
わくわくいっぱい、つばさ文庫の新シリーズ! 超~優柔不断で自分になかなか自信がもてない5年生の女の子、天川空がある日突然、天気をあやつるチカラを手にいれた!? 勇気も自信もなかったけど、つよい意思で天気をあやつるために、はじめて自分で目標をたてて、やるって決めた! 個性豊かなお天気男子たちといっしょに、運動会を晴れにせよ!(公開期限:2025年9月30日(火)23:59まで)
6★初めてのココロ
今日の社会は、『じぶんたちの街について』っていうテーマで、グループごとになにを調べるか話し合って、決めなくちゃいけない。
わたしたちのグループは、わたしと莉子ちゃん、クラス委員の田島栞ちゃん、男子のリーダーの柴界人くん。そして急きょ、ハレくんがメンバーになった。
「グループのみんなで、しっかり話し合ってね。先生はしばらく、職員室にいるから」
五人でぴったり机を合わせて、話し合いをはじめる。
「みんな、テーマのアイデアは考えてきた? 順番に話して、さいごに、どれが一番よかったか決めよう」
栞ちゃんが、話を進めてくれる。
いつもは、こんな話し合いは苦手……。言いたいことがあっても、ないふりをしちゃう。
でも今日は、ちゃんと言おう。かくさないっ、かくさないっ。
わたしは、『この街にある、おまじないについて』ってアイデアを考えてきた。
おばあちゃんが、いろいろ教えてくれたんだ。「丘の木の下でかさをさすと、好きな人に会える」「学校の外を逆時計回りで歩くと、ラッキーなことが起こる」とか。
わたしはそういうお話が好きだし、おばあちゃんが教えてくれたこと、みんなにも教えたい。
「じゃあ、だれから言う?」
ふぅ、いよいよだ。がんばれ、わたし……!
手のひらの汗をぬぐってから、そっと手をあげる。
「あの……」
「あのさ! おれに、すっげーいいアイデアがあるんだけど」
柴くんが、体を前のめりにして言う。
「ほかのグループと同じこと調べることにして、いっしょにやらね?」
「でも、先生が、かぶらないようにって言ってたよ」
「わざとってバレなきゃいいじゃん。人数が多いほど、ラクに終わらせられるしさ」
柴くんは話しながら、横のグループにいる仲良しの三木くんを見ている。
もう、二人で相談して決めたんだ……。
あげかけていた手を、あわてて引っこめる。
やっぱり、やめよう。わたしが意見を言ったら、柴くんの機嫌をそこねちゃう……。
「おい、空」
向かいの席から、ハレくんが呼んだ。
「あるんだろ、アイデアが」
「天川が?」柴くんが、すぐに目を丸くする。「それ、気のせいじゃねーの?」
「手をあげてたのに、お前にジャマされたんだよ」
「ジャマって……」
ハレくんの何気ない言葉に、柴くんがムッとする。
「天川は、こういうとき発言しないんだよ。一年生から同じクラスだけど、ぜんぜん変わんねー。なっ、天川。べつに、アイデアないよな?」
「だから、ジャマするなって。空、あるならちゃんと言えよ」
「えっ、あっ、その……」
「ほら、ないじゃん。めんどくさいから、おれのアイデアでいいだろ」
「めんどくさいって、なんだよ。ひとの話を聞くのが、そんなにむずかしいのかよ」
ハレくんと柴くんがにらみ合う。
莉子ちゃんと栞ちゃんも、さすがにこまった顔をしている。ほかのグループの子たちも、「なになに?」ってふり向いて、さわがしくなる。
わたしのせいで、教室がたいへんなことに! な、なんとかしなくちゃ……。
「ふ、二人とも、落ちついて……」
「お前、ムカつくんだよ! 転校生らしく、おとなしくしてろよ」
わたしの小さな声は、柴くんの大きな声にかき消された。柴くんは立ち上がって、ハレくんを見下ろしている。
「転校生らしくって、だれが決めたんだよ」
ハレくんも言い返しながら、すっと立ち上がった。
「人間の学校には、言いたいことがあっても、言っていいやつと、言っちゃだめなやつがいるのか? そんなの、おかしいだろ」
ハレくんから、強い空気を感じる。柴くんも、ちょっと後ずさりする。
「にっ、人間の学校ってなんだよ。今まで、どんな学校にいたんだよ」
「それは関係ない。オレが言いたいのはな、だれだって言いたいこと言って、なにが悪いってことだ!」
しーん。ハレくんの言葉に、教室が一瞬だけしずかになる。
「そうだよ、柴。太陽くんの言うとおりだよ。先生だって、グループのみんなで話し合ってって言ってたでしょ」
「太陽くん、転校初日なんだよ。なんでそんな、ムキになってケンカするの?」
ほかのクラスメイトたち(とくに女子)が、声をあげる。
「あ、分かった。太陽くんに、ライバル意識があるんだ!」
柴くんの顔が、かあっと赤くなる。
「そ、そんなんじゃないし……」
「こら! さわがしいわよ、なにがあったの?」
先生がかけつけて、さわがしい教室もだんだん落ちつく。
でも、わたしのチャレンジは大失敗に終わっちゃった……。
***
「――けっきょく、なにを調べるかは決められなかったんだね」
「うん。わたしたちのグループだけ、話し合いのやり直し」
放課後。帰りながら、アメくんたちに、社会の時間に起きたことを話した。
アメくんはあきれた様子で、先頭を歩いているハレくんを呼んだ。
「ハレ、ちゃんとあやまったの?」
「なんであやまるんだよ。オレは悪くない」
「いや、悪いでしょ。いきなりケンカするんじゃなくて、ちゃんと話し合えばよかったのに。やっぱり、ぼくの特訓が必要かなあ」
「ほんっと、ハレハレってケンカするの好きだよねー。おれには分かんないや」
「だから言ったろ。ハレがちゃんと学校生活を送れるか疑問だって。いい証拠だ」
「あのなあ」
ハレくんは立ち止まって、ふり返る。不満そうに、ちょっとほおをふくらませている。
「オレは、柴のやり方に納得できなくて反対しただけだ。だいたいな、問題は空だ」
ふくれっ面の顔のまま、わたしを見る。
「どうして、途中であきらめたんだ? お前がなにか言おうとしていたの、オレは見てたぞ」
「そ、それは……」
がんばろうとしたけど、がんばりきれなかった。つい、柴くんにえんりょした。
わたしのこのくせって、もう直せないのかな……。
「空! 太陽くん!」
うしろから、莉子ちゃんの声が聞こえた。
ふり返ると、ランドセルをゆらしながら、こっちに向かってきている。
「莉子ちゃん! 帰ったんじゃなかったの?」
「どうしても言いたいことがあって……太陽くんに」
莉子ちゃんは息をととのえてから、まっすぐハレくんを見つめる。
「お前は……莉子か」
いきなり名前で呼ばれて、莉子ちゃんがびっくりする。
「小鳥遊莉子ちゃんだよ。いきなり、名前で呼んじゃだめだよ」
「空が、莉子莉子言うから、それでしか覚えられなくなったんだよ」
「あたしは、うれしいよ。太陽くんと仲よくなりたいし。今も、ありがとうって言いたくて来たから」
「「「「「えっ?」」」」」
わたしたちはそろって、声を上げる。
「柴くんに言ってたよね。転校生らしくってだれが決めたんだ。だれだって言いたいこと言って、なにが悪いって……。すっきりしたよ。あたしも転校生で、えんりょしてるところがあったから」
ハレくんはすぐに、アメくんたちを見た。
「今の、ちゃんと聞いたか? オレが、まちがったことを言ってなかった証拠だぞ」
「すぐ調子にのらない。……莉子ちゃん、だよね? ほんとうに、ハレは教室でめいわくをかけていない?」
「ぜんぜん。太陽くんが、クラスメイトになってくれてうれしい。でも、あんなことを言えるのって、ハレくんが、思ってることをちゃんと聞いてくれる人だからだよね。そういうのってすごく……かっこいいと思う」
莉子ちゃんは、ちょっとはにかんだように言った。
「とにかく、ありがとう。じゃあ、また明日ね。空も、バイバイ」
莉子ちゃんは、トントンと軽やかに走っていく。
そうだよ、莉子ちゃんの言うとおりだよ。
みんなには、「笑われるかも、信じてもらえないかも」ってこわくて言えないことも、ハレくんたちなら、ちゃんと受け止めてくれるかもしれない。
じぶんの気持ちを、まずは、ハレくんたちにかくさないことがだいじなんだ。
――わたしも、一位になってみたいよ。
――でも、だめ。足がおそいから、ぜったいムリ……。
わたしが心に思ってること、思い切って打ち明けよう。
「あ、あのっ。運動会の目標なんだけどね」
四人が、いっせいにわたしを見る。
「わたし、借り人競走に出るんだけど。いっ、一位になれたらいいなって……」
「なんだよ、ちゃんと見つけてるじゃん。なんで、だまってたんだよ?」
ハレくんが、顔をのぞきこんでくる。
「い、言えなくて。わたし、足がおそいから。それに、運動会だけじゃない。ほかでも、一番になれたことがないから自信もない。わたしには、一位は似合わない気がして……」
「それはちがうだろ」
ハレくんは、人さし指でぐっと、わたしのおでこを持ち上げた。
「なれないんじゃなくて、本気でなろうとしないだけだ」
「ハレくんは、わたしでも一位になれると思うってこと?」
「オレに聞くな。空はどう思うんだよ? なりたいのか? なりたくないのか?」
「それは……」
ぎゅっと、ランドセルの取っ手をにぎる。
言って、わたし。言ってもだいじょうぶ。ハレくんたちなら、きっとだいじょうぶ。
「なっ……なりたい! わたし、一位になりたい!」
「じゃあ、なるぞ」
ハレくんが、力強く返してくれる。
そのたったの一言が、まっすぐ、わたしの心の中に入ってきた。
わたしが、一位を目指す――心の奥にしずんでいた気持ちが、引っ張り上げられた気がした。
ドクンッ。
あれ? なんか……。そっと、むねのあたりに手を置く。
「ここが、熱い気がする……」
「ほら。お前にもあるじゃん、熱くなる心」
じわじわこみあげてくるこの気持ちが、熱くなる心なんだ。
「これで、天気を晴れにできるの?」
「言っただろ、お前の気持ち次第だって。一位になりたいって目標をかなえるために、運動会を晴れにする。その気持ちが、深沢の願いをかなえることにつながるんだ」
「空ちゃん。決まってよかったね、すてきな目標だね」
「計画的にがんばれば、ちゃんと達成できる」
「おれも、すっごいたのしみ♪」
アメくんたちも、賛成してくれる。
「一歩前進だな」
ハレくんが言った。
たった一歩。でも、わたしにとっては、すごく大きな一歩。
心が動きだすって、こんなかんじなのかな。
夜雲さんの言うとおり、ちがうじぶんになれる、そんな気がしてきた。
第6回へつづく(7月7日公開予定)
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