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「ええ? ポスターが全部ベートーヴェンになったの?」
「そうなんだよ」
虎太郎は今までのことをすべて説明し、自分の部屋に母親を連れてきていた。
部屋の入り口に立った母親は、信じられないという表情をするばかりだ。
なにしろどれもアニメやマンガのポスターでしかなかったからだ。
「信じられないかも知れないけど、本当なんだよ」
「夢でも見たんじゃないの?」
「そんなことは絶対無いって! それに隼士の様子もおかしくなっちゃったんだよ」
そう言った虎太郎は、突然、自分の友達のことが心配になった。
「ねぇ、隼士のお母さんに電話してよ。ちゃんと家に帰ったか心配なんだ」
虎太郎は自分の電話を持っていなかった。
だから、誰かに電話をするには親にお願いをするしかなかった。
虎太郎はその目を見て気づいた。
(お母さんは、僕の話が信じられないんだ)
これ以上、母親を信じさせようとすると、かえって疑われてしまう。
でも、小学校1年の時からの友達が心配だった。
「ねえ、電話してよ」
「分かった。電話してみるわ」
母親は一階のリビングへと向かい、虎太郎もそれに続いた。
リビングに戻ると、母親はバッグからスマホを取り出した。
「えーと」
検索機能で隼士の母親の電話番号を表示させようとする。
それをそばで見ていた虎太郎の耳に何かが聞こえる。
タ、タ、タ、ターン
「ね、今の聞こえた?」
「なにが?」
虎太郎に聞こえた音が母親には聞こえなかったようだ。
「音楽室で聞こえたのと同じメロディが聞こえたんだよ」
「え? うそ?」
母親はスマホをテーブルに置いて耳を澄ます。
タ、タ、タ、ターン
さっきよりハッキリとメロディが聞こえた。
「また、聞こえたよ」
「え? 私には聞こえない」
ふと、母親は何も言わずにリビングの隣の部屋に向かった。
「ねえ、お母さん、どうしたんだよ? 電話してよ」
母親が隣の部屋のドアを開けて中に入った。
そこにはピアノが置いてある。
虎太郎も母親を追いかけて隣の部屋に入る。
母親はその前の椅子に腰掛けていた。
「ねえ、お母さん、何するつもりなんだよ?」
不安が虎太郎を襲い始めた。
タ、タ、タ、ターン
ピアノから音が響く。
「ねえ、虎太郎が聞いたメロディってこれでしょ?」
「そうだけど。そんなことより電話を先にしてよ」
虎太郎の不安は恐怖に変わり始める。
「この曲はね、ベートーヴェンの『運命』って言うのよ」
母親は再び鍵盤を叩いた。
タ、タ、タ、ターン
『運命』が再び響いた。
(隼士の時と同じだ……!)
不安は完璧な恐怖に変わった。
タ、タ、タ、ターン
母親が再び鍵盤を叩くと『運命』のメロディが流れる。
一心不乱にピアノを弾く母親。
タ、タ、タ、ターン!
タ、タ、タ、ターン!
タ、タ、タ、ターン!
ピアノの前に座り鍵盤を叩く母親。
その姿が不気味で、虎太郎は一歩退いた。
「お母さん、やめてよ!」
恐怖に震える声で頼んでも、母親はやめる気配が無い。
その時、何かが聞こえた。
フフフフッ!
不気味な男の笑い声。
虎太郎は周囲を見回したが絵は無かった。
フフフフッ!
再び聞こえた笑い声に、ハッとして目の前の母親を見た。
ピアノの鍵盤をムキになって叩いていた母親が、いつの間にか動きを止めていた。
うつむいて笑っていたのだ。
その声は男だった。
しかも、毛先のカールした黒髪は、いつの間にか銀色になっていた。
「お母さん!」
虎太郎の声に反応したように母親が顔をこちらに向けた。
フフフッ!
その顔は、笑うベートーヴェンだった。
「ひいいい!」
ベートーヴェンの母親はゆっくりと立ち上がり虎太郎に迫ってきた。
「やめて! あっち行け!」
フフフッ!
不気味な笑い声とともにベートーヴェンになった母親が近づいてくる。
虎太郎はあわてて玄関に走った。
玄関扉に虎太郎は飛びついた。
鍵を開けようとしたが、手が震えて上手く回らない。
フフフッ!
背後からベートーヴェンになった母親がゆっくりと近づいてくる。
「いやだ! やめて!」
カチッ!
鍵が回った。
でも、手が震えてノブが上手く回らない。
フフフッ!
ベートーヴェンになった母親が確実に迫って来る。
「いやぁぁぁ!」
その瞬間、玄関の扉が開いた。
誰かが虎太郎の手を引いた。
「来て!」
白い服を着た少年だ。
両目の色がそれぞれ違う。
少年は虎太郎の腕を引いて走った。
「お兄ちゃんは、誰なの?」
「君が『呪われた少年』の名前を口にしたんだよね?」
「どうして知ってるの!?」
少年はそれには答えない。
「君が『呪われた少年』の名前を言って、そのせいで災悪に襲われてしまったんだ」
「サイアクって何?」
その時、背後から不気味な笑い声が響いた。
フフフッ!