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【レビュー】寝台特急で一夜限りの大冒険に出発進行! 旅が育む子どもの成長

 警笛の音、まっ赤な車体、そして正面中央に輝く「北斗星」の看板! 夜の駅を出発し、車窓から見える景色は暗闇からいつしか朝焼けに染まって、日の出とともに目的地へと到着する。鉄道ファンでもそうでなくても、一度は憧れたことのある寝台特急。2015年に惜しまれながら運行終了した人気寝台特急北斗星を舞台に、少年少女が冒険の旅に出発する。

 主人公・小学五年生の一条大和は、お父さんの影響で大の鉄道ファン。ある日、なぜか様子のおかしいお父さんから一枚の封筒を渡される。その中身はリバイバル北斗星の超プレミアムきっぷ(競争率はなんと百倍!)で、仕事で行けない自分の代わりに行ってほしいと泣く泣く頼まれたのだ。もちろん大和は大興奮で了承し、ウキウキで北斗星ツアーに向かうことに。
 ツアーでは幼なじみのマリナに再会したり、優しくて礼儀正しい陽太と「鉄トモ」になるなど、北斗星の旅は楽しく進むかに思われたのだが、突然陽太が行方不明になってしまって……⁉

 東京から北海道へ、寝台列車に乗って一人旅。考えただけでわくわくしてくるシチュエーションをさらに盛り上げるのは、作者・豊田巧さんが紡ぐ北斗星のディテールと臨場感。大和が列車探検を行うシーンでは、実際に寝台列車に乗ったことがなくても車内の様子や情景が目に浮かんでくるほどで、食堂車「グランシャリオ」の豪華さといったら感嘆せずにはいられない。これまで豊田さんは「電車で行こう!」シリーズなど列車をテーマにした著作を多数手掛けており、そのあふれんばかりの鉄道愛と綿密な取材を基に、わたしたち読者を疑似乗車体験へと連れ出してくれる。本作ではその行先が運行終了した北斗星なのだから、感動はひとしお。「ねえねえ、北斗星に乗りたい!」なんてお願いをされたとしても、本書一冊で解決できる……かもしれない。

 そんな憧れの鉄道旅は、陽太にまつわる事件をきっかけにミステリー展開へと舵を切る。事件の結末は本書を読んでいただくとして、ここで声を大にして言いたいことがある。「可愛い子には旅をさせよ」だ。
大和は登場時から勇気もあるし、落ち着きもある。さらに鉄道の知識は大人顔負けと、10歳の少年にしては非常に優秀な人物である。しかし予想外のトラブルで混乱し、自身が子どもであることの無力感に襲われ自信を無くしていく。そのうえ頼りになる大人は身近にいない……。そんな圧倒的ピンチを打開する柱となるのが、この旅で育んだ友情と信頼だ。大人の補助・介入がないからこそ、自身の意思決定で行動し飛躍的に成長していく大和の姿は尊く、そして自分もこうなりたいと読者に思わせる強さを感じられるのだ。

 とはいえ、いまは世界中で外出が難しく電車旅もできない日々。そんな時期だからこそ、本書を読んで疑似乗車旅をしてみては? 気分転換したいときにもぴったりだから、鉄道に興味がなくともオススメ。さあ、寝台特急北斗星に乗って、冒険の旅に出発進行!

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