
『絶体絶命ゲーム』が圧倒的人気の藤ダリオさん最新作、その名も『パーフェクト・セキュリティ』! タイトルは「カンペキ✨なボディガード」っていうイミ。依頼された相手を、あらゆる悪者たちから、絶対に守りぬく――それが「PS(パーフェクト・セキュリティ)」だ。
最強の少女・美月と無敵の少年・快星の2人が、東京中を走りまわるバディアクション! いますぐチェック!!
(公開期限:2025年8月31日(日)23:59まで)
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2 サイアクな母親?
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「あやまりなさい!」
迫力のある女性の大きな声が、広い部屋に響いた。
ここは世田谷区にある美月の家の、母親の書斎だ。
大声の主は、美月の母の平松直子だ。
「どうして、わたしがあやまらないとならないの?」
美月が言いかえした。
「あなたは原島さんと根岸さんの信頼を逆手にとって、学校を抜けだした。その結果、とても危険な目にあいました。すべて、あなたがわるいんです。原島さんと根岸さんにあやまりなさい」
直子に言われて、美月はくやしそうな顔をする。
「なに? 筋の通った言いわけがあるなら、きかせて?」
「わたしは、ただ……」
美月はそこまで言って、口をとざす。
「……幼なじみの友人に会いにいっただけ、とでも言いたいの?」
直子が、引きついで言った。
「……そうよ」
「それは、原島さんと根岸さんをまいた理由にはならないわ」
「わたしたちのことでしたら、お気づかいなく」
美月のうしろに立っていた原島が言うと、となりの友里恵は小さくうなずく。
「本人たちがこう言ってるんだから、いいじゃない」
美月が言うと、直子は首を横にふる。
「そういうの、わたしはゆるしません」
「わかったわ」
美月はふりむくと、「ごめんなさい」と頭をさげる。
「いいえ、無事でなによりでした。……頭をあげてください」
原島に言われて、美月は頭をあげる。
「……でも、こうなったのは、母さんのせいよ!」
美月が言うと、直子は不満そうな顔できく。
「わたしのせい? それはどういう意味ですか?」
「母さんが、慎也を転校させたんでしょう!」
「その話に、根拠と証拠はあるの?」
即座に直子が、問いつめる。
「そんなの、ないわよ。でも……」
「憶測で、人を非難するのはやめなさい!」
「……母さんと慎也の父さんは、敵同士なんでしょう。だから、わたしと慎也が同じ学校にいたら、なにかと都合がわるいのよ。それで、慎也を転校させたんでしょう」
美月は、強い口調で言った。
直子は大きく息をつくと、気持ちをおさえた落ちついた声で言う。
「……それは誤解よ。慎也くんの転校は、慎也くんのお父さんが決めたことよ。母さんはなにも関係してないわ」
「でも、母さんの存在が、そうさせたんでしょう。……わたしだって、母さんのせいでどれだけ不自由しているか……」
美月は、言葉をつまらせながら言った。
「……美月が不自由な生活をしているのは、わるいと思っているわ。でも、この国のためなの……。今、日本には新しいリーダーが必要なの。母さんは、この国をよくするために……」
「選挙演説なら、駅前でやってよ!」

直子の話を、美月がさえぎった。
「話の腰を折らないで……」
「そうか、母さんは世間では『折れない女』と言われているのよね」
美月の言葉に、うしろできいていた友里恵が思わず吹きだした。
直子が、友里恵をにらむ。
「……す、すいません」
友里恵は、すかさずあやまった。
「いいのよ。わたしはどんなことも妥協しない、『折れない女』よ。そのせいで、散々、いやがらせを受けたし、今も……」
「……今も、なに?」
美月がきくと、直子は話題をかえる。
「あなたは頭のいい子よ。だから、今、母さんのおかれている立場はわかるでしょう。母さんは、とても難しいことに挑戦しようとしているの」
重苦しい短い沈黙になる。
「……慎也がわたしを呼びだしたのは、だれにもきかれたくない話があったからよ」
美月が言うと、直子が興味をしめす。
「どんな話なの?」
「母さんが、首相指名選挙に出るのをやめるように、わたしから言ってほしいとたのんできたのよ」
「……おとなの話に子どもを使うなんて、卑怯な人たち」
直子が、つぶやくように言った。
「それから、わたしと母さんが危険だとも言っていたわよ」
美月が、口をとがらせて言った。
「危険は承知の上よ。どんないやがらせを受けても、わたしは折れない。絶対に総理大臣になって、この手で、この国をよくするの。そのために、美月、もう少し我慢して」
直子はそう言うと、美月にむかって深く頭をさげた。
「……わ、わかったわ。もう、やめて」
美月が言うと、直子が頭をあげる。
「……それで、美月を襲ってきた男たちは、なにものかわかった?」
直子が気持ちを切りかえて、原島と友里恵に質問した。
「それが……」
口ごもる原島に、美月はまゆをひそめる。
「どうしたの?」
「2人とも、芸能プロダクションのスカウトで、かわいい女の子を見かけたから、声をかけただけだと……」
原島が、申し訳なさそうに言った。
「そんなのうそよ! わたしは、追いかけまわされたのよ!」
美月が、大きな声を出す。
「わかっています。でも、これ以上は……」
友里恵が、くやしそうに言った。
「上からの命令で、調べられないのね」
直子が言うと、友里恵がうなずく。
「どういうこと?」
美月が、けげんな顔できいた。
「警察のえらい人が、原島さんたちに圧力をかけたのよ」
直子が、平然と言った。
「えらい人って……?」
美月は、納得できない。
「母さんには、いたるところに敵がいるの。たとえば、警察のえらい人とかね」
直子が言うと、美月はあきれた顔できく。
「そんなに敵が多くて、母さん、本当に総理大臣になれるの?」
「なるわ。わたしが総理大臣になって、日本の大掃除をするのよ」
「……なるほど、掃除されたら都合のわるい人は、母さんに総理大臣になってほしくないのね」
美月の言葉に、直子がうなずく。
「まぁ、そういうことね」
直子はそう言うと、神妙な顔で原島と友里恵に話しかける。
「3日後の選挙で、わたしは総理大臣に選ばれる。それまで、美月を守って」
「「はい!」」
原島と友里恵は、力強い返事をした。