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絵本芸人・ひろたあきら ステイホーム中に生まれた絵本『いちにち』刊行記念インタビュー


撮影:後藤 利江  取材・文:大和田 佳世

2021年4月7日で、感染症拡大防止のため最初の緊急事態宣言が発令されてからちょうど一年。この日にあわせて、ステイホーム中に生まれた、ひろたあきらさんの絵本『いちにち』が発売されます。吉本興業所属のお笑い芸人であり、デビュー作『むれ』で、「第12回MOE絵本屋さん大賞2019」新人賞第1位をはじめ、さまざまな絵本賞を受賞し話題となったひろたさん。新作へ込めた思いをうかがいました。

「水槽の中の魚みたい」と思ったとき、生まれた絵本

――前作『むれ』から2年。待望の2作目ですね。

『むれ』は、いろんな群れの中に1つだけ違うものが混じっていて、探し絵を楽しめる絵本ですが、この『いちにち』は、探し絵のページもあれば、そうでないページもあります。ページごとに遊びの角度を変えてみたので、読む人によって好きな場面が違うんじゃないかなと。また、いろんな集団が出てくる『むれ』と違って『いちにち』は1匹の魚が主役。水槽の中のある魚の「いちにち」を描きました。



――どのように生まれた絵本ですか?

ステイホーム期間中に僕が感じたことから生まれた絵本です。春の緊急事態宣言直後、芸人としての舞台や読み聞かせイベントはなくなってしまったけれど、しばらくはステイホームも楽しかったんですよね。小説を読んだり、アニメを観たり、植物を育てて毎日水やりをしたり……。それまでやろうと思ってできなかったことができました。

でも6月頃にはいろんなことをやり尽くして、朝起きてすぐ「今日、何をしよう」と考えるのがつらくなってしまった。目が覚めると「またこの部屋の中か」と思って落ち込むんですよ。夜、友人と電話してても「明日、オレ何したらいい?」と聞いちゃうくらい(笑)。何をしたらいいかわからなくて……。
部屋の外に出られない自分を、あるときふっと「水槽の中の魚みたいだな」と思いました。水槽の中に1匹の魚が思い浮かんだ瞬間、「あ、これは絵本にできそう」と思って、描き出したらするするっとラフが出来上がりました。


『むれ』は色鉛筆で着彩したが、今回は発色のきれいなコピックというマーカーを使用。


――青い魚が「きょうは どれを たべたかな?」「どんなえを かくのかな?」。ページをめくるごとにいろんな場面があらわれますね。

食べて、絵を描いて、本を読む……ステイホーム期間中の僕自身そのままです。魚は森や海に行き、宇宙へも行きます(笑)。


絵本の見開き。「きょうは どんなえを かくのかな?」


実はこの魚は「ベタ」という熱帯魚がモデルです。オス同士一緒の水槽に入れると激しく争ってしまう「闘魚」で混泳をさせられないのが特徴なんですよ。1つの水槽に1匹で飼われることが多くて。熱帯魚って、カラフルな魚が水槽で一緒に泳いでいるイメージがあるから、ちょっと珍しいですよね。


もともと魚が泳いでいるのを見るのが好きなひろたさん。ベタをモデルに描きはじめてからはたびたび熱帯魚ショップを訪れ、泳ぐ様を眺めていた。水槽にいるのは紅白模様のベタ。


――魚に自分を重ねたのですね。

はい。ベタはもともと好きな魚で、新作を思いついたとき、この内容にベタはぴったりだなと思いました。
実家で熱帯魚を飼っていたから、上京したばかりの頃にたまたま吉本興業本社の近くに熱帯魚屋さんを見つけて、「落ち着く場所を見つけた」と嬉しくてよく行っていたんです。ベタもそこにいました。
後から知ったんですが、ベタは宇宙へ行ったことがある魚とも言われているそうですね。空気中の酸素もとりこめるラビリンス器官というものを持つ“肺魚”と呼ばれる。低溶存酸素、低水温に強く、小型容器で飼育できる魚だそうです。


ベタにはさまざまな種類があり、ひれのタイプや、体の色や模様も多様。カラフルなものも多い。絵本と同じ真っ青なベタも。


――小さな部屋のステイホームにぴったりですね(笑)。

本当にそうなんです。「すごい! 絵本にぴったりだ」と思いました(笑)。

「いちにち」の繰り返しの先に、誰かに会える未来がある

――描き上がってみて今の心境はいかがですか。

外に出たい、誰かに会いたい、という一人暮らしの自分の思いからつくりはじめた絵本ですが、なるべく子どもに楽しんでもらえるように工夫しています。
『むれ』は手作り絵本のときからイベントで何度も読んで、子どもたちがめちゃくちゃ楽しんでくれる様子がわかっていたのですが、『いちにち』は制作中ほとんど誰にも見せていません。「読んだ子がなんて言うだろう?」「楽しんでもらえるだろうか?」と楽しみと不安で押しつぶされそうです(笑)。


「迷路は行き止まりをつくらないように考えました」とひろたさん。道を間違えてもぐるぐる巡って遊べるようにイメージしたそう。


ステイホーム期間中は“コロナうつ”や自殺などのつらいニュースもありましたよね。周囲でも、芸人や俳優をしている友人たちは、仕事がなくなったり、アルバイトをしようにもできない状況がつづいて落ち込んでいました。
『いちにち』を最後まで読んだ人がどんなふうに感じるかわからないけど、子どもでも大人でも、少しでもこの本を気に入って“ちょっと楽になった”と思ってくれたら嬉しいなと思います。

――制作中に感じたことで、何か印象に残っていることは?

この本をつくりながら思ったのは、みんな、疲れたら何もしなくてもいいんじゃないかなと思って(笑)。「もう、今日は何もしません。横になって夢を見ています」みたいな。“休んでもいいいんじゃない?”という思いを込めたページも何か入れたいなと思っていました。



コロナによってステイホームしなければ『いちにち』は描けなかった絵本だと思います。だから、今、つくることができてよかった。そして、ベタが好きなので、ベタの絵本が描けて嬉しいです! できあがった絵本を何冊か本棚に並べてみたら、背表紙のベタが並ぶので、めちゃくちゃ可愛いんですよ。

――いろんなことがあった1年だからこそ、完成した2作目ですね。

当たり前だった日常が変わり、みんなそれぞれつらいことがあったと思います。もしかしたら身近な人が新型コロナにかかって心配したり、中には大事な人に会えなくなってしまった人もいるかもしれない。
新型コロナに限らず、今まで会えていた人に急に会えなくなるのは、この先、誰にも起こりうることですよね。友人が引っ越したり、進学や就職で一人暮らしをはじめたり、家族が病気になったり……。この本に込めた思いが何か届いたらいいなと思います。



――最後に、読者へメッセージを。

一日、一日と、毎日はつづいていくから、「さかなの いちにちが はじまります」からはじまって「さかなの いちにちが はじまります」と終わることで、いい絵本の終わり方ができたなと思ってます。
最後に2匹の魚が出会う場面があります。向かい合うもう1匹の魚は、友人か、恋人か、家族か。それとも、昨日と違うもうひとりの自分か……。読む人によっていろんな見方できると思います。ぜひ読んで、みなさんの感想を聞かせてください。

撮影にご協力いただいたお店
パウパウアクアガーデン新宿店
http://www.paupau.co.jp/html/map_sin.html

 

書籍情報



今、どこに行きたい? だれに会いたい? ステイホーム中に生まれた物語
さかなの いちにちが はじまります。 本を読んだり、絵を描いたり、花に水をあげたり・・・・・・。 ちょっと不思議なさかなのいちにちを、文章の問いの答えを探しながら読み進めてみてください。 最後にはっと、気づかされます。 第12回MOE絵本屋さん大賞2019新人賞第1位を獲得した『むれ』に続く、ひろたあきらの絵本第2作目。 想像力を膨らませながら読んでみてください。


作:ひろた あきら

定価
1100円(本体1000円+税)
発売日
サイズ
その他
ISBN
9784041112137

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