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大人気シリーズ『世界一クラブ』の大空なつきさんの新シリーズが読める!
だれにも言えない〈神スキル〉を持つ三きょうだいが、犯罪組織にねらわれたクラスメイトを、警察に代わって、大事件から救いだす! ハラハラドキドキの物語の幕が開く!
(全5回)
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・朝陽 小6〈ふれずに物を動かすスキル〉でも、重いものはムリ!?
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・まひる 中1〈はなれた場所を視るスキル〉ただし、近い場所だけ!?
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・星夜 中2〈人の心を読むスキル〉知りたくないことも聞こえちゃう!?
第1回 あぶない寝起き注意報!?
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「きゃあーっ!!」
叫び声が聞こえて、おれ、神木朝陽(かみきあさひ)は、ハッと顔を上げた。
いつの間にか、人気のない街の中に立っている。
あたりはうす暗くて、まわりにはだれもいない。
けれど、遠くに悲鳴を上げながら走る女の子が見えた。
その子を、大きな体の男が捕まえようと追いかけている。
女の子を助けなきゃ!
迷わずかけだす。でも、女の子とはかなり距離がある。
このままじゃ、男が、先にその子を捕まえてしまう。
ダメか!? ……いや、おれがスキルを使えば!
あたりをさっと見まわすと、視界のすみに、ちょうどよい大きさの白い物があった。
その白い物を見つめて、すべての意識を集中させる。
背中に、独特の感覚が走る。
この重さなら――飛ばせる!
「行け!」
ビュンッ ――ドンッ!
おれがスキルで飛ばした白い物が宙(ちゅう)を飛び、男のひざに勢いよく当たった。
男が転ぶように倒れたすきに、女の子は無事に走りさっていく。
よかった、助けられた! と、ほっとしたのもつかのま。
男にぶつかったものを見て、目が点になる。白い物の正体は――ニワトリの目覚まし時計だ。
「ええっ、なんで、おれの目覚まし時計が~~~~!?」
――そこで、夢は終わった。
ピピピピ ピピピピ!
「あ・さ・ひ、起きて!」「もう朝だぞ、朝陽」
目覚まし時計の音と二人の声に、おれは、ぼんやり目を開ける。
この声は、姉のまひると兄の星夜(せいや)だ。遅刻しないように、わざわざ起こしにきたらしい。
「ふはあ……なんだ夢かあ」
でも、変な夢だったな。少し遅くまでゲームしたせいかも? とりあえず……。
ていねいに布団をかぶりなおす。
「……おれ、もうちょい寝る」
「ダメッ、ダメダメダメ! 朝陽、二度寝なんて絶対ダメ~~~~!」
「朝陽、頼むから起きてくれ! このままじゃ、オレたちの命があぶないっ」
「はあぁ……二人ともオーバーじゃない。ただの遅刻で命にかかわるなんて――」
「「オーバーじゃな~い!!」」
「うわっ! びっくりした。二人の声、目覚まし時計より大きくない?」
「い、いっ、いいから今すぐ起きてー! ああっ、もう限界~」「朝陽、早く!」
「あ~、わかった! 今、起きるから。えっと、目覚まし時計はここに――」
スカッ
まくらの横にのばした手が、空を切る。
あれ? 時計がない。
布団から顔を出すと、目の前をニワトリが羽ばたいていく。
いや、あれは、ニワトリ形の目覚まし時計だ。
ビュンッ ビュンビュン
「……目覚まし時計が飛んでる。おれ、まだ夢、見てる?」
違う、現実だ……。まわりを見ると、他にもいろんなものが、すごい速度で飛びかってる。
エンピツも、マンガも、かばんも、山積みにしていた洗濯ものも――。
そのたくさんの物の間を、必死な顔のまひると星夜が、あちこち逃げまわっていた。
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あれを動かしてるの、ぜんぶ、おれ!?
「げっ!? おれ、また寝てる間に神スキルを使ってた!?」
そう叫んだ瞬間、まひるが飛んできた教科書をしゃがんでよけた。
「早くスキルを止~め~て~~~~!」
「わかった! 今、止めるから」
「あっ待て、朝陽。慎重(しんちょう)にしないと」
ゴツッ
「いてっ!」
スキルを解除(かいじょ)した瞬間、真上を飛んでいた目覚まし時計が落ちてきて、おれのおでこに直撃する。
気をぬくと、スキルが切れるのは一瞬だ。
同時に、部屋中を飛びまわっていたものがすべて床に落ちた。
「きゃああああ!」「うわあっ」
ガシャン! ガラガラ、ドシン、ドスーン!
……あー。
たくさんの物が床に落ちた振動が、ベッドまで伝わってくる。
おそるおそる床を見ると、まひると星夜が、上から降ってきた物の下敷きになっていた。
「いたたっ。あ〜もう、どんな夢を見たら、こーなるの」
「朝陽……これ、もう何回目だ?」
「えーっと、さ、三回くらい?」
「もう百回目~~~~!」
まひるが、ノートを頭にのせたまま叫ぶ。
そんなこと言われても、寝てるときはコントロールできないわけで……。
とはいえ、これはやっぱり、おれが悪い。
だって、これは、『物を動かすスキル』――おれの、神スキルのせいだから。
「ご……ゴメンナサイ」
おれは痛むおでこをなでながら、目覚まし時計のニワトリといっしょに頭を下げたのだった。