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ミッション直後に、倒れてしまったケイ。アスカがいつも自由自在に飛びまわれるのは、パートナーのケイがしっかり支えてくれるから。進むんだ、2人で前へ―――! 2024年3月13日発売予定のつばさ文庫『怪盗レッド25 ケイ、倒れる☆の巻』をためし読み(全2回)
【このお話は…】
2人1組で「2代目怪盗レッド」として活躍しているアスカとケイ。
ケイが、高熱を出してねこんでしまったーー!
これまで見たことのないケイの様子に、アスカはいてもたってもいられない…!?
一方そのころ、天才少女・桜子は、ある異変に気づいていて…。
5 こんなアスカは、見たことない!?
●
次の日、わたしは1人で、いつものように学校に登校した。
でも、家に残してきたケイのことが気がかりで、ぜんぜん落ちつかない。
朝になっても、ケイの熱は下がっていなかった。
「ケイのことは大丈夫だから。アスカちゃんは、学校に行って」
おじさんがそんなふうに言うから、まかせるしかなくて。
今日、病院に連れていく、と言っていたけれど……。
教室にいても、苦しそうなケイの顔が、頭からはなれないんだよね。
考えてみると、ケイがあんなに体調を崩したことは、レッドになってから一度もなかった。
乗り物に酔って、ぐあいが悪そうにするのは、よく見てたけど。
それも苦しそうだったけど、乗り物からはなれて、しばらく休めば、回復していた。
風邪も、ひどいものはひいたことがない。
「はあぁ……」
自然とため息が出てしまう。すると、
「どうしたの、アスカ。心配ごと?」
実咲の声がきこえて、顔を上げる。
「あれ、実咲。生徒会は?」
実咲は生徒会長になってから、登校してからの時間は、ギリギリまで生徒会室にいる。
まだ朝のホームルームには15分もあるのに、教室にいるなんて、めずらしい。
すると、実咲がかるく肩をすくめた。
「それが、問題児の後輩が、すごいいきおいで生徒会室に飛びこんできてね。『先輩の様子がおかしいんです! 助けてください!』って言われちゃったのよ」
「問題児の後輩?」
1年前なら、前の生徒会長だった詩織先輩がまたわたしのことを言っているのかな? って思うところだけど……、今の生徒会長の実咲がそう言うってことは……。
ふと見ると、実咲の制服のすそをつかんで、奏が心配そうに、こっちをのぞきこんでる。
やっぱり、この子……白里奏か。
「さわいじゃって、すみません……だってアスカ先輩、声をかけてもまったく反応がないし。すごくふかーいため息をついてるから、心配で……」
どうやらわたし、奏に声をかけられていることにも気がついてなかったみたい。
ふと教室の中を見ると、クラスメイトたちと視線があう。
どうやら、みんなにも心配をかけていたらしい。
そんな教室の気配にも気がつかないなんて、われながらどうかしてる。
「ごめんっ! ちょっと気がかりがあってさ」
わたしは、なるべく明るくきこえるように言う。
「もしかして、ケイくんのこと?」
「なんでわかるの?」
「アスカが気がかりになるのは、だいたい他人のことでしょ。それに今日はケイくんが登校してないみたいだし……ケイくんは家族なんだしね」
実咲が、ケイの席のほうを見る。
この時間なら、ケイは登校していることがほとんど。
午前中はだいたいゾンビ状態だから、ぼんやりしているけどね。
「――――じつはケイが、昨日の夜から寝込んでいるの。熱が高くて」
「えっ。それは……心配だね。病院には?」
実咲の瞳がおどろいたように、小さくゆれる。
「うん。おじさんが……ケイのお父さんが、朝連れていくって言ってた」
「でも、気になるね」
「うん……うちって、わたしもお父さんも、風邪をひくことはあっても、あんまり長引かないのね。ちょっと体調悪いかな、早く寝ようかなって思うぐらいでさ……だから、あんなに苦しそうに寝こんでるすがたを見ると、不安になっちゃって……」
わたしの場合は、ひと晩寝れば、だいたいもとどおり。
お父さんはわたしよりもっと丈夫だから、熱があるとレストランの仕事にも行けずに、ヒマそうにしているぐらい。
小さいころからそうだから、家族が寝こむすがたって、はじめて見るんだよね……。
「心配するのはあたりまえだよ、家族なんだから。ただ、そんなアスカはめずらしいから、パニクっちゃう後輩がいたってことで」
実咲が、やさしく笑う。
「気をつかわせてごめんね、奏」
わたしが言うと、奏があわてて頭をさげる。
「ぜんぜん! わたしのほうこそ、大さわぎしちゃってごめんなさい。見たことない様子だったから、心配で……」
おたがいにあやまっているすがたはおかしくて、わたしと奏はくすりと笑いあう。
「というわけだから、みんなも気にしすぎないようにしましょう。ケイくんはきっと大丈夫よ」
実咲は、こっちに聞き耳を立てていたらしいクラスメイトたちにむけて、大きめの声で言う。
「うん、そうだよね」
「たしかに、わたしたちもあんなアスカの顔はじめて見たよね」
「腹が痛いとかじゃなくてよかったよ」
「いや、ケイは心配だろ。早く治るといいな」
クラスメイトたちが、口々に言う。
「みんな……ありがとう」
わたしがみんなにお礼を言うのと同時に、チャイムが鳴る。
「あっ! わたし教室にもどらないと! またあとできますねっ、アスカ先輩!」
奏があわてたように、教室を飛びだしていく。
「こら奏、ろう下は走らないで!」
「はーいっ」
実咲が注意したけど、あっという間に奏のすがたは見えなくなってしまう。
「もう……」と、実咲が肩をすくめている。
「去年の折原先輩も、こういう大変さだったのかな」
実咲がぽつりとつぶやく。
ちょっと待って!
それってやっぱり、去年のわたしと比べてるっ!?
わたしは詩織会長に、そこまで迷惑かけてないからねっ…………と、思うけど……。
思わず不満げな目線を、実咲にむける。
「少しは元気が出たみたいね、アスカ」
実咲がわたしの肩をぽんぽんっと叩く。
あっ……もしかして、わたしを元気づけようとして、わざと?
自分の席にもどっていく実咲を見つつ、わたしは背中をのばす。
心配な気持ちが消えるわけじゃないけど、シャンとしないと……。
気をつかってくれるみんなに、悪いもんね。
先生が教室に入ってくる。
わたしはちらりと、だれもいないケイの席を見てから、前をむいた。
6 動きはじめるコンビ
◆
『――――ダメだ。危険すぎる』
電話のむこうから、きっぱりした声がきこえる。
声の主は、マサキ。
マサキは、あたしの説明をきくと、開口一番で反対してきた。
「でもっ、あのファルコンとかいう大男だよ!? 絶対悪いやつでしょ! 狙われているのがマシューさんなら、危険な目にあうかもしれないし、そうでなくても、なにか企みがあるのかもしれないし……」
『それなら、よけいにダメだ。桜子はかかわるべきじゃない!』
「じつは、もうおそいの。あたし、教授にたのんで、コンペの参加枠にねじこんでもらっちゃったから」
「なっ……!?」
電話のむこうで、マサキが絶句する。
そう。あたしが真っ先に連絡したのは、北澤教授のところ。
締め切っているのはわかってるけど、やっぱりどうにか、コンペに参加できないかって、たのみこんだんだ。
だってファルコンがマシューさんになにかするなら、コンペが危ないと思ったから。
『……どうしてそういう勝手なことを……』
マサキが頭を押さえてるのが目にうかぶ。
「だってほうっておけないよ。マシューさんの危険に気づいてるのは、あたしだけかもしれない。なにかがおきないか、たしかめないと」
『桜子がいって、なにができるっていうんだ!』
「できないよ。だから、こうしてマサキに電話してるの」
あたしは、きっぱりと言う。
開きなおりだ。
もちろん、あたし1人でどうにかできるなんて、思ってない。
でも、マサキだってこの事実を知ってしまったなら、同じことを考えるはず。
きっと動く。でしょ?
『はあぁ……』
マサキが深いため息をついて、長――――――い沈黙が流れる。
……どうしよう。
あきれられてしまっただろうか。もしかして……。
おれは協力なんてしない。勝手にしろって、突き放されるかな……。
ドキドキしながら、マサキの反応を待つ。
『………………どうすれば、おれもコンペに入れる?』
沈黙のあと、しぼりだすような声で、マサキがきいてくる。
「え?」
『桜子のことだ、おれが会場に入れる方法も、もう考えてあるんだろう』
!
「う、うん! コンペ参加者はね、助手として1人いっしょに連れていけるの。マサキにはあたしの助手としてついてきてもらえれば、会場に入れるよ!」
あたしは、あわてて説明する。
「助手――か。おれには、コンペで発表されるようなむずかしい話はわからないが、それでも大丈夫なのか?」
「問題ないよ。発表のサポートだから、知識が必ず必要なわけでもないし。重い荷物を舞台上に運んだりする人もいるから、その手伝いとして助手を連れてくるって人もいるだろうし」
『それなら大丈夫か』
「きてくれるんだね、マサキ!」
あたしは、ほっとして言う。
『行かない選択肢がないだろ。おれが行かなかったら、桜子がなにをするかわからない。それにそのCEOのそばにファルコンがいたっていうのは、たしかに気にかかる』
マサキは、しぶしぶといった様子だけど、あたしの無茶な話に乗ってくれる気になったらしい。
よかった!
『ただ1つ約束しろ』
マサキの声色が、ぐんと真剣な様子になる。
「な、なに?」
『あくまで桜子は、確認するだけだ。自分から首をつっこもうとするなよ』
「わかってるよ。あたしって、そんな無茶するように思われてるの?」
「今してるのがそうだろ…………まあいい。とにかくおれがそっちに行くまで、桜子は絶っっっ対に勝手な動きをするなよ、いいな!?」
「わ、わかってる。おとなしくしてるから」
電話を切る。
ファルコンが本当にかかわっているなら、マサキもほうってはおけないと思う。
くわしいことは知らなくていいって、マサキは教えてくれなかったけれど、ファルコンって、悪い組織の幹部クラスらしいし。
マサキは「自分は正義の味方じゃない」って言っていたけど、あたしからしたら、十分に正義の味方みたいな行動をとってる。
だから、今回もほうっておかないだろうなって思ったんだよね。
――コンペは2日後。
急な参加とはいえ、正式に研究発表をするんだ。
コンペ用の発表資料を、いそいで整えないと。
なにか受賞したり、注目を集めたりする必要はないけど、レベルの低い発表をしちゃったら、無理をしてまで参加させてくれた北澤教授に、申しわけがたたない。
あたしは、さっそくパソコンのフォルダから、発表に使えそうなデータを選んでいく。
ギリギリかも。なんとか間に合わせなきゃ……。
そんなことを考えながら、ふとあたしは手をとめる。
マサキと顔を合わせるのは、コンペ当日。
あたしは、自分の髪の毛を指でさわる。
そういえば、しばらく美容院にいってないかも。
髪を切りにいってる時間は……ないよね。
7 ケイの望みをかなえる方法?
●
学校が終わると、わたしは超特急で家に帰ってきた。
教室を飛びだしたときに、何人かに声をかけられたような気がするけど。
明日、あやまっておかなきゃな――と。
大きな音をたてないように、玄関のドアを開けて、リビングにむかう。
圭一郎おじさんがダイニングにすわって、ノートパソコンのキーボードを叩いていた。
お父さんはレストランの仕事に行ったらしくて、すがたがない。
「おかえり、アスカちゃん」
音はしなかったはずなのに、気配だけでわたしに気づいたらしいおじさんが、パソコンから顔をあげて、ほほ笑んでくれる。
さすがは、初代怪盗レッドだよ。
「ただいま。ケイの具合はどう?」
「だいぶ落ちついたよ。薬がきいたんだろう。ゆっくり寝ていれば回復すると、お医者さんが言っていたよ」
「そっかぁ……」
わたしは、ほっと息をつく。
洗面所で手洗いとうがいをすませてから、そっと部屋に行く。
静かに荷物をおいてから、二段ベッドをのぞく。
ケイは、しずかに眠っていた。
昨日のような、苦しそうな様子はない。
よかった……。
寝顔を見ていたら、ケイのまぶたがぴくっと動いた。
「…………ん……」
うっすらと目を開けて、わたしのほうを見る。
「ご、ごめん。おこしちゃった?」
「……アスカか。手を貸して」
かすれた声で、ケイが言う。
えっ?
そのまま、ケイはベッドから、体をおこそうとする。
「ちょ、ダメだよ、ケイ。寝てないと!」
言いながら、わたしはケイの体を支える。
「…………やらないと……いけないことがある」
「そんな具合が悪いのに、今じゃないといけないの?」
「……ああ」
ケイが、きっぱりとうなずく。
さわった背中から、あきらかに熱があるのが伝わってくる。
とても、まだ動けるような状態じゃないよ!
それなのにケイは、わたしのことをじっと見てくる。
ケイの固い意思を感じて、わたしは息をつく。
反対しても、きいてくれなそうだ。
「やらないといけないことって、なに?」
わたしはたずねつつ、ケイに手を貸してベッドの上にすわらせた。
背中に枕をたてて、よりかかってもらう。
そうすれば、少しは楽な姿勢がとれるはずだ。
「――2日後に、マシュー・キートン主催の若手研究者むけのコンペがある。そこに参加する」
「……えっ?」
なにを言いだしたの!?
意外な名前を思いだすのに時間がかかって、わたしはすぐには反応できない。
「マシューって、あのタキオンの最高顧問だっていう人だよね」
以前、研究所の地下で出会った、あの男だ。
タキオンの幹部の1人。
「そうだ。タキオン傘下の企業・コンクェストの最高経営責任者(CEO)でもある。そのコンペは、コンクェストが主催するものだ」
ケイが説明してくれるけど、わたしにはわからないことがある。
「そのコンペっていうのは、なに?」
「コンペティションの略だ。優秀な若手の研究者たちの中から、コンクェストが支援するべきものを選抜するらしい」
ちょ、ちょっと待って!
コンクェストはタキオンの会社なんでしょ!
そこが主催して、研究者の人を支援するって……。
「どう考えてもあやしいよ!」
「そうだな。CEOのマシューもコンペ開催にあわせて来日するという話だ。なにかがある」
企業からの研究支援っていうのが具体的にどういうものか、わたしにはわからないけど。
タキオンがからんでいるなら、ただの善意だけで行うものじゃないはずだ。
きっと、なにか裏がある。
ケイが無理してでも、調べようとする理由がわかった。
でも……。
ふだんから実行役をしてるわたしが行くならわかる。でもケイを……ましてや今のケイを、そんな場所にいかせるわけにはいかない!
「ダメ。ケイがコンペに行くのは――怪盗レッドのパートナーとして、認められない」
ケイはわたしを見て、くちびるをキュッとかむ。
そりゃ、ケイだって自分でも無茶だってことは、わかっているよね。
だけど、タキオンの動きがあるのに、ほうっておけないというのは、わたしも同じ気持ちだ。
「ねえ、代わりにわたしが出たりはできないの……ってムリか。コンペなんて、むずかしそうな場所で、どんなふうにふるまえばいいのか、わからないし」
ケイの代わりなんて、とてもじゃないけど、つとまらない。
コンペの意味も、今知ったぐらいだし。
だけど、ケイはしばらく考えこんでから、顔を上げてわたしの目を見た。
「いや……方法は、ある」
コンクェスト主催のコンペに「行かなきゃならない」と言いはるケイ。
それが怪盗レッドとしての意志なら――全力で支える!!!
このつづきは、ぜひ本でチェックしてね。
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秋木真さんのもう1人のヒロイン、七音が活躍するミステリー「探偵七音はあきらめない」
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