わくわくいっぱい、つばさ文庫の新シリーズ! 超~優柔不断で自分になかなか自信がもてない5年生の女の子、天川空がある日突然、天気をあやつるチカラを手にいれた!? 勇気も自信もなかったけど、つよい意思で天気をあやつるために、はじめて自分で目標をたてて、やるって決めた! 個性豊かなお天気男子たちといっしょに、運動会を晴れにせよ!(公開期限:2026年8月31日(月)23:59まで)
7★風といっしょに
今日は、五年生全クラスの、運動会に向けた合同練習の日。
団体競技の玉入れや、それぞれ出る種目の練習をするんだけど……。
「うわー! 太陽くん、足速い! 走ってる姿もかっこいいよ~!」
「転校生は、団体競技にしか参加できないなんて。もったいなーい!」
「四組の稲妻くん、背高くない? 手足もながいよね~」
「さっき、メガネはずしてるの見ちゃった。さらにイケメンだったよっ」
「聞いて、聞いて。水月くんに、ころびそうになったのを助けてもらっちゃった」
「わたしは、コーン持ってたら、ぼくが運ぶよって言ってくれた。ほんと、やさしい!」
練習っていうより、ハレくんたちのお披露目会みたいになってる。
具合が悪くなった莉子ちゃんの付き添いからもどってきて、びっくりしちゃった。
「空、もどったか」
ハレくんが、すぐにわたしに気づいてくれる。
「莉子は、どうなった?」
「保健室で休んでいれば、よくなるって。でも、授業が終わったら、また会いにいくよ」
「ほんとうに仲いいな。しんゆう? だっけ。オレには、よく分かんないけど」
「莉子ちゃんは、いつもわたしを助けてくれるの。だから、莉子ちゃんがこまってるときは、わたしがぜったい助けるって決めてて――」
「おい、太陽!」
話の途中で、柴くんが勢いよくかけよってきた。
「まだおれと、走ってないだろ。どっちが速いか競争するまで、調子にのるなよな」
「調子になんかのってない。今すぐ走ってやるよ」
二人は、あの言い合いでどうなるかと思ったけど、今はひと安心。
柴くんが勝負を持ちかけてハレくんが受けて立つ、いいライバル関係? になったから。
校庭は、天気の神さまたちを中心に、あちこちで輪ができている。
でも、一番大きな輪をつくっているのは――。
「一颯くん、速すぎ! マジで風みたいじゃん」
「さっきの障害物競走のとき、ハードルめっちゃ高く跳んでたよね」
「運動神経やばくない?」
フウくんが大かつやく。どの種目も軽々こなしちゃう。
なにより、すっごくたのしそう。
「そらりん! 今のパン食い競争見てた? おれ、一回でとれちゃったよ!」
フウくんが、手をふりながらこっちに来た。
「フウくん、スゴいね。器用だね。あれ、けっこうむずかしいのに」
「ま~ね~。おれも、借り人競争出たかったなあ。そらりんと、一位勝負したかったし」
フウくんの大きな声に、周りの子たちがふり向いた。
みんな、言葉にはしないけれど、わたしを見て苦笑いしている……。
そんな中、はっきり言う声が聞こえた。
「一颯、なに言ってるんだよ。天川と一位勝負なんて、ぜったいムリだって」
去年同じクラスだった、向井くんだ。今は、フウくんと同じ三組。
「ムリって、そらりんがおれより足が速いからってこと?」
「逆だよ。去年、天川と二人三脚したけど、おそくてさあ。おれ、初めてビリになったし」
わたしも覚えてる。向井くんたちにがっかりされたこと、かげで笑われたこと……。
一位になりたいって言ったら、ハレくんたちは賛成してくれた。
でも、前からわたしを知っている子たちは、やっぱりおかしいって思うよね。
わたしが一位を目指すなんて……目標、まちがえちゃったな。
じわっ。目になみだが浮かぶ。
一歩進んだのに、何十歩も引きもどされた気分だよ。
太陽に雲がかさなって、地面が暗くなる。しずかにふいていた風も、強くなって……。
「じゃあさ、今競争しようよ!」
フウくんの明るい声が、校庭にはねる。
「おれとそらりんのペア、向井とだれかのペアで対決すんの。そらりんが勝ったら、去年のビリは取り消しってことで!」
フウくんは、笑顔で提案する。わたしやみんなは、ぽかーん。
「あのさあ、一颯」
向井くんも、あきれた顔をしている。
「二人三脚って、足がおそいほうに合わせなきゃだろ? いくら一颯が速くても、ペアが天川なら負けるぞ」
「えー。でもおれ、やってみたい!」
「まあ、一回競争したら分かるか。先生ー」
向井くんは、先生に競争していいか聞きに行く。
一回だけならオッケーってことで、向井くんは同じクラスの女の子とペアを組む。
「そらりん、足結ぼうっ」
「フウくん、ほんとうに競争するの?」
「うん! わくわくするよねー! ……って、どうしたの? 顔、こわばってるよ」
「いざ競争するってなったら、こわくなってきて……。わたし、ほんとうにおそいから」
「だいじょーぶ!」
フウくんはにかっと笑って、わたしの肩を引き寄せる。
「いいこと教えてあげる! がんばって走ろうって思えば、体もがんばって走る。だいじなのは、どんなじぶんで走りたいか想像すること! そらりんは、どんなふうに走りたい?」
「そんなこと、急に言われても……」
向井くんたちにあっという間に引きはなされて、へとへとになってるじぶんしか想像できないよ。
「ねえ、なんでうつむいてんの?」
フウくんが、わたしの肩をゆらす。
「そらりんさあ、そんなかっこ悪いじぶんで走るつもり?」
言われて、気づく。
今のわたし、かっこ悪いんだ……。
そうだよね。走る前から、あきらめてうつむいてるんだもん。
どんなじぶんで走りたいかなんて、ちゃんと想像できない。でも。
かっこ悪いのだけは、いや!
ぐっと、顔を上げる。
「フウくん。わたし、かっこよく走りたい! できるかな?」
「できるに決まってるじゃん♪ まずは、ちゃんと前を向くこと! 足は強くけって、うでは大きくふる。そうすればぐんぐんスピードがあがって、ちょ~かっこよく走れるから!」
「わ、分かった。やってみる!」
フウくんとしっかり肩を組んで、スタートラインに立つ。
「じゃあ、ケガだけしないようにね。よーい、どん!」
先生のかけ声で、いっせいにスタートした。
予想してたとおり、すぐに向井くんたちが前に出る。でも、うつむいたりしない。
しっかり目を開けて、前を見る。足に力をこめて、地面を強くける。うでも、大きくふる。
背筋がピンッとのびて、今までのわたしよりずっと速く走れている気がした。
「そらりん、その調子! おれも、負けてらんないねっ」
フウくんの足がさらに速くなる。なんとかついていこうと、わたしは無我夢中で走った。
どんどん向井くんたちに近づいて、すぐ後ろまで迫る。
なんだか、わくわくしてきた。走るのって、たのしいかも……!
ぶわっ――。
あったかくて大きな風が、わたしたちの背中を押すようにふいた。
わたしとフウくんが、向井くんたちの前に出る。