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日本の子どもが“自分の意見を言えない”理由 『個性を伸ばす絵本対話 ダイアロジック・リーディング』ためし読み

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子どもとの「対話」って、どうすればいいんだろう? 「わかんない」「別に」で会話が終わってしまったり、子どもの考えていることがうまく引き出せなかったり……。そんな日々のちょっとした悩みから、子どもの「考える力」「伝える力」を育むヒントを探ります。絵本をきっかけに、親子の対話をもっと豊かにする「ダイアロジック・リーディング」の世界を、一緒にのぞいてみましょう。

連載第3回は、OFFER1「子どもの『わかんない』を探ってみよう」の中から「日本の子どもが“自分の意見を言えない”理由」を紹介します。

※本連載は『個性を伸ばす絵本対話 ダイアロジック・リーディング』から一部抜粋して構成された記事です。



日本の子どもが“自分の意見を言えない”理由

 ここで、日本の子どもたちについて、話題になったデータを紹介します。

 これは、先進国の中で、日本の子どもは「自分の考えを言葉にして伝える」ことが最も苦手だとされる内閣府の報告です(※1)。

※1 出典:こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査報告書」(令和5年度)、内閣府「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(平成30年度)をもとに作成。対象は各国13-29歳。




 この結果について、国民性や文化的背景によるものとして語られるのを耳にすることも多いのではないでしょうか。

 もちろん、それも理由の一つかもしれません。

 しかし、ここでは遺伝子的な要因だけでなく、子どもが「どんな経験を積める環境にあったか」という環境やプロセスに注目したいと思います。

 すぐに浮かぶのは、学校や家庭での場面でしょうか。

1 学校では、意見より正解が求められている

 学校では、日々たくさんの内容を学ぶ必要があり、「正しい答えを効率よく押さえる」ことが中心になりがちです。
 その中で、子どもたちは自然にこう考えるようになります。

「どれが正解なんだろう?」
「間違えたら恥ずかしいかも?」
「みんなはどう答えるんだろう?」

 加えて、日本では先生が教室全体に向けて話す授業スタイルが多いために、“一人の考えをじっくり聞く時間”をつくること自体が難しいのが現状です。

 グループワークを導入する学校も増えていますが、いきなり「意見を言おう」と促されても、自分の意見を言う経験が少なければ、子どもは戸惑うものです。

 この形式の学びが重なれば、高校に入って発表やプレゼンを求められても、社会人になって「提案して」と言われても、うまくできないのはむしろ自然なことかもしれません。

 練習していないことは、急にできるようにはならない。
 これは大人の日常でも同じですよね。

2 家庭の“察する文化”が、言葉を奪っている

 一方、家庭ではどうでしょうか。
 家庭では勝手知ったる相手ということもあり、会話は「宿題やった?」「明日は体操服いるんだっけ?」といった、必要に迫られた確認や用事が中心になりがちです。

 さらに日本には、相手の状況や気持ちを“言葉より前に表情や仕草で読み取る”という高文脈(ハイコンテクスト)な文化が根づいています。

 長く一緒に過ごす親子なら「喉が乾いた」と言えばお茶が用意される。
「寒い」と言えばコートが出てくる。
 そんな「みなまで言わなくても伝わる」コミュニケーションが日常の中に備わっています。

 こうしたやり取りは、豊かな愛情やきめ細やかな気遣いの表れともいえます。

 その一方で、自分の気持ちや考えを率直に言葉にしたり、主張したりする経験は少なくなりやすいという側面があるのも事実です。

 初等教育の対話シンポジウムでご一緒した慶應義塾横浜初等部・言葉科の倉田知幸先生が同じように指摘されていました。

「日本人は“察する力”がとても豊かです。でも裏を返すと、子どもが言葉にする前に大人が先に理解してくれるということでもあります。だからこそ、『自分の言葉で説明する』経験は意識しないと増えていきません」

 この言葉を聞いて、私も深く納得しました。
 子どもは“自分の考えを言えない”のではなく、“自分の考えを言う必要のない環境で育ってきただけ”とも言えるのですね。

 日本らしい以心伝心のコミュニケーションがあるからこそ、気づかないうちに伝える練習の場が少なくなる構造ができあがっていることにも、目を向ける必要がありそうです。
 一方で、幼児期から日常的に「あなたはどう思う?」と意見を聞かれて育つ欧米は少し違います。

 グーグルやディズニーの社内保育園でも採用されたレッジョ・エミリア・アプローチ(子どもから多様な表現を引き出すことで創造性や自律性を育むイタリア発祥の探究型幼児教育)やプロジェクト型学習では、子どもが自分の考えを言葉にして他者と共有することが“学びの核”に据えられています。

 そのため、小さな子どものうちから自然に「意見を持ち、言葉にして伝える」ことを経験していきます。
 日本の教育が“正解を答える練習”を中心に展開されている一方で、欧米の教育では“自分の考えを表現する練習”が中心に進められているのです。

 こうして見ていくと、日本の子どもが「自分の意見を言えない」と言われるのを、性格や能力の問題として受け流さない方がいいことがわかります。
 学校や家庭の文化的な背景によって、“伝える練習の場”が少ないだけとも言えることがわかるからです。

 必要なのは「環境を整えること」。
 安心して意見を言える空気、失敗しても大丈夫だと思える場。
 そうした環境さえあれば、子どもは伝える力を自然に発揮します。

 ここまでお伝えしてきたように、日本の文化には「察する」「読み取る」という豊かなコミュニケーションがあります。
 一方で、欧米では小さな頃から「どう思う?」と意見を言葉にする場面が多く用意されています。

 どちらが良い・悪いという話ではありません。
 どちらも、その社会で長く培われてきた“価値あるコミュニケーションの形”です。

 しかし、子どもたちが生きていく社会は、今、大きく変わりつつあります。
 その点で、「伝える力」が改めて注目されています。

 これからの社会は、これまでのように「決められたルールの中で、決められた正解を答えれば良い」というものではありません。

 AI が進化し、AI エージェントが人間の代わりにSNS 投稿やネット注文などを行えるようになり、私たちは次々と新しい問いに直面しています。

たとえば、

  • AI でつくられた作品が、他の作品の著作権を侵害している可能性はないか?
  • 自動運転で事故が起きたとき、誰がどの程度の責任を負うのか?
  • 子どもが宿題をAI にやらせるのは“あり”か“なし”か?

 こうした問いにおいて、一つの「正解」がどんな人にもあてはまるものでしょうか。
 その答えは、社会の中で人々が対話を重ねながら、“共につくっていく”ことに求められています。

 子どもたちの日常も同じです。
「YouTube を観ていい?」
「AI を使って宿題をやってもいい?」
 これらもまた割り切れない問いですよね。

 それなら、その答えを、「どうすれば自分たちにとっていい形につながるのか」を親子で一緒に考えるのもよさそうです。
 いつも、その場に最適な共通の答えを共有したり修正したりできる関係は、これからの社会のあり方そのものですよね。

 これから必要なのは、知識の量よりも、お互いの意見を伝え、交換しながら、新しい答えをつくっていく“対話力”です。

 対話力を構成するのは、以下の3ステップです。

① 相手の考えを受け取る力
② 自分で考える力
③ 相手に伝える力

 私が「伝える力が大事だ」という話をした際に、「自分の言いたいことだけ好き勝手に言う人ばかりになっても困りませんか?」という質問をいただいたことがあります。まさしく、その通りです。

 ③だけでコミュニケーションが成り立つかというと、そうではありません。①②③のステップが循環し、バランス良く発揮されることが大切です。
 聞く力や考える力が大切にされてきた日本の教育や文化を土台にして、③相手に伝える力を意識的に使っていくことで、世界で通用する対話力はぐっと伸ばせると思っています。

 社会はますますグローバル化します。
 価値観の違う相手と協働する場面が増えていく中で、本当の壁になるのは、語学などではなく「前提や価値観の違いそのもの」といえるでしょう。

 単語や文法が完璧でも、相手の意図や理由を理解できなかったり、自分の不安や遠慮や迷いに戸惑ってしまえば、対話は前に進みません。

 大切なのは、相手の考えをありのままに受け取り、自分に生まれた問いや意見や共感を返していく力、違いを越えて対話をつなぐ力です。

今日の一冊から、親子の対話を

子どもとの何気ないやり取りには、子どもの考える力や、自分の気持ちを言葉にする力を育てるヒントがたくさんあります。大切なのは、答えを教えることではなく、「子どもの言葉を受け止め、対話を楽しむこと」。

絵本は、親子で同じものを見ながら、自然に言葉を交わせるきっかけになります。特別な準備をしなくても、今日の一冊から始められます。

本書では、実際の絵本を例に、どんな声かけをすれば対話が広がるのか、親子のやり取りを具体的に紹介しています。まずは紹介されている声かけをマネするだけで大丈夫。

絵本をきっかけに生まれる、親子の“対話”を楽しんでみませんか?



【書籍情報】


著者: 安田 莉子

【定価】
1,980円(本体1,800円+税)
【発売日】
【サイズ】
四六判
【ISBN】
9784048115612

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