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ものがたり

先行ためし読み『超一流インストール』第1回 ママは発明家!?


つばさ文庫小説賞《大賞》受賞・吹井乃菜さんの新シリーズが読める! 
超一流プロの頭脳が手に入る極秘(ごくひ)アプリで、芽衣と大地が大事件を解決する!
誘拐事件に巻きこまれて、危機からの大脱出! ドキドキの物語が始まる!

(全5回・毎週火曜更新予定♪)



夏沢芽衣(なつざわ めい) 小6
得意なものも才能もないけど、勇気は――ある!

 



速水大地(はやみ だいち) 小6
クールに見えて、やさしい!?
運動神経がバツグン!



『プロ✕プロ』
超一流プロの頭脳と技が手に入る極秘アプリ!
ただし、3時間だけ!?

 

吹井乃菜さんの新シリーズをどこよりも早くヨメルバで大公開! 
超一流インストール プロの力で大事件解決!?は2024年1月11日発売予定です! お楽しみに♪

 

第1回 ママは発明家!?

「よっしゃあーーーーっっ! だいせいこーーーうっ!!」
 突然2階から聞こえてきた大声に、あたしは、ぎょっとして、思わず天井を見あげた。
 平和な月曜日の夕方。
 ここは、あたし、夏沢芽衣(なつざわ めい 小学6年)の家で、パパがマスターをつとめている喫茶店「サニーサイド」。
 お客さんはだれもいなくて、あたしは店の奥のソファ席にすわって、のんびりしているところだった。
 となりでおえかきをしていた弟の理央(りお)くんも、顔をあげて、目をぱちくりさせた。
「ママ……?」
「うん。ママだね」
 あたしは、理央くんに向かってうなずいた。
 そう、今の声の主は、あたしのママだ。
「……だいじょうぶなんですか?」
 あたしの前にすわっていた速水大地(はやみ だいち)も、カウンターの中でグラスをふいてたパパに向かって、心配そうに言った。
「おばさん、またなんか、おかしなものを作ってるんじゃ……?」
「うん。ここ最近ずっと、がんばってるからねえ。今度こそ、世界の未来を変える画期的大発明だとか言って」
 パパは、おっとりとほほえんでいる。
「それ、前回も言ってませんでしたっけ?」
 となりの家に住んでいる大地は、あたしの幼なじみで、同じく小学6年。 
 家族ぐるみの付き合いで、放課後は、大地のお母さんが仕事から帰ってくるまで、だいたいここで、宿題したりしながらいっしょに過ごしてる。
「いつものことじゃん。ママがおかしなもの作ってるのは」
 あたしは、肩をすくめて言った。
「っていうか、おかしなものじゃなかったこと、あった?」
「たしかに」
 大地は、納得したようにうなずいた。
 じつは、うちのママは、発明家――って、自分で名のってる。
 喫茶店はパパにまかせて、毎日、家の2階にある『研究室』で、パソコンのキーボードを猛スピードで打ったり、へんなゴーグルを顔につけて、ピンセットみたいな道具で、よくわからない極小部品を組み立てたりしてるんだ。
 開発に成功したアプリを有名企業に売って、すごいお金をもらったこともあるらしいけど、逆にとんでもない失敗作も数知れず。
 今日も一人で大さわぎしながらなんかやってる――みたい。
 だけど、あたしにとっては、いつものことだ。
「ねえねえ、そんなことより、大地」
 あたしは、手にしていたタブレットを、大地のほうに向けた。
「ほら、これ見た? KALinの新曲!」
 KALin(カリン)は、今あたしが一番ハマっている女性アーティストだ。
 タブレットの画面では、昨日公開されたばかりのミュージックビデオが再生されている。
「もちろん見たよ。最高だよな!」
 走りだしたくなるようなスピード感のある新曲は、パワフルなカリンの声にぴったりだ。高音も低音も自由自在。この透きとおった歌声を初めて聞いたときには、胸の真ん中を貫かれたみたいな気がして、鳥肌が立ったくらいだった。
 歌ってる表情にも引きこまれる。デビューしたばかりの頃は顔をかくしてたけど、あとから本人が顔を出したとたん、こんな素敵な 人だったんだ、ってみんなびっくりしたんだっけ。
 理央くんも、真似して歌いはじめた。まだ幼稚園の年長さんだから、歌詞はでたらめだけど、かわいいから許しちゃう。
 三人でしばらく動画をみていたけど、ふと、大地が思いだしたように言った。
「それにしても、芽衣。遊んでていいのか? 宿題たっぷり出てるだろ。しかも、明日、算数のテストもあるよな」
 あっ、せっかく楽しんでたのに、いやなこと思いださせないで。
「へいきへいき。晩ごはんの後にちゃんとやるから」
「ほんとかよ……」
 大地は、テーブルの上に広げていた自分のドリルとノートを閉じて、ペンケースにえんぴつをしまった。
「え、大地は宿題、もう全部終わったの?」
「夕飯食べたら道場行くからさ。今のうちに終わらせとかないと」
「道場――って。今日は合気道の日だっけ」
「いや、今日は剣道のほう」
「うわあ、よくやるなあ」
 大地の放課後のスケジュールは、あたしからすれば信じられないくらい超ハード。
 週三回は合気道、週二回は剣道、ときどき、バスに乗って空手にも行っている。
 武道ばっかりやって人類最強でも目指してるの? って感じだけど、これにはちゃんと理由がある。
 大地には、将来、刑事になりたいっていう夢があるんだ。
 だから、今からできる限りのことはしておきたいんだって。大地のお父さんが刑事さんで、とってもかっこいい人だから、あこがれてるみたい。
「すごいなあ、大ちゃんは。毎日欠かさず、早朝ランニングもしてるんだよね」
 カウンターの中から、パパが言った。
「それなら、あたしもしてるよ。毎朝全力ダッシュで学校行ってるもん」
「芽衣は遅刻しそうになって必死で走ってるだけだろ。いっつもギリギリだし」
「そうだね。芽衣はもっと早く起きたほうがいいかもね」
 大地とパパに言われて、ちぇっ、て口をとがらせたときだった。
 ドタバタと階段を下りてくる足音がして、家と店をつなぐドアが、バタンと開いた。
「は――――っ、疲れた疲れたぁ!」
 現れたのは、ママだった。
 髪はぼさぼさ、はおっている白衣はよれよれ。
 本当はけっこう美人なんだけど、研究に熱中してるときは、寝るのも食べるのも忘れたりするくらいだから、いつもこんな感じだ。
「ママ――」
 理央くんが立ちあがって、ぱたぱたとママのほうに走っていく。
「りーおくーん」
 ママがしゃがんで両手を広げると、理央くんはその胸の中に飛びこんだ。
「ママ、はつめい、がんばってえらいねえ。よしよししてあげる~」
 理央くんが、ママの頭をなでてあげている。
 天使みたいにやさしい理央くん。小さいけれどよく気がつく、わが家のいやしキャラなんだ。
 ママは理央くんを抱きあげて、カウンター席にすわらせると、自分もそのとなりに腰かけて、パパに向かって言った。
「幸彦さん、アレお願いできる? いつものアレ」
「はいはい」
 パパは、すぐに用意をはじめる。
 アレっていうのは、パパの手作りプリンのこと。お客さんの間でも大人気のメニューだから、パパが毎日作って冷蔵庫に冷やしてあるんだ。
 プリンを一口食べて、ママは目を細めた。
「く――――っ、おいしい! やっぱりこれを食べると元気出るわぁ~」
「おつかれさま。熱心なのはいいけど、無理しないようにね」
 パパがやさしく声をかける。
「ええ。だけど、もう少しなの! 96%、いえ97%は完成してる。さっき試作品のテストしてみたんだけど、期待以上の大成功だったのよ!」



「そうか、それはすごいじゃないか」
「ふっふっふ。見てて、今度という今度は、画期的大発明なんだから!」
「さすが香織(かおり)さん。楽しみだなあ」
 パパはニコニコしてる。ママのヘンテコな発明の被害を、今までパパが一番受けてきたはずなのに、なんで全面的に信じていられるのか、不思議で仕方ない。
「ねえママ。今度はいったい、何をやろうとしてるの?」
 あたしは言わずにいられなかった。
「あの、おばさん、ホントやめといたほうがよくないですか?」
 大地も心配そうに言う。
「おばさん?」
 ママはくるりと振りかえると、こわい顔で大地を見た。
「ちょっと大ちゃん? その呼び方、やめてって言ってるでしょ?」
「あ、失礼しました。香織博士」
 大地はいそいで言い直した。そう呼ばないと、ママの機嫌が悪くなるのだ。
「でも、この前も結局、大失敗だったじゃないですか。透明人間になれる装置とか、動物と会話できるようになるアプリとか」
「あっ、もしかしてあんたたち、疑ってるの⁉ この天才美人発明家・夏沢香織博士の実力を!」
「いや、疑ってるとかじゃないんですけど、信用できないっていうか、これまでの経験上、信用したくてもできないっていうか……」
 大地は困ったように目を泳がせたけれど、あたしはきっぱりと言った。
「あたしは疑ってますけど」
“発明家”の前にちゃっかり“天才”と“美人”って言葉がついてたことには、とりあえずふれないでおく。
「んまあ、失礼な!」
 ママは、いすから立ちあがった。
「いいわ、そこまで言うなら見せてあげる! わたしの血と汗と涙の結晶の最新作――世界中が度肝を抜かれる、画期的大発明を!」
 出た! ママのいつものビッグマウス!
「――ついてらっしゃい。本当はまだ極秘なんだけど、あなたたちには特別に見せてあげるわ」
 ママはおごそかに言って、あたしと大地を見た。
 キラリ、とママのひとみがあやしく光る。
「試作品が、ついに形になったのよ」

 

次回、第2回「ヤバい極秘開発『プロ×プロ』」は12月19日公開予定です♪

れんさいを読んだ、みんなの感想を聞かせてね。感想はコチラ

【書誌情報】

つばさ小説賞《大賞》受賞作家の新作! 超一流プロになって大事件を解決!
芽衣はふつうの小6で、大地はスポーツも得意な人気者! 二人は誘拐事件に巻きこまれてしまうが、超一流プロの頭脳が手に入る極秘アプリ『プロプロ』で大事件を解決する! つばさ小説賞《大賞》受賞作家の新作!


作:吹井 乃菜  絵:逢坂 レイ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322715

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