。つまり、10代のうちはまだまだ未発達で、「ゲームがしたい」といった欲求をみずからの意志でコントロールすることができないんです。※1
それなのに、ゲームもSNSも、みんなが夢中になるように緻密にデザインされている。大人にだって我慢するのが難しいときもあるのに、制御できない子どもでは太刀打ちなんてできません。
だからこそ、大人がルールをつくって、子どもをデジタル依存から守る必要があると思うんです。
では、具体的にどうやって守るのか。ここで、ゲームやスマホを取り上げて全面的に禁止するのは、ベストな対策とは言えないと思っています。やっぱりお子さんは大きく反発すると思いますし、それがきっかけで親子の間に修復できないほどの溝が残ることもありますから。
そこで、僕は禁止にするのではなく、望ましい行動を増やすことで、相対的にデジタルデバイスに触れる時間を減らしていく方法をおすすめしています。
具体的な対策としては、次の2つを行います。
ひとつは、使わない時間を決めること。
先ほどお話ししたような、デジタル依存の危険性をお子さんにもしっかり説明して、「こういうリスクからあなたを守りたいから、一緒にルールを決めよう」と相談します。
その際、「1日2時間まで」など「使う時間を決める」ルールを設けがちなのですが、実はそれだと守るのが難しいです。「あとすこしキリが良いところまで」「今は友だちとつないでいるから」と延長を望んで、なし崩しに破られやすいんですね。親御さんとしても、使用合計時間をつねに測っておく手間がかかります。
ですから、「使わない時間を決める」ルールをつくることを推奨しています。たとえば「21時以降は使わない」のルールなら、「21時になったから今日は終わりだね」と親子で確認がしやすく、お子さんの中でも終了時間を意識しながらゲームをすることができるはずです。
このルールを設けるだけでも、夜通しゲームをしたり、1日中動画を見るのは避けられるようになると思います。
ふたつめに、別のことをする時間を増やすこと。
家で過ごす間、子どもになにをやらせたらいいかわからなくて、ゲームやスマホに流れてしまっているご家庭も多いのではないでしょうか。ゲームをしている間、親は子どもから目を離すことができて楽ちんですし、子どももスイッチを入れればすぐにプレイできる手軽さがありますから。とくに、不登校で家にいる時間が長い子は、ゲームをする以外にやることがないから、とりあえずゲームに手が伸びる、という子も多いと思います。
それに対抗するには、子どもたちの目の前に「やったほうがいいこと」や「ゲームよりお得なこと」を差し出せばいいのです。
たとえば、P110でご紹介したようなメニュー表(※2)を使って、「今からどれをやる?」「どれだったらできそうかな?」と尋ねると、子どもたちは間違いなくメニューをひとつ選んで、きちんと取り組んでくれます。
加えて、トークンシステム(※3)を活用して「どれかを選んで取り組めば良いことが起こる」状態をつくれば、子どもたちの中で自然とその行動が増えていきます。
ゲームやスマホに変わる行動を提示して、それをやったほうがお得な状態をつくる。このやり方で、相対的にデジタルデバイスに触れる時間を減らしていくことができるんです。
「△時に寝たら、トークンゲット」も同じ理屈で効果的です。ゲームをやらずに早く寝たほうが、子どもにとってお得な状態をつくっている、というわけですね。
僕らのフリースクールでは、この2つの対策に取り組むことで、ゲームの時間を劇的に減らすことができた生徒がたくさんいます。どの子も2〜3週間もあれば変化が見られました。
もうひとつ、デジタル制限に取り組むときのコツとして、「ベースライン」の考え方もお話ししておきます。
かなり長い時間デジタル機器を使うのが日常になっている場合、いきなり使用時間を大幅に減らすのは難しいと思います。ですから、今の使用時間をベースラインに設定して、そこからすこしでも使用時間が減少したらGOODと考えるんです。
たとえば「先週に比べて1時間も減ってるよ!」とコンプリメント(※4)に活かしてもいいし、1時間減ったらトークンを1Pゲットできるようにするのもいいですね。「1日に5時間も3 使っている」と考えたらやりすぎだと叱りたくなりますが、「ベースラインの8時間から、3時間も減っている」と考えたら努力の跡に着目できるはず。ベースラインの考え方を取り入れることで、この課題に対してもポジティブに向き合うことができると思います。
いきなりゲームゼロ・スマホゼロを目指すのは、かなり無謀な考えだと思います。そもそも、今の時代にデジタル機器をまったく使わないのも現実的とは言えないでしょう。スモールステップで、ゆっくり減らしていくことを念頭に、デジタルデバイスとの適度な付き合い方を探していってほしいと思います。
※1『スマホ脳』アンデシュ・ハンセン著、久山葉子翻訳・新潮社
※2 子どもが家で取り組める行動(勉強・掃除・料理の手伝いなど)をリスト化し、自分で選べるようにした表。レストランのメニューのように「この中から選んでできたら1ポイント」といった使い方ができます。
※3 「トークン」と呼ばれる報酬(ポイント)を活用して、子どもたちの望ましい行動を増やす方法。子どもが決めた行動を達成した際にシールやポイントを貯め、一定数貯まるとご褒美があるような仕組みで、子どもたちの行動を増やしたり、行動のモチベーションを高めることができます。
※4 日本語で言うと「褒め言葉」。子どもの行動や努力について、肯定的に褒める言葉かけをすることです。
※参考文献 『今、子どもの不登校で悩んでいるあなたへ』上野剛著・風詠社。年齢別の対応などについては、こちらの書籍がとても参考になりました。
不登校の子どもたちへの伴走は、ひと筋縄ではいきません。だからこそ、ひとつずつ試しながら、お子さんに合った方法を見つけていくことが大切です。再登校もその先も、一進一退。焦らずに、今できそうなちょっとしたことから取り組んでいきましょう。
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