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【インタビュー】自分の幸せの在りかを見つける物語『小さな紳士と山の化け物』ぬら次郎さん


ちょっと気取り屋の猫紳士ネロが、体は大きいけれど心は優しい化け物“お嬢さん”に恋をした——。Twitterをきっかけに広まり、コミックNewtypeの連載でも人気を博す漫画『小さな紳士と山の化け物』の第1巻がついに刊行されました。不器用な2人が少しずつ心を通わせる姿に、子どもから大人まで夢中になっている本作。なぜ、ここまで心を惹きつけられるのでしょうか。作者・ぬら次郎さんへのオンラインインタビューで、その理由に迫りました。
取材・文:吉田あき

大好きな「猫」と「化け物」を組み合わせて生まれた物語

——この漫画はもともとTwitterに投稿していたそうですね。

そうなんです。連載前に、Twitterで漫画の練習をするために4ページずつ載せていたもので、最初は思いつきで始まった物語なんですよ。

——ぬら次郎さんは、コミックエッセイ『猫パン日記 幸せを運ぶねこと厄よびパンダ』で猫好きとしても知られていますが、本作でも猫のキャラクターが主人公です。

小さい頃からずっと猫が好きで、化け物も大好きなんですよ。自分の中で、化け物ってカッコよくて強くて美しい、という価値観があって。だから、大好きな猫と化け物を組み合わせたらいい漫画ができるかもしれないと。そこから、この化け物はどうして山にいるんだろう、どうして山から一歩も出られないんだろう、ということを考えつつ、お話を肉付けしていきました。


猫の紳士のネロと化け物のお嬢さん


——最初の頃の反響はいかがでしたか?

小さな猫紳士が大きな化け物に恋をするお話なんですが、“お嬢さん”は化け物だけど、心はちゃんと女の子なので、「ギャップがかわいい」という意見をたくさんいただきました。最初はお嬢さんの人気が高かったのですが、最近は主人公のネロが好きだと言ってくださる方も増えて嬉しい限りです。2人には、過去に父親とのつらいエピソードがあるのですが、そこにシンパシーを感じて泣いてくれる方までいらっしゃって。

——見た目はまったく違う2人ですが、共通点として「父親とのつらいエピソード」を入れた理由とは?

完璧な家族ってなかなか存在しないと思うんですよね。自分自身も若い頃は父親に完璧を求めてしまうところがあったのですが、大人になってからは父親も人間なんだということに気づいて、あれは仕方のないことだったんだと父親の過去の行動を理解することが増えたし、今はとても仲がいいんです。そんな自分の経験をもとに、どうしても親に完璧を求めてしまう子ども心を、ネロとお嬢さんに反映したいと思いました。


お嬢さんのお父さんとは?


——今回発売された1巻では、それこそ大きな事件が起こるわけではありませんが、恋に不器用なネロがお嬢さんと少しずつ心を通わせていく日常がほのぼのと描かれています。『猫パン日記』の破天荒なイメージとはまた違った世界観ですね。

この漫画を読んでくださった方の感想のひとつに、「まるで絵本のような漫画ですね」という声があったんです。漫画家の友人たちにも話を聞いたら、「漫画だけど絵本風に描いたらきっと面白いよ」と言われて、自分でも「そうかもしれない」と。そんなことがあって、物語の肉付けをする時に絵本風にすることを意識しました。

描き下ろしで明かされる、主人公ネロの過去

——1巻には連載の第1話から7話までが収録されますが、連載中に反響が大きかった回を教えてください。

まずは1話ですね。Twitter漫画を読んでくださった方々が「連載になって嬉しい」という声を寄せてくださいました。それから、3話はお嬢さんの過去の一部が明かされる回なのですが、「お嬢さんに自分を重ねて思わず泣いてしまった」というコメントが多く寄せられて、自分の漫画が人の心に届いたんだなと嬉しくなりましたね。

——第6.5話の描き下ろし「猫さんのクリスマス」は、この物語を楽しむ上でぜひ読んでおきたい回に仕上がっていますね。

この物語が続くことを考えた時に、お嬢さんの過去はすでに少しずつ明かされているけど、ネロの過去は主人公なのに掘り下げられてないぞと。どうしても描く必要があったお話だったので、編集さんにお願いして入れさせていただきました。

——お互いに歩み寄る姿が初々しくもあり…。2人の関係性の描き方で、こだわっているところはありますか?

ネロからお嬢さんへの恋愛感情はありますが、2人はお友だちなんです。自分自身いつも友だちからもらってばかりなんですが…返したいっていう気持ちがあるんです。そう考えると、お友だちって、片方がもらうばかりでは成立しないものだなと。今まではネロが一方的にお嬢さんに与えるばかりでしたが、第6.5話ではお嬢さんからもネロにお返しをすることで、友だちとしての2人の姿を描くことができたと思っています。

——この回にはとある食べ物が登場しますが、ぬら次郎さんの漫画に描かれた食べ物はどれも美味しそうですね。

第6.5話に出てくる料理は、実際に自分自身も調理したんですよ。描く時に想像してみたのですが、よくわからなかったので、作ってみるか!と。他の回で登場するジャムも実際に作りました。子どもの頃、美味しいご飯やお菓子が載っている絵本ってすごくワクワクしたんです。だから、ちゃんと描きたいという気持ちがあって、調理した食べ物の写真を撮り、参考にしながら絵を仕上げました。


このジャムも作ってみたんだとか


“誰かを想う気持ちの深さ”に美しさを感じて漫画を描き始めた

——コミックNewtypeをはじめ、Twitterやブログでも漫画を描かれていますが、漫画を描き始めたきっかけとは?

もともとは売れない画家だったんです。2019年の24歳の時に初めて、自分のお腹に腫瘍ができたお話を日記漫画としてTwitterに載せたんですが、夜寝る前に描いて、寝て起きたら「いいね!」が10万くらいついていて。それから楽しく漫画のお仕事を続けさせていただいて、もちろんつらい時もありますけど、本気でやめたいと思ったことは一度もないです。

——漫画家さんというと、産みの苦しみがあるイメージが強いのですが…どんな時につらさを感じますか?

30ページくらいの漫画を仕上げるために、ひたすらネーム(コマ割りやセリフを大まかに配置したもの)を描くのですが、その間にも編集者さんとの打ち合わせがあって、描いて直して、描いて直して、ようやく通ったものにペン入れをして。漫画家はみんなそうだと思いますが、1ヶ月間くらいは誰からも褒めてもらえないという(笑)。でも漫画を公開するたびに「面白い」「泣いた」などの感想がもらえるので、コメントが3つあるだけでも「描いて良かった」という気持ちになります。つらいと嬉しいの繰り返しです。

——ブログもTwitterもファンの方のコメント数がどんどん増えていますね。最近は漫画だけではなく、ぬら次郎さんご自身を応援している方も多いように感じます。

ありがたいことに、それを自分でも実感しています。最近笑ってしまったのは、コロナ禍が始まった頃、みんなの心が落ち込んでいると感じた時に、Twitterで「お子さんが描いたイラストに色をつけます」という企画をしたのですが、小さなお子さんの絵に色をつけて送ったら「ぬら次郎って人間なの?」と驚かれたそうで(笑)。自分の姿をパンダとして描いているからだと思うのですが、小さなお子さんたちの反応が可愛らしくて。好きと言ってくれる人を大切にしたいし、「ファンの方に恥じない自分でいたい」という気持ちがますます大きくなっています。

——漫画がファンの方とのコミュニケーションの場にもなっているのですね。ぬら次郎さんの漫画から元気をもらっている人は本当に多いと思いますが、ご自身が漫画やアニメーションに背中を押された経験はありますか?

19歳の頃、かなり落ち込んでいた時期があって。その頃、今は漫画家になっている親友が、息抜きに『魔法少女まどか☆マギカ』の映画に連れていってくれて、熱狂的なファンになってしまったんです。どこまでも誰かのことを思う姿をどう捉えるのか、意見はいろいろあると思いますが、すごく美しいと思った。それまで創作していたのはイラストや絵画だけでしたが、この映画を観てから漫画を描き始め、多くの方に漫画を認められたのが嬉しくて、一時期はずっと漫画を描いていました。あの映画がなければ、自分は漫画家になっていなかったと思います。

——『小さな紳士と山の化け物』のような創作物と、コミックエッセイのような日記漫画で、描いている時の気持ちは違うものでしょうか。

違いますね。創作物は完全に自分の想像から練り上げていて、登場人物はみんな自分の子どものようなもの。日記漫画は主人公が自分や猫だったりするので、もう少しラフな気持ちで描いています。もちろんどちらも大切ですが、自分より子どもを褒められたほうが嬉しいという気持ちがあって。とにかくみんなに好かれてほしいし、「面白いな」って感情移入してほしいので、やっぱり気合いが入ります。

——漫画を描くにあたって影響を受けた作品はありますか?

『ポプテピピック』などの映像制作で知られるAC部さんというユニットが昔から好きで、影響も受けています。わざとゆるく描いて笑いを誘ったりして、「表現は自由でいいんだ」と気付かされる作品がたくさんあります。

——いろいろとお話をありがとうございます。最後に『小さな紳士と山の化け物』で伝えたいことを教えてください。

恋愛だけではなく、子どものために親ができることについても描いているお話です。最終的には、自分の幸せはどこにあるのかを考えるきっかけになってもらえたら。幸せって人それぞれだし、自分がどう感じるかで幸せか不幸かは変わりますよね。この物語では、ネロやお嬢さんも、幸せの形をお互いに選択していきます。勘違いやすれ違いのような思い込みも、相手のことを理解することで幸せに変わるかもしれない。そんなことを考えながら描いています。


幸せの形はそれぞれ


お互いにつらい過去を抱えながらも、自分の幸せの形を見つけようとする、ネロとお嬢さん。2人を応援しながら、親子の絆について考えさせられるお子さんも少なくないのではないでしょうか。1巻とともに、これから続くコミックNewtypeの連載にも注目です!

コミックNewtypeの連載は▶コチラ

ためし読み公開中!

品行方正でいいやつだけど、どこか冷めた感じの猫の紳士「ネロ」。そんな彼が、ある日見た目は化け物、中身はキュートなお嬢さんに恋をした…!尊さが爆発している猫×化け物の異色ラブコメの特別ためし読みです。



著者 ぬら次郎

定価
1,210円(本体1,100円+税)
発売日
サイズ
A5判
ISBN
9784041123201

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