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【スペシャル連載】第2回 13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語


6月29日(水)発売の『13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』をためし読み公開!
外国には小さいころから経営の勉強をしている国があり、日本でも起業家(会社をつくる人)の教育を始めている小学校も増えました。
将来の夢を考えるのにも、友だちと仲良くするのにも役立つ「経営」の物語を読んでみよう!

◆これまでのストーリーはこちらから

 ヒロトがその本を見つけたのは、ほんの偶然だった。

 その日の放課後、ヒロトは学校の図書室で、カメラに関する本を片っ端から借りようと決めていた。最近、写真やカメラについて、もっと詳しくなりたいと思い始めたからだ。中学校に入学して、先輩も厳しくない自由な雰囲気に惹(ひ)かれて写真部に入部したものの、ときおりみんなできれいな風景やかわいい生き物の写真をスマホで撮影する以外は、特に活動らしい活動もなかった。自由なのを通り越して、この頃は退屈になってきていた。

 

 写真部はこの中学でも結構伝統があるほうらしい。中学の近所にあるカメラ店の店主が部活の顧問を務めてくれていたが、この顧問のおじさんも大昔の写真部の卒業生だという。

 そういえば、顧問が写真やカメラについて知識をひけらかしてくるのにも、そろそろヒロトは嫌気(いやけ)がさしていた。

 

 先月も顧問がいきなり部室に入ってきて、

「あのね、みんな。実は今日、六月一日は写真の日なんだよ。なんで今日が写真の日なのかわかる人いるかなー? まっ、中学生にはわっからないだろうなー」

 と、自信満々だ。

 もちろんそんな質問に答えられる生徒がいるわけがない。

「しょうがないねえ。写真部ならこれくらい常識だよ? 実は今から百五十年以上前の今日、日本で初めて写真が撮影されたって説があるんだよね。そのときに撮影されたのはあの島津(しまづ)斉彬(なりあきら)。西郷(さいごう)隆盛(たかもり)や大久保(おおくぼ)利通(としみち)を育てた薩摩(さつま)のお殿様っていえばわかる? まあこれも本当かどうかあやしい話なんだけどさ」

 

 そこから話はそのときのカメラマンが誰だったとか、そのカメラマンの息子も後にカメラマンになって、その息子が坂本(さかもと)龍馬(りょうま)の有名な写真を撮ったという噂もあるとか、そのときに使われたカメラがどうとか二転三転して、一時間ほど長々と続いた。生徒たちも顧問の話をきかないわけにはいかない。

 

 そうして、長い話がようやく終わりに近づくと、顧問は必ず自分のカメラコレクションの話に持っていって、カメラの自慢をすると決まっていた。

「……そんなわけでこのカメラは日本の技術力の結晶なんだねえ。日本におけるカメラの歴史は深いの。これ、君たちの三年分のお小遣いなんかじゃとても買えないよ? ははは」

 そういって、顧問はカメラをみんなに見せびらかした。みんなげんなりしていた。それでも、くやしいけれど、たしかに目の前の一眼レフカメラはかっこよかった。

 

 顧問はカメラ店を営んでいるだけあって、毎回違うカメラを学校に持ってきていた。顧問のお店には中古やアンティークから最新機種まで数百のカメラがそろっているという。

 難しい質問に正解して顧問にぎゃふんと言わせるためにも、カメラについてもっと詳(くわ)しくなるためにも、まずは本を読んで勉強しようとヒロトは思った。気になることは図書室で調べてみるのが、ヒロトの習慣でもあった。

 

 学校の図書室は、校舎の一階にある。普通の教室三つ分くらいの大きさだ。

 図書室に近づくにつれて、歌声が聞こえてきた。

 あずきの詰まったモナカが大好きな犬型ロボット「モナカもん」が出てくる大人気アニメのエンディング曲だ。

「もっもっ、もっ、もっもっ、も~なかもんっ♪」

 歌っているのは、きっとクラスメイトのアオイだろう。アオイは、部活に入らず、代わりに図書委員に立候補して、放課後に司書の先生や他の図書委員と交代で図書貸し出しの手伝いをしていた。手伝いといっても、いつもアオイは遊んでばかりいるのだけれど。

 

 ドアを開けると、予想通り、貸し出しコーナーにアオイが座っていた。アオイの他には誰もいなかった。

 学校で貸し出しコーナーにあるパソコンを自由に使えるのが図書委員のいいところだ。本には興味がなさそうなアオイが図書委員に立候補した理由もこれだ。アオイは、将来はアイドルになるのが夢だといって、暇があるといつも何か口ずさんでいた。今もアイチューブ動画を観ながらひとりで歌っていたようだ。

 

 アオイはときどき父親に頼んで自分の歌の動画を撮ってもらい、アイチューブに動画をアップロードしているそうだ。ヒロトがその話を聞いたとき、アオイにその動画を見せてと頼んだのを覚えている。でも、アオイは恥ずかしいといって、見せてくれなかった。目立ちたがり屋なのに恥ずかしがり屋なんておかしいやと、そのときヒロトは思った。

 

 みんながよく知る「アイチューブ」は世界最大の動画サイトだ。誰でも、自分が作った動画をアップロードして、インターネット上で世界中の人に見てもらうことができる。いまではテレビよりもアイチューブの視聴者のほうが多いくらいだ。

 実際に、アイチューブで人気になって芸能人の仲間入りを果たす人もいた。アイチューブに動画を流して広告収入を得る芸能人を指す「アイチューバー」は、最近では中高生が将来なりたい職業の一位になっているほどだ。

 

 アオイはすぐにアイチューブを消して、照れたように笑った。

「あっ、ヒロトっ、おつー」

「よっ」

 ヒロトはアオイに軽く手を振ると、そのまま本棚のほうに歩いていった。

 しょっちゅう図書室にくるヒロトにとって、お目当ての本を探すなんて簡単なことだ。それでも、色々な場所に散らばっているカメラや写真についての本を全部探していくとなると、さすがに一仕事だ。

 

 一冊、二冊、三冊……、……七冊、八冊。そのうちに、図書室のはしっこの目立たないところで、分厚くて古びたカメラの図鑑も見つかった。……ふと、その図鑑のとなりに、ペラペラとした、うす茶色い背表紙の本があることに気がつく。うす茶色といっても、もともとは白い本が汚れてしまってそう見えるだけのようでもある。

 一見すると本なのかどうかも怪しい。背表紙に文字がないのが余計にヒロトの興味をかき立てる。なんだか隠し物でも見つけたようで、どうにもその本が気になった。

 




<第3回へつづく(7月7日公開予定)>

書籍紹介



500mlのペットボトルの水が100円なのに、なぜ2Lの水も100円?
物語を通して楽しく学べる「ビジネス」と「生き抜く力」!

(あらすじ)
中学校の図書室に忘れ置かれた不思議な『みんなの経営の教科書』と出会い、
ヒロトは仲間と共に社会の課題に向き合う――。

“人は誰でも自分の人生を経営している。だから、すべての人にとって経営は必要不可欠”
という強い思いから、中学生から社会人までが楽しめる物語形式で書き下ろされた、
これからの時代に必要なビジネス素養が身に付く本。

※本書は前から物語、後ろから“教科書”を読むことができます



著者 岩尾 俊兵

定価
1760円(本体1600円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041125687

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