KADOKAWA Group
ものがたり

藤ダリオ最新作「パーフェクト・セキュリティ」先行ためし読み連載 第2回


『絶体絶命ゲーム』が圧倒的人気の藤ダリオさん最新作、その名も『パーフェクト・セキュリティ』! タイトルは「カンペキ✨なボディガード」っていうイミ。依頼された相手を、あらゆる悪者たちから、絶対に守りぬく――それが「PS(パーフェクト・セキュリティ)」だ。
最強の少女・美月と無敵の少年・快星の2人が、東京中を走りまわるバディアクション! いますぐチェック!!
(公開期限:2025年8月31日(日)23:59まで)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

2 サイアクな母親?

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あやまりなさい!」

 迫力のある女性の大きな声が、広い部屋に響いた。

 ここは世田谷区にある美月の家の、母親の書斎だ。

 大声の主は、美月の母の平松直子だ。

「どうして、わたしがあやまらないとならないの?」

 美月が言いかえした。

「あなたは原島さんと根岸さんの信頼を逆手にとって、学校を抜けだした。その結果、とても危険な目にあいました。すべて、あなたがわるいんです。原島さんと根岸さんにあやまりなさい」

 直子に言われて、美月はくやしそうな顔をする。

「なに? 筋の通った言いわけがあるなら、きかせて?」

「わたしは、ただ……」

 美月はそこまで言って、口をとざす。

「……幼なじみの友人に会いにいっただけ、とでも言いたいの?」

 直子が、引きついで言った。

「……そうよ」

「それは、原島さんと根岸さんをまいた理由にはならないわ」

「わたしたちのことでしたら、お気づかいなく」

 美月のうしろに立っていた原島が言うと、となりの友里恵は小さくうなずく。

「本人たちがこう言ってるんだから、いいじゃない」

 美月が言うと、直子は首を横にふる。

「そういうの、わたしはゆるしません」

「わかったわ」

 美月はふりむくと、「ごめんなさい」と頭をさげる。

「いいえ、無事でなによりでした。……頭をあげてください」

 原島に言われて、美月は頭をあげる。

「……でも、こうなったのは、母さんのせいよ!」

 美月が言うと、直子は不満そうな顔できく。

「わたしのせい? それはどういう意味ですか?」

「母さんが、慎也を転校させたんでしょう!」

「その話に、根拠と証拠はあるの?」

 即座に直子が、問いつめる。

「そんなの、ないわよ。でも……」

「憶測で、人を非難するのはやめなさい!」

「……母さんと慎也の父さんは、敵同士なんでしょう。だから、わたしと慎也が同じ学校にいたら、なにかと都合がわるいのよ。それで、慎也を転校させたんでしょう」

 美月は、強い口調で言った。

 直子は大きく息をつくと、気持ちをおさえた落ちついた声で言う。

「……それは誤解よ。慎也くんの転校は、慎也くんのお父さんが決めたことよ。母さんはなにも関係してないわ」

「でも、母さんの存在が、そうさせたんでしょう。……わたしだって、母さんのせいでどれだけ不自由しているか……」

 美月は、言葉をつまらせながら言った。

「……美月が不自由な生活をしているのは、わるいと思っているわ。でも、この国のためなの……。今、日本には新しいリーダーが必要なの。母さんは、この国をよくするために……」

「選挙演説なら、駅前でやってよ!」



 直子の話を、美月がさえぎった。

「話の腰を折らないで……」

「そうか、母さんは世間では『折れない女』と言われているのよね」

 美月の言葉に、うしろできいていた友里恵が思わず吹きだした。

 直子が、友里恵をにらむ。

「……す、すいません」

 友里恵は、すかさずあやまった。

「いいのよ。わたしはどんなことも妥協しない、『折れない女』よ。そのせいで、散々、いやがらせを受けたし、今も……」

「……今も、なに?」

 美月がきくと、直子は話題をかえる。

「あなたは頭のいい子よ。だから、今、母さんのおかれている立場はわかるでしょう。母さんは、とても難しいことに挑戦しようとしているの」

 重苦しい短い沈黙になる。

「……慎也がわたしを呼びだしたのは、だれにもきかれたくない話があったからよ」

 美月が言うと、直子が興味をしめす。

「どんな話なの?」

「母さんが、首相指名選挙に出るのをやめるように、わたしから言ってほしいとたのんできたのよ」

「……おとなの話に子どもを使うなんて、卑怯な人たち」

 直子が、つぶやくように言った。

「それから、わたしと母さんが危険だとも言っていたわよ」

 美月が、口をとがらせて言った。

「危険は承知の上よ。どんないやがらせを受けても、わたしは折れない。絶対に総理大臣になって、この手で、この国をよくするの。そのために、美月、もう少し我慢して」

 直子はそう言うと、美月にむかって深く頭をさげた。

「……わ、わかったわ。もう、やめて」

 美月が言うと、直子が頭をあげる。

「……それで、美月を襲ってきた男たちは、なにものかわかった?」

 直子が気持ちを切りかえて、原島と友里恵に質問した。

「それが……」

 口ごもる原島に、美月はまゆをひそめる。

「どうしたの?」

「2人とも、芸能プロダクションのスカウトで、かわいい女の子を見かけたから、声をかけただけだと……」

 原島が、申し訳なさそうに言った。

「そんなのうそよ! わたしは、追いかけまわされたのよ!」

 美月が、大きな声を出す。

「わかっています。でも、これ以上は……」

 友里恵が、くやしそうに言った。

「上からの命令で、調べられないのね」

 直子が言うと、友里恵がうなずく。

「どういうこと?」

 美月が、けげんな顔できいた。

「警察のえらい人が、原島さんたちに圧力をかけたのよ」

 直子が、平然と言った。

「えらい人って……?」

 美月は、納得できない。

「母さんには、いたるところに敵がいるの。たとえば、警察のえらい人とかね」

 直子が言うと、美月はあきれた顔できく。

「そんなに敵が多くて、母さん、本当に総理大臣になれるの?」

「なるわ。わたしが総理大臣になって、日本の大掃除をするのよ」

「……なるほど、掃除されたら都合のわるい人は、母さんに総理大臣になってほしくないのね」

 美月の言葉に、直子がうなずく。

「まぁ、そういうことね」

 直子はそう言うと、神妙な顔で原島と友里恵に話しかける。

「3日後の選挙で、わたしは総理大臣に選ばれる。それまで、美月を守って」

「「はい!」」

 原島と友里恵は、力強い返事をした。


▶次のページへ


この記事をシェアする

ページトップへ戻る