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撮影 後藤利江 文 久保美鈴
与えられた課題を受動的にこなしているだけでは、子どもに本当の学力は身につかないもの。保護者としては、自分から積極的に学んでほしいと願っていることだろう。その自立学習をするにあたって、強力な武器となりうるのが「学習まんが」だ。特に、近年出版された角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』『世界の歴史』は、2020年度より導入された文部科学省の新学習指導要領「生きる力」に基づいて、最新の内容にアップデートされている。
この「学習まんが」をどうすれば自立学習に生かせるのか。子どもたちの知的好奇心を刺激する独特の授業で知られる「探究学舎」の代表を務める宝槻泰伸さんに話を聞いた。
いま、歴史に注目が集まるわけ
――宝槻さんが代表を務める「探究学舎」では、「戦国英雄編」というテーマの授業の人気が高いそうですね。
宝槻 特に人気があるのが、織田信長や武田信玄です。関連するまんがを読んだり、映画やドラマを見たり、さらには自分で大阪城や上田城に行って、その記録を自由研究にする子どももいます。これまでもいろいろなテーマの入門編を手がけてきましたが、歴史という分野についてはますます需要が高まっていくのではないかと思っています。
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――そこまで歴史に注目が集まるのはなぜでしょうか。
宝槻 歴史には膨大な情報があって、そこに学び続ける理由があります。ひとつには、人間ドラマに触れられるということ。そしてもうひとつは、自分たちが今生きている社会を理解するための手段として、歴史を学ぶことには意味があると感じ取ること。魅力的な人間ドラマがおもしろいというエンターテインメント性と、歴史を知識として手に入れることの意義深さと重要性。この両輪があるからこそ、歴史が注目されているのだと思います。
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子どもたちに人気の高い上杉謙信VS武田信玄の戦いは『日本の歴史』第7巻に登場
学習まんがを歴史の勉強の出発点に
――子どもたちが歴史という学問に触れるうえで、学習まんがは有効だと思いますか?
宝槻 もちろんです。僕自身、最初に歴史に出会った出発点は学習まんがでしたから。各社の学習まんがや伝記まんがを読んで、大河ドラマも見て、そして小学校高学年からは歴史小説を読むというプロセスで歴史を身近に感じるようになりました。学習まんがシリーズが家の本棚にあるということと、歴史をテーマにしたまんがや映画に触れること、歴史ビジュアル図鑑を読むということは、すべてシームレスにつながっていると思います。
――自立学習にとってはいかがでしょうか。
宝槻 有効だと思います。子どもが歴史を身近に感じられないとしたら、当時の具体的なイメージがわかないということが要因のひとつにあると思います。たとえば、奈良時代の人の生活のイメージがビジュアルで浮かぶ人はあまりいませんよね。でも学習まんがであれば、それを絵という形で見せてくれます。なおかつ、登場人物がセリフを語っていくなかで、当時の価値観も自然とわかるように描かれていく。そこをベースにして、知識を吸収できるというのはすごくいいことだと思います。まんがで歴史の知識を吸収する学習体験をした子どもたちはおもしろくなって自分から次を手に取るようになります。
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読んでもらうための工夫とは?
――ただ、学習まんがが本棚にあったとしても、なかなか「読む」という行動につながらないかもしれません。読んでもらうために、保護者ができることはあるでしょうか。
宝槻 まずは、興味のある時代の巻から読んでもらうということです。僕の経験則では、子どもが歴史好きになるきっかけの時代は主に3つです。まずは戦国時代と幕末。あとひとつが中国の三国時代、すなわち「三国志」です。わかりやすい登場人物がいて、争いというダイナミクスがあって、個人が歴史を動かしていくようなエネルギー感というかポテンシャルがある。そのあたりの巻からまず読むといいと思います。
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中国の三国時代が描かれている『世界の歴史』第3巻
――興味のあるところから入ってもらうのが重要なんですね。
宝槻 そうです。たとえば「桶狭間の戦い」とか「川中島の戦い」とか、「徳川家康」とか、そういったわかりやすいところで魅力を感じてもらうのが重要です。
史実とエンタメの違いから学べることも
――必ずしも学習まんがシリーズの第1巻から読まなければいけないわけではなく、興味のあるところから始めればいいのですね。
宝槻 『日本の歴史』にしても『世界の歴史』にしても、第1巻から読み始めると興味が続かないかもしれません。気になるところから始めて、そこから横に広げていくのがいいと思います。
歴史の学習プロセスというものがあるとしたら、歴史学的な視点をもつというのは学習の段階の最後のほうなんですね。まずは、ある時代や事件に興味をもってそれをひたすら掘り下げていくということが大切です。僕自身も、まずは戦国時代が好きになって、戦国武将の人物伝的なものを読みまくりました。そしてある程度知識がたまってから、それを整理していくものとして通史的な書籍を読んでいったんです。ですから最初のうちは、信長や信玄の物語を楽しむことでも充分だと思います。好きな時代、人物から読み始めるとどんどんハマっていきますよ!
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――史実に基づいて書かれている学習まんがを通してどのような学習効果が得られるでしょうか?
宝槻 たとえば、角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』の8巻の「桶狭間の戦い」は「奇襲説」を採らずに、最新の学説に基づいて描かれています。セリフも『信長公記』をまじえて書かれているので、史実がどうだったのかを自分で探究できるんです。エンターテインメントの場合は、作品をおもしろくするためなら歴史上のウソがあっても構わないし、話をふくらませて架空の登場人物が出てくることもありますが、学習まんがはそうはいかない。学習まんがはエンタメ性ではなく、網羅性や事実に価値を置いているんです。さらに関連する7巻や9巻を読むことで歴史理解を広げていくことができる。学習まんがはそういうツールだと思います。
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最新の学説によって描かれた桶狭間の戦いは『日本の歴史』第8巻で
日本史を入り口に、世界史へ
――子どもたちに人気があるのが戦国時代ということですが、世界史についてはいかがでしょうか。
宝槻 戦国時代を入り口にして、それがおもしろいということになれば、興味は幕末や鎌倉時代につながっていきます。そうなれば、自然と世界史にも興味をもつでしょう。探究学舎でも、世界史に関する授業を始めようと踏み出しています。海外在住の生徒さんが増えて、日本史も学んでほしいけれど、住んでいる国や地域の歴史も知っておいてほしいという親御さんの願いに応えたという事情もありますが。
――日本史に比べると世界史の市場は半分から3分の1程度といわれています。でも、この2月に発売された角川まんが学習シリーズ『世界の歴史』は、ネット書店などでは『日本の歴史』と同等かそれ以上に売れています。
宝槻 第1巻にはネアンデルタール人とホモ=サピエンスが共存していたと言う説が紹介されていますが、これも最新の文化人類学による記述ですね。情報量も文字も多いので難しいと思う子どもは多いかもしれませんが、小学校高学年からであればわからなくても読んでいくことで積み重ねられていく知識はあると思います。
今は世界史を題材としたエンターテインメント作品もありますから、それをきっかけとして世界史に入っていく子どももいることでしょう。あとは、出版社が良質な出版物を出していくことで、さらに世界史の市場は広がっていく。そういう意味では、この角川まんが学習シリーズ『世界の歴史』の意義は大きいでしょうね。
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『世界の歴史』第1巻。『日本の歴史』『世界の歴史』の両シリーズを通して最新の研究結果を反映している
おうち時間に親子のコミュニケーションを
――ゴールデン・ウィークなのにどこにも行けないという子どももたくさんいそうですが、そんな時間に手にとってみるのもよさそうですね。
宝槻 自宅にいる時間が長くなって、保護者が一番悩んでいることは何かというと、子どもがYouTubeばかり見ていることなんです。YouTubeで時間を消費し、しかもくだらない中身のものばかり見ているというのが、全世界の保護者の共通の悩みです。どうすれば子どもたちが精神的にも人生的にも意味のあるコンテンツを自ら手にとって学んでくれるだろうと保護者は思っていて、それを支えてくれるひとつが学習まんがの役割かもしれません。
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――大人が読んで勉強になったという声も届いています。
宝槻 いい塩梅の情報量があって、なおかつ現代につながるバランスのものを学び取れるという意味では、大人にも勧めたいですね。探究学舎の授業も最新の学説に基づいているので、見学した親御さんが自分たちが学んだ知識とは違うと言って驚かれることがあるんです。親世代にも最新の学習まんがを読んでもらって、歴史はアップデートしていくものだと知ってもらう。それを親子のコミュニケーションをとる機会として、自立学習に役立てていただくのもいいでしょうね。
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宝槻 泰伸(ほうつき・やすのぶ)
探究学舎代表
幼少期から「探究心に火がつけば子どもは自ら学び始める」がモットーの型破りな父親の教育を受ける。高校を中退し京大に進学。ふたりの弟も京都大学に進学し「京大三兄弟」となる。2011年、東京・三鷹に探究学舎を開校。歴史・宇宙・経済・芸術といった様々な分野で子どもたちが「わあ!すごい!」と驚き感動する授業を届けている。昨年4月から始めたオンライン通塾事業では、全世界から2200世帯以上が受講中。5児の父。
探究学舎 https://tanqgakusha.jp/
商品の紹介
角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』
監修:山本博文(東京大学教授)
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角川まんが学習シリーズ『世界の歴史』
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