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ものがたり

【新シリーズ!】『マス×コン!』先行ためし読み連載 第1回 ナゾめく算数ミッション!


席替えで好きな人の隣をゲットできるのは『?』%!?

算数が超ニガテな詩音は、校長先生が出す《算数ミッション》にクリアしないと、夏休みがぜんぶナシの大ピンチ!! 初ミッションは「席替えで好きな人の隣をゲットせよ」ーーってどこが算数と関係あるの!?
明日学校で言いたくなる、おもしろ算数でミッションコンプリート!
超人気のおもしろショート動画が本になった新感覚シリーズだよ☆

(毎週火曜日更新予定☆全5回)

◆◇◆◇◆登場人物◆◇◆◇◆
 



川原詩音(かわはら・うたね)
算数が超ニガテな小学5年生。算数のことを考えるとうたた寝しちゃうのがなやみ。
 



樫木圭介(かしのき・けいすけ)
詩音のクラスにやってきた転校生。陸上部のエースで超カッコいい。
 



先崎 颯(さきざき・そう)
詩音と家がとなり同士の幼なじみ。いつも詩音にちょっかいを出してくるけど、ほんとうは…?

 



竹長朝陽(たけなが・あさひ)
頼れるクラス委員。でも、目つきがするどいような…?
 



アキト先生
校長先生の代理を名乗る先生。口ぐせは「とんとん」。

ミッションナンバー1・席替えで、好きな人のとなりの席をゲットしよう!

1 川原詩音は算数ぎらい!

「うた! 詩音! うたたね詩音ーっ!」
 という、ママの声が聞こえて、
(わたしの名前は、「うたたねうたね」じゃないよ。「川原(かわはら)詩音(うたね)」だよ……)
  と、思いながら、わたしは目を開けた。
「えっ!? ぅあ、ママ……おはよ……って、え!?」
 朝?
 でも、ママが目の前にいて、わたし、いすにすわってる。
 それにここ、キッチンだよ?
 あぁ……そっか、まただっ!
「わたし、寝てた!?」
「はい、そうでーす。うたた寝ばっかりしてるあんたは、うたねじゃなくて、うたたねよ」
 ママはわたしの前から、お皿を取り上げた。
 おでこが、お皿のふちの形で、ひりーっといたい。
 朝ごはんを食べ終わってから、わたし、つっぷして、眠っちゃったんだ。
「だからね、ママが言ってたのは……あんたはがんばれば、みんなとおんなじように、できる子なんだ、ってこと。それなのに、算数の時間に寝てばっかりでサボってると――」
 ママはお皿を、お皿洗い機に放り込んだ。
「――こんどは夏休み、なくなるからね、ってこと!」
(うう~いやだぁー)
「あ~もう~ミッション科目教育で有名なチクトク学園に入れば、勉強する子になるかと思ったのになあ。最近のあんたって、算数のこと話しただけでも、もう眠っちゃうんだから」
「ごめん~」
 そう、いやな算数のことを考えると、すぐにうとうとしちゃう。
 これ、3年生のときから始まった、わたしの悪いクセなんだ。
 わたしはあわてて、立ち上がった。
「じゃ、行ってきます!」
 わたしは、お気に入りのかばんを背負って、家を飛び出した。
「初日から教室で寝ないでよ!」
 ママがキッチンから、さけんでる。
「だいじょぶ、今日、算数の授業ないからぁ」
 だって、苦手な算数のことを考えると眠っちゃう、ってこと以外では、わたし……。
 ……ふつうに元気な女の子なんだもの。
 つまり、
「無理に勉強しなければ、問題なーし!」
「いや、問題あるだろ。ありありだろ」
「ウッ」
 うるさいのが来たよ。
 通学路に出たとたん、話しかけてきた、そいつは――。
おまえ、今学期のミッション、どうすんの。春休み、算数の成績のせいでつぶれたよな。次は夏休みなくなるんじゃね? いいの? 夏休みないって、最悪じゃね?」
「ママとおんなじこと、言わないで」



 ――……ほんっと、うるさい、幼なじみの男子、先崎颯。
 1年生のときから、ずーっと家がとなりで、同じ学校、同じ学年。
 同じ道を歩いて登校するから、さけようがないんだ。
 でも、そんなうるさい颯のことはともかく――
「今学期のミッション」ってなに? って、思うよね? 
 ここで解説するね。
 これ、うちの小学校――チクトク学園――の、めずらしいところ。
 生徒はみんな、校長先生から、苦手科目のミッションっていうのをもらうの。
 それは、何日かけてもいいから、ぜったい、やりとげないといけない課題。
 たとえば……、
 国語:3年生までの漢字ドリルを全問正解せよ! 書き順も正しく!
 社会:江戸時代の将軍の名前を全員覚えて、なにをしたか説明しなさい!
 理科:人間の骨、206個の名前をすべて暗記し、漢字で書こう!
 そして――、
 算数:4けたのかけ算、千本ノーーーーーック!!
……やでしょ? やだよね?
「もうわたし、絶対、校長室に行かない」
 ミッションを、学期の間にひとつもクリアできないと、ヤバいんだよ。
 次の長いお休みが、なくなっちゃうんだから。
 お休みのあいだずっと、学校で特別授業を受けなくちゃいけないの!
 それがまた苦手科目のミッションと同じくらい、きびしくて、つまんなくて……、
 わたしの春休みは、算数の特別授業で、つぶれちゃったんだ。
「いや、ふつうに呼び出されるだろ」
「そこはなんとなーく、すぅっと、無視。で、そのまま夏休み! どう?」
「先生の呼び出し、無視すんの? マジで? すげえな、おまえ」
「えっへん」
 夏休みがかかってるんだから、全力で、無視してやる!

 ところが。
 校門を通ったとたん、
「おはよう川原さーん! 教室行く前に、ちょっと校長室、行ってきてくれる?」
 という声がして、
「……ぅぇえ?」
 おそるおそるふりかえると、それは、クラス担任の餅本先生。
(……呼び出し無視の作戦……バレてる……?)
「ぇーと、ちょっと聞こえなかった」
「ではもう一回言います」
 餅本先生は、わたしの耳もとで、さけびだす。
「校長室でプリントを受け取って、教室に来てくださーいっ。校長室のプリンタが、いちばんいいんだからーっ。先生たち、みんなあそこでプリントしてるの、知ってるでしょー?」
 わたしの顔は、まっ青だったと思うんだけど。
「行ってらっさーい」
 颯はひらひら、手をふって、お見送りのポーズ。
 っ……なんなのーぉ、うれしそうにぃ!

 ズゥーーーーーン…………。
 っていう効果音が聞こえてきそうなほど、いま、わたし、落ちこんでる……。
 よりによって、新学年の最初の朝に、校長室に行くことになるなんて、ついてなさすぎる。
 かわいくない花の鉢植えと、いかつい顔の熱帯魚が泳いでる水そうがある、校長室。
 校長先生はいつも、その大きな熱帯魚によくにた、ふきげんそうな顔をしてるんだ。
 長い廊下が、いつもよりいっそう、うす暗く見えるよ。
 コン、コン、コン。
 校長室の、大きな木のドアをたたく。
 校長先生の、きげんの悪そうな返事が聞こえてくるのを、こわごわ、待っていると、
「あいてるよー」
 知らない若い男の人の声が、聞こえてきた。
 重ーいドアを開けると、奥にある校長先生のいすに、すわっていたのは――
「おはよーうっ!」
 丸っこい大きなメガネをかけた、すっきりとした細身のお兄さんだった。
「はじめまして、だね? お名前は? 何年生?」
 さっと立ち上がって、こちらにずんずん、近づいてくる。
「か、川原詩音……4、いえ、5年生」
「ちょーっと待って~」
 と、お兄さんは、小さなタブレットを取り出すと、さささと指を走らせて、
「あっ、いたいた。かわはら・うたねさん――ミッション科目は、算数か~」
 と、頭をかいて、ちょっと考えた。
「えっ。なんで知ってるの――」
「じゃあねえ、うたちゃんのミッションは、これ!」
(えぇええっ、ミッションなんか、聞いちゃだめっ!
 聞いたら最後、クリアできなくて、次の夏休みが消えてしまうぅぅぅ!)



 あわてて耳をふさごうとした、そのとき。
 お兄さんは、くるっ、と右手を回して、長い指でわたしをさした。
「席替えで好きな人のとなりになるには、どうしたらいいの? 教えて、とーんとん!」
「とーん……とん?」
 お兄さんは、あっ、と手で口をふさいでから、
「とんとんって口ぐせだから。気にしないで」
(気になるよ……っ)
「で、どう? このミッション」
 指さしポーズのまま、お兄さんは、心配そうに首をかしげる。
「ど、どうって言われても……好きな人とか席替えとか……、それホントにミッションなの?」
「そうだよー」
 いつもみたいな、4けたの割り算の千本ノック! とかじゃないの? 
「っていうか、なんでお兄さんが、ミッション出してるの? 校長先生は?」
「いい質問だねっ」
 お兄さんは、しゃきっ、と姿勢を正すと、
「ぼくは校長代理の、アキト先生です。これから、みんなのミッションは、ぼくが出すから、よろしくたのむね。あぁ、ところでこれ、取りに来た? 5年2組のプリントだよね」
 アキト先生が、ぐいぐい、プリントの束を押しつけてきた。
 それと同時に、リンゴーン、と、チャイムが聞こえてきた。朝礼の開始5分前だ!
「ほらほら、朝礼が始まっちゃう。まちがえないでね、今日から5年生の教室だよ」
 アキト先生に背中を押され、わたしは、校長室から、よろけ出る。
 早足で歩き出しながら、ふりかえると――。
 少しだけ開いたドアの向こうに、アキト先生が見えた。
(そういえば、さっき、算数のミッションのこと話してたのに、眠くならなかったなあ……)
 アキト先生は、扉にかくれるようにして、ニコニコ、ちっちゃーく、手をふっていた。

「5年2組、5年2組。4年じゃなくて5年……」
 そもそも、新学年の初日は荷物が多い。
 その上、プリントまで抱えてて、わたしは、よたよたしちゃう。
 できるだけの早歩きで、角を曲がって――。
「っ!」
 ――だぁん!
 正面から、なにかがぶつかってきて、気がついたら、ろうかにねてた。
 抱えていたプリントが舞い上がって、ひらひら、落ちる。
「……ぅ?」
「! ごめん。大丈夫?」
 って、身体を助け起こされた。
 わたしは、ろうかにすわったまま、相手の顔を見上げた。
 見たことない、背の高い男の子……。
 ふわっとカールした、さらさらの髪。大きな目。
 その目は、なぜだか少し、さみしそう……?



 その子は、
「けが、してない?」
 と、ききながら、落ちているプリントを、さっさと拾い集めてくれてる。
「あっ、こ、こちらこそ、ごめ……ん……」
 って言いながら、わたしは、その軽々とした身のこなしに、見とれてしまう。
(うちの学校の男子に、こんな子いた?)
 そのうちに、その子の動きは、ぴたっ、と止まった。
「……ろうかをただ安全に歩いていたのに、ぶつかるなんて、そんな確率ってないよな」
「へ?」
「――ということは、もしかして……」
 その子は、集めたプリントをかかえたまま、
「……きみが、特別、ってことなのかな」
 大きな目で、わたしの顔をじっと見た。
「………………………………………………え……?」
 リンゴーン! 
 本鈴――つまり、朝礼の始まりのチャイムが鳴りだした。
 その子は、夢からさめたみたいに、ハッとして、
「っ、ごめん。教室、どこ?」
 って、わたしにきいた。
「えっ、……ご、5年、2組」
「なんだ、いっしょか。転校してきたばかりで、実は迷ってたんだ。ついて行っていいかな」
 男の子は、照れたようにわらうと、プリントをそろえて、そのまま持ってくれた。
「い、いいけど……」
 わたしが歩きだすと、その子はついてくる。
「ほらここだよ、5年2組」
「あ、おれ、樫木圭介。よろしく」
「え? あ、わたし、川原詩音」
 その子はガラリと、教室の戸を開けて、
「どうぞ、川原さん」
(なっ…………なにそれ……!?)
 そのしぐさ、大人っぽすぎて、同じ小学生とは思えない。
 わたしが教室に、1歩入ったとき、
 リン、ゴーーーーーーーン! 
 朝礼のチャイムが鳴り終わった。

第2回につづく>


校長代理のアキト先生から《算数ミッション》をもらった詩音。
そんな中、なんだかとってもカッコいい樫木圭介くんが転校してきた!
いつもと違うことが起こりそうな新学期。次はいよいよ運命の席替えで…!?

次回は3月5日更新予定、楽しみにしていてね!

 



【書籍情報】

席替えで好きな人の隣をゲットできるのは『?』%!?

校長先生が出す《算数ミッション》にクリアしないと、夏休みが消滅の大ピンチ!?
明日学校で言いたくなる、おもしろ算数でミッションコンプリート!
超人気のおもしろショート動画が本になった新感覚シリーズは3月13日発売☆

 


企画:あきとんとん 文:こぐれ 京 絵:ももこっこ

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322951

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