「将来、どんな仕事につきたい?」
そう聞かれて、すぐ答えられる人は、そんなに多くありませんよね。
まだ決まっていなくても、大丈夫。途中で変わっても、もちろん大丈夫。
このお話は、主人公のアドさんと同級生の中学生たちが、“異世界”で仕事を選ぶ授業から始まります。
勇者や魔法使い、商人や治療師。ちょっと変わった仕事も、見たことのない仕事も出てきます。
でも、これはただのファンタジーではありません。
「自分は何が好きなんだろう」
「向いている仕事って何だろう」
そんな、きみの中にあるモヤモヤを探るために、物語の世界に入ってみよう!
※本連載は『5分でわかる私たちの未来の仕事 2040年のハローワーク』から一部抜粋して構成された記事です
※これまでのお話はこちらから
第2章:カヤのChatGPT教室へようこそ
ChatGPTになりきってみよう
目当てのカフェは、県庁近くの労働会館にありました。
見た目は会議室そのままで、店内は広々としています。早い時刻のせいか、お客さんよりスタッフの数が目立ちます。
モリさんが小声で聞きました。
「ここってロボットが働いているの?」
「ここにいるロボットは、リモートで人間が操作しているの」
接客を受けるには入場料がかかりますが、アドさんはお母さんから「カヤちゃん応援費」ということで二人分の飲食費をもらってきました。リッチさんもアドバイス料こみのお小遣いを支給されています。
小柄な女性ぐらいの背丈のロボットが三人を迎えてくれました。案内されたテーブルは奥です。思い切りお喋りできるように、というお店の配慮でしょうか。
テーブルでは、てのひらサイズのかわいい小型ロボットがお迎えしてくれました。赤いリボンを胸元に飾っています。隣にはモニターがあって、モニターには、車椅子に乗ったカヤさんの姿がありました。アニメーションとともに盛大に手を振っています。
「ヤッホー、アドちゃん」
「カヤちゃん、おひさしぶり、てか昨日もチャットで話したけどね!」
アドさんは同行の二人をカヤさんに紹介して、カヤさんは自己紹介。
本人によるアニメーションとともに、略歴が語られます。生まれはアメリカの東海岸、歳の離れた兄がいます。アメリカのあちこちをめぐったあと、五年前、病気がわかって家族とともに日本に帰国しました。その後、お兄さんは留学して、両親と三人暮らし。車椅子生活ですが、最近、開発中の新薬の治験モニター(新薬候補の治療実験を受ける人)に選ばれて、ラッキーなことに病気の進行が止まりました。今は毎日がリハビリです。学校はインターナショナルスクール。
「このお店で、アルバイトをしているの?」
「キャストね。中学生はアルバイトできない。でも、芸能活動はOK。分身ロボットアクターだよ」
カヤさんの日本語は、文法的にはちょっと怪しいのですが、早口で単語を並べていきます。足りないところはロボットの腕の動きと画面のアニメのポップで補っています。
「みんなに会えて、すっごくうれしい!」
カヤさんが大喜びするのをみて、アドさんたちもうれしくなります。つい声が大きくなってしまい、お店の人に衝立で囲まれてしまいました。手のあいたスタッフに連れられて、他のアバターロボットたちも顔をだしました。
アバターロボットのキャストたちは、カヤさんのようにさまざまな事情で外での就労がむつかしい人たちなのだそうです。
「よし。接客モードオン」
パララッパラーと音楽が聞こえました。
「OK、ChatGPTのことだね?」
「調べたんだけど、よくわかんなくて」
モニターの中のカヤさんの目がキラリと輝きます。
「それじゃあ、ゲームスタート! アドちゃん、ユーは今から全知全能のChatGPTだ。わたしの質問に答えなさい」
えええ! アドさんは固まってしまいました。カヤさんから、スマホの検索は自由に使ってよいといわれてちょっと安心しました。
「ではアドChatGPTよ、『おすすめのおやつは何ですか?』」
「何でもいいの? じゃあポテチ!」
カヤさんがニカッと笑います。
「じつはわたし、八十歳の女子中学生! 高血圧ね。ポテチは塩分でアウト!」
次はモリさんが指名されます。
「モリChatGPTよ。ユーは今、お医者さんです。八十歳女子中学生に、どんなおやつ、おすすめしますか?」
モリさんは目をぱちくりさせて答えます。
「果物です。リンゴやオレンジ。高血圧のお薬を飲んでいる人は、グレープフルーツジュースは絶対いけません」
キンコンキンと正解の鐘が鳴ります。
「ワンダフル。次、リッチさん。ユーは、日本一のお菓子屋さん。ちっちゃいお菓子ショップの人が、ユーにアドバイスを求めています。お客さんはみんなお年寄り。リッチよ、たくさん売れるお菓子は何ですか?」
リッチさん、しばらく考えたあと、
「うちのお祖母ちゃまは、豆乳クッキーを食べているよ。体にいいんだって」
「マーベラス!」
キンコンキンと正解の鐘。
「今みたいなやり取りがChatGPT。あたしの指示がプロンプト。プロンプトっておぼえて。プロンプトに条件を加えると、答えが変わる。声や語り口も変えられるよ。何もなしで質問すると、アドChatGPTになる」
「答えがポテチになるんだ」
全員で笑いました。
カヤさんにすすめられて、さっそくスマホでChatGPTの画面を開きました。登録したあと、無料サービスを使ってみました。カヤさんのいった通り、プロンプトに条件を加えると、びっくりするほど解答が変わりました。
そのあいだに注文したケーキセットが届き、お客さんが入りはじめて、見物していたロボットたちは接客に戻っていきました。
リッチさんは、先生に却下された自分のレポートをカヤさんにみせました。
「あたしのレポートが却下されたのは、プロンプトを書かなかったからなんだ。でもほかの子も、書いてなかったと思うんだけど」
みんなでリッチさんのレポートをのぞきました。カヤさんにいわれたことを意識して読み直すと、リッチさんのレポートが単純なプロンプトで出力されたものではないことがわかりました。
カヤさんがずばりいいました。
「このテキスト、お父さんが出力した?」
「そうなの。パ──、父に頼んじゃった。でも、プロンプトは忘れたっていわれた」
「うんうん、使い慣れている人だね。ほかの人のレポートが通ったのは、レポートのタイトル、そのまま入力したからだと思う。でも、リッチさんパパは、ちょっと複雑なプロンプトをいれた。たぶん、こんなの」
モニターに、日本語の文章があらわれました。『この文章から推察されるプロンプトは以下のようなものです。質問者は、魔法が使える世界に住んでいる子煩悩で心配性の男性です。彼の十四歳の娘は、幻影魔法による映画製作会社を立ちあげて、その声優部門に入りたいと願っています。生成AIは百戦錬磨の経営者として、娘さんが異世界で声優として成功するためにどんな努力が必要か、親身で温かいアドバイスを与えることを期待されています。素敵なお父さんですね』
「もしかしてこの文章も、ChatGPT?」
「これは、ほかの生成AI。生成AIは今たくさんあるから。リッチさんのお父さん、自分がいれたプロンプトを話すのが恥ずかしかったのかも」
「そうかも。あたしが質問したら、パパ、何だか焦ってた」
第4回へつづく(3月12日公開予定)
本書の巻末には、「冒険者手帖」と称した【性格タイプ別のお勧め進路と未来の職業予測】を掲載していますので、物語を読んだあとに現実的に自分の将来を考えることができるようになっています。
「正解の進路」や「安全な将来」は、実は誰にも用意されていないのかもしれません。
けれど、迷いながら考えること、自分の言葉で語ろうとすること、それ自体が一つの力になります。
次回は、また別の選択と、その先の現実へ。
少しだけ肩の力を抜いて、続きをのぞいてみてください。