角川つばさ文庫の伝説級シリーズがウルトラパワーアップして帰ってきた! 白石ゆの19歳! 今度は角丸書店で伝説の雑誌『パーティー』を復活させちゃいます!? 出版社でもドタバタ大活躍(?)の予感、笑ってトキメク最強ラブコメ☆
※これまでのお話はこちらから
3 しおりちゃん危機一髪!
「いやーっ! 待って待って! やっぱり急に押しかけちゃマズイんじゃない?」
「シャラップ! 『パーティー』作るより大事なことなんてないでしょ」
ここはあたしの大親友でパーティー編集部元副編集長の銀野(ぎんの)しおりちゃんの自宅。雰囲気のある魔女の館のような建物だ。
「そもそも仕方ないじゃない。アンタと同じく貞子(さだこ)も、電話もメールも出ないんだから」
貞子っていうのは、昔からカレンさんがしおりちゃんに使うあだ名だ。なつかしいなー!!
「ずっと連絡とってたんだよ!? だけど、あたしが編集部でやらかした話をしてから返信がなくなっちゃったんだよね」
銀野しおりちゃんは占いと呪いが得意で、魔女を本気でめざす女の子。
あたしが作ったパーティー編集部に最初に入ってくれたメンバーで大切な親友だ。
しおりちゃんに編集者やめるって伝えたら「ガシャン」って話の途中で電話を切られて以来、一度も連絡はなし。
「嫌われちゃったのかな」
「──アンタ、それ本気で言ってる?」
「だって……」
そうじゃなかったら、あんなに来ていた連絡がピタリと止まるはずないもの……。
「ヘナチョコ! いつまでたっても覚悟が決まらないなら、あたしが押す」
しびれを切らしたカレンさんが、インターフォンを押そうとすると──。
「わああっ」
ガチャとドアが開き、勢いよく双子が飛び出してくる。
「ギャー! カワイイ! 二人とも大きくなったねぇ」
抱きしめると、全力でイヤイヤをされる。
「あの……しおりちゃんいる?」
「いる! 早く! 早くお姉ちゃまの部屋に行って!」
「早くしないと大量殺人犯になっちゃう!」
た……大量殺人犯──っ!?
あたしとカレンさんはポカンと口を開けながら顔を見合わせたあと、大きくうなずいた。
「それじゃあ失礼します!」
「お邪魔します!」
ペコリとお辞儀をすると、しおりちゃんの部屋に向かって爆走した。
コンコン。
ノックをするも返事はなし。
ただドアの向こうからは、バシーン! バシーン! という不穏な音が鳴り響いている。
「しおりちゃん?」
そうっと部屋の扉を開けると──。
「───っ!」
モア──っと煙が立ち込め、部屋の中が見えない。
「ゲホゲホ。し……しおりちゃん?」
少しずつ煙がはれてきて、部屋の中の様子が見えてくる。
「堕ちなさい堕ちなさい堕ちなさい堕ちなさい──全員まとめて地獄に堕ちなさい」
しおりちゃんはバシバシと拳を打ち付けたあと手に持っていたブードゥー人形を壁に投げつける。
投げつけていた壁の下には、おびただしい数のブードゥー人形が転がっていた。
他にも真っ赤な水が張られたバケツの池にブードゥー人形が浮かび、またある人形たちは針が山ほど刺さっていたり。部屋のいたるところに『呪』って札が貼ってあって、怖いんですけど──っ。
JI・GO・KU!
ここはまるで絵本に出てくる地獄のような有様だよ!
「「~~~っ!」」
あたしとカレンさんは声にならない悲鳴をあげ、どちらからともなく抱きしめ合う。
「ふふふ。次は舌を引っこ抜いてやりましょう──って舌はなかったですね。ふふふ。それではどこを引っこ抜いてあげましょうか──」
ペンチを手に持ちニタリと笑うしおりちゃんの腰に、あたしはタックルするように飛びついた。
「ノオーっ! しおりちゃん! おやめくだされええええっ」
あたしはしおりちゃんに向かい、高速土下座をする。
「そのキレのある土下座は悪魔ではなく本物のゆのさん?……それと……」
「紫村カレンよ。カ・レ・ン。まさか忘れたとは言わないわよね!」
「すみません。ゆのさんにしか興味がないもので」
「貞子め。アンタのそーゆーところがムカつくの!」
「──小言はあとにしてください。私は今、大切な儀式の最中なので」
「「儀式!?」」
あたしとカレンさんは同時に叫び、顔を見合わせる。
そういえばこのブキミなお人形たち、何だか見覚えがあるような。
「しおりちゃん。この人たちってもしかして」
「ゆのさんをクビにした外道どもです。安心してください。すでに相当悪夢にうなされているはずです。悲願成就、あの世行きはもうすぐです」
「うわああああああああっ。成就させちゃダメえええええええっ!」
「なぜですか!? ゆのさんから編集者という夢を取り上げたんですよ? 死して詫びて頂かねば」
「ひひひ。しおりちゃん、オーバーだなぁ」
あたしは引きつった顔で笑う。
「どこがオーバーなんですか?」
ひえー! しおりちゃんの目がすわってる。
しかも怒りの矛先がこちらに向かってきた。
「──ゆのさんに憑依した悪魔……私の呪いを阻止するためにやってきたにせものですか?」
「違う違う! 本物!」
「じゃあ。ゆのさんの好きなものは?」
「生クリームたっぷりのココア!」
「ゆのさんの幼馴染の名前は?」
「黒崎旺司(くろさきおうじ)。幼馴染であたしの大事な人というか──」
ギャー! 恥ずかしっ!
「──にせものですね」
ええええっ。なんでそうなるの!?
「ゆのさんは、ニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべながら、のろけを言うような人じゃありません」
ガーン! しおりちゃんに気持ちが悪いって言われた。
「ゆの! 貞子の目がすわってる! 早く本物だって証明しなさいよ!!」
本物の証明!? そ……そんなの、わからないよーっ!(涙)
しおりちゃんに納得してもらうためには、あたしが心から思っている事を伝えるしかないのかも。
あたしはフウッと深呼吸すると、しおりちゃんの両肩に手をかけ、紫色の瞳をまっすぐに見つめた。
「しおりちゃん、あたしは本物だよ。しおりちゃんの親友で、『パーティー』の編集長。だから──信じてくれる?」
「──でもゆのさんは、もう編集者はやめるって……」
「うん。そう思ってたところに鬼の形相をしたカレンさんがやってきて」
カレンさんがすかさず「鬼じゃないわよ」とツッコミを入れる。
「角丸書店から復刊する『パーティー』をあたしたちで作らないかって話が出てるの。あたしは正直、自分が編集者をやって良いか自信がない。だけどカレンさんが、みんなに聞いてみろって……」
驚いたように言葉をなくすしおりちゃんの手にあたしは、そっと触れる。
「しおりちゃんは、あたしが『パーティー』を作ってもいいと思う?──また一緒に『パーティー』を作ってくれる?」
いつもそばで見守ってくれていたしおりちゃんが、またあたしと一緒に雑誌を作るって言ってくれたら──。
親友の言葉を信じて、もう一度やってみたい!
ドキドキドキ。
あたしは裁判官の判決を待つような気持ちで、しおりちゃんの言葉を待った。
「いいに決まってるじゃないですか!! そして、私は副編集長です! たとえ屍になっても、ゆのさんの隣は絶対に誰にも譲りません!」
しおりちゃんは強い口調で感情を爆発させると、あたしのことをギュッと抱きしめた。
「ゆのさん……。おかえりなさい」
「しおりちゃん。ごめん。──ありがとう」
「ゆのさん……。カレンさん、ゆのさんについている悪魔を祓ってくださり、ありがとうございます」
「はあ!? アンタと違って、あたしにそんな力ないわよ」
「そんなことありません。カレンさんの鬼の形相は、悪魔をも祓いのける力を持っています」
「ぬあんですってええええっ!」
真顔で告げるしおりちゃんの言葉に、カレンさんが目をつりあげる。
「──感動の再会はいーけど、ダラダラくっちゃべってていいのか?」
声の方に視線を向けると、見慣れた赤い髪の男の子が、八重歯をのぞかせながら不敵に笑っている。
えええええええええっ、エンマあああああ!?
そこには、ヨッと右手を上げて不敵な笑みを浮かべる赤松円馬(あかまつえんま)が立っていたのでありました。
「何でエンマがここにいるの?」
エンマにそう尋ねると、彼のかわりにしおりちゃんが口を開く。
「正確に呪うためには情報が必要なので。情報通のエンマ君にも手伝ってもらっていたんです」
「アンタ、手伝ってないで貞子を止めなさいよ」
「止めたらオレがやられるに決まってるだろ」
カレンさんとエンマがコソコソと密談を交わしている。
「ふふふ」
「──何笑ってんだよ」
「エンマってば、そんなこと言ってぇ。本当はしおりちゃんの呪いが完成しないよう、見張ってたんじゃないの?」
完成したら大変なことになっちゃうもの!
「ばっ。そんなお人よしなことするわけねーだろ」
やはり図星なのか、エンマの声が少しうわずる。
「ち、ちなみにエンマはあたしが編集者になるのをあきらめようとした理由も知ってるの?」
「あー。あの警察沙汰の奴だろ」
ぐおおおおおおっ。さすが、ご存じでいらっしゃる!
三ツ星学園時代は、生徒だけでなく先生たちの秘密も握っていて、めちゃくちゃ恐れられてたもん!
だけど……エンマが何でもお見通しなら、安心してあの質問ができる。
「それなら話は早いや。エンマはもう一度あたしが『パーティー』を作ってもいいと思ってる?」
「バーカ。オマエ以外に誰が作るんだよ。絶対作れ」
キッパリと言われ、「どうして」と思わず心の中の言葉が声に出る。
「オマエが作らなきゃ、オレたちも一緒に遊べねーだろ」
ええええっ。そんな簡単な理由!? あたしはガックリと肩を落とした。
「いやいや。あたしがやらなくたって、みんなは編集部に入れてもらってやればいいじゃん」
「ゆのさん、それは違います。ゆのさんがいなくなったら、その雑誌は私たちの『パーティー』ではありません」
キッパリと告げるしおりちゃんの言葉に、カレンさんも同感というようにうなずいた。
「雑誌の色は編集長で変わるんです。私たちはゆのさんが編集長として作る『パーティー』を一緒に作りたい。だからゆのさんと一緒でなくてはダメなんです」
3人の顔を見ていると、一人部屋にいた時からは考えられないような勇気がわいてくる。
それはまるで『パーティー』を読んでいた時のワクワクした明るい気持ちに似ていた。
ああ、あたし。今モーレツに雑誌が作りたい!
しおりちゃんとカレンさんとエンマと3人で、さっきまでの自分みたいに落ち込んでる人だって笑顔にしちゃうような雑誌を作りたい。──いや、作るんだ!
「みんな……ありがとう。あたし、やっぱりもう1回『パーティー』を作る!」
不安な気持ちは正直まだあるけれど、ここにいる編集部のみんなとあたしたちの雑誌を作りたい!
もしかして、また挫折をするかも知れないけれど……。
それでも今回だけ。今回だけは全力で雑誌を作る──すべてはそれからだ。
「覚悟はわかったけど『パーティー』の件、17時までに返事するんじゃねーのかよ。あと1分だぞ」
その言葉を聞いた瞬間、カレンさんがスマホを開き何やら確認して悲鳴をあげる。
「やだっ。メールに添付の企画書じゃなくて、文面の中にだけ〆切の時間が書いてある!」
「え!?」
『パーティー』再開の言葉をかける間もなく、あたしたちは慌てて時計をチェックする。
しおりちゃんの部屋の壁にかかっている時計は、17時を過ぎていた!
うぎゃあああああああああっ! どどどどど、どうしようーっ!
「カレンさん、あたし今からひとっ走り角丸書店まで行って、土下座してやっぱりやりたいって頼みこんでくる!」
グッと親指を立ててウィンクすると。
「そんな明るく土下座しようとしないでください! ゆのさんの土下座は価値0です!」
「貞子の言う通り! アンタの土下座、紙みたいにペラペラに軽いのよ!」
しおりちゃんとカレンさんから物凄い剣幕で同時にツッコミを入れられ、あたしは「そこまで言わなくても……」と、思いきりまゆをハの字に下げる。
「ぶっ。あはははははは。すげー、マンガみてーなテンパり方してんのな」
あわてるあたしたちを見て、エンマがヒイヒイとお腹を抱えて笑っている。
「エンマ! 今、笑ってる場合じゃないから!」
「そうよ! この非常事態に、のんきにスマホいじってるんじゃないわよ!」
「オレがせっかく助けてやろうと思ったのに、いいのか?」
エンマはそう言うと、スマホのメール画面を開いて見せてくれた。
送信者は小春さん。
エンマ君。『パーティー』編集部、復活の連絡ありがとう。近々みんなで会社に来てもらうわね。
と書いてあるんですけどーっ。
「えーっと。これって?」
「このオレサマが知らねえとでも思ったか。おまえらの動きは全部お見通しだ。こーなるのがわかってたから、先に連絡しといてやったんだよ」
「エンマ! でかした!」
「エンマ君、ありがとうございます!」
「不良猫、やる時はやるじゃない!」
「うわっ。おまえら抱き着いてくるな!」
あたしたちは感激のあまり、勢いよくエンマに飛びついたのだった。
「──帰ったら、貼りかえなきゃなぁ」
「ん? 何を貼りかえるって」
エンマに聞きかえされ、あたしは「ナイショ」と答えた。
「これで──よしっ!」
その日、自分の部屋に戻ると白い紙に『「パーティー」を復活させるぞ!』とマジックで書き、一番目立つ学習机の前に貼った。
「迷った時は前に出ろ」
あたしは大好きな言葉を唱えながら、一番右上の引き出しを開ける。
そこには中学時代『パーティー』を作るきっかけになった、ある人からもらった宝物の万年筆が1本だけ入っていた。
ずっとお守りにしていた虹色の万年筆を両手で握りしめると、ポケットの中にしまったのだった。