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絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし、白沢みくに!
きれいなお花が大好きで、『花言葉』にくわしい中1だよ。
ある日の放課後、見たことのないバケモノ(!?)がおそってきて
……って、いったいうちの学校で何が起きてるの!?
助けてくれたのは、どこかミステリアスな、華道部の竜ヶ水先輩。
「みんなを守れるのは、『花』を味方にできるきみだけだ」
なんて、そんなのムリです!!!
だけど、友だちにまで危険がせまってきて!?
こうなったら、 『花言葉』がもつ力で、わたしがピンチを救ってみせる....!
プロローグ
わたし、白沢(しらわさ)みくに。十二歳。
苦手な勉強を全力でがんばって、この春、あこがれの中学校に入学したの!
わたしはここで、キラキラな中学生活を送るはずだったんだけど──。
「あぶない、よけて!」
──男の子のするどい声がひびくのと同時に、熱い炎がわたしのほっぺをかすめていく。
髪が焼け焦げるにおいに、心臓がヒヤッとする。
「ひえええ~~~~っ!?」
ぜんっぜん、キラキラどころじゃないよ!
なんなの、これ!?
一体、この学校で、何が起きてるの~~~っ!?
1 目指せ! 中学デビュー!
広々とした土地に建つ、近代的でおしゃれな校舎。
髪を染めても、お化粧をしても、スマホを使ってもオッケーという、自由な校風。
部活の数は、小さな同好会やクラブを含めて、なんと百個近く。
私立桜乃星学園(さくらのほしがくえん)中等部──通称サク中は、このあたりに住んでいる子だけでなく、全国の子どもみんなが知っている、まさに『超』あこがれのキラキラ中学校!
そしてわたしも、今日からなんと、サク中に通うことになったんだ!
苦手な勉強、必死にがんばったかいがあった。まさか本当に、合格できるなんて。
「ふふふ~ん♪ 制服、かわいいなあ!」
大きなスタンドミラーの前で鼻歌を歌いながら、胸元の赤いスカーフを結ぶ。
サク中の制服は、白えりのセーラー服。スカートもかわいくて、着るだけでテンション上がっちゃう!(ちなみに、ネクタイとスラックスタイプのカッコいいデザインも選べるよ)。
最後に、髪の毛をかんざしでまとめて──。
「これでよし……っと!」
準備オッケー!
このかんざしは、アクセサリー作りが得意なお父さんに作ってもらったの。
かざりの部分に小さな丸い鏡がついた、その辺には売ってない珍しいデザイン。
実はこれ、わたしの目標……そしてあこがれがつまった、大事なお守りなんだ!
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──あれは、小学三年生のとき。
『将来の夢を発表する』っていう授業でのこと。
わたしはお花が大好きだから、「お花屋さんになりたい」っていったんだけど……。
「え~、みくにちゃん、似合わな~い!」
クラスのみんなが、一斉に笑ったんだ。
あまりにも悔しくて、ふるえるこぶしをにぎりしめると、全員サッと静かになった。
先生があわてたように、「白沢さん! 落ち着いて!」といって、わたしの肩に手を置いてきた。
それから先生は、みんなにも「人の夢を笑ってはいけません」って注意したんだ。
すごすごと席に戻って、わたしは思った。
みんなが笑ったのは、当たり前だって。
わたしはいまのままじゃ、お花なんて似合わないんだ、って──。
──夢を笑われたあの日から、わたしはどうしたら変われるか考えてきた。
このかんざしに込めた思いは、ズバリ『お花が似合う子になりたい』ってこと!
そう! 今日からわたしは、生まれかわるのだ!
おしとやかに! キラキラに! 『お花が似合うステキな人』に!
そのためには、ヒミツだって守らないとね!
スタンドミラーの前で、ぐっと両手をにぎる。
「よーし! 中学デビュー、がんばるぞ~っ!」
◆◆◆
「──って思ってたのに、なんでこうなっちゃうの~~~っ!?」
わたしは半泣きになりながら、サク中のりっぱな石門を走りぬけた。
お父さんもお母さんも、そしてわたしも、入学式開始の時間と受付開始の時間をすっかり見まちがえてたの! このままじゃ、入学式から大遅刻だよ!
「ひ、広すぎる~~~!」
校門から校舎までが遠い! とにかく走るしかない!
全力ダッシュで桜並木をかけぬけて、大きなガラス扉の昇降口にとびこむ。
どこに自分の靴を入れればいいか分かんないから、とりあえず手で持っていこう!
(えーっと、入学式をやる講堂は……あっちか!)
──と、廊下をはだしで走りだそうとしたとき。
少し離れたところに、ひとりの男の子が立っていることに気づいた。
校内はすごく静かだったから、もうとっくに、周りに誰もいないと思っていたのに。
今日、在校生は来ないみたいだし……ここにいるってことは、きっと新入生だよね。
ホッとして、わたしはその人に近づいた。
「おはよう!」
「……え」
男の子が、こちらにふり向く。
(わあ……)
思わず息をのむくらい、すごく、不思議な雰囲気がある人だった。
ちょっと目を離すと、窓からさしこむ朝日にとけていっちゃいそうな──。
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「あ、えっと……」
気を取りなおして、笑顔、笑顔!
中学デビュー、最初がカンジンだからね!
「あなたも遅刻? よかった、仲間だね~!」
わたしの言葉に、男の子はとまどったような目を向けてくる。
「な、仲間……? ぼくは遅刻じゃなくて、この花を直すように頼まれたから──」
ポツポツとささやくような声。
でも、その人が何をいっているか、わたしは途中から全然きいていなかった。
一台の机の上に、あふれそうなほど大きくて、りっぱな生け花が置いてある。
日の光をあびてキラキラかがやく華やかなお花たちに、わたしの目はうばわれていた。
「うわ~~~っ! きれい~~~っ!!」
「え?」
「すっごくきれいなお花! あっ、この小っちゃい紫のお花はハーデンベルギアだよね! 花言葉は『運命の出会い』! 新しいお友だちに出会える入学式に、ぴったりのお花だね!」
「えっと、きみ、それどころじゃないんじゃ──」
アタフタとした男の子は、そこで言葉を切ると、ふっと視線を上げた。
わたしの頭あたりを見つめて、なんだか驚いた顔をしてる。
何を見てるんだろう?
「──運命の、出会い……」
ぽつりとつぶやいたまま、固まってる。
(あっ!)
もしかして、花言葉のことを知らなかったのかな?
「あのね、花言葉っていうのは、お花それぞれが持ってる『メッセージ』みたいなものだよ! バラだったら、『愛』! スミレだったら、『謙虚』とか、『小さな幸せ』!」
「え、いや、ちょっと……」
「お花のイメージにピッタリな言葉が当てはめられてるから、そのお花を贈るだけで、気持ちを伝えたりできるの! すごいよね! ちなみに、ハーデンベルギアは『小町藤』ともいうんだけど──」
「そ、そうじゃなくて……あの、一回、落ち着いて!」
あわてたように、その男の子はわたしの両肩をつかんできた。
「わっ……」
急に距離をつめられてビックリしたけど、近くで見ると、作りものみたいにきれいな顔をした人だった。長い前髪で隠れぎみなのが、もったいないくらい。
驚いて固まっていたら、男の子は申しわけなさそうな顔になって、「ごめん……」といいながらサッと手を離した。
「ううん、大丈夫だよ」
っていうかわたしこそ、一方的にしゃべっちゃってたよね?
きれいなお花を見たから、テンション上がっちゃった。人の話をちゃんときかないのは、わたしの悪いくせだ。気をつけなきゃいけない。
「こちらこそ、しゃべりすぎてごめんなさい!」
「……いや、それは別に……」
男の子は気まずそうに小さくせきばらいをしてから、気を取りなおすように、じっとわたしを見おろしてきた。
(うわわ……)
まつげが長い! 目力が強い!
なんか、ものすごく、ただならぬ雰囲気……!
「えっと……きみ、もしかしてなんだけど……」
青っぽい、すきとおった瞳に吸いこまれてしまいそうで、わたしは思わず一歩あとずさった。
──と、両手に持った靴の存在を思い出す。
「あ~~~っ!」
まずい! 何してるの、わたし!
入学式に遅刻しそうだったの、すっかり忘れてたよ!
「ごめん! わたし、先に行くね! あなたも急いだほうがいいよ!」
「えっ? ちょ、ちょっと……! 人の話を最後まで──」
急いできびすを返し、わたしは廊下を走りだした。
またしてもあの男の子の話をちゃんときかなかったと気づいたのは、なんとか入学式にすべりこんで、ホッと息をついたあとだった。
<第2回へつづく>
【書誌情報】
絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし白沢みくに。柔道がトクイだけど、中学では大好きなお花の似合う"おしとやかな子"をめざそうと思ってるんだ。でも、「学園のピンチをすくえるのは君だけだ」って、ヒミツのおやくめをはじめることに!?
▼気になる2巻も発売中だよ!
部活もおやくめも大ピンチ!? 花言葉でみんなを救うストーリー、2巻め!
華道部が"廃部"の危機!? なのに、伊織もやめるって言い出して……? 七夕まつりでは、竜ヶ水先輩とのペア解散のピンチ!? 花言葉でみんなを救う【おやくめ】ストーリー、トラブルだらけの第2巻!
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