
大人気シリーズ『世界一クラブ』の大空なつきさんの新シリーズが読める!
だれにも言えない〈神スキル〉を持つ三きょうだいが、犯罪組織にねらわれたクラスメイトを、警察に代わって、大事件から救いだす! ハラハラドキドキの物語の幕が開く!
(全5回)

・朝陽 小6〈ふれずに物を動かすスキル〉でも、重いものはムリ!?

・まひる 中1〈はなれた場所を視るスキル〉ただし、近い場所だけ!?

・星夜 中2〈人の心を読むスキル〉知りたくないことも聞こえちゃう!?
第3回 朝陽はクラスの救世主?

おれはバッグを手に、玄関で待つまひると星夜(せいや)のもとに走った。
「まひる、星夜、お待たせ」
「朝陽(あさひ)、おっそーい。あと一分遅かったら、おいてくとこだった……ああっ、髪の、右の結び目のほうが二ミリ高くなってるっ! 星夜、今から結びなおしてもいい? お願い~!」
「残念、もう時間切れ。じゃあハル兄、行ってきます」
「気をつけてね。行ってらっしゃい」
見おくりに来たハル兄に手を振って、おれたち三人は外に出る。
通学路まで行くと、小学生から中学生まで同じ学校の生徒たちがあちこちに見えた。
おれたちの通う日野原(ひのはら)学園は、小学校と中学校がいっしょになった私立の小中一貫校(いっかんこう)だ。
きょうだい全員、小一のときからここに通っている。
今日は、新学期が始まってまだ二日目。みんな、落ちつかないのか、少しそわそわしてる。
一方でまひるは、スカートのすそを見せびらかすように、横にくるりと回転した。
「はー、記念すべき中学生の登校二日目! 朝陽、中学の制服、どう? ジャケットとスカートの組み合わせがかわいいでしょ。中学の制服、あこがれるでしょ!」
「べつに。おれは私服も好きだし」
でも、たしかに中学の制服はまひるに似合ってる。『おしゃれが趣味(しゅみ)』といつも言っているだけあって、リボンの高さまで、カタログの写真みたいにカンペキだ。
「そういえば、春休みにも、家で何回も着てみてたよな。髪型も何十通りも試してさ」
「だって制服はこれから何度も着るものだからね。事前にバッチリ準備しておきたかったの! 星夜もあいかわらずクールなジャケットとネクタイが、すっごく似合ってるよ」
「……そうか? でも、おしゃれなまひるに言われると悪い気はしないな」
星夜が照れくさそうに笑う。
たしかに、すらっとした星夜に、上品な色のジャケットはよく似合う。ますます落ちついて見えるし、大人っぽい。
「あ、あれ、まひる先輩(せんぱい)じゃない?」「朝から星夜さん見ちゃった! ラッキー」
こっちをチラチラ見る生徒の会話が聞こえてくる。
まひるはおしゃれで、しかも、勉強が大の得意。小学校の入学試験からずっと学年一位だから、おれの学年にも、あこがれてる子がけっこういる。
星夜も、クールでかっこいいって、かくれファンがいるらしい。
でも、まひるはお気楽な性格だし、星夜はみんなが思ってる以上に思慮深い。
おれからすると、みんなの評価と二人の実態は、ちょっとズレてるけど……。
それでも、まあまあ自慢のきょうだいだ。
星夜が、あっと口を開けた。
「そうだ。朝陽、まひる、さっきハル兄(にい)から言われたんだけど、今日の放課後、学校の正門前で待ち合わせしようって。二人とも予定はない?」
「わたしは何もないけど」
「おれも、特にないよ」
でも、正門前で待ち合わせ? なんだろ。
くわしく聞く前に、もう正門前の急な坂を上りきっていた。星夜とまひるが立ちどまる。
「じゃあ二人とも、放課後に」「朝陽は授業中にいねむりして、スキルを使わないようにね~」
「はいはい、了解」
てきとうに返事をすると、小学校の校舎に入り、くつをはきかえて階段を上る。
めざすは六年二組。三階の教室だ。
中に入ると、ほとんどの席にはもうクラスメイトが座ってる。
「朝陽、おっはよ!」
「うわ!」
後ろから聞こえた大声に、思わずびくっとする。
このテンションの高い声。まちがいなく、良介(りょうすけ)だ。
「良介、おはよ。朝からテンション全開だな」
「まあな。おれの名前の良介の『良』はノリが良いの『良』だから!」
良介はそう言って、ニカッと笑う。
友だちの内海(うつみ)良介は、小一のときからずっと同じクラスという、いわゆるくされ縁だ。
ゲーム好きっていう共通点もあって、なんだかんだとよく遊んでる。
明るくて友だちも多い。そして、本人が言うとおり、ノリの良さは一級品だ。
「で、それにしてもテンション高いけど、どうしたの?」
「へっへーん。じつは、今日の昼休み、新しいクラスのみんな遊ぼうと思ってるんだ。朝陽も来るだろ? バスケやろうぜ」
「いいな。行く行く」
「よっしゃ、今から楽しみ! やっぱり何でも、楽しみがなくっちゃな」
そのとき、担任の森永(もりなが)先生が教室に入ってきた。低い声が教室に響く。
「みんな、席について。今から朝のホームルームをはじめます」
「じゃあ、昼休みな!」
良介がぶんぶんと手を振りながら、二つ前の席につく。
おれもあわててイスに座ると、となりの席の女子と目があった。
「あ」
たしか……久遠夕花梨(くおんゆかり)さん、だっけ。はじめて同じクラスになった子だ。
肩くらいまでの髪がさらりと揺れている。昨日も思ったけど、おとなしそうな子だな。
そうだ。話しかけやすいように、こっちからあいさつしよう。
目立たないように、小声で――。
「おはよう……久遠さん、だよね」
「うん。おはよう、神木(かみき)くん」
「神木……そうだ、よかったら、おれのことは朝陽って呼んで」
「えっ。名前でいいの?」
「うん。きょうだいが二人いるから、名字じゃ、だれのことかわからなくなるんだ」
「……わかった。朝陽くん、よろしくね」
久遠さんが、花が咲いたみたいに笑って言った。
やさしそうな子だな。
うん、新しい友だちもできそうだし、新学期も悪くないかも。
そう思った瞬間、森永先生が名簿を閉じて言った。
「はい、全員出席ですね。それじゃあこのあと、六年生で最初の実力テストをします。みんな、春休みに復習してきましたか?」
「ええーっ!」
やっぱりウソ。春休みのダラダラした生活がよかった!
おれは、脱力して机にだらりとうつぶせになった。
テストを受けて給食を食べたら、あっという間に、昼休みだ。
「おーい、良介。バスケするぞ」
声をかけると、席に座っていた良介は、むにゃむにゃと答えた。
「え~と、おれ、テストぼろぼろだったから、ちょっとパスとか……」
「何言ってるんだよ、良介が企画したんだろ? ほら、体を動かせば気分も変わるって」
良介を引っぱって教室を出ようとしたとき、ドアの前で久遠さんと入れちがう。友だちと話しこんで、楽しそうに笑っている。
せっかくだからバスケに誘ってみるかな?
「学校なら、夕花梨とたくさん話せるね!」「春休み、会えなくてさみしかった~」
……なるほど。
「朝陽、どうかした?」
「いや、何でもない」
良介に首を横に振って返事して、外へ向かう。
久遠さんは友だちと楽しそうに話してるから、ジャマしないほうがいいかも。
「あ、もうみんな集まってる。グラウンドの真ん中に……あれ、変だな」
外に出ると、おれはグラウンドの異変に気づいて立ちどまった。
小・中学校共通のグラウンドは、大勢で使えるように、かなり広い。
遊具があるエリアや、ボール遊び専用のエリアなど、いくつかに分かれている中で、バスケができるコートは、グラウンドの奥だ。
なのに、待ちあわせしていたクラスメイトたちは、少しはなれた場所に集まっている。バスケットコートの中心を陣取っているのは、地べたに座った五、六人の中学生だ。
おれは良介と、クラスメイトのもとへ走った。
「ごめん、遅れた。みんな、どうかした?」
「朝陽くん! それが、この先輩たちが移動してくれなくて……」
クラスメイトの女子がそう言うと、コートに座っていた中学生の一人が、目をつりあげた。
「なんでおれたちが移動しないといけないんだ。グラウンドはみんなのものだろ」
「そうですけど……でも、この場所はわたしたちが先にとっていたじゃないですか。先輩たちは後から来て、座りこんだんですよ。おしゃべりなら、そこじゃなくてもできるのに」
「どこでしゃべったっていいだろ。おれたちのほうが年上なんだから、後輩が文句つけるな」
別の中学生も言った。
「悔しかったら、おれたちをどかしたら? 無理だろうけど」「だよなー」「あはは!」
中学生のばかにした態度に、クラスメイトの女子は、先輩たちから目をそむけた。
「良介くん、どうする? 他の遊びにしてもいいけど……」
「そうだな。あの人たちを気にしながらやるのも、楽しくないかあ」
良介が残念そうにうなずく。
だけど、グラウンドは、ほとんど使われている。今から他の場所はとれないよな。
おれは、頭の後ろで手を組みながら、中学生の様子をうかがう。
みんな背が高い。小六のおれと二十センチは差がある。たぶん全員三年生だ。
でも、年下のジャマをして笑ってるなんて、おれたちより子どもだな。
――こういうのは、許せないかも。
「先輩。じゃあ……おれと勝負してくれませんか?」
みんなの前に出てそう言うと、中学生の一人が目を丸くした。
「は? 勝負?」
「そうです。おれと勝負して負けたら移動してください。ま、おれがお願いしなくても、恥ずかしくて、いられなくなるだろうけど」
「は……はあ!?」「ばかにするな!」
中学生たちが、ざわつく。すると、その中で、一番背の高い先輩が笑いながら立ちあがった。
「いいぜ。時間つぶしにやってやる。3オン3のバスケだ。そこのボール貸せ」
はー、ムカつく言い方。
「ごめん。ボール、借りてもいい?」
おれはそう聞いて、近くの男子からバスケットボールを一つ借りる。
うん。ボールは空気もちゃんと入ってて、問題なさそう。
「あ、先輩、3オン3じゃなくて、3オン1――先輩三人、対、おれ一人でもいいですか?」
おれだけで十分だと思うし、いっしょにやってくれた子が、巻きこまれたらいやだから。
「はあ!? ふざけるな。三対一で小学生が勝てるわけないだろ!」
中学生がどなる。良介も、あわてておれに耳打ちした。
「朝陽、ホントに一人でいいのか? あの背の高い先輩、たしかバスケ部の人だぞ。パスを出すくらいなら手伝うけど」
「ありがとう。でも、だいじょうぶ。まぁ、まかせといて」
ジャンプボールをする位置につくと、クラスのみんなが、大きな声をかけてくれる。
「朝陽、がんばれー!」「ファイト、朝陽くん!」
その瞬間、審判役の中学生が、ジャンプボールを高く投げた。
――ヒュッ
ふつう、ジャンプボールはジャンプする二人の、ちょうど間に上げるルールだ。
でも、ボールは、ななめに上がっている。おれとは反対側――中学生のほうに投げられた。
あきらかな、ズルだ。
相手の先輩がジャンプする。笑ってる。もう絶対にボールを取れるって顔だ。
もちろん、神スキルでボールを引きよせることはできるけど、それじゃあつまらない。
こういうのは、スキルなしで倒さないと!
ワクワクする。やる気がみなぎって、体が軽くなる。
おれはひざを折って限界まで力をためると、勢いよく飛びあがった。
先輩より頭一つ高くジャンプすると、腕を伸ばしてボールを奪う。
先輩が、ぽかんと口を開ける。
――驚いてる。でも、ここからが本番!
軽やかに着地すると、低くドリブルを始め、先輩の横をするりと抜ける。
すぐ目の前に、もう一人の先輩。でも、反応が遅い!
シュートをうつと見せかけるフェイントを入れ、すばやいドリブルで一瞬のうちに抜きさる。バスケットゴールに向かうと、その前に中学生チームの最後の一人が立ちふさがった。
例のバスケ部の先輩だ。大きく両手を上げて、シュートをジャマしている。
と、思った瞬間、ドリブルするおれの右手を目がけて、先輩が大きな手を振りおろした。
手を叩いてボールを奪う気だ。
「ああっ」「朝陽くん!」
ふうん。ファールしてでも、無理矢理、ボールを奪おうってこと?
でも、痛いのはカンベン。
ダダン
――まずは低いドリブル。
そこから、器用にボールをバウンドさせて、先輩のまたの下にボールを通す。その間に、おれはすばやく先輩のわきをかけぬけ、バウンドしてきたボールをキャッチし――、
流れるようにドリブルしてレイアップシュート!
「よっ」
――スパッ

シュート成功。ボールがきれいにゴールネットの中に落ちた。
わあああっ!
「朝陽、すごい!」「一人で勝っちゃった!」
クラスのみんなが歓声を上げる。
おれはすぐにバスケットボールを拾うと、ピンと立てた人差し指の上でくるくると回してみせた。
「この勝負、おれの勝ち。じゃあ先輩、友だちとバスケするから移動してもらえますか?」
「……チッ。行こう」
中学生たちが顔を見あわせて、校舎のほうへ去っていく。
ふう、これで解決?
中学生の姿がすっかり見えなくなると、良介が元気よくジャンプした。
「よっしゃー! 朝陽、さっすが! やっぱり運動神経の神!」
「べつに。オーバーすぎ」
「ううん、朝陽くん。すごかったよ!」
「朝陽、スゲー!」
うー、ここまでほめられると、ちょっと照れる。
でも――みんな、もう困った顔はしてない。笑ってる。
よかった。
おれも、みんなが楽しそうなほうが、やっぱりうれしい。
「じゃあ、チーム分けして、早くバスケはじめよう。今日は、三十点はとるから!」
「げ〜っ! 朝陽、敵チームになったら、手を抜いてくれ〜!」