
わくわくいっぱい、つばさ文庫の新シリーズ! 超~優柔不断で自分になかなか自信がもてない5年生の女の子、天川空がある日突然、天気をあやつるチカラを手にいれた!? 勇気も自信もなかったけど、つよい意思で天気をあやつるために、はじめて自分で目標をたてて、やるって決めた! 個性豊かなお天気男子たちといっしょに、運動会を晴れにせよ!(公開期限:2025年9月30日(火)23:59まで)
4★新生活はトラブル注意報?
「ねえ! 転校生たち見た? 四人もいたよね!」
「みんな、かっこよくなかった?」
「だれが、うちのクラスになるんだろう~!」
月曜の朝。教室は、季節外れの四人の転校生の話題で盛り上がっていた。
四人の転校生は、もちろんハレくんたちのこと。なんと作戦どおり、「夜雲さんの親せきの子たち」っていうことで、入学することができたの。
人間らしい名前も考えた。太陽晴くん、水月雨くん、一颯風くん、稲妻雷くん。服もランドセルも、必要なものは夜雲さんが用意してくれたし。
だけど、さっそく問題が……。
「ほんと、どうなるんだろう。はあ」
「空も気になるの? 転校生」
そばにいる莉子ちゃんに、ふいに聞かれる。
「えっ。べ、べつに気にしてないよ……?」
「ほんと、空ってウソつけないよね。目がきょろきょろしてる。あたしは気になるよ」
莉子ちゃんは、さらっと言う。
「それって、莉子ちゃんも去年に転校してきたから?」
「そうだね。まあだから、気になるっていうか、心配してるってかんじかな。ちがう学校に来るって心細いし。転校生は、言いたくても言えないことだってあるしね……」
「あの四人は、だいじょうぶだよ。言いたいことはガンガン言えるもん。さっきだって――」
「空、もしかして知り合いなの?」
あ。つい、言っちゃった……!
「そ、そう見えただけ! さっき、ちらっと見たときに、そういうかんじに見えたの!」
知り合いってバレると、あれこれ聞かれちゃう。そうなったら、ごまかすのがたいへん。
ただでさえ、もう、トラブルが起きちゃってるのに……。
――三十分前の校長室。
「こんなひどいことを……ぼくは、納得できません」
「俺も、賛成できない。ちゃんとした理由を聞かせてほしい」
「ずるいよ~! おれがさいしょに、学校行こうって言ったのに~」
「あのなあ。オレが空と同じクラスで、お前らはべつクラス! それのなにが不満なんだよ」
心配で様子を見に、とびらのすきまをのぞいたことを後悔した。
四人は、先生たちのまえで、堂々とケンカしていたの。
「なにがって、すべてが不満だよ。だってハレ、ぜったいトラブル起こすでしょ?」
「俺もそう思う。空の特訓の前に、ハレがまともな学校生活を送れるのか疑問だ」
「だったら、オレたちぜんいん同じクラスにするか? 証明してやるよ、小学生の生活くらいカンペキにこなせるってことをな」
「みんな同じクラス⁉ それでいいじゃん♪ 行こ行こ! 教室ってどこ?」
「勝手に行かないっ。話を聞きなさーい!」
自由でわがままなハレくんたちに、先生たちもバタバタ。
あわわっ。やっぱり、たいへんなことになってるよ~!
わたしは見ていられなくて、とびらを閉めた。そして逃げるように、教室に帰った。
あれからどうなったかな? 先生の言うこと、ちゃんと聞いているかな。
でも、同じクラスがだれかってだいじだよね。ハレくんたちは、わたしが天気をコントロールできるようになる特訓のために転校してきたわけだし。
机にひじをつきながら、あれこれ考える。
いろいろ教えてもらうなら、やさしいアメくんがいいなあ。
「おはよう、みんな席について」
教室のとびらが開いて、先生が入ってきた。
「今日はまず、新しいお友だちになる転校生を紹介するわね。さあ、入って」
先生は、廊下にむかって手招きする。
「このクラスの転校生――太陽晴くんよ。太陽くん、自己紹介して」
「太陽晴だ。よろしく」
強気な表情をくずさないで、堂々と自己紹介する。
ハレくんかあ。そっかあ、そのままってことになったんだね。ああ、アメくん……。
「やっぱり、めっちゃかっこいい! スポーツとか得意そう」
「たよりになるってかんじ? あたし、好きかも~」
わたしとは正反対に、クラスの女の子たちのテンションはますます上がる。
「みんなしずかにして。太陽くんの席は……あっ、天川さんの後ろね」
ハレくんは、まっすぐこっちに向かってくる。すれちがう途中、ぎろっと見られた。
「……カクゴしろよ」
低い声で、わたしにだけ聞こえるようにつぶやく。
こ、こわい……。カクゴってなに? もしかして特訓のこと? なにするの?
「じゃあ、授業に入ります。一時間目は、国語です。みんな、教科書をひらいて」
ふるえる手で、教科書をひらく。
「今日は、物語の朗読をしてもらいます。五年生になったので、ただ読むだけじゃなく、じぶんの気持ちをこめて、みんなに伝えるように読んでね。じゃあ、やりたい人はいる?」
だれもやりたくなくて、教室中が一気にしずかになる。
わたしもすごく苦手。みんなの前で読むなんてはずかしいよ。
当てられないように、教科書にかくれていよう……。
「おい、空」
うしろから、ハレくんの呼ぶ声が聞こえた。
「空、こっち見ろ」
「なに? 今、授業中だ……」
ふり向くと、ハレくんはものすごくこわい顔でにらんでいた。
「お前が、読め」
「はっ、はい!」
思わず、返事をして立ち上がってしまう。
「あら。天川さん、読んでくれるのね」
「えっ? あっ、そのっ」
みんなの視線が、わたしに集まっている。ふしぎがっている子、くすくす笑っている子、おどろいている子……。
たえられないっ。でも、ムリってことわれないっ。
「……あ、ある日……」
しかたなく、読みはじめる。でも、ちらちら教室の様子もチェックする。
わたしの声、ヘンじゃない? 先生、おこってないかな? みんな、笑ってない?
「ぜんぜん聞こえない!」
バンッと机をたたいて、ハレくんが立ち上がった。わたしも、みんなも、びっくりする。
「もっとちゃんと、声出せ。堂々と読め」
「あわわわっ、ハ、ハレく……じゃなくて、太陽くん。今は」
「いいか? これは特訓の第一歩なんだ。お前にずば抜けて足りないのは、度胸だからな」
「授業中に特訓するの!? そんなの聞いてない!」
わたしたちの言い合いに、みんながざわつく。
「特訓ってなんだ?」
「ていうか、天川さんって、太陽くんと知り合いなの?」
「みんな、しずかにして。太陽くんも、すわって。今は、天川さんの朗読中よ」
もうイヤだ~!
わたしは、まっ赤になった顔を教科書でかくす。
一時間目からこんな調子で、どうなっちゃうの?
「――ハレくん、きて!」
中休みになってすぐ、ハレくんをつかまえて、人通りが少ないおどり場まで連れていく。
「ねえ、特訓はやめよう! おねがいっ」
手を合わせて、必死にたのみこむ。でもハレくんは、あっさり首を横にふる。
「やめない。はじめたばっかりだろ」
「はじめたばっかりで、すごく目立ってるのっ」
二時間目の体育も、たいへんだった。
跳び箱にびくびくしていると、ハレくんが「だから、度胸が足りない」って、先生を無視して個人レッスンをはじめちゃって……。
「わたしたちが知り合いって、バレちゃったし」
「バレたってべつにいいだろ。ほんとうにそうなんだから」
「そうだけど……そもそも、度胸をつける特訓ってなに?」
「神さまはな、たよられるのがしごとなんだよ。たよられるやつは、どんなときも堂々としていなくちゃいけない。そのために必要なのが、度胸なんだよ」
「そんなこと言われても。わたし、たよられるキャラでもないし……」
「あ、空ちゃん」
ふいに、蘭ちゃんが下の階からあらわれる。
「太陽くんとお話ししてるのに、ごめんね。でも、この前のお礼をちゃんと言いたくって」
「お礼?」
「天気を聞いたとき、雨がふるって言ってくれてうれしかった。しかも、そのあとほんとうに雨がふって……。さすが、ぜったいにお天気予報を当てるお天気係だね!」
蘭ちゃんは、キラキラした顔で言う。
「ありがとう。これからも、たよりにしてるね」
「うっ! う、うん。まかせて……」
もうたよりにしないでなんて、言えないよ。よろこんでくれてるのに。
「ふ~ん、なるほどなあ」
蘭ちゃんが行って、ハレくんは大げさな声を出す。
「たよられるキャラじゃないとか言いつつ、学校では堂々と自慢してたんだなあ」
「いや、その……だって、じぶんが天気の神さまになるなんて思わないから~~」
「今さら、泣きごと言うな。まかせろって答えたんなら、がんばるしかないだろ」
「でも、自信ないよ。運動会を、カンペキに晴れにするなんて」
六月はよく雨がふる。悪天蝶だって、晴れにさせないようジャマしにくるって話だし。
「ハレくんたちも不安だよね。こんなわたしが、天気の神さまになっちゃって……」
「いいや、まったく。不安に思ってるヒマない。空を、地獄に行かせるわけにいかないからな」
あ……。
「地獄は、ほんとうにやばいところだ。オレたち以上に、空にはつらいだろ。それにじっさい、地獄に落ちた仲間がいる。そいつも自信がなくて、いつも不安がってた。ぜったい助けるって約束したのに、助けられなかった……。仲間を失うのは、二度とごめんだ」
ハレくんは、くやしそうにくちびるをかむ。
「ハレくんは、わたしを仲間って思ってくれてるってこと?」
「あたりまえだろ。きっかけはどうであれ、空はオレたちの仲間だ。だから、お前がどんなに自信をなくしても、オレたちがきっと助ける」
ハレくんは、きっぱり答えてくれた。
ただきびしいわけじゃなくて、ぜんぶわたしのためを思ってしてくれているんだ。
「たしかに、天気をコントロールするのはたいへんだ。でもそれも、空の気持ち次第なんだよ。空の、『熱くなる心』をきたえさえすれば、ぜったい晴れにできる」
熱くなる心……。
「あのね、ハレくん。そのことなんだけど――」
「あっ、分かったぞ!」
ハレくんは、一人でなにかをひらめく。
「特訓の前に、空には、神さまの自覚を持たせなくちゃだめなんだ。よし、行くぞ」
そう言って、ぐいぐいわたしの背中をおしはじめる。
行くって、いったいどこに?