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新井洋行さんは、オリジナリティあふれる構成やギミックで、子どもに刺さる本を出版し続けてる絵本作家です。
この記事では、新井洋行さんと、担当編集者であるKADOKAWAの内藤澄英さん、講談社の森絵美さんの特別鼎談をレポート。
後編は、高校3年生と、高校1年生のお父さんである新井さんが、楽しく子育てをする方法と、絵本の読み聞かせが苦手な人に、読み聞かせるポイントなどを伺います。
★前編:「娘が生まれた年に仕事をやめて絵本作家に 新井洋行の『斬新』な人生」はこちらから読めます。
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新井洋行さん(中央)の絵本を見ながら、お話しするKADOKAWAの内藤澄英さん(左)と講談社の森絵美さん(右)。
大人が全力で遊べば創造力豊かな子どもが育つ
KADOKAWA 内藤澄英さん:そろそろ、クリスマスの時期ですね。新井家のクリスマスは、どんなことをするのですか。
新井洋行さん:我が家は一人一人が500円のプレゼントを買って集まり、くじ引きを引いて交換しています。誰に誰のプレゼントが渡るか、わからないのがおもしろい。
講談社 森絵美さん:楽しそう! お料理も盛大につくったりするんですか。
新井:いや、平日はほぼ毎日、僕が料理をつくっているので、クリスマスのときは作るのはシチューくらいで、他にはオードブルなどを買ってきてみんなで食べます。人とちがう、特別なことはあまりしないです(笑)。
森:ときどきエピソードを聞きますけど、新井さんって本当に家庭的です。
内藤:新井さんのお子さんは高校生(2022年12月現在)ですが、お子さんがもっと小さな頃は、どんな遊びをしていましたか。
新井:よく一緒に絵を描いていました。床一面に新聞紙をひいて、画用紙に絵の具を思い切りぶつけて遊んだのは最高だったな。
森:す、すごい……。うちの4歳の娘は小麦粘土をポロポロ落としながら遊ぶので、掃除して娘のまわりを回る自分のことを、ふと「人間ルンバみたい…」と思ってしまいます(笑)。
内藤:うちも子どもが3人いるので、よくわかる! 喜ばせてあげたい気持ちと、片付ける大変さを天秤にかけて、いつも悩みます。
新井:特に工作系の後片付けは、大変ですよね。僕は子育てを、2度目の人生を送るチャンスだと思っていて。もう1回、赤ちゃんから大人になるまでの人生を体験できるんことなんて、子育て以外にないじゃないですか。
だから、娘がおままごとに夢中になっているときは「本気のおままごとを見せてあげよう」と思って、ダンボールで大きなお店をつくりました。そこで子どもたちが飽きたおもちゃや絵本を売ると、もう一度、子どもが遊んでくれたりして。
僕が子どもと遊ぶことに全力を注いでいると、子どもたちも遊びに本気で取り組むんです。長女は小学4年生のときに、シナリオづくりから演劇をして遊んでいました。
森:4年生で!? しかも本格的ですね。
新井:父の日や誕生日には、手作りのものをプレゼントしてくれます。長女に欲しいけど買えないバイクの話をしたら、タイヤのスポーク1本1本まで手作りの、バイクの模型をつくってくれて。次女は絵が上手なので、描いた絵をためて、画集をくれたこともありました。
内藤:お父さんが本気で楽しみながらつくっている姿をみて育っているから、お子さんも、どんどんクリエイティブな能力を発揮しているんですね。
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新井洋行さんのお子さんが、お父さんに贈った作品の数々。
誰もが楽しめる「台本」をつくるのが絵本作家の仕事
森:新井さんのアトリエには、壁一面たくさんの絵本が並んでいます。やっぱり絵本の読み聞かせも、お子さんにしてたんですか?
新井:よくしていました。僕が絵本作家としてスタートを切ったのは、ちょうど長女が生まれたとき。子どもたちにたくさんの絵本を読みながら、僕も勉強させてもらいました。
内藤:絵本の読み聞かせって、親御さんのなかには「読むのが恥ずかしい」とか「どう読んだらいいかわからない」と感じている人もいると思うのですが、新井さんはどうでしたか。
新井:子どもにとっては意外と、親がどう読んでいるかは気にならないんじゃないかな。子どもが絵本を読んでもらうとき、ものすごい集中力で聞いているなと思ったことないですか。
森:あります、あります。細かいところまでよく覚えていたり、親の方が気がつかない絵のしかけに注目していたり。
新井:あの姿をみて、子どもにとって絵本は「情報」じゃなくて「体験」なんだと思ったんです。大人にとって本は、情報を得るものなんで、ちゃんと文字を読むことに気を配りがち。だけど子どもにとっては、文字を正しく読むことは、あまり重要ではないかもしれないです。
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絵本作家の新井洋行さん。
手にしているのは、プラスチックの丸いケースにはいったパーツを鳴らしながら、各ページのイラストを楽しむことができる絵本『しゃかしゃか』(くもん出版)。
内藤:たしかに! では、大人は読み聞かせするとき、どんなところに気をつけたらいいと思いますか。
新井:う~ん、むしろあまり「気をつけない」ことかな。というのも、子どもが小さいときに読んだ絵本『三びきのやぎのがらがらどん』(福音館書店)に衝撃を受けたことがあって。
トロルがやぎに唸るシーンを「誰だ、俺の橋を渡るのは!」と僕がノリノリで読んだら、子どもたちが大喜びしてくれたことがありました。そのときに絵本というのは、大人と子どもののコミュニケーションをとるための「台本」なんだと気付いたんです。
絵本は「読む」ものではなく、「読んでしまう」もの。読むだけで楽しいから、読み手が何かをがんばる必要はないんじゃないかと。
森:そう考えると、ちょっと肩の荷が下りる感じがしますね。
新井:そうでしょう。だから僕も、誰が読んでも心がのってきて、子どもたちも嬉しいものをつくりたいと考えました。
僕がつくった絵本『しゃか しゃか』も、絵だけでなく、文字の大きさや傾きのデザインも含めて、大人も子どももワクワクできるように、こだわって作っています。
内藤:子どもに新井さんの絵本を読んでいると、一緒に遊んでいる気持ちになるのは、そういう意図があったからなんですね。
新井:うれしいなあ。読むのが苦手だと感じている人も、気軽な気持ちで絵本を手にとって、あとは僕の絵本に任せてもらえれば大丈夫。きっとお子さんと、ハッピーな時間を過ごせると思います。
内藤・森:どうもありがとうございました。
取材・文/山口真央
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