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おうち時間を楽しもう《聞かせて!聞かせ屋。けいたろう》 第3回 絵本の翻訳裏話「え?僕が翻訳!?」 海外からの翻訳絵本って、どんなふうにしてできるのでしょう?

海外からの翻訳絵本って、どんなふうにしてできるのでしょう?



「【AM I YOURS?】の翻訳をしてくれませんか?」とKADOKAWAの編集者Nさんにメールを頂いたのは、2017年10月のことでした。
「僕が翻訳!?」絵本作家として2冊の絵本を作っていたものの、英検は5級(中学初級レベル)です(笑)。「英語は好きですが、僕に絵本の翻訳ができるのでしょうか?」英語に精通していないことを素直に伝えると、Nさんは「けいたろうさんならできると思います。」
と言い切りました(笑)。僕が文章を担当した絵本、『どうぶつしんちょうそくてい』の文章がすばらしいから。という理由でした。それでも、無責任に「できます」とは言えない僕。
「試しに訳してみるので、見てもらってからの返答でいいですか?」と伝えました。

数日後、駅前のファミレスで、僕の翻訳を見たNさんは言いました。
「そうです!こういうリズムの良い文章、子ども達に伝わる文章。ぜひ、けいたろうさんにお願いしたいです。」と。
聞けば、下訳(翻訳を生業としている方の直訳)もいただけるそう。「そういうことか!」英語が堪能ではないではないであろう、AさんやBさんが絵本の翻訳をしている理由が、やっとわかりました(笑)。翻訳者さんの下訳(直訳)を、子ども達にぴったりフィットする文章にアレンジするのが僕の役割なのでした。幼児の言葉なら僕の専門領域。
よし、これはがんばろう!そう思った矢先の衝撃的なひとこと。
「他の国と共同での印刷予定があり……一ヶ月で完成させて欲しいのです。」
「え~!?」
そんな始まりでした。

こうしてはじめての翻訳作業を始めた僕でしたが、結局、下訳には頼らないことにしました。“答え合わせ”として終盤に下訳を見せてもらうことにしたのです。まずは、自分の力でやってみたかった!
翻訳で心がけていたことは二つ。
「リズム良く、簡潔に」
聞かせ屋が訳すのですから、やはり読み聞かせに向く絵本を! 誰が読み手になっても楽しさが伝わる文章にしたいと考えていました。
実際、原文は文字量が多いのです。例えば冒頭部分、“丘の上からころがり落ちる卵の動き”を説明する文章。
原文
「The egg rolled gently down a hill, slow at first, then faster, until―」
直訳
「卵は丘の斜面をふわりところがりだしました。はじめはゆっくり、だんだん速くころがって――」
僕の訳
「たまごは やまを ころがって、 ころころ ころころ ころがって、」

原文
「it bumped a rock and spun around and came to land on level ground.」
直訳
「岩にぶつかって、回転しながら宙を飛び、平らな地面に着地しました。」
僕の訳
「いわに ぶつかり、ぽ――んとはねて、ようやく、ストンととまりました。」

原文は、説明に次ぐ説明! 英語にはオノマトペが少ないので、動きが説明になりがちです。
日本には「ころころ」や「ぽーん」など、豊かなオノマトペがありますから、リズム良く楽しい文章ができます。日本語って素晴らしい!
僕の訳では、転がるスピードがあがることまでは文になっていませんが、そこは世界共通の絵があります。絵の助けがあれば、それも想像できると信じています。
そして、“丘”を思いきって“山”と訳しています。丘と山の違いはありますが、園庭の砂場においての幼児の言葉を思い返しました。「みて! おやまつくった!」彼らにとってはこれも山に含まれると判断しました。
絵本で新たな知識を得るのも素敵です。ただ、「大事な冒頭部分はつまずくことなく物語に入れるように」と願っての判断です。結果としてその絵本が輝くのであれば、日本の子ども達に合わせて思いきった“変更”をするのも絵本の翻訳者の役割だと思います。

山から転がり落ちた卵は、「なにごとか!!?」と集まってきた恐竜たちに、
「ぼく、あなたの たまごですか?」と問いかけていきます。



そして卵の親を察した恐竜たちは、みんなで卵を運びます。
この場面の訳が一番楽しく、僕らしくできたと思います。



僕の訳
きょうりゅうたちが、たまごを はこんでいきます。
「たまごが まいごだ、うんとこしょ
えっちら おっちら どっこいしょ」

これ、原文は
「The egg was rolled back up the hill, rolled and nudged and pushed until―」
直訳は
「恐竜たちは、卵を転がしたり、そっとつついたり押したりして丘の斜面をのぼっていきー」
なのです。
「うんとこしょ どっこいしょ」は昔話っぽいですよね(笑)。
はじめは、恐竜絵本にこのフレーズは合うかな?と疑問でした。でも、よく考えると恐竜の世界って昔話より更に昔なのですよね。思えば冒頭部分も、「むかし むかしの おおむかし」で始めていますし。
翻訳の下書きに「たまGO まいGO レッツラゴー」って書いてあるのですけど……。これは当然不採用でしたね(笑)。

こんなぐあいで、“自分らしい”翻訳をさせていただきました。原書の文章をたいせつに、尊重した上で、あくまでも日本の子ども達に伝わりやすいように、作りかえるというイメージでしょうか。
そして、恐竜ファンの子ども達にまっすぐ向き合えるよう、恐竜図鑑を何冊も読み、国立科学博物館へ行き、恐竜絵本作家の黒川みつひろ先生に僕の翻訳を見ていただきました。黒川先生に太鼓判を押していただき、すごくうれしかったです。
僕には、アレックス・ラティマーさんの素敵な原書を預かった責任があるわけです。良い絵本にして日本に届ける責任があるわけです。完全な自作でないからこその緊張感と面白さがそこにあります。絵本の翻訳って、本当に楽しい!

え? 原作者とは会うのかって? そう、飛行機に乗ってはるばる会いに……は行かないのです。
製作中、ご本人とのやり取りはありません。
でも、実は……アレックスさんとはSNSでメッセージのやり取りをしたのです!
返事をもらった時、うれしかったなぁ。僕はあの絵本の翻訳者で、あの絵本のファンなのですよ。
「この絵本は、海を越えてやって来た。」そうイメージしてページをめくってもらえれば、より海外を味わえるかもしれませんね。
皆さん、Thank you for reading! ありがとうございました!

 

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