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ものがたり

【ときめいて「ゾッ!」とする新シリーズ】『もしもの世界ルーレット』先行ためし読み☆第2回☆


『世にも奇妙な商品カタログ』の作者がおくる、ときめいて「ゾッ!」とする新シリーズ『もしもの世界ルーレット』を、どこよりも早くおとどけ!
いっけんステキな理想の世界にかくされた、超キケンなワナとはいったい――?
キミには、この結末がわかるかな?

 

第1章 あったら便利? “スペアの体”の使い方

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1 おかしな世界の始まり
◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇

 

 小鳥のさえずりと、カーテン越しにもまぶしい朝陽の中で、東雲彩(しののめ さい)は目を覚ました。

(……? ……あれ? 今、何か……変な夢を見てたような……)

 あくびをしながら、サイはベッドの上で体を起こした。

 ゴチンッ!

「――痛あっ……!?」

 何かに額をぶつけて、サイはふたたびベッドにたおれこんだ。

「なっ……何これえっ!?」

 そこにあったのは、透明な壁だった。

 サイの体はそれによって、起き上がれないほどせまい空間に閉じこめられていた。

「ど、どうしよう。どうやって外に出れば――……ん?」

 ウィ――ン……

 小さな機械音とともに、透明な壁がゆっくりと横にスライドして、目の前から消えた。

 体を起こして見てみると。

 サイが寝ていたのは、ベッドよりもこぢんまりとした、カプセル型の機械だった。

 これって、まるで。

 「SF映画に出てきた、冷凍睡眠用のカプセルみたい……。え? なんで? ここって、わたしの部屋だよね。なんで、部屋にこんなものが?」

 わけがわからず、サイは部屋の中を見回す。

 すると、サイが寝ていたカプセルのとなりに、もう一つ同じものがあった。

 不思議に思いつつ、サイはそのカプセルの中をのぞきこんだ。

 瞬間、心臓が止まりそうになった。

 カプセルの中で、自分が眠っていたからだ。

「……どういうこと? ……わたしは、ここにいるのに……」

 もう一つのカプセルの中に、もう一人の自分?

 こんがらがる頭を、サイは思わず両手でかかえた。

 そのとき。

「サイちゃーん。朝ですよー。起きてるー?」

 階段の下から、母親の呼ぶ声がひびいた。

「おっ……おかあさ――ん!」

 サイはさけびながら部屋を出て、パジャマのまま階段をかけ降りた。

 ダイニングに飛びこんで、朝食の用意をしている母親に、サイは部屋で見たものを話す。

 けれど、それを聞いた母親は、不思議そうに首をかしげた。

「ええと……? お部屋に、二つのカプセル・ベッドと、スペア・ボディがあるのよね? ……それが、どうかしたの? いつもどおりだし、あたりまえのことじゃないの」

「え……!?」

「なんだなんだ。ずいぶん盛大に寝ぼけてるな、サイ」

 テーブルについてコーヒーを飲んでいた父親も、笑ってそう言った。

「どこか具合が悪いなら、それこそスペア・ボディを使うんだぞ」

「そうよー。っていうか、式におくれないよう、早くしたくしなさい」

「え……? 式? 式って?」

「もう、ほんとに寝ぼけちゃって。そりゃあ、サイちゃんには不本意な学校でしょうけど。だからって、自分の中学校の入学式を忘れる人がありますか」

「あのていどの学校とはいっても、遅刻はだめだぞ。お父さんたちは、あとで行くからな」

 いつもと変わらない二人の態度に、サイは、ただただぽかーんとする。

 あのカプセルや、もう一人の自分のことを、知らないのは自分だけ?

 おかしいのは、自分のほうなのか……?

「サイちゃん、ほんとに遅刻しますよ!」

「は……はいっ!」

 どんな状況であれ遅刻はいやだと、サイはあわてて学校へ行くしたくに取りかかった。

 そして、したくを終えたあと、ちょっとだけ両親の部屋をのぞいてみた。

 すると――。

 そこにもたしかに、サイの部屋にあったのと同じ、カプセルがあった。

 四つならんだカプセルのうち二つの中で、ダイニングにいるはずの父と母が眠っていた。

(これが……“いつもどおり”で“あたりまえ”のことなの? 本当に……?)

 首をひねりながらも、とにかく今は学校に行かなきゃと、部屋からカバンを取ってきて、

「行ってきまーす!」

 と、急いで家を出たサイは、それに気づくことはなかった。

 いつの間にか、サイの部屋の窓辺にすわっていた、ピエロのぬいぐるみの存在に――。

 

     ◆◇◆

 

 普崎(ふさき)中学校では、入学式当日の朝にクラス分けの発表がある。

 学校に着いたサイは、昇降口に貼り出された名簿を見て、自分のクラスを確認した。

(東雲彩……東雲彩……――あ! あった。わたしは、6組……か)

 同じクラスには、サイがよく知る人の名前もあった。

 けれど、名簿のまわりを見回しても、そのあと一年六組の教室に入っても、その生徒の姿は見当たらなかった。

(この時間だと、まだ来てないのかもしれないな。あの人、小学校のときから遅刻魔だったし)

 決められた自分の席について、サイはぼんやりそんなことを考える。

 まわりでは、初対面の相手や同じ小学校出身者に声をかけて、さっそく新しい友だちを作っている子たちもいたけど。

(陽中咲(ひなかさき)学園ならともかく……この普崎中学校で友だちなんて、できなくていいや)

 そう思い、サイは机の上に、入学式の日程が書かれたプリントを広げた。

 今朝、両親に言われた言葉が、くり返し頭の中に浮かび上がる。

 ――そりゃあ、サイちゃんには不本意な学校でしょうけど……。

 ――あのていどの学校とはいっても……。

 そうだ。普崎中学校なんて、自分にとっては不本意な、ていどの低い学校だ。

 そんな環境の中で友だちを作るということは、自分も「そのレベル」に染まるということだ。

(じっさい、こうしてクラスの中を見ても、つまらない平凡な感じの生徒ばっかりだし――……ああ。陽中咲学園のクラスなら、ぜんぜんちがってたんだろうなあ)

“平凡な感じ”じゃない生徒も中にはいるけど、なんだかガラの悪そうな人だし……。

 あ、でも。一人、やけに大物感のある生徒もいるな。あの人は、何者なんだろう……?

 と、プリントを見るふりをしてチラチラまわりに目をやりながら、いちいち勝手な感想を抱いていたところ。

 ふいに、奇妙な会話が聞こえてきた。

「……でさー。昨日の夜から、熱が40度出て。今朝になってもぜんぜん下がらなくて、治るまでにはまだまだ時間かかりそうでさー」

「わー大変。っていうか、じつはあたしも、三日前に自転車で事故っちゃってね。腕と足、一本ずつ骨折しちゃってるんだ」

 サイは、思わずそちらに目を向けた。

 けれど、その会話をしている生徒たちは、どちらもいたって元気そうだった。

 熱を出している様子もないし、ギプスなんかも着けていない。

(やっぱり……。家だけじゃなくて、学校も、なんだかおかしなことになってる!)

 あらためてそのことを思い知り、サイはぞわぞわした。

 やがて、教室に先生がやってきて、式のために体育館へ移動する時間になった。

 入学式は、だいたい滞りなく行われた。

 ちょっとしたトラブル――式をサボった生徒が一人いた――はあったものの、それ以外は欠席者もゼロだったらしい。

 もっとも、サイにはそんなのどうでもいいことだった。

 入りたくて入ったわけじゃない学校の入学式なんて、ただひたすらめんどくさいだけだったし、さっさと終わってほしかった。

 サイにとって、重要なのはむしろこのあとの時間だった。

 式のあとには、三十分間の〈校内自由探索〉の時間が設けられているからだ。

 その時間を使って、サイたち新入生は、校内の気になる場所を見て回ることができる。

 式がすんで、いったん教室にもどったサイたちは、担任の先生からもそう説明を受け、

「それじゃあみなさん、三十分後に、また教室にもどってきてくださいね。校内探索のあとはホームルームの時間ですが、そこでとっても大事なイベントがあるので、おくれないように!」

 と、ちょっと気になることを言い渡されて、ふたたび教室を出た。

 サイが一人で向かった先は、図書室だった。

 すでに席が埋まっているマンガの棚のまわりや、エンタメ小説のコーナーを素通りして、たどり着いたのは、自然科学系の本がならぶコーナー。

(あるとしたら、たぶんだけど、このへんの棚に――……あっ!)

 予想どおり、タイトルにその言葉が入っている本を見つけて、サイは迷わず手に取った。

『スペア・ボディを知ろう! ~きほんのQ&A~』

 ゴクリとのどを鳴らして、サイはさっそくその本を開き、読み始めた。
 


 

 今ではだれもがあたりまえに使っているスペア・ボディ。

 だけど、きみはスペア・ボディについてどのくらい知ってる?

 スペア・ボディって、そもそも何?

 どういう使い方ができるものなの?

 今さら人に聞けないそんな疑問も、この本を読めばぜんぶわかっちゃう! 
 


 

 前書きのページをそこまで読んで、サイはクラッとめまいを覚えた。

(こんな本があるくらい……スペア・ボディって、本当に“世の中の常識”なんだ……)

 だれでも知っている常識を、自分だけが知らない。

 まるで、一人だけいきなり、別世界に放りこまれたみたいに。

 いったいどうして、こんなことになってしまったんだろう――……。

 ふるえながら、サイは本のページをパラパラめくって、目についたQ&Aを読んでみた。


 

 Q.スペア・ボディって、どんなときに使えばいいの?

 A.たとえば、病気になったときやケガをしたとき、健康なスペア・ボディに意識を移して、ふだんと同じように生活することができるよ。

 その間、意識のない本体は、カプセル・ベッドの中で病気やケガを治すんだ。

 回復した本体にスペア・ボディから意識を移せば、健康な体にもどれるってわけ!


 

 どうやら、スペア・ボディとは文字どおり「スペア」――予備の体のことらしい。

 なんらかの事情で「本体」が使えなくなったときのための、代わりの体。

(……まあ、だいたい想像はついていたけど。でも、そんなものがあたりまえに存在してる世界なんて――……うう、やっぱり現実とは思えない……)

 片手で頭を抱えながら、サイはさらに本のページをめくる。


 

 Q.どうやってスペア・ボディに意識を移せばいいの?

 A.意識を移動させるときには、カプセル・ベッドの機能を使うよ。

 これは本体 → スペア・ボディの場合も、スペア・ボディ → 本体の場合も同じ。

 操作や設定のしかたは、自分が使うカプセル・ベッドの説明書をよく読んでね!


 

 


 

 Q.スペア・ボディって、本体と何もかもそっくりで見分けがつかない! もし、どっちがスペアでどっちが本体かわからなくなったら、どうすればいい?

 A.スペア・ボディは、本体の細胞から作られたクローンの肉体なんだ。

 見た目だけじゃなく、遺伝子情報まで本体とまったく同じ体だから、区別なんてつきっこない。

 でも、どっちの体に意識が宿っていても、きみはきみに変わりないよね。

 だから、どっちがどっちかわからなくなっても、何も問題はないと思うよ!


 

 


 

 Q.意識を移動させないときでも、カプセル・ベッドで眠ったほうがいいの?

 A.カプセル・ベッドには、本体とスペア・ボディを同期させる機能があるんだ。同期っていうのは、同じ状態にするってこと(もちろん、ケガや病気の症状などはのぞいてね)。

 だから、カプセル・ベッドをあんまり長い間使わずにいると、本体だけが成長して、スペア・ボディは成長が止まっちゃう……なんてこまったことに!

 スペア・ボディを上手に使うためには、ふだんからカプセル・ベッドで眠ることが大事ってことだね!


 

(うーん、なるほど……)

 とくに重要だと思われる情報は、このくらいのようだった。

 あとは、もっとこまごました疑問や、医療費とか税金に関わること、スペア・ボディの歴史についても書かれていたが……まあ、今すぐ知る必要もないだろう。

(そろそろ校内探索の時間も終わるし、あとでもっとちゃんと調べよう)

“この世界の常識”を、ざっくりとでも知ることができて、サイはとりあえずホッとした。

 校内ではスマートフォンの電源は切っておく決まりだから、図書室が使えなかったら、ネットも見られず放課後まで何もわからないまま、不安を抱えるはめになっていたところだ。

(わからないからって、人に聞くわけにもいかないもんな。「こんなあたりまえのことも知らないの?」なんて、ぜったい思われたくない――ましてや、この学校の人たちなんかに!)

 なんてことを思いつつ、サイは図書室を出て、教室へともどっていった。


 


 

もしも「スペア・ボディ」をもっていたら……キミならどんな風に使う……?
第3回へ続く

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作:地図十行路  絵:みたう

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322739

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