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【レビュー】大人の言うことを聞く人生は本当に楽しいのか? 子どもが自分の頭で考えだす、成長の七日間

 80年代を小学生として生きた大人なら「懐かしい!」と言わずにはいられない、大ベストセラー『ぼくらの七日間戦争』。いまの子どもたちは知らないかもしれないけれど、この小説が初めて発表されたのは35年前。映画化もされた話題作だった。いまは「危険なことはしちゃいけません!」という親も、子ども時代は、工場に立てこもって大人に反乱を起こす少年たちに、心からワクワクしていたものだ。

 実は『ぼくらの七日間戦争』という小説は2種類あって、角川つばさ文庫として出版されたものは、小学生でも読みやすいように、漢字にふりがなをつけている。力を振りかざす大人たちに立ち向かう中学生の物語は、小学生にとっても憧れで、ドキドキさせてくれるストーリーだ。現在小4の息子も、この本をバイブルのように繰り返し読みふけっている。子どもだけの世界だとか、秘密の抜け穴だとか、そんな言葉を聞いて妙にテンションが上がるお年頃。工場に乗り込んできた大人とかけひきをして、次々とやり込めていく爽快感もたまらない。

 でも大人になって読み返してみると、『ぼくらの七日間戦争』の別の側面も見えてくる。自分勝手な大人に反発する子どもたちだが、子どもを尊重して協力してくれる大人の言うことには、素直に耳を貸してくれる。弱虫でお母さんの言いなりだった子や、友達をバカにして孤立していた子が、仲間と協力していくうちに変わっていく。人とは違う趣味を持つ個性的な子が、作戦の中で活躍して尊敬されていく。子どもが自分の力で、迷いながら自分の道を切り開いていく成長物語なのだった。
 どんなに「〇〇をやりなさい」と大人が言うよりも、「やりたいこと」を実現するために自分の頭で考え始めた子どもは変わっていく。その心地よさって、なかなか子どもに伝えにくい。だからせめて、こういう本を通して体験させてあげられたらなと思うのだった。道徳的な本なんかよりずっと、このストーリーは子どもの心にしみてくる。

 親が子ども時代におもしろかった本を、うちでは子どもにどんどん読ませている。「お母さんが好きだった本」というだけで、子どもは興味を持ってくれる。時代が変わって環境が変わったことすら、昔と今の違いを調べるきっかけになっている。私が子どもの頃に読んだこの本も、絶対おもしろがるだろうと確信できたから、子どもの本棚にそっと入れておいた結果、はまっている。友達同士で、子どもだけの拠点を作るなんて、想像するだけで楽しい。世間体を考えずに何かに夢中になれるのは、子どもの今だけの強みだから、それを思う存分、本で楽しんでほしいと思っている。

 実際、息子はこの本に感化されて、家の裏山に友達と秘密基地を作った。鉄柵を乗り越えたその基地は素晴らしい拠点で、急斜面を登った先に、遠くまで見渡せる丘があった。探検していくと、寝そべることのできる落ち葉のふとんもあった。しかしあるとき、その裏山に「ここは猛毒のマムシが出るので立入禁止です」という看板を発見してしまった……。ひええ。親からしてみると、本書に出てくるお母さんたちさながら「何やってるの! 早く出ていらっしゃい!」と言いたくもなるのだが、彼らは、本当に楽しそうだった。さすがに拠点は移動したそうだが、誰に言われなくても、自然と助け合いながら遊び、自分たちでルールを作った。それが「成長していく」ことなのだと思う。

 『ぼくらの七日間戦争』に出てくる、無鉄砲でキラキラした子どもたちの感覚は、大人になるといつの間にか忘れてしまう。でもあれが、人生の原動力になっていることは間違いない。塾や勉強に追われるだけでなく、たまには背伸びした冒険を。これから大人になろうとする、思春期を迎える小学校高学年の子どもたちにこそ、おすすめしたい物語だ。

クサカ ジュンコ


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