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『こども六法』山崎聡一郎さんインタビュー 第1回 自分が欲しかった本を作ろうと思った


2019年8月に出版された『こども六法』(弘文堂刊)が、この一年近くで異例の大ヒットとなっています。なぜ、今子ども向けに法律を解説したこの本が必要とされているのか、著者の山崎聡一郎さんにオンラインインタビューいたしました。3回にわたってお届けします。
取材・文:大和田 佳世

子どものSOSに役立つ本

――『こども六法』ってどんな本?

子どものために必要な法律をわかりやすく訳して1冊にまとめたものです。ふだんの生活の中で「これって法律的にどうなんだろう?」と思ったとき、辞書のように活用してもらえたらと思います。家庭に1冊、学校の教室に1冊ずつ置いてもらえたらいいなと思ってつくりました。

――出版の反響はいかがでしたか。

小学校高学年以上の子どもたちが読んでくれるかなと思いましたが、意外と低学年の子もおもしろがってくれているみたいですね。4、5歳の子が楽しんでいると聞いたときはちょっと驚きましたが、嬉しかったです。
『こども六法』は、法律を知らない子ども向けにつくりました。でも法律のことを知らないのは大人も同じなので、本の内容が気になって、多くの方が手にとってくださったんじゃないでしょうか。ある本屋さんのデータでは、全国の、親子での来店が多いお店で売れていて、40代女性の購入者が一番多いそうですよ。

――なぜこの本をつくろうと思ったのですか?

きっかけになったのは、僕自身が小学5年生からいじめ被害を受けた体験です。ひどいときは手首を骨折するくらいの暴力を受けましたが、中学受験をすることにより自力で環境を変えるまで、まわりは何も変わりませんでした。なぜ自分は、守られないのか……。小学6年生のとき社会の授業で「人権」について学び、いじめられている状況は人権侵害じゃないのか、と疑問を持ちました。教科書に「日本国憲法」が載っていたので、どこかに自分の人権を守ってくれる方法が書いてあるのではないかと、一所懸命読んで探しましたが、具体的には、どこにも書いてありませんでした。「人権」も「憲法」もきれいごとで、実際には役に立たないじゃないかとがっかりしたことを覚えています。

当時の僕にとっては「憲法」が法律のすべてでしたが、中学で「六法全書」に出会って「法律って憲法だけじゃないんだ!」と気づきました。「六法全書」を読んだとき、たとえ子ども同士でもいじめは犯罪で、傷害罪、侮辱罪、名誉毀損罪といった罪にあたることを知りました。「あのとき知っていれば、もっと自分の身を守れたのに」と悔しかったです。ですから、小学生のときの自分がほしかった本をつくろうと思ってつくったのが『こども六法』なんです。

この本で法律を知ることで、いじめでも虐待でも、子どもが「自分がされていることは変だ」と気づいて、周囲にSOSを出すきっかけにしてほしいですね。困っている子どもを、大人は助ける義務がありますし、助けてくれる大人は必ずいます。子どもが読めるように、法律の条文の難しいところはわかりやすい言葉づかいに直し、漢字にはふりがなをふってありますよ。

 

「法律で決まっているからダメ」と言わないで

――《気軽に「死ね」って言ってない?(刑法第202条、自殺関与及び同意殺人)や《おどして何かをさせたらダメ!(刑法第223条、強要)》など、ふだんの生活で実際にありそうなシーンのイラストやコメントが興味深いですね。



『こども六法』が広く社会に受け入れられたのは、大人も法律を学びたいという気持ちのあらわれだと思います。日常生活の中で「これっていいの?」とモヤモヤするシーンはよくあると思いますが、間違ってほしくないのは、法律とは、わたしたちをきゅうくつに縛るものではなく、むしろ、わたしたちの自由で安心な生活を守るためのものだということです。

そして、『こども六法』を読むとき、大人に気をつけてほしいのは、「ここに書いてある法律で決まっているから、やっちゃダメ」と頭ごなしに子どもに言わないでもらいたいということです。
なぜなら、先生みたいな権力のある大人たちが自分のあずかり知らないところで勝手に決めたルールを、むりやり「守りなさい」と押し付けているのが法律なんだ……と勘違いすれば、「法律とは何か」「なぜ守る必要があるのか」なんて、子どもは誰も考えなくなるからです。中学、高校に上がったときに「ルールを破るのがかっこいい」とか「破っても、ばれなければいい」と考える人になってしまいます。

どの国にも、それぞれその国で決められた法律がありますが、たとえば、人に暴力をふるったり、物を奪ったりしても何もペナルティがなかったらどうでしょう? そんな国では安心して暮らせませんよね。「そんなことをされたら、みんなイヤじゃん。だからやらないようにしよう」と、これまで話し合われてきたものを尊重し知ることが、法律を学ぶということです。
子どもたちも社会の一員ですから、自分の身を守るための大事な道具として、法律に興味を持ってほしい。そして法律を守る気持ちも持ってほしいと思います。

 

「ピンチはチャンス」と気持ちを切り替えよう

――感染症拡大防止のために学校の休校が続くなど、子どもたちも親も、経験したことのない日常を過ごしています。この状況を山崎さんはどう見ていますか?

いまだかつてない、世界中への感染症の広がりという事態を前に、ほぼすべての人が何らかの挫折感をあじわっています。
僕のまわりにも仕事がなくなってどうやって食べていこうかという友人や知人がいます。たいへんな状況ではありますが、考えようによっては「ピンチはチャンス」だと僕は思っています。今は社会がすごく特殊な状態で、誰もが、今までのやり方を考えなおさなくちゃいけない。言ってみれば、誰がいちばん最初に立ち直るかのゲームです。YouTubeなどウェブのコンテンツがさらに注目を集め、オンライン授業やリモートワークなどが当たり前となっていくことで、この先、新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。そして、「ビジネス」というのは「誰かを幸せにして対価を受け取る」行為ですから、現在のような苦境に立つ人たちが沢山いるという状況は「幸せにするべき人が沢山いる」ということであって、まさにビジネスチャンスが沢山ある状況です。

また自然災害や戦争と違って、建物が壊れたり、電気や水道、ガスが急に止まったりすることはありません。自分の行動次第でリスクを減らすこともできます。コロナ禍は災害的な現象ですが、台風や地震に比べれば自分の手でコントロールできることが多いのです。僕はこういった状況だからこそ今できること、この経験から学べることを考えています。苦しく、不安な気持ちは僕も同じように持っていますが、少しでもポジティブな方向に頭を切り替えて、みんなで今できることや学べることを探していけば、コロナ禍の後にはコロナ禍の前よりもいい世の中が実現すると信じています。

 

子どもも社会の一員として、法律の存在を知るべきだと語る山崎さん。次の回では、なぜ山崎さんが大学で「法教育を通じたいじめ問題解決」を研究テーマに選び、『こども六法』出版に至ったのか、中学・高校・大学の様々なエピソードから探っていきます。

 

書籍情報


『こども六法』
著:山崎 聡一郎/絵:伊藤ハムスター
【定価】本体1,200円(税別)
【サイズ】A5 並製
【発売日】2019年08月
【ISBN】9784335357923
【公式HP】https://www.kodomoroppo.com/


 


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