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藤ダリオ最新作「パーフェクト・セキュリティ」先行ためし読み連載 第3回


『絶体絶命ゲーム』が圧倒的人気の藤ダリオさん最新作、その名も『パーフェクト・セキュリティ』! タイトルは「カンペキ✨なボディガード」っていうイミ。依頼された相手を、あらゆる悪者たちから、絶対に守りぬく――それが「PS(パーフェクト・セキュリティ)」だ。
最強の少女・美月と無敵の少年・快星の2人が、東京中を走りまわるバディアクション! いますぐチェック!!
(公開期限:2025年8月31日(日)23:59まで)


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4 転校生の正体をあばけ!

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 3時間目の体育の授業は、外で野球だった。

 慶学院では、体育は男女混合でおこなわれる。

 先生が戦力を考えながら、2つのチームを決めた。

 美月は快星と同じチームになり、裕也と香純は敵のチームだ。

 試合に出られるのは1チーム9人で、残りは控え選手になる。

 美月のチームは1塁側に集まって、だれがどのポジションを守るか話しあう。

「快星って運動神経はどうなの?」

 美月の質問に、快星は「わるくないけど……」と答える。

「それなら、1番でピッチャーをやってもらうわ」

「いや、ぼくは控え選手でいいよ」

「クラスに早くとけこみたいでしょう。それに、こっちのチームには優秀なピッチャーがいないの」

「それなら、やってもいいけど。……みんな、本当にぼくでいいの?」

 快星が確認すると、みんなは「いいよ」とかるく返してくる。

 美月は、敵のチームに目をむける。

 球技の苦手な香純は、控え選手に回るようだ。

「試合をやる前に、1つ条件を出していいか?」

 裕也がとうとつに、美月たちにきいた。

「なに?」と美月。

「ただ試合をするだけならつまらないから、負けたら、チームの全員が校長先生の物まねをするっていうのはどうだ」

 裕也が提案すると、ほかの生徒はくすくす笑う。

「おもしろそうじゃない。ただ、校長の物まねをするのは代表1人よ。それで、どう?」

 美月が言うと、みんなは盛りあがる。

「そういうことは、やめなさい」

 先生が注意するが、みんなはやる気まんまんだ。

「もう、やると決めました。わたしは、『折れない女』の娘の『折れない娘』です。一度、やると言ったら、絶対にやります」

「……しょうがないな。でも、あまり誇張したらダメだぞ」

 先生は、あきれたように言った。

「それは、裕也に言ってください」

 美月の言葉に、裕也が言いかえす。

「それは、こっちのセリフだ。おれたちは、絶対に負けない」

 裕也と美月の言いあいに、快星は笑顔で言う。

「名門校だから、優等生ばかりなのかと思ったけど、みんな、意外とやんちゃなんだね」

「転校生、本気で投げてよ! 打たれたら、校長先生のまねさせられるのよ」

 美月は、気合いを入れるように言った。

「ぼくはどんなときでも、どんなことでも全力でやる。ぼくは、そうやって生きてきたんだ」

 快星は、真顔で答えた。

「おれがその全力の球を、ホームランにしてやるよ!」

 裕也が、快星をにらみつけて言った。

 試合前、チームを代表して美月と裕也がじゃんけんで、先攻と後攻を決める。

 じゃんけんで勝った美月は、後攻を選ぶ。

 1回表、快星は投手板の上に立つ。

 相手チームの最初のバッターが、バッターボックスに入る。

 快星が、初球を投げる。

ビューッ!

ズバン!

 うなりをあげたボールが、キャッチャーミットにおさまる。

「「おおっ……」」

 敵も味方も、快星の豪速球に目を見はる。



「……やっぱり、ただものじゃなかったな」

 ベンチで見ていた裕也がつぶやいた。

ビューッ、ビューッ!

 快星は、最初のバッターを3球で三振にとる。

 2番バッターも手も足も出ないで、三振にとられた。

「おれが打つ!」

 裕也はそう言うと、バッターボックスに入った。

 気合い十分な裕也に、快星は冷静にアウトコースのボールを投げこんだ。

ビューッ!

 裕也は打ちにいくが、力が入って空振りする。

「くそっ、次は打ってやる」

 裕也が、バッターボックスでつぶやく。

 美月と香純とほかの生徒だけではなく、グランドの外から原島と友里恵も、見慣れない転校生に注目している。

「本当は、目立ったらダメなんだけどなぁ……」

 快星はつぶやいたあと、裕也に2球目を投げた。

 ふわっとした変化球だ。

「なに……!」

 裕也はタイミングを外されながらも、強振する。

コツン!

 当たりそこねのボールが、セカンドの前に飛ぶ。

 セカンドの選手が、ボールをとろうとするが……。

「うわぁ!」

 ボールは地面でイレギュラーすると、セカンドの選手の顔をかすめて、外野にころがる。

「ごめん、ごめん……」

 あやまったセカンドの選手を、みんなが心配そうに見る。

「なに、どうしたの?」

「おまえ、鼻血が出ているぞ」

 1塁ベースに到達した裕也が、セカンドの選手に言う。

「えっ……? あれ、本当だ」

 セカンドの選手が鼻をおさえて言った。

 先生が、セカンドの選手のところに飛んでいく。

「保健室にいったほうがいいな。みんな、ちょっと待っていて……」

 先生が、鼻血を出した生徒を連れていく。

「どうする? 先生がもどってくるまで休憩にするか?」

 裕也がきくが、みんなはピッチャーのほうを見ている。

 快星が、地面に座りこんでいる。

「どうしたの?」

 サードを守っていた美月が、快星にかけよる。

 快星は、真っ青な顔をしている。

「血だ……」

「血って?」

 美月がきいた。

「だ、だ、だから、血が……」

 快星は、ふるえる声で言った。

「あぁ、鼻血が出たみたいよ。でも、快星が責任を感じることはないわ」

 美月が、落ちつかせるように言った。

「……ぼく、少し休ませてもらうよ」

 快星は立ちあがると、おぼつかない足取りで歩いていく。

 香純がベンチから飛びだして、快星にかけよる。

「古賀くん、大丈夫?」

「気分がわるいんだ。保健室にいくよ」

 快星は、弱々しい足取りで歩いていってしまう。

「……どう思う?」

 美月が、立ちつくしている香純にきいた。

「古賀くん……もしかして、血がこわいんじゃないかな?」

「血がこわいって言っても、鼻血が少し出ただけよ」

「それでも、血がこわい人には、こわいのよ。おそらく、血液恐怖症よ」

「……なに、それ?」と美月。

「高所恐怖症は、高い場所がこわいでしょう。閉所恐怖症は、せまい場所がこわい。血液恐怖症は、血がこわいのよ」

 香純の説明をきいて、美月は考えこむ。

「……そうか。つまり……、あいつはただの転校生だ!」

 美月は、安心したように言った。

「どうして、そうなるの?」

 香純は、納得していない顔できいた。

「だって、血がこわい人が、わたしを襲えるはずないわ。

もし、なにかの拍子で血が出たら、逃げだしちゃうわけだし」

「まぁ、そうだけど……」

「それに、わたしを襲ってきたら鼻血を出して、撃退してやる」

「鼻血はかんたんに出せないわよ」

 香純があきれたように言うと、美月が声をひそめて言う。

「これで安心して、抜けだせるわ」

「まさか、また抜けだすつもりなの?」

 香純がきくと、美月は大きくうなずいた。

 放課後、美月は生徒会室にいく。

「大切な会議なの、少し遅くなるかもしれないけど、ここで待っていてね」

 美月は原島と友里恵に、そう言って生徒会室に入った。

 生徒会室では、数人の先輩が楽しそうに雑談している。

「こんにちは」

 美月は、先輩にあいさつする。

「あれ、どうしたの? 今日、会議はないわよ」

 先輩が言うと、美月は「知ってます。ちょっとあれを……」と意味深に言う。

「あぁ、なるほど。あれを使いたいのね」

 先輩は、察したように言った。

「ちょっと、1人になりたくて」

 美月が答えると、先輩はうなずく。

「わかるわ。いいわよ。でも、見つからないようにね」

「はい」と返事をして、美月は奥のドアから資料室にいく。

 美月は、資料室のすみにある木製の大きな本棚の前にいく。

 本棚には、たくさんの本が、すきまなくならんでいる。

「原島さんと友里恵さん、ごめんなさい。でも、わたし、1人でいきたいところがあるの」

 美月はつぶやくと、本棚の中央の段の右すみにおかれた分厚い本を押す。

 すると、カチャと音がして、本棚が50センチほど右に移動する。

 うしろの壁に幅50センチ、高さ1・5メートルほどの穴があらわれる。

「わが校の伝統の抜け道さん、ありがとう」

 美月が、壁にあいた穴に入る。

 本棚は、自動でもとの位置にもどる。

 美月が、幅50センチほどの細い廊下を歩いていく。

 その先にあるドアを開けると、そこは倉庫になっている。

 使われていない椅子や机などが無造作におかれている。

 美月は、倉庫を通って外に出た。

「楽勝」

 美月は髪をたばねると、うつむいて歩いていく。

 下校時で、たくさんの生徒が正門にむかっている。

「人にまぎれるのが、一番のカムフラージュよ」

 美月は、つぶやきながら歩いていく。

ドン!

 正門から出ようとしたとき、美月はだれかとぶつかった。

「あっ、ごめんなさい」

 ぶつかった男子があやまる。

「えっ、その声って……!」

 美月は、ぶつかった男子を見て驚く。

 快星だ。

「あれ、ぐうぜんだね。体育の授業では、心配をかけました」

 快星はそう言うと頭をさげた。

「ああ、そう、わたし、いそいでいるの……」

 美月はそそくさと言い残して正門から出ていこうとしたが……すぐに快星の前にもどってくる。

「……あのあと、教室にもどってこなかったけど、大丈夫なの?」

 美月が、あらためてきいた。

「少し休んだら、よくなったよ。……転校してきたばかりで、緊張していたせいだと思うよ」

 快星は笑顔で言った。

「それなら、いいけど。……いいや、よくない。快星のせいで、わたし、校長先生の物まねをやらされたのよ」

 美月が怒ると、快星は苦笑いで言いかえす。

「でも、それはぼくのせいじゃないよ。ぼくは途中から、試合に出なかっただけなんだから」

「そういうことじゃない……」

 2人が言い争っているところに、原島と友里恵がやってくる。

「美月さん、ご帰宅されるなら、家まで警護します」

 原島が言った。

「あぁ、もう!」

 美月は、快星をにらみつけた。



File.4につづく

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