
小学生から読める、本格暗号ミステリーの決定版!
児童書の翻訳ミステリー『暗号クラブ』は、本編全20巻、現在は続編シリーズ『スパイ暗号クラブ』が3巻まで発売中。世界累計100万部超え、日本でも81万部売れている大人気「暗号解読」小説です。
「暗号を解きながら楽しく読み進められる」「小学生がドハマりする」「解読作業が楽しい」と、小学生やその保護者のみなさんから大人気!
「"体験型なぞ解き"ミステリーって?」
「一体どんなお話なの?」
気になるみなさんのため、ヨメルバでは1巻冒頭のためし読みを公開!
お子さまが小説好き・ミステリー好きに育つことまちがいなしな傑作シリーズを、どうぞおたのしみください!
目次
人物紹介
第2章 火事発生
次の日の早朝、めざまし時計が鳴るずっと前の時刻。コーディはいやな夢を見ていた。謎の暗号が解読できなくて、ウンウンうなされる夢だ。とちゅうでかん高いサイレンの音が聞こえて、コーディは目をさました。
コーディは窓べにかけよった。空はまだ暗いのに、二台の消防車の回転灯が、通りを赤く照らしている。
(ガイコツじいさんの家が火事だ!)
ふいに、部屋のドアをドンドンとたたく音が聞こえた。
「コーディ!」
ママが、ドアを開けて顔を出す。
「よかった、起きてたのね。おねがい、タナを起こして服を着せて、保育園に行く用意をさせておいてちょうだい。ママは、向かいの現場に行ってくるから」
ママが階段を下りていく。かたベルトにつけたトランシーバーから、ガーガーと雑音が聞こえた。
ママは警察官だから、真夜中や早朝にしょっちゅう、緊急の呼びだしを受ける。そういうときは、同じ市内に住むパパがかけつけるまでのあいだ、コーディがタナの世話をすることになっている。これは、「離婚後」にふえためんどうの一つだ。ママがバークレー市で警察官の仕事を見つけたので、コーディとタナはママといっしょに、カリフォルニア州ゴールド郡のジェイムズタウンから引っこしてきた。その一か月後、弁護士をしているパパも、コーディとタナのそばに住むために、バークレーのマンションに引っこしてきた。
部屋の窓から、うねる煙とたけりくるう炎が見える。二台の消防車から、消防隊員たちが五、六人、とびだしてきた。ホースからすごいいきおいで水が出てきて、屋根に向けてカーブを描く。煙の雲が、うす暗い空にモクモクと立ちのぼる。
消防士の一人が、げんかんのドアをたたきわった。入り口から煙がワッと出てくる。防火服にヘルメット、マスク、手ぶくろで身をおおった消防士たちが三人、家の中にすがたを消した。救急車が到着し、救急隊員が四人、外に走りでる。
コーディは、その場から動くこともできずに、じっと消火のようすを見つめていた。
紺色の警官服を着たママが、道路のまん中に立って、交通整理をしているのが見える。ママは、集まってきた見物人たちに、後ろに下がっているよう、指示を出している。少しして、ガイコツじいさんの家のげんかんから、消防士たちが出てきた。そのうちの一人は、ぐったりしたパジャマすがたの男の人を、かたにかついでいる。かけつけた救急隊員たちが、パジャマのけが人を担架にそっとうつし、灰だらけの顔に、酸素マスクをかぶせた。
(ガイコツじいさん! 生きてるの?)
一瞬だったのでよく見えなかったけれど、意識がないようだった。救急隊員たちが、担架を救急車に運びいれた。サイレンを鳴らし、赤い回転灯を光らせながら、救急車は猛スピードで走り去った。たった一人でくらしていたおじいさんのことを、コーディはかわいそうに思った。
(ガイコツじいさんのうわさはいろいろ聞くけれど、どれが本当で、どれがうそなんだろう。めんどうをみてくれる親せきはいるのかな……)
ふとわれに返ったコーディは、用事を思い出してタナの部屋に走った。
妹をやさしくゆり起こす。
「タナ、起きて」
タナは耳が聞こえないから、消防車のサイレンも聞こえていない。とうぜん、外で起こっていることは何も知らない。コーディは手話で、タナにつたえた。
タナがピンクのTシャツとパーカ、青いサロペットを着て、スニーカーをはくのを手つだう。それから、コーディも急いで着がえた。ジーンズに赤いTシャツ、上から同じ色のパーカをはおる。
(準備完了。ちょっとくらい、外を見に行ってもいいよね?)
コーディはタナの手を引いて階段を下り、げんかんポーチまで出た。予想どおり、クインが自宅の前庭にいる。クインは、となりの家の火事さわぎを、じーっと見まもっていた。
火はもう、ほとんど消えていた。コーディはタナと手をつないで道路をわたり、クインのいるところまで歩いていった。前庭には、クインの両親もいた。二人とも、名門カリフォルニア大学バークレー校の数学教授なのだそうだ。
火がおさまったのを見て安心したのか、ガイコツじいさんの家の前に集まった見物人たちが、それぞれの自宅にもどっていく。
「ねえクイン、どうして火事になったのか、知ってる?」
コーディが聞くと、クインはかたをすくめた。
「さあ。サイレンの音が聞こえたから窓の外を見たら、となりの家が燃えてたんだ。そのあと救急車が来て、ガイコツじいさんが運びだされて……」
コーディは火事のようすを思い出し、顔をゆがめた。
「あの二人組は、どこに行ったのかしら?」
「あれから見かけてないよ」
クインの両親が、げんかんのドアを開けながら、声をかけた。
「もう中に入りなさい」
クインが後ろをちらっとふり返る。
「じゃ、またな。メンバーの招集、かけとくよ。あとで秘密のポスト、確認しといて」
コーディはうなずいた。と、警官服のママがこわい顔で歩いてくるのが見えた。
「コーディ、タナと家にもどりなさい! 外に出たらだめでしょう」
コーディは急いで通りをわたった。家のドアの前で、最後にもう一度だけ、黒くススけたガイコツじいさんの家をふり返る。そのとき、じいさんの家のそばで、知っている顔がこちらを見ているのに気づいた。
(おジャマじゃマットだ! マットの家はこの通りじゃないのに、はるばるこんなところまで来て、何をやってるんだろう? どうせ、おもしろがって見に来たに決まってるけどね)
人の不幸やトラブルを見るのが、マットの趣味なのだ。ママは、マットにはなるべく近づかないほうがいいわよ、と言う。これまでに二度ほど、通報を受けて、マットの家に注意をしに行ったことがあるからだ。マットが近所の家の窓目がけて、何度もボールを投げつけたときと、ゴミ箱の中身を道路にまきちらしたときだ。
(でも、近づかないほうがいいと言われたって、ムリなのよね。マットは同じクラスで、おまけにわたしの前の席なんだから)
しばらくして、パパが来た。タナを保育園まで送っていくためだ。コーディはハグとキスでむかえてから、明け方の火事のことを話した。そうこうしているうちに学校に行く時間が近くなったので、リュックを取りに二階に上がった。頭の中は、わからないことだらけだ。
(どうして火事が起こったんだろう? ガイコツじいさんは無事なの? きのうの夜、おじいさんの家にいた人たちは、だれだったのかな? そして、あの二人は今、どこにいるんだろう?)
コーディは立ちどまり、焼けてしまった向かいの家を見つめた。二階の窓に目をやると、焼けのこったカーテンが、引かれたままになっている。
ふと、あるものに気づいて、コーディは鳥肌が立った。
窓ガラスに、黒マジックで絵が描いてある。
それは、四人の棒人間のような絵だった。