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つばさ文庫小説賞《大賞》受賞・吹井乃菜さんの新シリーズが読める!
超一流プロの頭脳が手に入る極秘(ごくひ)アプリで、芽衣と大地が大事件を解決する!
誘拐事件に巻きこまれて、危機からの大脱出! ドキドキの物語が始まる!
(全5回・毎週火曜更新予定♪)
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・夏沢芽衣(なつざわ めい) 小6
得意なものも才能もないけど、勇気は――ある!
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・速水大地(はやみ だいち) 小6
クールに見えて、やさしい!?
運動神経がバツグン!
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『プロ✕プロ』
超一流プロの頭脳と技が手に入る極秘アプリ!
ただし、3時間だけ!?
吹井乃菜さんの新シリーズをどこよりも早くヨメルバで大公開!
『超一流インストール プロの力で大事件解決!?』は2024年1月11日発売予定です! お楽しみに♪
第2回 ヤバい極秘(ごくひ)開発『プロ×プロ』
ママに連れられてあたしと大地(だいち)がやってきたのは、わが家の2階にあるママの『研究室』だ。
あいかわらず散らかってるなあ。
いろんなものがそこらじゅうに転がっていて、足の踏み場もない。
「これよ」
奥の暗がりからママが持ってきたものを見て、あたしは首をかしげた。
「なにこれ。……腕時計?」
銀色のトレイの上に、うやうやしく置かれているもの。
それは、ごくふつうの、アナログ式の腕時計に見えた。
エメラルドグリーンのベルトに、四角い文字盤。
秒針がしずかに回っていて、長針と短針は、現在時刻――4時15分あたりを指している。
大人っぽくて、なかなかかっこいいデザインだけど、めずらしいってほどじゃない。
時計屋さんや大型電器店とかに行けば、当たり前に売ってそうだけど――。
「違うわ。これは、ふつうに見せかけるための、カムフラージュの画面」
ママは、時計の横についている、小さなボタンを押した。
「見てて」
すると、時計の針がふっと消えて、文字盤全体が真っ暗になった。
あたしと大地の目は、画面にクギづけになった。
時計の針は本物ではなく、本物そっくりに見える精密なデジタル映像だったのだ。
真っ暗になった画面に、緑色の文字が浮かびあがった。
“ようこそ”
「この中には、わたしが開発した特別なアプリが入ってるの。これは、そのアプリ専用の超小型高性能デバイス。その名も―――」
ママはあたしたちを見て、ごほん、とせきばらいをした。
「プロフェッショナル・プロフィール!!」
どどーーーーーん!!! って感じで、ママは力強く発表した。
「ぷろ、ふぇ、……???」
なに、その舌をかみそうな名前。
「略して『プロ×プロ』!」
ママはさらに得意げに胸をそらした。
えーっと?
「世界中にはさまざまな分野で仕事をしている、『プロフェッショナル』と呼ばれる人たちがいるでしょう? このアプリは、そういう人たちの頭脳、知識や技術を、自分の脳内にインストールできるものなの。プロの『プロフィール』を、まるごと自分のものにできるっていう、画期的な発明なのよ!」
「……」
ママったら、いつもわけがわからないけど、今日はまた一段とぶっ飛んでる。
「……あの、香織博士(かおりはかせ)。研究に夢中になりすぎて、寝不足になってるんじゃないですか? ちょっと休んだほうが……」
「本当だって! 今から実際に使ってみせるから。まずは芽衣、こっちに来て」
ママにうながされて、あたしは部屋のすみに置いてある、大きなマッサージチェアに腰かけた。
「じゃ、やってみるわね」
ママは、あたしの左手首に、『プロ×プロ』のベルトをまきつけた。
つけてみても、ほんの少し重いような気がするくらいで、とくに変わった感じはしない。
肌にふれた部分からは、ひんやりした金属の感触が伝わってくる。
「画面にタッチしてみて」
言われた通りに、指先で画面にふれると、『ようこそ』の表示が消えた。
そして。
『――――では、初期設定を開始します』
「うわっ!! しゃ、しゃべった!?」
あたしは、思わず左手をのばして、のけぞった。
いきなり、『プロ×プロ』から声がしたのだ。
上品そうな、女の人の声だった。
機械的な合成音っていうより、落ちついた、本物の大人の女性が話しかけてきているような感じがする。
『あなたの名前を教えてください』
「え、どうすればいいの、これ?」
見ると、画面には、音声と同じ文章が表示されている。声は、これを読みあげているんだ。
「質問に答えていって。なるべくはっきり発音してね」
「わ、わかった」
あたしは手首を持ちあげて、『プロ×プロ』に口を近づけた。
「夏沢芽衣、です」
『ナツザワ・メイさんですね』
「はい」
『生年月日と血液型をお答えください』
「二〇XX年五月七日生まれ、A型――、です」
『身長と体重をお答えください』
「150㎝、……〇〇㎏」
体重は、大地に聞こえないように、ちょっと小声で言う。
答えていくうちに、だんだん緊張してきた。
ママは自信満々だけど、本当にだいじょうぶなのかな……。
失敗したらどうなっちゃうんだろう?
そんなことを考えている間にも、どんどん画面は切りかわっていく。
『それでは最後の質問です』
「あっ、はい。お願いします」
機械相手だけど、ていねいな女の人の声だから、つい敬語になっちゃった。
『あなたの得意分野を選択してください。いくつでも選択できます。
1.コンピューター 2.理科算数 3.社会 4.文学 5.家事 6.工作 7.芸術 8.スポーツ 9.外国語 10.特になし』
え、なに、このアンケートみたいな質問。
「得意分野……?」
って聞かれても、あたしには、じまんできるほどの得意分野なんて、ひとつもない。
学校の成績もイマイチだし、かといって絵とか音楽とかの芸術面の才能もない。手先も不器用だし――って自分で言ってて情けなくなってきた。
まあ、8番のスポーツだけは、ちょっとマシかも。走るのは女子の中では速いほうだし、身軽 だから、体育の授業でだけは、まあまあ活躍できる。
だけど、大地には全然およばないレベルだから、得意と思ったこともないんだよな……。
見栄を張っても仕方ないので、正直に答えた。
「10番“特になし”」
『初期設定の入力が完了しました』
すると、またもや画面が変わった。
『では、インストールしたい職業を選んでください』
「職業?」
あたしがきょとんとしていると、横からママが言ってきた。
「芽衣、あなた今、何になりたい?」
「え、えっとぉ……」
急に聞かれても困っちゃう。
「そうね。じゃあ、とりあえず、お試しってことで……」
ママは画面をのぞきこんで、ササッと指先で操作した。
『メイさんが選んだのは、「メイド」ですね』
思わず息をのむ。
「め、めめめメイド!?」
「はい、決まり!」
あたしの声をかき消すように、ママは言った。
画面の中心には、さっきまでなかったボタンが表示されていた。
【決定】という文字が四角で囲まれているボタンだ。
『アプリケーションを使用するには、このボタンをタップしてください』
「……えっと……押すの?」
恐る恐る聞くと、ママは力強くうなずいた。
「もちろん!」
えー、なんか怖いんだけど……。
ちょっと迷ったけど、思いきってそこをタップした。
すると、次の瞬間。
『インストールを開始します』
画面に、不思議な模様があらわれた。
もやもやとした、煙みたいな模様だ。
アラジンが魔法のランプをこすったときみたい。
よく見ると、その煙は、無数の小さな数字や、アルファベットが入りまじって、ぐるぐるとうずまいている。
自然とそこに視線が吸いよせられて、目がはなせなくなる。
同時に、画面の裏の手首にふれている部分からも、静電気のような、ピリピリするような刺激が伝わってくる。
やがて、画面がまぶしく光って、あたしは思わず目を閉じた――――
数秒後。
「……目を開けてみて」
ママに言われ、ゆっくりと目を開ける。
「どう?」
ママが聞いてきた。
「どう、って……」
あたしは部屋を見まわした。
いつもと同じ、ママの研究室だ。あちこちに物が散乱してる。
部屋のすみにはホコリが舞ってるし、本棚はぐちゃぐちゃ。
そう、いつもと変わりのない、見慣れた光景――だけど。
「どうもこうもありませんわっ!!!」
あたしは、ガバッと立ちあがった。
「へっ!?」
大地とママが、ぎょっとしてあたしを見る。
「なんですか、このお部屋の散らかりようは!?」
見慣れているはずの『研究室』の風景なのに、どうしてもがまんならなかった。
「お掃除させていただきます!!」
あたしは床に落ちていた、何かの部品らしい物を拾いあげた。
「このガラクタは、なんですの? 捨ててよろしいですか?」
「えっ、ちょっ……! ちょっと芽衣! ストップ!! だめよ、それは大事な――」
「では、こちらは?」
「うっ……」
拾いあげたのは、片方だけのくつ下だった。研究に集中してるときに、ママはくつ下を脱いでしまうへんなクセがあるのだ。
あたしは、腕まくりをして、動きはじめた。
「ああっ、こんなにホコリが! 信じられません! 飲みおわったマグカップも、なぜそのままにしておくのです? まあ、ゴミ箱もこんなにあふれているじゃありませんか! あら、奥さまの白衣も、シワだらけですね。ちょっとお脱ぎになってください。アイロンをかけて差しあげますから。どうぞそちらにおすわりになって――」
不思議なことに、ホンモノのメイドになったように、体は勝手にてきぱきと動くし、頭の中には、つぎにやるべきことがどんどん浮かんでくる。
そのまま、あっけにとられているママと大地をよそに、部屋中をバタバタと行ったり来たりすること、約30分。
「ふう……」
ようやく落ちついたあたしは、大きく息をついた。
あんなにひどい状態だった研究室が、すみずみまで整理され、ピカピカになっていた。
床は鏡のようにみがきあげられてホコリひとつ落ちていない。本棚の本はジャンルごとに分類されて並べられ、ママの白衣にもアイロンがかけられて、新品みたいになっている。
「すごい……」
大地はぼうぜんとしていた。
「信じられない。あのぐうたらな芽衣が、これをぜんぶ一人で……?」
「どう? わかったでしょ? これがわたしが開発した『プロフェッショナル・プロフィール』の力なのよ!」
ママが得意げに言った。
「さっき説明した通り、これを使えば、プロの職業スキルを手に入れることができるの。選んだのは『メイド』。このスキルを手に入れたことで、芽衣は今、家事の達人になったの。掃除も料理も洗濯も――今なら、なんでもできるはずよ」
「達人……」
あたしは、改めて自分の手を見る。
家事なんてほとんどやったことない。片づけだって、大の苦手。なのに、この手が勝手に動いて、これだけの仕事を完ぺきにやってのけたのだ。
部屋が片づいているだけじゃなかった。
白いクロスがかけられたテーブルには花までかざられているし、ティーカップに注がれた紅茶からは、優雅な香りの湯気がふんわりと立ちのぼっている。
「あら、いけませんわ。奥さま、大地さま。どうぞ、さめないうちにおめしあがりください」
あたしは、大地とママに言った。
「失礼して、少々キッチンをお借りいたしました。ちょうどアッサムの茶葉がありましたので、アッサムに一番合うミルクティーにしましたの。もう少しお時間をいただければ、特製のスコーンとサンドイッチで、英国式アフタヌーンティーをご用意できましたけれど」
「アフタヌーン、ティー……?」
大地はぽかんとしている。
「ええ。19世紀のイギリスで、第7代ベッドフォード公爵(こうしゃく)フランシス・ラッセルの夫人、アンナ・マリアが始めたと言われる午後のお茶の習慣です。貴族の間で流行して、それが一般にも広がったもので――――」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。なんで芽衣が、そんなことまで知ってるんだ?」
「それこそ、この発明の最大のポイントなのよ!」
よくぞ聞いてくれました! って感じで、ママが割りこんできた。
「つまり、超一流のメイドなら、お茶を用意できるだけじゃなく、アフタヌーンティーの歴史について語れるくらいの教養と、豊富な知識を持ってるってことだからよ!」
「超一流の?」
「そう! だって、同じ職業でも、実際には、経験の浅い人からベテランまで、いろんな人がいるでしょ? 得意なことも、人によってさまざま。だけど、この『プロ×プロ』は、それぞれの職業の中でもとくに優秀な、トップレベルの人のスキルを集約しているの! だから、これを使えば、プロ中のプロ――いえ、究極のプロフェッショナルが生まれちゃうってわけ!」
ママは、ぐっとこぶしをにぎりしめる。
「は、はぁ……」
人工知能のAIを使って、世界中の職業に関するあらゆる情報を集めているのだとか、歴史的背景や最先端(さいせんたん)の技術まで得るために、専門機関のデータベースにも合法的にアクセスしているのだとか、職業を細かく分類するのが大変なんだとか、うんぬんかんぬん――。
ママの説明は難しい上に、早口すぎて、あたしにはさっぱり理解できなかった。
とにかく、すごいスキルだけじゃなく、その仕事に関係するさまざまな知識がインストールされるってことらしい。
ママはひとしきり熱く語ったあと、
「だけどね」
と、息をついて、あたしを見た。
「じつは、この効果は一時的なものなのよ」
「えっ、そうなの?」
「ええ。一度インストールしても、このスキルを使えるのは、今だけ。効果が続くのは、せいぜい3時間くらいなの。それが過ぎれば、自然に元通りの芽衣に戻るわ」
「たった3時間――?」
それはちょっと残念かも。
「あんまり長時間になると、脳に負担がかかっちゃうのよ。それに、まだまだ改善の余地もあるみたいね。さっきも、しゃべり方まで変なキャラになっちゃってたし。うーん、おかしいなあ、余計な情報が入りすぎちゃったのかしら」
ママは首をひねった。
「でも、これでわたしの言葉がハッタリじゃないってことはわかったでしょ?」
「――うん」「はい」
あたしと大地は、素直にみとめて、うなずいた。
たしかに、すごいものだってことはわかった。
少しの時間だったけど、自分でも信じられないような体験だった。
「さ、わかったら、はずして。あくまで、まだ極秘の試作品なんだから」
「うん」
もうちょっと使ってみたい気もしたけど、あたしは手首のベルトをはずし、ママに『プロ×プロ』を返した。
次回、第3回「天才になっちゃった!?」は12月26日公開予定です♪
れんさいを読んだ、みんなの感想を聞かせてね。感想はコチラ♪
【書誌情報】
つばさ小説賞《大賞》受賞作家の新作! 超一流プロになって大事件を解決!
芽衣はふつうの小6で、大地はスポーツも得意な人気者! 二人は誘拐事件に巻きこまれてしまうが、超一流プロの頭脳が手に入る極秘アプリ『プロプロ』で大事件を解決する! つばさ小説賞《大賞》受賞作家の新作!