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藤ダリオ最新作「パーフェクト・セキュリティ」先行ためし読み連載 第4回

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6 なめられるわけにはいかない!

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「もしかして、そのキーホルダー……」

 直子はそう言うと、美月の服のキーホルダーをはずして、豪介にわたす。

 豪介がキーホルダーを分解すると、中に小さくて精巧な機械が仕掛けられてある。

「えっ、えっ、どういうこと!?」

 美月が驚く。

「盗聴器だな。美月ちゃんの会話は、すべてきかれていたようだ」

 豪介の言葉に、美月は信じられないという顔をする。

「警察に調べさせましょう」

 直子はキーホルダーを、廊下にいる原島に渡した。

「あのキーホルダーは、自分で買ったの?」

 快星にきかれて、美月はわれに返る。

「……そ、そうよ。わたしのお気に入りのキャラクターのキーホルダーよ」

「美月が、盗聴器の仕掛けられたキーホルダーを買ったということなの?」

 直子が、首をかしげながらきいた。

「いいや、そうじゃない。前もって美月ちゃんの持ち物を調べて、同じキーホルダーに盗聴器を仕掛けて、すり替えたんだ」

 豪介の説明に、美月はけげんな顔で質問する。

「でも、このキーホルダーは、ずっと部屋にあったのよ。だから……」

 そこまで言って、美月ははっとなる。

「わたしのいないときに、だれかが部屋に入ったのね!」

 美月は、急にこわくなる。

「ここは安全ではないみたいね。……美月は総理大臣の選挙が終わるまで、鎌倉のおばあちゃんの家にいっていてもいいわ」

 直子が、きびしい表情で言った。

「……でも、学校はどうするの?」

 美月は、不満そうな顔できいた。

「休んでいいわ」

 直子が言うと、美月は少し考えてから答える。

「……わたし、ここに残るわ。それに、学校へもいく」

「危険だ。学校なら、少しくらい休んでも問題はないだろう」

 快星が、心配そうに言った。

「そういうことじゃない。わたしがおばあちゃんの家にいって、学校を休んだら、逃げたことになるでしょう。そうなったら、総理大臣の母さんがなめられるわ」

 美月の言葉に、直子と豪介は顔を見あわせる。

「まだ、総理大臣候補よ。それに、なめられるって……どこで、そんな言葉を覚えたの?」

 直子がきくと、美月は真顔で答える。

「昭和を舞台にしたドラマだけど……。おかしなヘアスタイルの不良が出てくるの」

「……なるほどね」

 豪介は、楽しそうに言った。

「ときには逃げることだって、戦うことになる。それに、学校にいくなら、警護官をだまして、抜けだすことはやめるんだな」

 快星がとがめるように言うと、美月は不満そうな顔をむける。

「そんなことより、どうして、快星がここにいるの? その答えをまだきいてないわ」

「ぼくは、美月を守るようにたのまれて、ここにきたんだ」

「は———っ、快星が、わたしを守る? 冗談でしょう」

 美月が、挑発的に言った。

「あぁ冗談であってほしいよ。……と言うか、ぼくは昨日も一度美月を助けてるだろう。原宿で」

 快星が言うと、美月が質問する。

「やっぱり、あのときの自転車は快星だったのね。それじゃ、わたしを尾行していたの?」

「半分は正解で、半分は間違いだ」

「どういうこと?」と美月。

「原宿駅前のビルで、待ち伏せしていたんだ。尾行したのは、そのあとだよ」

 快星の答えに、美月は納得いかない顔をする。

「くわしく説明したほうがよさそうだぞ」

 豪介に言われて、快星が話す。

「あの日、美月が原宿で、熊谷慎也と待ちあわせているという情報は、事前に入っていたんだ」

「そんなのうそよ」

「本当だ。東浜裕也だって、気がついていただろう。……情報は、よほど気をつけていないともれるものだ」

「……わかったわ。そのあとは、どうしたの?」

 美月がきいた。

「竹下通りを1人で歩いていくのを見て、ぼくは危険を感じたんだ。なにかあるとしたら、明治通り側に逃げてくるだろうと考えて、自転車で待っていたんだ」

 快星の説明を聞いた美月は、不機嫌そうな顔で言う。

「守ってくれたことには、お礼を言うわ。ありがとう。……でも、待ち伏せとか尾行とか、まるでストーカーね」

 それを聞いて、豪介が大声で笑う。

「父さん、笑いごとじゃないよ。ぼくは守ったのに、ストーカー呼ばわりされたんだよ」

 快星が言うと、豪介が笑うのをやめて言う。

「いや、行動だけを見ると、ストーカーと変わらないよ」

「そんな……」と快星。

「だから、ここで、はっきりさせる必要がある。直子さん、そうだろう?」

 豪介にきかれて、直子がうなずく。

「————快星くん、美月のボディガードをやってくれる?」

 直子の言葉に、美月はきょとんとなる。

 快星は、深呼吸してから答える。

「わかりました。美月のボディガードを引き受けます」

「直子さんが総理大臣になるまでの3日間、しっかりたのむぞ」

 豪介が、確認するように言った。

「それじゃ、美月をたのむわよ」

 直子が言った。

「あ、あの、待って、待って、待って! わたしには原島さんと友里恵さんが警護についているでしょう?」

 美月が、あわてて言った。

「もちろん、あの2人にも警護を続けてもらうわ。でも、教室の中や、ほかの生徒といるときは、そばにはいられないでしょう。それで、快星くんにボディガードしてもらうの」

 直子の説明に、美月は不満そうな顔をする。

「わたし、認めない」

 美月が言うと、快星はため息まじりに返す。

「認めてくれなくてもいいよ。ぼくは、もう美月を守ると決めたんだ」

「なに言ってるの、勝手に決めないでよ」

「美月は言っただろう。……美月がおびえて逃げたら総理大臣がなめられるって。それはつまりこの国がなめられるってことだろう」

「だから、なによ」

「だからって……、ぼくはなめられたくないんだ」

 快星が熱い口調で言うが、直子も豪介も美月も首をかしげる。

「……せめて、わたしが心配だとか、言ってほしかったわね」

 美月が、肩をすくめて言った。

「そうだぞ、快星。美月ちゃんが心配だから、ぜひ、ボディガードをやらせてくださいと、どうして言えないんだ?」

 豪介が、からかうように言った。

「それは……」

 とまどう快星に、直子が笑顔で話しかける。

「快星くん、ありがとう。美月を守ってね」

「ちょっと、母さん。本気なの?」

 美月があわててきいた。

「そうよ。あなたがいやだと言っても、快星くんに、あなたのボディガードをやってもらうわ。あと3日。母さんが総理大臣に選ばれるまで、できるだけのことはやっておきたいの」

 直子の言葉に、美月はほおをふくらませて言う。

「……わかったわ。母さんがそこまで言うなら、3日だけ、我慢してあげる」

「うん、美月ちゃんありがとう。……快星、たのんだぞ!」

 豪介が、神妙な顔で言う。

「心配はいらないよ。ぼくは、パーフェクト・セキュリティだ。美月を守ってみせるよ」

 快星が、はっきりと言った。



ためし読みはここまで!
このつづきは6月11日発売の本『パーフェクト・セキュリティ 彼は無敵のボディガード』をチェックしてね。迫力まんてんのイラストがいっぱいです!


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