
わくわくいっぱい、つばさ文庫の新シリーズ! 超~優柔不断で自分になかなか自信がもてない5年生の女の子、天川空がある日突然、天気をあやつるチカラを手にいれた!? 勇気も自信もなかったけど、つよい意思で天気をあやつるために、はじめて自分で目標をたてて、やるって決めた! 個性豊かなお天気男子たちといっしょに、運動会を晴れにせよ!(公開期限:2025年9月30日(火)23:59まで)
5★カレーライス騒動?
「――四時間目の授業を終わります。それじゃあ、給食当番の子たちは準備をよろしくね」
先生が出て行って、みんな立ち上がる。おしゃべりをしたり、トイレに行ったり。
でもわたしは、席についてぼーっとしたまま……。
「空。空ってば」
「あ、莉子ちゃん」
「あたしたち、今週は当番だよ。どうしたの? 具合でもわるいの?」
「ううん、だいじょうぶ。行こう」
「どこに行くんだ?」
うしろで、ハレくんも立ち上がる。一人にしちゃ、まずいかな。
「給食の準備をしに行くの。ハレくんもいっしょに……」
「太陽くん! お話ししよう! どこから来たの?」
「なんで、こっちに転校することになったの?」
すぐに女の子たちにかこまれて、ハレくんはその場から動けなくなる。
ちょっとほっとしちゃう。いっしょにいたら、「目標はまだか?」って急かされるもん。
はなれてゆっくり考えよう。莉子ちゃんの手をとって、教室を出た。
今日はカレーライス。給食室から教室まで、重たいお鍋を莉子ちゃんと運ぶ。いつもは「こぼさないように」って集中するけど、今頭にあるのは「運動会の目標」のことだけ……。
「ねえ、空。さっきはだいじょうぶって言ってたけど、なにかなやんでるんじゃないの?」
もうちょっとで教室ってところで、莉子ちゃんは立ち止まって聞いてきた。
「心配してくれてるの? やさしい! 莉子ちゃんは、いつもわたしを気にかけてくれるね」
「空はとくべつ。あたしが、引っ越してきたばかりで街で迷子になっていたときに、声をかけてくれたから」
「あれ、夏休みだったよね。休みが明けたら、まさかの同じクラスに転校してきて……あっ、あの日ぐうせん出会えたから、とくべつってこと?」
「じゃなくて。道案内してくれるはずの空も、いっしょに迷子になったでしょ。そのとき、放っておけないなあって思ったんだよね。そういう意味で、とくべつってこと」
うっ、理由が情けなさすぎるっ。あのときにもどって、やり直したいよ~。
「それで、なにになやんでるの?」
「えっとね。わたしが、運動会でがんばりたい目標ってなにかなあって」
「運動会の目標……? 体育委員で、そういう宿題でも出たの?」
「まあ、そんなかんじかな……。そうだ。莉子ちゃんはある? 運動会でかなえたい目標」
「えっ、あたし?」
「やっぱり、リレーにえらばれたから、一位をとる! とか?」
莉子ちゃんは、女子で一番足が速いもんね。ぜんいん賛成で、すぐに決まった。
「あたしじゃなくて、今は空の目標を決めなくちゃ。空は、借り人競争に出るんだよね」
「うん。わたしは、くじで、当たっちゃっただけなんだけど……」
借り人競争って、やることいっぱいなんだよね。速く走って、お題の紙に書いてある借り人をすぐに見つけて、ゴールまで二人三脚してって……ぜったい、ばたばたしちゃう。
「じゃあ、空こそ、借り人競争で一位をとるって目標でいいじゃない」
「へっ? 莉子ちゃん、なに言ってるの。だめだよ」
すぐに顔を横にふる。
「なんでだめなの? 一位になりたくないの?」
そう聞かれて、こんどは言葉につまる。
正直、白いゴールテープを切って一位になる子には、いつもすごくあこがれる。
わたしも、一位になってみたいよ。
でも、だめ。足がおそいから、ぜったいムリ……。
「「「「「え―――――!」」」」」
とつぜん、一組の教室から、みんなのさけび声が聞こえた。莉子ちゃんと顔を見合わせる。
いそいで教室に入ると、ハレくんを中心に大きな輪ができていた。
「太陽くん、カレー食べたことないってほんとうなの⁉」
「もしかして、外国の学校にいたの? でも、カレーって、外国にもあるような……」
「今まで、なにを食べてたの?」
「もちとか、まんじゅうとか。でも、一番よく食べてたのは塩だな」
ハレくんはあたりまえのように答える。でも当然、みんなは首をかしげた。
「塩って……食べものなの?」
「調味料? だよね。それでお腹いっぱいになるの?」
ハレくん、正直に答えすぎっ。やっぱり、一人にしないほうがよかったかも~!
給食を配り終わって、近くの席の四人で机をくっつける。
わたしのとなりは、ハレくん。さっきの話のせいで、みんなの視線が集まってる……。
「これが、カレーか。どろどろしてるけど、食べられるのか?」
「もちろん。ちょっとからいけど、おいしいよ。はやく食べなくちゃ。みんな、見てるよ」
「分かってるって」
ハレくんが、ひとさじすくう。
そのときだった。
「ハレ、食べちゃだめだ!」
とつぜん教室のとびらが開いた。びっくりしてふり返ったら、アメくんだった。
深刻そうな顔で、こっちに向かってくる。
「アメくん、どうしたの?」
「ハレは、まだカレーを食べてない……?」
「今からだったんだよ。なにかあったのか?」
「フウが……フウがたおれたんだ。カレーライスを食べて……!」
「え――?」
わたしの手から、スプーンが落ちた。
「フウくん!」
ハレくんたちと保健室に飛びこむ。
ベッドのそばに、ライくんが立っていた。フウくんは、頭までふとんをかぶっている。
「ライ! なにがあったんだ⁉ フウはだいじょうぶなのか⁉」
ライくんは重い表情で、無言でふとんをめくる。すると――。
「みんな、どうしたの? なんかあったの?」
フウくんは板チョコをかじりながら、きょとんとしていた。どういうこと?
「なんかって……聞いてるのはこっちだ! ぜんぜんっ、だいじょうぶじゃねーかっ」
ハレくんはフウくんにおこって、それからアメくんをふり返る。
「アメもどういうことだ? たおれたとか、カンちがいするようなこと言って」
「ぼくは、ライから聞いたことを、そのまま伝えただけだよ。フウがカレーを食べてたおれたから、ハレが食べる前に教えろって」
「ライ、大げさだよ~。おれ、カレーがからくてびっくりして、イスから落ちただけじゃん」
「えっ、そうなの? ほんとうに、それだけ?」
「うん。おいしそうなにおい~って一気に食べたら、口の中がヒリヒリしてさあ。でも、こっそり持ってきたチョコで、完全復活!」
フウくんは身軽に、ベッドからジャンプして下りる。
「ていうことは、お前がさわぎの原因か」
ハレくんは、ライくんの服のえりをつかんだ。
「オレ、一口も食べてないのに!」
「ああ、間に合ってよかった。たいへんなことになる前に」
ライくんは、まったく表情を変えない。
「俺たちにとって、給食のメニューは初めて食べるものばかりで、なにが起きるか分からない。フウはたまたまだいじょうぶだっただけで、ハレやアメがたおれていた可能性もあった」
「な、なるほど。わたし、みんなの視線ばっかり気にして、もう少しでハレくんをあぶない目にあわせるかもだったんだ……ありがとう、ライくん」
「空まで真に受けるなっ。ライは、なんでも心配しすぎなんだよ。ったく」
ハレくんが、どかっとベッドにすわる。
「腹がへるのだって、たいへんだろうが。あーあ」
さすがのハレくんも、ちょっとしょんぼり。わたしも、お腹が鳴りそうかも……。
そのとき、保健室にだれかが入ってきた。
「大地、だいじょうぶか?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
深沢先ぱいと中島先ぱい! わたしは気まずくて、いそいでカーテンを閉める。
「なんで閉めるんだよ?」
「しっ。今は、先ぱいたちと顔を合わせられないのっ」
でも気になって、カーテンのすきまからのぞく。
「先生、いないな。大地のひざ、手当してもらいにきたのに」
「かすり傷だし、いいって。でも、ちょっと休んでこうぜ」
先ぱいたちはならんで、空いているベッドにすわった。
「大地さあ、さいきん運動会の練習がんばりすぎ。本番前にケガしたら意味ないじゃん。なんで、そんなにがんばるんだよ?」
「んー、もう言ってもいいかな……。おれさ、蓮が転校する前にいっしょに優勝したくて」
深沢先ぱいの本音に、中島先ぱいの肩がゆれた。
「そうだったのか……。なんにも言わないから、転校のことは気にしてないと思ってた」
「そんなわけない。ぜったい、最高の思い出をつくる。蓮のこと、忘れたくないから」
「……」
「だから言いたくなかったんだよ。お前、すぐに泣くし」
「泣いてないし! てか、おれも優勝する気満々だから。ちゃんと言えよな」
二人で、照れくさそうに笑い合う。ほんとに、仲いいんだなあ。
「でも優勝するなら、まずは天気の心配しないとな。雨ふったら、中止だし」
「それはだいじょうぶ! おれ、めっちゃお願いしておいたから。さっ、もう行こうぜ」
話しながら、二人は保健室を出ていく。
「すてきな友情だね。がんばって、晴れにしてあげたいね」
アメくんがまた感動して、なみだをぬぐう。
わたしは逆に、どんどん不安になっていく。
「どうしよう? 先ぱい、すごく信じてくれてる」
「あたりまえだ。神さまは、信じてもらえなくちゃ意味がない」
ハレくんはうでを組んで、わたしを見る。
「それで、空のかなえたい目標は決まったか?」
「考えてはいるんだけど、まだ。はあ。わたしには、熱くなる心がないのかも……」
「そんなことない」
ハレくんが、はっきり言う。
「だれの心も、熱くなれる。じぶんの気持ちを、かくしさえしなきゃな」
かくさなかったら……。
わたしは、みんなの顔色を気にするくせのせいで、気持ちをかくしちゃうことがある。
そのせいで、熱くなれる目標も見つけられないのかも。
ちょうど予鈴が鳴った。つぎの五時間目は、社会だ。調べ学習で、話し合いがある。
……まずは、かくさない練習をがんばってみようかな。
第5回へつづく(7月6日公開予定)
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