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大人気シリーズ『世界一クラブ』の大空なつきさんの新シリーズが読める!
だれにも言えない〈神スキル〉を持つ三きょうだいが、犯罪組織にねらわれたクラスメイトを、警察に代わって、大事件から救いだす! ハラハラドキドキの物語の幕が開く!
(全5回)
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・朝陽 小6〈ふれずに物を動かすスキル〉でも、重いものはムリ!?
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・まひる 中1〈はなれた場所を視るスキル〉ただし、近い場所だけ!?
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・星夜 中2〈人の心を読むスキル〉知りたくないことも聞こえちゃう!?
第2回 おかしなきょうだい
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「あーあ、朝から大変だった!」
バタン!
パジャマから服に着替えたおれは廊下(ろうか)に出ると、自分の部屋のドアを閉めた。
部屋の中には、あちこちに散らばった物を集めたせいで、一つの山ができている。
Tシャツの下にマンガ。さらにその下に文房具、ゲーム機、出しわすれのプリントなどなど。
「はあ~学校から帰ってきたら、片づけかあ」
ぐるるる……
切なく鳴いたおなかに、手を当てる。
おなか空いた。スキルを使うと、どうしてか、すごくおなかが空くんだよな。
「朝陽(あさひ)。朝ごはん、できてるぞー」
あ、星夜(せいや)が呼んでる。
おれは一段とばしで階段を下り、一階のリビングに入る。
まひるはソファで忘れ物がないか、持ち物の確認中。星夜は、朝食のお皿を並べている。
……もう一回、あやまっとく?
迷っている間に、まひるが、さっと目を閉じた。
げっ、あれって、もしかして!
「はー。朝陽、部屋の片づけ適当すぎ。それに、わたしが貸したマンガまで、荷物の山にうもれてるし」
ぎくっ。やっぱり!
ひとつ上の姉、中学一年生の長女・神木(かみき)まひる。
まひるの神スキルは、『はなれた場所を視るスキル』。
目を閉じて集中すると、半径一キロぐらいなら、どんなところでも〈視る〉ことができる。
驚きの便利スキルだ――おれもときどき、今みたいに被害にあうけど。
「まひる。また、おれの部屋を勝手にスキルで視ただろ。見られたくないものもあるのに」
出しわすれたプリントとか。
「朝陽、プリント出しわすれてるのか? 心の声が聞こえたんだけど」
うっ!
振りむくと、星夜が首をかしげて、おれを見ている。
――二つ上の兄、中学二年生の長男・神木星夜。
星夜の神スキルは、『人の心を読むスキル』。
ひとたびスキルを使うと、近くにいる人の心を読むことができる。
それだけでなく、さらに集中すれば、人の心に直接、話しかけて会話することもできる。
でも、星夜が言うには、心の中での会話は、おれたちきょうだい以外とできたことはないらしい。
とにかく、この二人にかかると、おれの秘密はだいたい、いつもつつぬけだ。
「……はー、ほんと、二人とも、めちゃくちゃなんだから」
とはいえ、おれも人のことは言えない。
小学六年生のおれ、朝陽の『ふれずに物を動かすスキル』も、どう考えてもふつうじゃない。
『物を動かす』。それだけ聞くと、すごく便利っぽい。
でも、動かせるのは、手で持てるのと同じくらいの重さまで。せいぜい十キロ。
それ以上重くなればなるほど短い時間しか動かせないし、大人一人くらいの重さになると、もうピクリともしない。
しかも動かそうと思うものが重ければ重いだけ、集中力もエネルギーも使う――簡単に言えば、スキルをたくさん使うと、おなかが空くってこと。
中二の星夜、中一のまひる。そして、小六のおれ、神木朝陽。
おれたち三きょうだいは、小さいころから特別なスキルを持っていた。
信じられないくらい、めちゃくちゃすごいスキル――その名も〈神スキル〉だ。
でも、人に知られると絶対めんどうなことになる。
それで、いつもは神スキルをかくして暮らしてるけど――。
「あっ!」
まひるがスマホを落として悲鳴を上げた瞬間、おれはとっさに目を大きく開けた。
すぐに集中して見つめると――スマホが床すれすれで宙(ちゅう)に浮いて止まる。
こういうふうに家の中だと、けっこう気軽に使ってしまう。
ま、ここなら家族以外に見られる心配もないし。
まひるは、おれがスキルで浮かせたスマホを、ほっとした顔で拾った。
「は~、スマホが壊れるかと思った! 朝陽、キャッチしてくれてありがと」
「どういたしまして。でも、まひる、何で見ていたスマホを落としたの」
「くうっ! それはね……わたしの推しアイドルのデート写真がスクープされてたの! ま、まあ、もちろんニセモノだって信じてるけど!」
「えー? まひる、少しは現実を見たほうが――」
(朝陽。それ、たぶん言わないほうがいいと思う)
突然、星夜の声が心に響く。
星夜は、スキルを使って、こうやって心の中に直接、話しかけられるんだ。
(……りょーかい)
おれは、心の中で返事した。
「でも、まひる。そのアイドルって、まさか、前にライブをのぞくか迷ってた、あの、うわっ! 首つかむな、首!」
「あ~、迷うくらいはいいじゃない! ズルしないために泣く泣くがまんしたんだから~」
「三人とも、朝からにぎやかだね」
明るい声を上げながら、いとこのハル兄が、キッチンから顔をのぞかせる。
若月春斗(わかつきはると)――おれたちはハル兄(にい)と呼んでいる。
ハル兄は、おれたち三人の今の保護者だ。
去年の春、父さんと母さんが海外で働くことになったとき、学校のため、日本に残ることになったおれたちの保護者として、親戚の中から選ばれたのがハル兄だ。
ハル兄は二十三歳。ちょうど、アメリカで飛び級して大学院を修了(しゅうりょう)し、日本の大学で働きはじめるところだった。
しっかり者だし、おれたちとも小さいときから仲がいい。しかも、神スキルのことも知っているから、おれたちも気楽で、保護者にはうってつけだ。
すらっとした長身で、今のエプロン姿ですら雑誌のモデルみたいに決まってる。
「ハル兄、おはよ」
「おはよう、朝陽。今日も朝から大変だったみたいだね。じゃあ、みんなで朝ごはんにしようか。今日は目玉焼きだよ」
「あ、わたしも食べる~。半熟の目玉焼き、あるかな?」
まひるがソファから飛んでくるのにつられて、おれも、お皿をのぞきこんだ。
四つのうち半熟は二つかあ……いつもはよく焼いたのが好きだけど、今日は半熟もいいかも。
そう思った瞬間、星夜が半熟の目玉焼きの皿を、おれの席に置いた。
「えっ、どうしたの、星夜。何も言ってないのに。もしかして、心を読んだ?」
「まさか。それくらい読まなくてもわかるよ。じっとこの皿を見てただろ」
うっ、はずかしい。星夜って、心を読まなくても察しがいいんだよな。
でも、今日はありがたくもらおうっと。
「いただきまーす!」
イスに座って、できたての目玉焼きをはしで割ると、まひるがあきれて目を回した。
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「はー。ハル兄も星夜も、末っ子だからって朝陽をあまやかしてない? さっきもいろんなものを飛ばして、大変なことになったのに」
「まあまあ、朝陽も寝ぼけてやったんだし、ケガもなかったんだからいいじゃない。ね、星夜」
「そうだね。だいたい、まひるも、朝陽の寝起きが悪いのをわかったうえで、起こしに行ってるだろ? それに、スキルの使い方で言うなら、オレはまひるが一番、心配だけど……」
「おれも、星夜の意見に賛成」
「えー? こんなに、けなげな乙女なのに」
まひるが、すました顔でポテトスープを飲むと、ハル兄が、くすくすと笑った。
「使い方は、みんなにまかせるよ。でも朝陽、まひる、星夜。三人とも、神スキルを使うときは、前にした約束だけは守ってね」
「わかってる、ハル兄」
おれが、そう返事すると、まひると星夜も真剣な顔でうなずく。
一、犯罪や悪いことには使わないこと
二、危険な使い方をしないこと
これが、おれたち三きょうだいとハル兄との約束。
神スキルは、使い方によっては危険なことにもなりかねない。だからこそ、おれたちとまわりの人を守るための、大事なルールだ。
でも……おれは、本当はもっとこのスキルを活かしたいと思ってるけど。
ちらりと視線を送ると、ハル兄がにっこり笑った。
「もし困ったことがあったらなんでも相談してね。ぼくでよければ力になるよ」
「サンキュ、ハル兄」
「あ、じゃあ、わたしは、おやつにプリンが食べたいなあ。作るのが大変なら、ゼリーでもいいよ」
「ずるっ。それ、どっちもまひるの好物じゃん!」
おれとまひるが言いあいをはじめると、星夜が時計を指さした。
「二人とも、けっこう時間たってるぞ。新学期二日目で遅刻する気か?」
「「まずい!」」
おれはまひると先を争うように、ごはんを食べはじめる。
星夜はていねいにごちそうさまを言い、ハル兄はそんなおれたちを、やさしく見ている。
おれと、まひると、星夜とハル兄。
ちょっと変わってるけど、けっこういい家族かも。
――何より、ハル兄のご飯がおいしいし。
おれはスープの最後の一口を、味わいながら飲みほした。