KADOKAWA Group
NEW ものがたり

藤ダリオ最新作「パーフェクト・セキュリティ」先行ためし読み連載 第4回


『絶体絶命ゲーム』が圧倒的人気の藤ダリオさん最新作、その名も『パーフェクト・セキュリティ』! タイトルは「カンペキ✨なボディガード」っていうイミ。依頼された相手を、あらゆる悪者たちから、絶対に守りぬく――それが「PS(パーフェクト・セキュリティ)」だ。
最強の少女・美月と無敵の少年・快星の2人が、東京中を走りまわるバディアクション! いますぐチェック!!
(公開期限:2025年8月31日(日)23:59まで)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

5 まわり中が敵だらけ!?

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……東京でも、星が見られるんだな」

 がっちりした体格の男が、夜空を見あげてしみじみと言った。

 となりにいる快星が、星を数えながら言う。

「見えると言っても、……1、2、3、4、5、6、7。たった7つだよ」

「もし、快星が東京で生まれていたら、ちがう名前をつけたんだろうな」

 快星に話しかけているがっしりした体格の男は、父親の古賀豪介だ。

「……一番星とか、七星とかいう名前になっていたってこと?」

 夜空を見ながら、快星がきいた。

「東京は北斗七星の結界で、守られているらしいからな。古賀七星も、わるくないな」

 豪介が笑顔で言うと、「それ、本気で言ってるの?」と快星が首をひねる。

「おまえは、砂漠の真ん中の小さな村で生まれた。おまえが生まれたとき、夜空にたくさんの星がきらめいていたんだ」

「気持ちいい、快い星空だったんでしょう。それで、快星という名前に決めたんだよね」

「おまえがここに、こうしていられるのは、たくさんの人に守られてきたからだ」

「……うん、わかっている。守るということは、命がけなんだよね」

 快星が、夜空を見ながら言った。

「そうだ。……それで、平松美月はどういう娘だ?」

 豪介にきかれて、快星は少し考えてから答える。

「……無鉄砲で、自己中心的、わがまま、頭はかなりいいね」

「それで、警護官も手を焼いているのか……」

 豪介は、にやにやしながら言った。

「彼女は、次になにをするかわからないんだ。守るのは至難の業だよ」

「……ほかに、美月ちゃんについて印象に残ったことはないのか?」

 豪介にきかれて、快星は不満そうな顔で答える。

「やさしい、かな……」



「そうか、やさしいか」と豪介。

「彼女は、今日も警護の目を盗んで逃げだしたんだ。それなのに、ぼくを心配して、正門からもどってきたんだ」

 快星の話をきいて、豪介はうなずく。

「なるほど、美月ちゃんは直子さんに似ているみたいだな」

「彼女のお母さんって、総理大臣候補の平松直子さんでしょう?」

「そうだよ。母さんの……、遥香の親友だ」

 豪介の言葉をきいて、快星はさみしそうな顔をする。

「母さんの親友の娘だから、ぼくが守らないとならないの?」

 快星の質問に、豪介は首を横にふる。

「そうじゃない。今、美月ちゃんは、とても危険な状況なんだ。直子さんを総理大臣にしたくないものたちは、警護の手薄な美月ちゃんを狙っているんだ」

「……具体的には、なにをするつもりかな?」

「考えられるのは、美月ちゃんの誘拐だ」

「誘拐!」

「美月ちゃんの安全とひきかえに、直子さんに総理大臣にならないように要求するんだ」

「そんなの、卑怯だよ!」

 快星が、強い口調で言った。

「だから、彼女を守らないとならないんだ」

 豪介に言われて、快星は考えこむ。

「お待たせしました。平松の準備ができました」

 うしろで声がして、快星と豪介はふりむいた。

 ドアの前に、直子の秘書が立っている。

 快星たちがいるのは、直子の家の屋上のテラスだ。

 秘書の案内で、快星と豪介は廊下を歩いていく。

 しゃれた洋館のところどころに、スーツ姿の警護官がいる。

「…………父さん、おかしいよ」

 快星が、吹き抜けになっているエントランスを見下ろす2階の廊下で立ちどまる。

「どうした?」

「警護官じゃない人がいる」

「平松が帰宅したので、警護官のほかに関係者もきていますよ」

 秘書が言うと、快星は首を横にふる。

「いや、ちがいます。……にせの警護官がまぎれている」

 快星は、1階のエントランスから、ドアの前に歩いていく背の高い男に目をとめる。

 そのとき、直子の部屋のドアが開く。

「不審者が侵入したわ!」

 部屋から出てきた直子が、大声で言った。

「父さん、あの男です!」

 快星が、ドアの前にいる背の高い男を指さす。

 その男がふりむいた。

 冷たい瞳の背の高い男は、にやりと笑うと玄関から出ていく。

「今、外に出た男をつかまえろ!」

 豪介が叫ぶが、警護官たちは動こうとしない。

「ぼくがつかまえる!」

 快星はそう言って、ドアにむかってかけだす。

「きみ、待ちなさい。あの方は……」

 廊下にいた警護官が、快星の腕をつかんだ。

 次の瞬間、その警護官は床にあおむけに倒されている。

「えっ!?」

 一瞬の出来事に、警護官はぽかんとしている。

「快星は柔術の達人だ。下手につかまえようとすると、けがをするぞ」

 豪介が言うと、ほかの警護官はだまって快星を見すごす。

 快星は背の高い男を追って、家の外に出た。

 しかし、背の高い男はすでにいない。

 警護官たちは、見て見ぬふりをしていたようだ。

 家にもどった快星は、豪介といっしょに直子の部屋に入った。

「不審者は逃げたようです」

 豪介が言うと、直子がしかめっ面でうなずいた。

「……少しの間、3人にして」

 直子が言うと、警護官が「危険です」と忠告する。

「あなたたちがいるのに、家に侵入されたのよ。わたしたち3人のほうが安全よ」

 直子の有無を言わさない態度に、警護官たちは、にがにがしい顔で部屋を出ていく。

 最後に秘書も出ていき、部屋にいるのは直子、豪介、快星の3人になる。

「不審者が侵入したと、どうして気がついたんだ?」

 豪介がきくと、直子が長方形のUSBを見せる。

「これが、わたしの机の上においてあったわ」

 直子はそう言うと、USBをパソコンにセットする。

 パソコンのモニターに、学校での美月の姿が映しだされる。

 美月は口をつきだして、頭を左右に振っておどけた顔をしている。

 映像が切り替わり、『娘が心配なら、総理大臣はあきらめろ』と文字が映しだされる。

「美月ちゃんは、盗撮されていたんだな」

 豪介が心配そうに言った。

「どんな手を使っても、わたしを総理大臣にさせたくない人がいるのよ」

 直子が、怒りをおさえながら言った。

「これ、今日の映像だよ」

 快星が言うと、「どうして、わかるんだ?」と豪介がきく。

「今日、野球の試合をしたんだ。試合に負けたチームの代表は、校長先生の物まねをやらされた。美月のこの顔は、校長先生のまねだ」

「それじゃ試合に美月は負けたの!」

 直子が大きな声で言った。

「あいかわらず、負けずぎらいだな。今はそれどころじゃないだろう」

 豪介が、なだめるように言った。

「えぇ、そうだったわね」と気を取りなおす直子。

「映像から、カメラの位置がわかるんじゃない?」

 快星がきくと、豪介がスマホのマップを開く。

「美月ちゃんの映像を、もう1回再生してくれる?」

 豪介に言われて、直子はUSBに入っている映像を再生させる。

 美月のうしろに、慶学院中等部の校舎が映っている。

「この映像の場所は、学校のグランドだ」

 快星が、パソコンの映像を見ながら言った。

「美月ちゃんはグランドにいて、うしろに校舎が映っているということは……、撮影者は学校の外からズームで撮影したんだな」

 豪介が、スマホに表示したマップと美月の映像を見くらべながら言う。

「父さん、このビルじゃないですか?」

 快星が、スマホのマップを指さす。

 慶学院の校舎があり、その前にグランド、その前に大きな通りをはさんで、オフィスビルがいくつか建っている。

「このビルの中の、どこかから撮影したようだな。画角から階もだいたい特定できる。……まあ。プロなら証拠は残さないと思うけど、調べてみるよ」

 豪介が言った。

「USBをおいていったのは、さっき出ていった警護官になりすました背の高い男だよ」

 快星が言うと、豪介がつけくわえる。

「なりすましとは限らないぞ。本物の警護官かも知れない」

「わたしを直接襲う勇気がないから、美月を狙うとおどしてきたのよ。最低な人たちだわ」

 直子は、いらいらした口調で言った。

「首相指名選挙の前に総理大臣候補の直子さんが襲われたら、世界的な大ニュースになるからな。それに、直子さんを警護している警察の信用も失う。それで、美月ちゃんに目をつけたんだろう」

 豪介が説明すると、直子がきっぱり言う。

「そんなおどしに屈する平松直子じゃないわ」

「美月ちゃんについている2人の警護官は、信用できるのか?」

 豪介がきくと、直子が苦笑いで答える。

「どうかしら。……でも、だれも警護につけないわけにはいかないでしょう」

「あの2人は、優秀ですよ」

 快星が、意味深に言った。

「でも、美月にまかれたのよ」

「彼女が逃げられたのは、あの2人が美月を信じていたからです。それに……」

「なに?」

「……美月が無事だということは、……あの2人が優秀ということです」

 快星は、少し考えながら言った。

「なるほど、快星くんはやさしいのね。……遥香に似てる」

 直子は、まじまじと快星の顔を見る。

「そ、そんなこと言われても……」

 快星は、言葉をつまらせる。

「どちらにしても、警護の対象者に逃げられるなんて、警護官としては失格だ。あの2人はかえてもらったほうがいいな」

 豪介が言ったとき、ドアが開く。

「警護は、原島さんと友里恵さんでいいわ。わたし、あの2人が気にいってるの」

 そう言って美月が、部屋に入ってくる。

 彼女は、ラフな部屋着を着ていて、腰に大きなキーホルダーがついている。

 原島と友里恵は、廊下で待たされている。

「それよりも、どうして、快星がここにいるの?」

 美月が、快星に目をむけて言った。

「父さん、ぼくは歓迎されてないみたいだよ」

 快星が、肩をすくめて言った。

「まぁ、いいだろう。それよりも、美月ちゃん、キーホルダーを見せてくれないか」

 豪介に言われて、美月はきょとんとなる。


▶次のページへ


この記事をシェアする

ページトップへ戻る