KADOKAWA Group
知る・まなぶ

藤ダリオ先生が教える小説の書き方 第3回 だれかと比べる必要なんかない


本を読む子なら一度は「いつか自分でも書けたらな」って考えたことがあるのでは? 今はまさに夏休み。そして「角川つばさ文庫小説賞〈こども部門〉」の受付期間中!……でも、なにを書けばいいかわからない? そこで〈一般部門〉の選考委員で、つばさ文庫の大人気シリーズ「絶体絶命ゲーム」の作者・藤ダリオ先生から、ヨメルバのために特別に、小説の書き方を教えてもらう連載です!(全3回最終回)


はじめに

みんな、こんにちは。
小説家の藤ダリオです。
いよいよ、『小説の書き方』講座の第3回です。
最終回なので、少しでも参考になる話を書きたいと思います。
「それなら、ムダな前置きはいいから、早く、もっと参考になることを書いてよ」
そう思った人もいるかもしれません。
でも、それは少しちがいます。

無駄なことは、実はすごく重要なんです。
たとえば、勉強だけをするなら、学校にいかなくても、自分で教科書を読んでもいいし、家庭教師にきてもらえばいいわけです。
勉強するということだけを考えると、授業時間以外は、無駄のように感じます。
でも、学校では勉強よりも、休み時間や放課後に友だちと話をするほうが、楽しかったり、思い出に残ったりします。
ぼくも学生時代の思い出は、ほとんど放課後に友だちと遊んだことです。

「ぼくは、学校でなかのいい友だちがいません」
そう言う人もいるかもしれないけど、それでも学校で、みんなが話しているすがたをながめているだけでも、あいさつをするだけでも。
ときには、これまで話をしたことのなかった人と言葉をかわしたり、廊下で先生や先輩や後輩とすれちがうだけでも、なにかほっとします。
ひとことも話をしていないのに、楽しい気持ちになることもあります。
まわりの人たちが、ただ生活をしているのを見ているだけでも、その中に自分がいるだけでも、心がふっとやわらぐかもしれません。
だから、無駄な時間じゃないんです。
一見、無駄と思う時間に、意味をみつけられたりすると、毎日の生活が変わります。

――それでは、『小説の書き方』の3回目を始めましょう。


1)どういうタイトルをつければいいの?

つばさ小説賞のしめきりは、8月31日(当日消印有効)。
もう、小説を書き上げたという人もいるでしょう。
そういう人でも、まだ。もうひと工夫できます。
それが、タイトルです。
作家の中には、「自分の書いた小説は、自分の子どものようなものだ」という人がいます。
そう考えると、小説のタイトルは子どもの名前になります。
自分の子どもに、てきとうに名前をつける親はいません。
小説も同じです。
せっかく書いた小説なので、いいタイトルを考えてあげてください。

では、どういうのがいいタイトルなのか?
インパクトがあるのがいいのか?
オーソドックス(王道)なのがいいのか?
インパクトがありすぎるタイトルでも、小説の内容とあわないと、ちぐはぐな印象になります。
でも、少しひねりはほしい感じがします。

といっても、実はぼく自身はタイトルをつけるのが苦手で、『絶体絶命ゲーム』は編集者さんたちが考えてくれたタイトルです。
『パーフェクト・セキュリティ』は自分でつけたタイトルですが、これは小説を書いているときに「とりあえず」でつけたタイトルが、そのまま採用になったものです。


絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル


パーフェクト・セキュリティ 彼は無敵のボディガード


 

これは、あくまでぼく個人の意見ですが、タイトルは作家本人がつけるより、まわりの人(友だちや家族など)が考えてくれたほうが、おもしろいものになる感じがします。

友だちに小説を読んでもらって、「タイトルが決まってないんだけど、なにかいいものないかな?」ときくと、おもしろいタイトルをつけてくれるかもしれません。

でも、友だちや親に読ませるのははずかしい、という人もいると思います。
そういうときは、図書館や書店へいって、タイトルだけ見てまわるのもいいかもしれません。

世の中には、たくさんの小説があって、1つずつに、タイトルがついてます。
自分では、想像もつかない独特なタイトルがあるので、参考になると思います。
それでも、タイトルが思いうかばないときは、主人公の名前をタイトルにする方法もあります。主人公の名前がタイトルになったものは、漫画や映画では多いんです。

ここからは、ぼくのお気に入りの作品タイトルを紹介します。
1つ目は、赤川次郎先生の『セーラー服と機関銃』です。
タイトルを聞いただけでも、内容が気になります。
イメージのちがう2つの単語を『○○と××』と、つなぐのもタイトルをつける1つの方法です。例えば、『美女と野獣』などです。
2つ目は、前に小説のあとがきにも書いた、横溝正史先生の『犬神家の一族』です。
タイトルだけでも、こわい感じがします。
横溝先生の小説はほかにも、『悪魔の手毬唄』『八墓村』『獄門島』など、タイトルからして、こわそうな小説がそろっています。
ぼくが中学生のころ、横溝先生の小説に夢中になったのは、タイトルにひかれたのかもしれません。タイトルだけではなく、内容もおもしろいですよ。
3つ目は、アガサ・クリスティーさんの『そして誰もいなくなった』です。
この小説は、大傑作です。


2)次回作のアイディアが見つからない?

みんなの中には、「将来、小説家になりたい」という人もいると思います。

なっている自分が言うのは照れくさいけど、小説家は、とてもいい仕事です。
なんと言っても、ぼくの書いた本で、喜んでくれる人がいるのは、とてもうれしいことです。
それと、作品にメッセージをこめて、読者に届けることができます。
『絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル』には、じつは、大人にむけたメッセージもこめています。
子どもに悩みがあるときは、じつは、大人(特に両親)が原因ということが多いです。
だから、「もっと子どもと向き合って」という、大人へのメッセージも、こめました。

そんな『絶体絶命ゲーム』ですが、書いていてこまるのは、次の巻のアイディアです。
アイディアを考えるのは、本当に大変です。
みんなの中にも、次の小説のアイディアにこまっている人がいるんじゃないかな?
アイディアをどうやって見つけるかですが、これは超むずかしいです。
正直に言うと、ぼくがだれかに教えてもらいたいくらいです。
アイディアは、いつ、どこで、どうやったら、見つかるのか?

明確な答えはわかりませんが、ヒントはあります。
1つは、小説のアイディアに敏感になることです。
「アンテナを張る」という表現をする人もいます。
どこかにおもしろい話がないか、いつも注意をはらっていることです。
そして、おもしろい出来事を見たり聞いたりしたら、メモしておくことです。
じつは、みんなのまわりにもきっと、小説になりそうなエピソードを持っている人がいます。
人間の数だけ、物語があります。
その物語に、敏感に気がつくように心がけることです。


ぼくの体験談ですが、ある日、カフェで本を読んでいると、となりの席で若い1人の女性が、雑誌の記者らしい人と、話をしているのがきこえました。

女性は「わたし、夢を売る仕事をしているんです」と言いました。
となりの席にいたぼくは、「どういうことだろう?」と耳をそばだてました。
「夢を売る仕事」……という言葉から想像できるのは?
アニメの監督、映画監督、ミュージシャン、漫画家、作家、芸術家、スポーツ選手、あるいは寝たあとに見る夢をあやつれる人か……など。

そのあと、記者がその女性の仕事を聞くと、それ意外だったけど納得のいく職業でした。
その女性は、宝くじ売り場で働いていたんです。
なるほど、これは本当に「夢を売る仕事」だ。

ぼくはおもしろい話を聞くと、アイディア帳にメモをしておきます。
このアイディア帳にはこだわりがあって、A6サイズ(148ミリ×105ミリ)のノートを使っています。
サイズを聞いてもぴんとこない人に、わかりやすく言うと、100円ショップで3冊セットで売っている小さいサイズのノートです。

1ページに、1つのアイディアを書くルールにしています。
そのアイディアが、たったの1行だったとしても、そのページにほかのアイディアは書かないようにして、1ページに1アイディアです。

新しい小説のアイディアがほしいとき、このノートをぺらぺらとめくって見ていると、そこから新しい物語が生まれることがあります。
みんなはまだ若いから、今からアイディア帳を作ると、みんなが大人になるころには、アイディア帳は数十冊になり、膨大な量のアイディアが書かれているはずです。
そうなると、小説家になったあとも、アイディアにこまることはなくなるかもしれません。
小説家を目指す人は、アイディア帳を作ってみてください。

ほかにアイディアを見つける方法としては、旅行にいったり、新しいことに挑戦したり、たくさんの人の話を聞いたり……、などあります。
でも、若いみんなは、まだ自由に旅行にはいけないですよね。
それに、「たくさんの人の話をきこう」と言っても、危険になることもあります。

旅行したり、挑戦したり、人と話をするのと同じような経験を、安全にできる方法があります。
それは、小説やエッセイを読んだり、映画やドラマを観ることです。
ぼくは、仕事の合間に、テレビのバラエティを見ることがあります。
タレントさんは話すのがじょうずだし、中には日常生活でおきたおもしろい話を聞かせてくれます。それが、小説のアイディアになることもあります。
でも、小説、エッセイ、映画、ドラマ、テレビのバラエティは星の数ほどあるし、毎日、新しいものが増えていくので、すべてを見るのは不可能です。
みんなには勉強もあるし、部活をやっている人もいるだろうし、友だちと遊ぶのも大切です。
だから、無理してたくさん読んだり、見るのではなく、普段の生活をしながら、小説のアイディアになりそうな話を読んだり、見つけたらメモをしておくことを心がけていてください。
最初に話したように、それが「アイディアになりそうな話に敏感になること」です。

ぼくには、アイディアが見つかる場所がいくつかあります。
それは、浴室です。
お風呂に入って、リラックスをしていると、アイディアがうかぶことがあります。
ほかには、駅のホームで電車を待っている時間や、電車に乗っている時間にも、アイディアがうかぶことがあります。
ぼっとしてリラックスをしているときに、アイディアは突然おりてきます。
お風呂の中などでは、アイディアを忘れないようにして、できるだけ早くメモします。
中には、「すぐに忘れてしまうものは、大したアイディアではなかったので、あきらめる」という人もいます。
でも、ぼくはそれほどアイディアが豊富でないので、せっかく、思いついたアイディアは、できるだけメモしています。


3)ぼくからみんなへの、最後のアドバイス

小説は、スポーツ大会ではないので、勝ち負けはありません。
まわりの人と、くらべることは必要ありません。
世の中には、なにをやってもじょうずな人は、たしかにいます。
初めて書いた小説で受賞する人もいれば、何作も書いているのに受賞できない人もいます。
でも、そんなことは気にすることはありません。
きみが本当に「小説を書くこと」が好きなら、こつこつ書きつづけることです。

まわりの人の小説から、刺激を受けるのはいいですが、人と自分をくらべて落ちこむ必要はありません。

自分は、自分です。
自分の小説の欠点や苦手なことを克服して、少しずつ前に進んでください。
「じょうずに書く」というよりも、「全力で書く」という気持ちが大切です。
すばらしい小説を書くために、ぼくが知っている方法は、「こつこつ努力をする」ということです。

みんな、楽しみながら、努力して、ときにはさぼってもいいので、小説を書いてみてください。
これで、ぼくの『小説の書き方』の講座を終わります。

おしまい


角川つばさ文庫では、夏休みの間、小・中学生のみんなの書いた小説を募集中。
くわしくはこちらを見てね!この講座を読んで、作品ができあがったら、ぜひ応募してほしいな!


クリックで角川つばさ文庫公式ホームページへ飛びます。



書誌情報


作: 藤 ダリオ 絵: さいね

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046316813

紙の本を買う

電子書籍を買う


この記事をシェアする

ページトップへ戻る