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全国の幼稚園・保育園1000人の子どもたちとつくった絵本『はっはっはくしょーん』刊行記念 たあ先生インタビュー

全国の幼稚園・保育園1000人の子どもたちとつくった絵本『はっはっはくしょーん』刊行記念 たあ先生インタビュー

撮影:大東 俊和  取材・文:大和田 佳世
『はっはっはくしょーん』は、絵本作家ユニット、たあ先生(あいはらひろゆき・ちゅうがんじたかむ)が手がける絵本。動物が次々くしゃみをするシンプルな繰り返しと、くしゃみ前後の絶妙な表情に、誰もが笑ってしまう読み聞かせ向きの絵本です。全国の協力幼稚園・保育園に読み聞かせテストをしてもらいながらつくり上げたエピソードや、本に込めた思いをお聞きしました。



子どもが立ち上がったり指を差したり大騒ぎ

――いたずらずきの「くしゃむしくん」が動物の鼻先にとまると、「はっ はっ はっくしょーん!」とカメの甲羅が飛んだり、キリンの首が縮んだり……。おもしろ味のある表情と姿に子どもたちは大笑い。読み聞かせにぴったりですね。

あいはら:この絵本は全国の幼稚園・保育園の子どもたち約 1000 人と一緒につくった本です。制作途中のラフを全国の 30 くらいの協力幼稚園や保育園に送って、読み聞かせをしてもらいました。読んでいるときの動画を撮ってもらったり、読んだ感想やアンケートを先生たちに書いていただいて、子どもの反応を参考にしたのですが、それはもう、子どもたちがすばらしくよく笑ってくれるので、つくりながらすごく嬉しかったですね。


あいはらひろゆきさん


ちゅうがんじ:「はっ はっ」と読んで、次のページで「はくしょーん!」と大声で言うと、子どもたちがどっと笑うんですよ。座って聞いていた子が、立ち上がって絵本を指差したり、「次はこうだよ」と予想したり、「(カメの)甲羅が飛んだ!」とか「(ライオンの)髪がなくなっちゃったー!」とか大騒ぎなんです。こんなに反応してくれるんだ、おもしろいなあと思いました。


ちゅうがんじたかむさん


――具体的にはどんな感想や意見を反映させたのですか。

あいはら:はじめは 9 種類くらい動物がいるバージョンで読み聞かせをしてもらいましたが、その中で反応がとりわけ良かったカメ、キリン、ゾウ、ライオンの 4 種類に絞っていきました。あと「はくしょーん」まで 3 場面あるバージョンもあったのですが、先生たちから 2 場面で「はくしょーん」のほうがシンプルでリズムがいいというご意見をいただいて 2 場面にしましたね。


協力園からのアンケートの数々。


――「たあ先生」というユニット名の「たあ」は「たかむ」さんと「あいはら」さんの頭文字ですね。「先生」に何か意味が込められているのですか?

あいはら:ご協力くださった先生たち含め、先生と子どもたちでつくったという思いを込めて「たあ先生」と「先生」をつけました。あいはらひろゆき、ちゅうがんじたかむって名前が2つあると長いしね(笑)。

ちゅうがんじ:実際に僕らも園に行って読み聞かせをすると、「先生がつくったのー?」と子どもたちに聞かれるんですよ。なので「そうだよ、先生たちみんなでつくったんだよ」と答えています(笑)。



味のある絵とアイディアの出会い

――『はっはっはくしょーん』の文を担当されたあいはらひろゆきさんは、映画やTVアニメにもなっている人気シリーズ「くまのがっこう」の作者。絵を描かれたちゅうがんじたかむさんは、今作が絵本デビュー作です。ユニットを組まれたきっかけは何ですか。

あいはら:「くまのがっこう」が誕生して15周年の節目をむかえて、区切りの気持ちもあったのか、僕にとって新しい領域に挑戦してみたいと思ったのです。これまで物語絵本ばかり書いてきて、まだまだ「美しい物語を書きたい」という願望はあるのですが、絵本のジャンルはそれだけじゃないだろう、と、ふと気づいたんでしょうね。

もともと「くまのがっこう」でも、王道のストーリーから外れたところで、サブキャラにちょこっとおもしろいことをさせるような、小さなネタを考えたり、笑いを仕込んだりするのは好きだったんです。物語絵本とは違う、アイディアを生かした読み聞かせ向きの楽しい本を手がけてみたいと考えたところ、アイディアが次々浮かびました。「ひょっとして、おもしろいのができるんじゃないか?」と思って、ちょうどその少し前にちゅうがんじさんに出会っていたので「こんなアイディアがあるんだけど、ちょっと描いてみてよ」と声をかけたのがはじまりです。



ちゅうがんじ:僕は似顔絵を描くのが得意で、あいはらさんの似顔絵を描いたことがあったんです。それで声をかけてもらって、何種類かの動物がくしゃみをするアイディアを絵にしたものをあいはらさんに見てもらいました。最初はワニやヒツジも描いたし、くしゃみをしたらパンダの黒い部分が飛んでいっちゃったらどうかとか……いろんなアイディアを考えて描きました(笑)。

あいはら:それが味のあるいい絵だったんですよ。「絵本はこうあるべきだ」とか、「絵本の絵とは」みたいな薫陶を受けてきた、絵のうまい絵本作家さんが描くような絵じゃないですよね。だけど、雰囲気があって、おもしろい。

それに彼はアイディアが豊富で、絵の中にどんどんアイディアを出してくれるんです。たとえば新人の絵描きさんだとどう描いていいかわからなくていろいろ細かく指定をしなくちゃいけない場合もあるんですが、彼の場合は全然そんなことがなかった。彼となら、互いに刺激しあって新しいアイディアが生まれるんじゃないか、わいわい話しあいながらつくっていけるんじゃないかと思って、一緒に組もうということになりました。


アイディア出しをしていた頃のラフ。


コミュニケーションツールであり、遊び道具

――ちゅうがんじさんは、はじめて絵本をつくってみていかがでしたか。

ちゅうがんじ:僕が子どもの頃は、欲しい絵本を両親に買ってもらって 1 人でずっと眺めていたので、絵本は個人で楽しむものというイメージでした。好きだったのは『はらぺこあおむし』や、せなけいこさんのおばけ絵本です。

でも今回絵本をつくることで、「ああ、絵本ってコミュニケーションツールなんだ。人と人の間に入っていくものだったんだ」とイメージががらっと変わって、すごく新鮮でした。

あいはら:この間『はっはっはくしょーん』を 2 歳の子が読んでいたけど、めちゃくちゃかわいかったですよ(笑)。文字が読めなくても、簡単だから何回か読んでもらえば覚えちゃうし、小さな子でもきょうだい同士でも読めますよね。

ちゅうがんじ:親や先生が読むだけじゃなく、子どもが子どもに、子どもが親や先生に読むことができる。絵本って、コミュニケーションツールであり遊び道具ですよね。



絵本ってポジティブなもの

――「はっ はっ はくしょーん!」で繰り返し笑って、最後は「くしゃむしくん」が「ああたのしかった」。終わり方が気持ちいいです!

ちゅうがんじ:「はくしょーん」だけで終わる案もあったんですけど、最後は何かオチがほしいと思って僕から提案しました。

あいはら:「くしゃむしくん」は、大きな動物の鼻先にとまるならちっちゃい動物のほうがいいなと思って考えた虫でしたが、いいキャラクターになったんじゃないかな(笑)。結局、文を書いているのは僕でも、ちゅうがんじさんの意見も入っているし、絵を描くために手を動かしているのはちゅうがんじさんだけど、具体的なアイディアは僕も出しているので、ふたりで「たあ先生」なんですよ。



――本当にそうですね。そして、シンプルであっという間に読めて、笑顔で終わるので、寝る前の読み聞かせにちょうどいいです。

あいはら:1 分で読めますからね(笑)。寝る前のひととき、お父さんやお母さんに絵本を読んでもらって、幸福を感じながら眠れたらきっといい夢が見られるんじゃないかなあ。親も、忙しい気持ちをちょっとだけリセットして、「明日もがんばろう」と思えるんじゃないでしょうか。そんなふうに親子にとって大事な役割を果たせるのは、絵本しかないんじゃないかと思います。

絵本ってポジティブなものですよね。現実の社会では悲しいことや傷つくこともありますけど、絵本には前向きな価値観や、生きる哲学みたいなものが詰まっている。僕自身は、小さい頃に絵本を読んだ記憶があまりなくて、自分の子が生まれてはじめて絵本のすばらしさに出会いました。子どもの世界ってなんてあったかい世界なんだろうと感動したことを覚えています。



ちゅうがんじ:自分たちがつくっている絵本から生まれる、プラスのパワーを感じられたことが、今回、本当に嬉しかったです。「はっ はっ はくしょーん!」と読むと、子どもたちがわーっと笑顔になって、明るい力が広がっていく……。絵本ってすごいなと思いました。

あいはら:『はっはっはくしょーん』を読んで笑いあうことで、生きるエネルギーや勇気が湧いてくるものになればいいなと思っています。みんなに幸せな時間を提供できたら絵本作家としてこれ以上嬉しいことはないですよね。この絵本が出版されるのは寒い季節ですから、笑って元気に風邪もインフルエンザも吹き飛ばしていきましょう!



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