「どうだ? 話を聞いて。少しは自覚が――って、おい。なにぼーっとしてるんだよ」
「へっ? あっ、その……なんでもないよ。わたしたちも、教室にもどろう」
いろんなことを考えながら、ゆっくり歩き出す。
先ぱいの話を聞いて、おばあちゃんのことを思い出した。しごとがいそがしいパパとママに代わって、とってもやさしくめんどうを見てくれた大好きなおばあちゃん。
病気で入院してからは、ほとんど会ってない。
だって、ベッドに横になっているおばあちゃんを見ると泣いちゃう。そんな姿を見せたら、もっと体を悪くさせちゃうって思ったから。
でも、おばあちゃんがくれた手紙には、「会って話したいことがある」って書いてあった。あわてて病院に行ったけど、会えないまま亡くなって……。
すごく、かなしかった。ちゃんと話をできなかったこと、今でも後悔してる。
もし運動会を晴れにできなかったら、先ぱいたちはさいごにたのしい思い出をつくれなくて、わたしみたいにかなしい思いをしちゃうかもしれない。それは、いやだよ。
だけど、ほんとうはただの小学生のわたしが、がんばっても……。
「あっ! やっと見つけた。どこに行ってたの?」
教室にもどる途中で、アメくんたちと出くわした。
「どこさがしても、いないしさあ。二人でなにしてたのー?」
「今にも雨がふりそうな天気になって、心配していたんだ。空になにかあったのか?」
ライくんが、じっとわたしの顔を観察する。
「やっぱり、浮かない顔をしている。ハレ、なにかしたのか」
「なんにも。オレが、授業中に度胸をつける特訓をしたら、中止にしたいって言い出して。だから、願いを言いに来た深沢に会わせて、天気の神さまの自覚を持たせようとしただけだ」
ハレくんは、堂々とむねをはる。アメくんの目が、きゅっと細くなる。
「ハレ。そんな目立つことばかりして、空ちゃんが周りにどう思われるか考えたの?」
「考えてないけど。そんなこと気にしてたら、なんにもできないだろ」
「そんなこと、ね……。よく分かったよ。ハレには、ぼくの特訓が必要みたいだね」
アメくんが、とびきりの笑顔を見せる。ライくんとフウくんが、あわてはじめた。
「おい、ハレ! 今すぐあやまれ。アメのこの笑顔は、おこってるってことだぞ」
「どうしてくれるんだよ~。おれ、おこったアメメが一番こわいのに~」
「なっ、なんで、オレがあやまるんだよ。てか、アメの特訓ってもしかして……」
「もちろん、ひとの気持ちを考えられるようになる特訓だよ。ぼくがおすすめする、やさしい物語の本を百冊、読んでもらうからね」
「またかよ⁈ それなら、前にも読んだだろ!」
「一冊の半分も読まずに逃げたじゃないか。こんどはぜったい、逃がさないよ。フウ、ライ、つかまえて!」
いきなり、追いかけっこがはじまった。
スゴい神さまたちのはずなのに。今はただ、休み時間に遊んでる小学生みたい……。
「おい、空! なに笑ってるんだよっ。はやく、アメたちを止めろっ」
「へっ?!」
ほおをさわって、にやにやしてるじぶんに気づいた。
わちゃわちゃしているみんなを見てたら、いつの間にか気が楽になってたみたい。
むずかしく考えないで、まずは、わたしなりにがんばってみればいいのかも……。
「ねえ! わたしやっぱり、特訓をがんばるよ」
みんなに向かって言った。追いかけっこをやめて、こっちにもどってくる。
「空ちゃん、今はムリしなくていいんだよ」
「ううん。深沢先ぱいのために、がんばってみたいの」
先ぱいの、「後悔したくない」って気持ちが分かるから。
「引っ越しちゃう親友と、さいごにたのしい思い出をつくりたいんだって。もう会えないかもしれない人との思い出って、すごくだいじだと思うから。わたしががんばらないせいで、かなしい思いをさせるのはいやだから」
「空ちゃん……」
ポロッ。とつぜん、アメくんの目からなみだがこぼれる。
「ええ! どうしたの!? わたし、よくないこと言った? それとも、どこか痛いとか……」
「ちがうよ。ぼく、感動したんだ。いきなり神さまになって、すごくたいへんなはずなのに。ちゃんと、先ぱいの気持ちを考えてあげて……立派な天気の神さまになったね。うぅ……」
「なっ、なに言ってるのアメくん! わたし、まだなにもしてないよっ」
ぶんぶんって、全力で頭を横にふる。だって、ものすごいカンちがいだよ~!
「空、いつものことだから気にするな。アメは、なんにでもすぐ感動するんだ」
ライくんはそう言って、慣れた様子でじぶんのハンカチをアメくんにわたす。
いつものことなんだ。それはそれで、たいへんかも。
「でも、ほんとうにわたし、まだまだだよ。がんばりたいけど、すっごく分からないこともあって……」
「なんでも聞け」
ハレくんが、すかさず言う。
「そのために、オレたちがいるんだ。どんなことも答えてやる」
「さすが神さま! じゃあ、聞くね。『熱くなる心』って、なに?」
その瞬間、ハレくんの顔がかたまる。