4 久しぶりの編集会議!
「コホン。それでは──第1回編集会議をはじめます!……って、本当にあたしが仕切っちゃっていいの!?」
あたしは会議室に集まっているしおりちゃん、カレンさん、エンマの3人を見た。
実際に企画がスタートすると、角丸書店で作業をすることになるらしいんだけど……。
今日は久しぶりに会ったこともあり、近況報告がてらうちで編集会議をすることになったんだ。
「いいも何も、中学の時もオマエが雑誌作るっていきなり言い出してさ。オレサマたちを『パーティー』編集部に引っ張り込んだんだろ。なにエンリョしてんだ」
「チョイ待った! それ記憶補正。エンマは自分からはいりたーいって言って、入部してきたんでしょ!?」
「はあ!? そうだったか?」
「それより『パーティー』を作るメンバーは私たちだけですか? 灰塚(はいづか)先輩が手伝ってくれると、大変助かるのですが」
灰塚先輩は元新聞部だったけど、『パーティー』編集部に入ってくれた先輩だ。
あまりにもあたしが誤字脱字するもんだから、灰塚先輩が怒って辞書投げつけてきたっけ!(遠い目)
ひーっ。あれって今思うと、当たりどころ悪かったら大事故だよね!?
灰塚先輩のことだから、『オマエは当たっても死なん』とか言いそうだけどね。
でも学生時代に作っていた『パーティー』の誤植が少なかったのは、灰塚先輩のおかげだ。
そこは本当に感謝だよ!
「たしかに口うるせーけど、仕事は確実だったよな──って、ゆの、何やってんだよ」
土下座姿で何度も神に祈りを捧げているあたしに気づき、エンマが顔を引きつらせる。
「灰塚先輩には超お世話になったから! どっちにいるかわからないから、とりあえず全方向に向けて拝んでるんだよ」
「そういうことでしたら私も──」
「アンタも真似しないの!」
得心したようにうなずき、あたしの隣で同じく礼拝しようとするしおりちゃんに向かい、カレンさんはピシャリとツッコんだ。
「まあ。難しいだろうな。灰塚先輩、なんか角丸書店で校正のバイトしてて忙しいらしいぜ? しかも西園寺(さいおんじ)先輩がらみらしい」
げっ。そうなの!?
西園寺先輩の名前を聞いて、思わずあたしたちは身体をすくませる。
西園寺会長は笑顔で毒を吐きまくる、あたしたちの中学の元生徒会長兼新聞部の部長でね。
『パーティー』編集部を廃部にしようと考える西園寺会長から、我ら『パーティー』編集部は、メチャクチャ目の敵にされてたんだよね。(主にあたしか!?)といいつつ、なぜか一度お付き合いしたんだけど……。ひー! いまだに信じられないですよっ!
「あーあ。あとは王子がいてくれたらなぁ」
王子こと黒崎旺司は、あたしのクールな幼馴染で、『パーティー』編集部の一員だ。
最近ずぅえんずぅえん会っていないけど、めでたく(!?)お付き合いしている運命の人デアリマス。
(ギャー! 恥ずかしい!)
文句を言いつつも、我らの面倒をキッチリと見てくれる『パーティー』編集部で一番のしっかり者。
王子がいてくれたら、すぐに別の話題で盛り上がって横道にそれるあたしたちの手綱をひいてまとめ上げてくれそうなのに。
「黒崎? 呼べば? ヒマそうだから来るんじゃねーの?」
「え? 誰を呼べば来るって」
「だから黒崎だろ? 日本に帰ってきてるんだから、手伝ってもらえばいいだろ?」
「確かに、この前黒崎くんと一緒に、ご飯を食べました」
んんっ!? ドーユーコトデスカ?(大混乱)
高校を卒業してからあたしはママと旅に出たんだけど、王子もお医者さんになるために海外に行ったんだ。
みんなにはナイショだけど、王子が一度、海外から帰ってきたことがあってさ。
その時は、二人きりでデートしたんだよ!?
王子とキスだって、いっぱい、いっぱーいしたんだからっ!
……とはみんなには言えないけど、とにかくどっから見ても恋人同士♡って感じの、超あまあまラブラブだったのに。
ん? でも待って……。王子と連絡が取れなくなったのって、その後くらいから──かも……?
こっちは向こうで何か事故にあってないかとか、病気になってないかとか心配してたのに。
それなのにエンマとは連絡をしてたですと!?(怒りMAX)
「エンマ、ちょっとくわしく聞かせなさいよおおおおおおおおおおお!」
「うわああああっ。目がヤバい! やめろおおおっ!」
あたしは興奮気味に、エンマに飛びかかった。
王子ってば皆とはご飯食べたりしてるのに、彼女のあたしには連絡すらよこさないのっ!?
「そう怒るなって。会えないのはオマエのせいだしな」
「あたしの!?」
あたし、王子に何かしちゃったってこと!?
「しおりちゃんも何か聞いたの?」
「ゆのさんにそんな一面が……と驚きましたが」
ちょっと待って! あたしが王子にやらかしたってこと?
いやいや。でも失礼なことっていつもしてるし!(胸をはって言うことじゃないけど!)
「このままお別れにならないといいけど」
お……お別れ!?
カレンさん、やめてえええええええっ。不吉なこと言わないでえええええっ!
「あ、黒崎からメッセージが返ってきた」
「かして!」
返事も聞かずに、エンマの手からスマホを奪い取る。
王子からのレスは『連絡ありがとう。今はむずかしい』との文言が入っていた。
「もう、王子君ったらもう少し長文でもいいのに」
「ぬぅあんでえええええええええええっ! あたしは既読スルーされまくりなんだけど!」
「けけけ。オレサマたち親友だからな」
「ウソ!? はじめて聞いたんだけど! 王子そんなこと言ってないよ」
「ほら。連絡はけっこう取ってるだろ」
本当だ! しかも電話までしちゃってる!
「なんで……こんなに連絡取り合ってるの!?」
「さー。なんでかなー。知りたい?」
「知りたい知りたい!」
手招きをして耳打ちしようとするエンマに向かい、あたしは自分の耳を差し出す。
「うひゃあ!」
ふっと耳元に息をかけられ、あたしは思わず悲鳴をあげる。
「けけけ。真っ赤になってんの。かーわい」
エンマはそう言うと、意味深な笑みを浮かべる。
「黒崎は今、ゆのに会いたくねーみてーだし? いい加減オレサマと付き合えよ」
「はあっ!?」
「まあ。もう付き合う以上だったか」
「いやいや。何言ってんの!? そんなことないし!」
「一緒に暮らしてるようなもんだろーが」
「ええええっ。それどういうこと!?」
「ちょっと誤解を招くような言い方やめてよ!」
「私もくわしく聞きたいです」
ドン引きするカレンさんの横で、しおりちゃんまでもがすごい目力でたずねてくる。
「エンマんとこの猫がクロミツに会いに来てたんだよ。あんまり楽しく遊んでるから、気が付いたらいつも一緒にいるなって時期が……」
何となくいたたまれなくなり声が小さくなるあたしの横で、エンマがニヤリと笑う。
「あのソファ、オレサマのベッドだったよな」
「いやいや、別にエンマのってわけじゃないけど!」
「あれは男性もののウェアですか? 今でもエンマ君の荷物が置いてあるし、たしかに住んでいらっしゃるくらいよくここにいたんですね」
しおりちゃんの冷静なツッコミに、あたしはそれ以上何も言えなくなる。
「な、今のオレサマたちがどういう仲かわかっただろ」
エンマがあたしをグイッと引き寄せるもんだから、全力で離れようと身をよじる。
「もういいんじゃねーの。乗り換えれば」
「ちょっと──アンタまさか、いつもこんなにイチャイチャしてたの?」
ゴミを見るような顔をするカレンさんに向かい「ちがうちがう!」とあたしはブンブンと首を横にふる。
「イチャイチャなんて誓ってしてないよ! エンマが変なこと言うから言い返してただけ」
「ゆの。まさかとは思うけど王子君にコイツが入り浸ってたこと言ってないわよね」
心配そうな顔で、カレンさんは質問してくる。
「言ってないけど、知ってるよ?」
「なんで!?」
「だって王子から通話が来る時は必ずエンマもいるから」
ある時からピタッと連絡がなくなっちゃったんだけど、それまでは王子から電話があるときはだいだいエンマが側にいた時だったんだよね。
「今ふと思ったんだけど……。エンマ……王子から連絡が来る時間がわかってたとか!?」
「けけけ。オレサマを誰だと思ってんだ。黒崎のスケジュールくらい把握してる」
ひゃー! そうか! 1つナゾが解けたよ!
「──それね。アンタが愛想をつかされたのは!」
「ええええっ。ちがうよ。だって相手はエンマだよ?」
「わかってないわね! 黒崎君的にはこいつが一番ダメなのよ! ほら。アンタも何か言ってやんなさいよ!」
「エンマ君は黒崎君の魔の手からゆのさんを守っているので、良い仕事をしているのかと」
「守りすぎて捨てられちゃったら意味ないじゃない」
なぬ!? 今、すっごく聞き捨てならないことを仰いませんでした!?
「心配しなくて大丈夫! あたしたちの絆はちょっとやそっとじゃ壊れないもん!」
うっかり婚姻届の名前を書き間違えてうやむやになっちゃったけど、結婚しようって話が出たくらいなんだから!
「黒崎君が忙しいようでしたら、この話はここでおしまいです。明日は角丸書店に行くんですよ? 少しは企画の話とかしませんか?」
さすがしおり副編集長!
暴走しまくった会議をしっかりとまとめてくださって、ありがたいよー!(涙)
「そ……。そうだよね」
王子のことはあとでじっくりとっちめるとして、今は雑誌作りに集中しなきゃ!
あたしは気合を入れ直すために、パンパンと両手で自分の頬をたたいた。
「よしっ。じゃあ、ザックリどんな雑誌にしたいか案があったりする?」
あたしが全員に向かってそう問いかけると。
「行ったら即死! 本気のホラースポット特集はどうでしょう?」
「銀野がそうくるなら、『知ったら消されるマル秘情報特集』なら作れるぜ?」
真顔で挙手するしおりちゃんの発言のあと、次は片ひじをついたままエンマがけだるげに口を開く。
「ダメダメ! どっちの企画も危なすぎて、全国誌で発表できないから!」
ちょっと知りたいけど、リスクが高すぎるよー!
「ふふ。お子様ね。耳の穴かっぽじってよーく聞きなさい。あたしの目玉企画はコレよ!」
カレンさんはそう言うと、スマホの画面を開いてあたしたちの前に置いた。
「えええっ。今話題のVチューバー・美肌殿下(びはだでんか)さん?」
Vチューバーとは、キャラクターやアバターを使って動画配信をする人だ。
美肌殿下さんは、キラキラ美肌の美少年のキャラクター。現役のお医者様でもあるんだよ!
「美肌殿下さんの連絡先知ってるの?」
「この人すごい美容ヲタクで、あたしのSNSフォローしてくれて。そこから仲良くしてんだよね」
「仲良く! そっか。カケル君との年の差恋愛はダメだったのか」
「ちがうわよ! 美肌殿下さんは女だから」
「ええええええええええっ。そうなの!?」
「そうそう。それで美容をあつかったミステリー小説を書いてみたいって言ってて。『パーティー』で連載したらどうかなって」
「カレンさんすごいね!」
いつのまにかそんな人とつながって、しかも小説を書いてもらえるなんて!
「でも美容のことはわかるけど、ふだん小説とかマンガって読まないから。物語作りについては全然どう直したらいいかわからないのよね」
カレンさんはお手上げだというように両手をあげた。
「だから、美容の検証はあたしができるけど、内容面でのアドバイスくれる?」
「わかった。それにしても美肌殿下さんを口説いちゃうなんて。カレンさんすごい!」
編集者として一番レベルアップしたのはカレンさんだよ!
「──アンタみたいに夢を実現できる人になりたかったから」
「え?」
カレンさんは顔を赤くして「何でもない」とだけ言った。
「企画と言ったら、どーすんだよ。あのワガママプリンスは」
ワガママプリンス。
エンマの言葉に、全員が金髪でキラキラスマイルを浮かべる白い制服の男子を思い浮かべる。
「帝王学を学ぶって言って、どっか行っちゃったきりだよね」
ワガママプリンスと言えば、もちろん我らが青木(あおき)トウマ先輩!
超ワガママで自分が大好きな王子様。
あたしが作っていた『パーティー』で最初に原稿をお願いして、そのままずっとマンガを描いてもらっていた看板作家だったんだよ。
トウマ先輩は『小鳥ちゃん』と呼ぶファンの女の子たちをはべらすような人気者で、あたしとは縁がない人だと思っていたんだけど、めっちゃマンガのセンスがあって!
原稿をもらうのは本当に本当に本っっ当に大変だけど、出来上がるとそんなの忘れちゃうくらい面白い原稿を描いてくれるんだ。
何でもアリなトウマ先輩のことだから、本当に王国の1つや2つくらいつくってそうだ。
「今回はそっとしておく? 出版社の依頼を受けてつくる『パーティー』なわけだから、ワガママを通せるわけじゃないでしょ」
「んー。トウマ先輩って、毎日送ってるメールには返事をしてくれないくせに、突然すんごい原稿を上げてきてくれるからなぁ」
「今サラッと言いましたが、毎日ですか?」
「うん。毎日! よく考えたら、王子よりトウマ先輩に原稿催促の連絡してる方が多いみたい」
生存確認のためにも、一度トウマ先輩の執事セバスチャンさんか双子の姉のミヤちゃんに、トウマ先輩の消息をたずねてみようかな。
トウマ先輩にお願いしたいけど、たしかに表紙じゃないとイヤ! とか、巻頭カラーよこせとか言われそうだしなぁ……。うーん。
「トウマ先輩のことはあたしが考えるから、まずは他の企画を出していこう! 老若男女誰でも楽しめる雑誌になる企画がいいな……マンガ? 銭湯? コンビニスイーツ?」
「ちょっといくらなんでも、ザックリしすぎじゃない!?」
カレンさんのツッコミに、しおりちゃんとエンマが笑う。
「コンビニスイーツより、おっさんたちならコンビニ酒じゃね?」
ギャー! たしかに! コンビニで企画を出そうと思っても、幅が広くて悩んじゃう!!!
いろいろ悩み事や不安はあるけれど、新しい企画を考えるのって、すっごく楽しい!
久しぶりの感覚に、あたしたちは夜遅くなるまで夢中でしゃべり続けたのだった。
第3回へつづく
書籍情報
- 【定価】
- 1,540円(本体1,400円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 四六判
- 【ISBN】
- 9784041151204