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6 なめられるわけにはいかない!
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「もしかして、そのキーホルダー……」
直子はそう言うと、美月の服のキーホルダーをはずして、豪介にわたす。
豪介がキーホルダーを分解すると、中に小さくて精巧な機械が仕掛けられてある。
「えっ、えっ、どういうこと!?」
美月が驚く。
「盗聴器だな。美月ちゃんの会話は、すべてきかれていたようだ」
豪介の言葉に、美月は信じられないという顔をする。
「警察に調べさせましょう」
直子はキーホルダーを、廊下にいる原島に渡した。
「あのキーホルダーは、自分で買ったの?」
快星にきかれて、美月はわれに返る。
「……そ、そうよ。わたしのお気に入りのキャラクターのキーホルダーよ」
「美月が、盗聴器の仕掛けられたキーホルダーを買ったということなの?」
直子が、首をかしげながらきいた。
「いいや、そうじゃない。前もって美月ちゃんの持ち物を調べて、同じキーホルダーに盗聴器を仕掛けて、すり替えたんだ」
豪介の説明に、美月はけげんな顔で質問する。
「でも、このキーホルダーは、ずっと部屋にあったのよ。だから……」
そこまで言って、美月ははっとなる。
「わたしのいないときに、だれかが部屋に入ったのね!」
美月は、急にこわくなる。
「ここは安全ではないみたいね。……美月は総理大臣の選挙が終わるまで、鎌倉のおばあちゃんの家にいっていてもいいわ」
直子が、きびしい表情で言った。
「……でも、学校はどうするの?」
美月は、不満そうな顔できいた。
「休んでいいわ」
直子が言うと、美月は少し考えてから答える。
「……わたし、ここに残るわ。それに、学校へもいく」
「危険だ。学校なら、少しくらい休んでも問題はないだろう」
快星が、心配そうに言った。
「そういうことじゃない。わたしがおばあちゃんの家にいって、学校を休んだら、逃げたことになるでしょう。そうなったら、総理大臣の母さんがなめられるわ」
美月の言葉に、直子と豪介は顔を見あわせる。
「まだ、総理大臣候補よ。それに、なめられるって……どこで、そんな言葉を覚えたの?」
直子がきくと、美月は真顔で答える。
「昭和を舞台にしたドラマだけど……。おかしなヘアスタイルの不良が出てくるの」
「……なるほどね」
豪介は、楽しそうに言った。
「ときには逃げることだって、戦うことになる。それに、学校にいくなら、警護官をだまして、抜けだすことはやめるんだな」
快星がとがめるように言うと、美月は不満そうな顔をむける。
「そんなことより、どうして、快星がここにいるの? その答えをまだきいてないわ」
「ぼくは、美月を守るようにたのまれて、ここにきたんだ」
「は———っ、快星が、わたしを守る? 冗談でしょう」
美月が、挑発的に言った。
「あぁ冗談であってほしいよ。……と言うか、ぼくは昨日も一度美月を助けてるだろう。原宿で」
快星が言うと、美月が質問する。
「やっぱり、あのときの自転車は快星だったのね。それじゃ、わたしを尾行していたの?」
「半分は正解で、半分は間違いだ」
「どういうこと?」と美月。
「原宿駅前のビルで、待ち伏せしていたんだ。尾行したのは、そのあとだよ」
快星の答えに、美月は納得いかない顔をする。
「くわしく説明したほうがよさそうだぞ」
豪介に言われて、快星が話す。
「あの日、美月が原宿で、熊谷慎也と待ちあわせているという情報は、事前に入っていたんだ」
「そんなのうそよ」
「本当だ。東浜裕也だって、気がついていただろう。……情報は、よほど気をつけていないともれるものだ」
「……わかったわ。そのあとは、どうしたの?」
美月がきいた。
「竹下通りを1人で歩いていくのを見て、ぼくは危険を感じたんだ。なにかあるとしたら、明治通り側に逃げてくるだろうと考えて、自転車で待っていたんだ」
快星の説明を聞いた美月は、不機嫌そうな顔で言う。
「守ってくれたことには、お礼を言うわ。ありがとう。……でも、待ち伏せとか尾行とか、まるでストーカーね」
それを聞いて、豪介が大声で笑う。
「父さん、笑いごとじゃないよ。ぼくは守ったのに、ストーカー呼ばわりされたんだよ」
快星が言うと、豪介が笑うのをやめて言う。
「いや、行動だけを見ると、ストーカーと変わらないよ」
「そんな……」と快星。
「だから、ここで、はっきりさせる必要がある。直子さん、そうだろう?」
豪介にきかれて、直子がうなずく。
「————快星くん、美月のボディガードをやってくれる?」
直子の言葉に、美月はきょとんとなる。
快星は、深呼吸してから答える。
「わかりました。美月のボディガードを引き受けます」
「直子さんが総理大臣になるまでの3日間、しっかりたのむぞ」
豪介が、確認するように言った。
「それじゃ、美月をたのむわよ」
直子が言った。
「あ、あの、待って、待って、待って! わたしには原島さんと友里恵さんが警護についているでしょう?」
美月が、あわてて言った。
「もちろん、あの2人にも警護を続けてもらうわ。でも、教室の中や、ほかの生徒といるときは、そばにはいられないでしょう。それで、快星くんにボディガードしてもらうの」
直子の説明に、美月は不満そうな顔をする。
「わたし、認めない」
美月が言うと、快星はため息まじりに返す。
「認めてくれなくてもいいよ。ぼくは、もう美月を守ると決めたんだ」
「なに言ってるの、勝手に決めないでよ」
「美月は言っただろう。……美月がおびえて逃げたら総理大臣がなめられるって。それはつまりこの国がなめられるってことだろう」
「だから、なによ」
「だからって……、ぼくはなめられたくないんだ」
快星が熱い口調で言うが、直子も豪介も美月も首をかしげる。
「……せめて、わたしが心配だとか、言ってほしかったわね」
美月が、肩をすくめて言った。
「そうだぞ、快星。美月ちゃんが心配だから、ぜひ、ボディガードをやらせてくださいと、どうして言えないんだ?」
豪介が、からかうように言った。
「それは……」
とまどう快星に、直子が笑顔で話しかける。
「快星くん、ありがとう。美月を守ってね」
「ちょっと、母さん。本気なの?」
美月があわててきいた。
「そうよ。あなたがいやだと言っても、快星くんに、あなたのボディガードをやってもらうわ。あと3日。母さんが総理大臣に選ばれるまで、できるだけのことはやっておきたいの」
直子の言葉に、美月はほおをふくらませて言う。
「……わかったわ。母さんがそこまで言うなら、3日だけ、我慢してあげる」
「うん、美月ちゃんありがとう。……快星、たのんだぞ!」
豪介が、神妙な顔で言う。
「心配はいらないよ。ぼくは、パーフェクト・セキュリティだ。美月を守ってみせるよ」
快星が、はっきりと言った。
ためし読みはここまで!
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