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『世にも奇妙な商品カタログ』の作者がおくる、ときめいて「ゾッ!」とする新シリーズ『もしもの世界ルーレット』を、どこよりも早くおとどけ!
いっけんステキな理想の世界にかくされた、超キケンなワナとはいったい――?
キミには、この結末がわかるかな?
第1章 あったら便利? “スペアの体”の使い方
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2 波乱の予感? 通年グループと自己紹介
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「はーい、全員そろいましたね。それでは、これから、普崎(ふさき)中学校の一年の始まりにおいて、大事な大事なイベントである――通年グループ決めを行います!」
担任の仁科(にしな)先生は、黒板の前に、くじ引きの箱を用意していた。
生徒たちが軽くざわめく中、仁科先生は説明を始めた。
「みなさんには通年グループ……つまり、一年間ずっと同じメンバーのグループで、さまざまな活動を経験してもらいます。これはですね、『仲のいい友だち以外の人とも、せまく深く交流する練習』を目的にしたものなので、くじ引きでグループを決めることになっています」
生徒たちのざわめきが大きくなる。
その中には、「えー……」とあきらかに不満をもらす声もまじっていた。
無理もない。くじ引きで、もしいやな相手といっしょのグループになってしまったら、これからの一年間を考えるだけで気が重すぎる。
(なるほど。たしかに、これは大事なイベントだ。……運を天に任せるしかないっていうのが、つらいとこだけど)
そのとき、頭の片隅で、何かの記憶がよみがえりかけた。
あれ……? 少し前にも、似たようなことがなかったっけ?
自分の意思や希望じゃどうしようもない、運任せの……グループ決めなんかより、もっと大事な……あれは……ええと……くじ引き、じゃなくて――。
「くじを引いたら、箱の横にある短冊を各自一枚、取ってもどってね。席にもどった人から、短冊に自分の名前を書いておいてください」
先生の指示に従って、生徒たちは一人、また一人と席を立ち、箱の前にならび始める。
サイも、しかたなく立ち上がり、くじ引きの列に加わった。
列の中には、胸の前で両手をくっつけ、祈りのポーズをしている生徒もいる。
サイはそこまであからさまなことはしなかったが、心の中でやはり祈った。
いやな人と同じグループになりませんように――……いや。
この学校で、少しでもマシな人たちとグループになれますように……と。
全員がくじを引いて、席にもどったころを見計らい、先生は次の指示を出した。
「はい、それじゃ、名前を書いた短冊を持って、それぞれのグループの位置に移動して、席をくっつけてください。あとはしばらくの間、グループ内で自己紹介タイムです。名前を書いた短冊を、同じグループの人に見せて自己紹介してね」
生徒がくじを引いている間、先生は、黒板に各グループの机の位置を描いていた。
「B」のくじを引いたサイは、窓辺のうしろの席に移動した。
「あーっ、さーちゃんもBグループ? イサリといっしょだー!」
席につこうとしたところで、いきなり声をかけられて、サイはビクッとする。
話しかけてきたのは、クラス替えの名簿で名前を見かけていた、昔からの知り合いの男子だった。ちなみに彼は、今日という日に遅刻ギリギリで教室に入ってきた生徒でもある。
その男子は、Bグループのメンバーがそろうなり、机の上に自分の短冊を出した。
「秋月漁(あきつき いさり)です。さーちゃんとは、家が近所の幼なじみでーす」
無表情のわりにやたら大きな声で、彼はそんな自己紹介をした。
それにつられる形で、サイもあわてて自分の短冊を出す。
「え、えっと。さーちゃ――いえっ、東雲彩(しののめ さい)です! 下の名前、これ、『アヤ』ではなくて『サイ』と読みます!」
早口で自己紹介をして、サイは一瞬でおじぎをすませた。
(……うう。ついつい、ムダに急いでしまった。もっと、堂々と落ち着いた自己紹介をしたかったのに……!)
しょっぱなから失敗した……! と、恥ずかしさで顔を熱くするサイに、
「明け方の彩り……って、すてきな名前だね」
そう言ってほほ笑んだのは、向かいにすわる女子だった。
ひかえめな、けれどしっかりしたしゃべり方で、おだやかな声と物腰がとても感じのいい人だ。
名前をほめられたこともあって、サイは一気に彼女に好感を持った。
彼女の言うとおり、「東雲」には明け方――東の空が明るくなってきたころ、という意味がある。それに「彩」を組み合わせた名前は、自分でも気に入っているのだ。
向かいにすわるその女子は、それとなくグループ内を見回して、だれも口を開く気配がないのを確認してから、自分の短冊を机に置いた。
「渡彼方(わたり かなた)です。これから一年間、よろしくお願いします」
にこりと笑って名乗り、渡さんは、ていねいな動作でおじぎをした。
さて――。
Bグループの残るメンバーは、あと二人。
なのだけど、どちらもいっこうに口を開こうとしない。
一人は、入学初日からジャージで登校してきた、ガラの悪そうな短髪の生徒。
もう一人は、うしろで三つ編みにした長い髪の先に、うす紫色のリボンを結んだ生徒。
朝の教室でも、飛びぬけて目立っていた二人だ。
ジャージの女子生徒の短冊は、最初からぞんざいに机の上に置かれていた。
これでいいだろ、名前とか勝手に見ておけよ――とでもいうように。
その短冊に書かれた名前は、木竜陽呂(きりゅう ひろ)。
今朝、先生に「制服を着ないと入学式に出席させませんよ」と注意されていたが、そのまま着替えることなく、式をサボった生徒。それがこの人だった。
(なんか、怖そうな人だな……。この人と一年間、同じグループかあ……)
サイは、心の中でため息をついた。
が、そのとき。
「木竜さん。同じクラスになるの、久しぶりだね。また一年間、よろしくね」
渡さんが、そう言って木竜さんに笑いかけた。
木竜さんは、ちょっとうろたえたように渡さんをふり向いて、
「あっ……ああ。……よろしく」
と、決まり悪そうに返した。
どうやら、渡さんと木竜さんは、同じ小学校出身のようだ。
「ねーねー。あのさー」
イサリくんも、臆することなく木竜さんに話しかける。
「ひろちゃんは、なんで制服じゃなくてジャージなのー?」
「あ? ……んなもん、スカートきらいだからだよ。この中学、女子の制服スカートだけじゃん」
「へーそうなんだー」
イサリくんは昔から、気になることがあったらとりあえず聞いてみる性格だ。
でも、疑問が解けたら気がすんで、話をそれ以上広げようとはしないので、会話をぷっつり途切れさせることもしばしばだった。
「…………」
ふたたび、Bグループに沈黙が流れる。
残る一人、三つ編みの男子生徒は、悠然(ゆうぜん)と笑みを浮かべたまま口を開く気配がない。
「……おい! おまえ、名前は?」
しびれを切らしたように、木竜さんがたずねた。
三つ編みの男子は、ちらりと木竜さんに目をやったあと、自分の短冊を机の上に置いた。
その動作は、優雅(ゆうが)というか、おごそかというか……何やら堂々とした気品が感じられた。
「夜山静羽(よるやま しずは)」
――と、その生徒は、短冊に書かれた名前を口にした。
(夜山? ……え? もしかして、この人って)
サイがハッとした、その直後。
イサリくんが、机に身を乗り出して声を上げた。
「夜山ー? ねー、ひょっとして。しずちゃんって〈夜山電機〉と関係あったりするー?」
「うん。〈夜山電機〉は、ぼくの父さんの会社」
それを聞いて、サイは思わず息をのんだ。
〈夜山電機〉といったら、有名な総合電機メーカーだ。
サイの家にも「YORUYAMA」のロゴが入った電子レンジやドライヤーがある。
(あの会社の社長の息子って……。そ、そんな人が、この中学校に……?)
渡さんも木竜さんも、おどろいた顔をしている。
イサリくんも……無表情、棒読み口調で「へーすごーい」と言っているが、彼の場合はこれが本当におどろいているときのリアクションだ。
サイは、朝に教室で見た光景を思い出した。
夜山くんは、長い三つ編みと、ふんわりしたうす紫色のシフォン・リボンも目立っていて印象的だったのだけど――それだけでなく、彼の席のまわりに軽く人だかりができていた。
彼のまわりに集まっていた生徒たちは、友だち、という感じとも少しちがって見えた。
今思えば、あれはいわゆる“取り巻き”というやつだったのだろう。
ともあれ――以上、サイを含めた女子三人と、男子二人。
合わせて五人が、これから一年間、活動を共にするBグループのメンバーである。
(なんだか……あんまり無難な学校生活には、なりそうにない気がするなあ……)
ただでさえ、スペア・ボディのことで頭がこんがらがってるというのに。
そこへさらなる波風が加わる予感を、サイはひしひしと感じていた。
超個性的な通年グループメンバーに波乱の予感!?
▶第4回へ続く
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