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「銭天堂」の廣嶋玲子さん新作発売記念!『おっちょこ魔女 保健室は魔法がいっぱい!』インタビュー


撮影:松本 順子  取材・文:大和田 佳世

小学生向けの読み物ジャンルでヒット作を連発!「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズがアニメ映画化(2020年4月末公開予定)されるなど、今、注目の作家・廣嶋玲子さん。そんな廣嶋さんの新刊『おっちょこ魔女先生 保健室には魔法がいっぱい!』が発売されました。作品が生まれたきっかけやお気に入りのシーン、おすすめの楽しみ方は……? 創作の原点となる、子どもの頃に夢中だったことについてもお聞きしました。

保健室の先生は、おっちょこちょいの魔女!?


左:おっちょこ先生 右:いさな


――勉強はちょっと苦手だけど、元気いっぱいの小学5年生の女の子いさなが、給食のお味噌汁をすすったとたん「あちっ!」。舌を火傷してしまい、保健室に駆け込みます。目あては、保健室の乙千代子(おつ・ちよこ)先生、通称おっちょこ先生が白衣のポケットに入れているキャンディ。けれども先生の姿は見えず、いたのは人間の声でぴーぴーと叫ぶハムスターだけ。「まさか、おっちょこ先生がハムスターになっちゃったの?」「保健室の先生が、じつは魔女だった!?」なんて想像するだけでわくわくしますね。

学校の保健室って、異世界みたいなところがありますよね。学校の中だけど学校でないような場所で、子どもには憩いの場だったり、よく分からない薬が棚に並んでいたり。私もずいぶん保健室の先生にお世話になりました。不思議なことに誰々先生は苦手、嫌いという子はいても、保健室の先生を嫌いな子はいなかったんですよね。周りの子もみんな、保健室の先生は教師だと思ってなかったんじゃないかしら。私も、学校の先生とは違う、甘えてもいい存在だと思っていました(笑)。

――このおはなしのおっちょこ先生も、全然教師らしくないですよね。

そうですね。おっちょこ先生はまたドジで頼りないというか……薬や絆創膏の場所を忘れるし、物を壊したり、コーヒーやお茶をこぼしたり。本当は自分が魔女であることを知られてはいけないはずなのに、うっかり魔法のかけ方を間違えて、学校で自分をハムスターにしちゃうし、それをいさなに見られてしまうし(笑)。しかも、開き直って、いさなに魔法を解く手伝いをさせちゃうんですから。



――慌てふためいたり、めそめそしたり、忙しいおっちょこ先生と、先生に悪態をつきながら協力するいさなのやりとりがおかしくてたまりません。

おっちょこ先生の、ドジで本当にどうしようもないなあというところを書くのは楽しかったです。いさなによく「なんでそういうことを早く言ってくれないの!」と文句を言われますよね。ハムスターになったらますます大事な場面で寝ちゃったりして(笑)。ほんとに他人任せで、実際にそばにいたら腹が立つと思うんですけど、見ていると面白い。憎めないですよね。

――先生にぶあつい魔法辞典を押し付けられて困ったいさなが、親友の千種に協力を頼みます。いさなと千種がいいコンビになって、おっちょこ先生を元に戻すため、魔物を集めていきますね。それぞれのキャラクターのせりふ回しで意識したところはありますか?

千種は凛とした、学者肌みたいな独特の話し方を心がけました。おっちょこ先生の口調は、丁寧なですます調だけど、ちょっと甘ったれた感じ。いさなは、少々生意気で、辛口ふうにしました。先生へのリスペクトは根底にあるんだけど、突っ込みどころ満載のおっちょこ先生への“突っ込み役”という感じでしょうか(笑)。

――いさなはいかにも活発な女の子ですが、千種はロングヘアーでかわいらしい外見と、淡々とした冷静なせりふのギャップが面白かったです。挿絵を描かれたひらいたかこさんとのお仕事ははじめてですか?

はじめてです! じつは私が小学3、4年生の頃から、ひらいたかこさんが絵を描かれた「ちびっこ吸血鬼」シリーズが大好きで、ファンだったんです。今回描いていただけることになってとても嬉しかったです!
いさなはもちろんイメージ通りでしたし、千種は「こう来たか!」と思いました。ひまわりの種を頬袋いっぱいに詰め込んだハムスターのおっちょこ先生も、少しひょうきんな雰囲気の魔物たちもチャーミングですよ。
 


左:ハムスターのおっちょこ先生 右:千種


「猫舌」も「閑古鳥」も魔物のしわざ

――作品の中で、特にお気に入りの場面はありますか?

冒頭で、舌を火傷したいさなが保健室に行くと、おっちょこ先生がハムスターになっているわけですが(笑)、そこで自分は魔女だと開き直った先生に指摘されて、いさなが「猫舌」に取り憑かれている!と気づくシーンが好きです。
魔物が見えるメガネをかけて鏡をのぞくと、卵くらいの大きさの猫らしきものが肩にくっついているのが見えるんですよね。
「おっちょこ先生……こ、こ、これ、なに?」「猫舌ですね。取り憑かれると、熱いものを食べるのが苦手になり、よく口の中や舌を火傷するようになるんです」って。ぺらぺらしゃべるおっちょこ先生と、しばし固まったあと、おそるおそる、ぐにぐにした魔物をつかまえるいさなのシーンは、書いていて楽しかったですよ。
 


猫舌


――“ポピュラーな魔物”の猫舌だけじゃなく、一匹狼や、野次馬……。日常の困った出来事が、魔物のせいだったなんて! 身近な魔物というアイディアはどこから思いついたんですか?

“言葉遊び”をテーマにした物語を書きたいという思いが以前からあって、あるとき編集者さんが「私、閑古鳥が鳴くという言葉が好きなんです。子どもの頃は、閑古鳥ってどんな鳥だろう?と不思議で、本当にそんな名前の鳥がいるんだと思ってました」と言ったことがきっかけで、ひらめきました。
日常で起こるあれこれ困ったことが、もしかして魔物のせいだったとしたら? 「猫舌」や「閑古鳥」という魔物がいても面白いんじゃないかなと。人間は知らずに暮らしているけれど、もしかして他にもそういう生きものが“憑いて”いるとしたら……「一匹狼」は?「極楽トンボ」は?と想像が広がっていきました。
 


一匹狼


――たしかに「閑古鳥」が憑いているカフェにはお客さんが来ない……なんて、ありそうな話です! 「閑古鳥」のフンを引っ掛けられたいさながひどい目にあうのも笑ってしまいました。

カラスのフンでひどい目にあったことのある実体験から思いつきました(笑)。私はおはなしを思いついてから一気にラストまで書き上げることが多いですが、一方で、そこにエピソードを加えたり膨らませたりしていく作業も得意で好きなんです。「閑古鳥」のフンも後から加えたエピソードです。


閑古鳥


――1章ごとに身近な魔物の存在が明らかになっていきます。章ごとに、魔法辞典ふうの解説が書かれているのも面白いですね。魔物探し、おっちょこ先生といさな・千種コンビの活躍はこの先も続くのでしょうか?

人間に見せてはいけない、魔女の教科書『グリモワール』をいさなたちに見せてしまったおっちょこ先生ですから……。この先もとんでもない失敗や騒動を巻き起こしそうですよね(笑)。続編を書くとしたら、おっちょこ先生の師匠である、保健室の前任の大岩先生が登場するのも面白いかなと思っています。


グリモワール


ずっと不思議なものが大好き

――廣嶋さんの作品にはよく魔法や不思議な生きものが登場します。今回もおっちょこ先生の秘密の部屋が、魔女らしさいっぱいでわくわくしました。

戸棚や瓶の中にぎっしりいろんなものが詰めてあるとか、天井からハーブがつり下げられていたりとか、大好きなんです。たとえば漢方薬局屋さんで木の根っこや貝殻とかを瓶詰めされているのを見ると「たまらない」と思います(笑)。結局、自分が好きなものを書いているんですよね。



――子どもの頃から不思議なものが好きだったんですか? 

そうですね。不思議なものをあれこれ空想するのも好きでしたし、自然の中で遊ぶのも大好きでした。海や山に遊びに行けば何時間でも遊んでいられる子でした。貝殻を集めたり、海にもぐって魚を銛で突いたり、毎週末のように近くの山に出かけてトカゲやヘビやカエルをつかまえたり、ワイルドに遊んでいました。図鑑やテレビの自然番組が好きでよく見ていたので、知識は自然と身につきました。父親の蔵書の中から『オーパ!』を引っ張り出して夢中で眺めたりしましたよ。
その一方で、お菓子作りをしたり、ドールハウスで遊んだり、母親に刺繍を教えてもらったり……、かわいいものとワイルドなものが両方好きな、二面性のある子だったと思います。おはなしを書くとき、そんないろんな経験が役に立っているなと思います。
 

――最後に、この作品を読むときのおすすめの楽しみ方を教えてください。

私は、この世界にはどこかに未知の、不思議なものが存在すると思っています。もしかしたら自分が悩んでいることが、魔物のせいかもしれない!と考えてみてください。あれもこれも、魔物が憑いてるからかも……そんなふうに想像したら楽しくなってきませんか? 本を読んだみなさんが一緒に想像して楽しんでくれたら嬉しいです。

――ありがとうございました!



廣嶋 玲子:作家。『水妖の森』(岩崎書店)で、ジュニア冒険小説大賞受賞。主な作品に『送り人の娘』『こちら、ハンターカンパニー 希少生物問題課!』(すべてKADOKAWA)、「魔女犬ボンボン」シリーズ、『神様ペット×』『世界一周とんでもグルメ』(すべて角川つばさ文庫)、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ(偕成社)、「十年屋」シリーズ(静山社)、「鬼遊び」シリーズ(小峰書店)などがある。


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