「――ハレくん、きて!」
中休みになってすぐ、ハレくんをつかまえて、人通りが少ないおどり場まで連れていく。
「ねえ、特訓はやめよう! おねがいっ」
手を合わせて、必死にたのみこむ。でもハレくんは、あっさり首を横にふる。
「やめない。はじめたばっかりだろ」
「はじめたばっかりで、すごく目立ってるのっ」
二時間目の体育も、たいへんだった。
跳び箱にびくびくしていると、ハレくんが「だから、度胸が足りない」って、先生を無視して個人レッスンをはじめちゃって……。
「わたしたちが知り合いって、バレちゃったし」
「バレたってべつにいいだろ。ほんとうにそうなんだから」
「そうだけど……そもそも、度胸をつける特訓ってなに?」
「神さまはな、たよられるのがしごとなんだよ。たよられるやつは、どんなときも堂々としていなくちゃいけない。そのために必要なのが、度胸なんだよ」
「そんなこと言われても。わたし、たよられるキャラでもないし……」
「あ、空ちゃん」
ふいに、蘭ちゃんが下の階からあらわれる。
「太陽くんとお話ししてるのに、ごめんね。でも、この前のお礼をちゃんと言いたくって」
「お礼?」
「天気を聞いたとき、雨がふるって言ってくれてうれしかった。しかも、そのあとほんとうに雨がふって……。さすが、ぜったいにお天気予報を当てるお天気係だね!」
蘭ちゃんは、キラキラした顔で言う。
「ありがとう。これからも、たよりにしてるね」
「うっ! う、うん。まかせて……」
もうたよりにしないでなんて、言えないよ。よろこんでくれてるのに。
「ふ~ん、なるほどなあ」
蘭ちゃんが行って、ハレくんは大げさな声を出す。
「たよられるキャラじゃないとか言いつつ、学校では堂々と自慢してたんだなあ」
「いや、その……だって、じぶんが天気の神さまになるなんて思わないから~~」
「今さら、泣きごと言うな。まかせろって答えたんなら、がんばるしかないだろ」
「でも、自信ないよ。運動会を、カンペキに晴れにするなんて」
六月はよく雨がふる。悪天蝶だって、晴れにさせないようジャマしにくるって話だし。
「ハレくんたちも不安だよね。こんなわたしが、天気の神さまになっちゃって……」
「いいや、まったく。不安に思ってるヒマない。空を、地獄に行かせるわけにいかないからな」
あ……。
「地獄は、ほんとうにやばいところだ。オレたち以上に、空にはつらいだろ。それにじっさい、地獄に落ちた仲間がいる。そいつも自信がなくて、いつも不安がってた。ぜったい助けるって約束したのに、助けられなかった……。仲間を失うのは、二度とごめんだ」
ハレくんは、くやしそうにくちびるをかむ。
「ハレくんは、わたしを仲間って思ってくれてるってこと?」
「あたりまえだろ。きっかけはどうであれ、空はオレたちの仲間だ。だから、お前がどんなに自信をなくしても、オレたちがきっと助ける」
ハレくんは、きっぱり答えてくれた。
ただきびしいわけじゃなくて、ぜんぶわたしのためを思ってしてくれているんだ。
「たしかに、天気をコントロールするのはたいへんだ。でもそれも、空の気持ち次第なんだよ。空の、『熱くなる心』をきたえさえすれば、ぜったい晴れにできる」
熱くなる心……。
「あのね、ハレくん。そのことなんだけど――」
「あっ、分かったぞ!」
ハレくんは、一人でなにかをひらめく。
「特訓の前に、空には、神さまの自覚を持たせなくちゃだめなんだ。よし、行くぞ」
そう言って、ぐいぐいわたしの背中をおしはじめる。
行くって、いったいどこに?